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めでたい命蓮寺一家

先日誕生日で、SAGさんから絵をいただき思わず。
プリンを食べたくなってまいりました。


霖之助 白蓮









「ちょっと聞いてくださいよ、霖之助さん」


 店内に一陣の風が舞う。
 本来ならドア、カウベル、ドアの順で音が聞こえるはずなのだが、その3つを同時に鳴らすことが出来るのは天狗か彼女くらいのものだろう。
 妖怪相手の店を開くことに決めた際、ドアを頑丈なものにしておいて本当によかったと思う。

 ……それでも何度も壊され、そのたび補修、強化しているのだが。


「やあ白蓮じゃないか。どうしたんだい、珍しく慌てて」
「すみません、実はですね……」


 急いでいたわりに、呼吸が少しも乱れていないのはさすがの一言だろう。
 白蓮は大きく息を吸い、何かを言いかけたところで……目を丸くした。、


「霖之助さん、それ……」
「ん、ああこれかい?」


 霖之助の手には、針と糸。赤と白の布と綿。
 そして机の上にはそれらで出来た、たくさんのぬいぐるみが並べられていた。


「これはサンタクロース人形だよ。子供にとっての福の神みたいなものかな。
 どうだい、上手く出来ているだろう?」
「え、ええ。可愛らしい……ですね」


 3頭身ほどに上手くディフォルメされた、赤い服を纏った白ひげの老人。
 原型を作ったのは魔法の森の人形遣い、アリスだ。霖之助はその複製作業中というわけである。
 ただいくら可愛いとはいえ、机の上に何十体も並べられればさすがに不気味と言わざるを得ない。


「もうすぐ人里で大きなクリスマスの催し物をやるだろう?
 君は仏門だから知ってるかはわからないが、クリスマスというのは西洋の誕生祭と言われているらしい。
 しかし一応調べはしたんだが……誕生祭とサンタクロースとの因果関係まではいまいちよくわからなくてね。早苗に聞いても要領を得ないし。
 まあプレゼントをして回る老人という概要は何とか理解できたが」
「……クリスマス」


 霖之助の言葉を受け、ぽつりと白蓮は呟いた。
 どこかいつもと違った彼女の表情。
 ひょっとしたら異教の祭りが近いことに思うところでもあるのだろうか。
 ……そこまで狭量ではない、と思うのだが。


「白蓮?」
「あ、すみません。はい、その話は聞き及んでおります」


 慌てて彼女は頷き、居住まいを正した。
 人里に近いところにある寺だけあって、人里の祭りにはやはり耳が早いらしい。


「今までもクリスマスの催し物がなかったわけではないんだよ。ごく一部だけど。
 最近になって他の人妖にもようやく根付いてきたみたいだから、と今年は早苗がなにやら張り切っていてね。
 クリスマス期間中売買される品にこの人形をおまけでつけて、クリスマスというイベントを形に残し定着させようというのが今回の狙いらしい。
 それで裁縫の出来る僕にお鉢が回ってきたという寸法さ」


 風祝だというのに、他教の誕生祭を開催するというのも変な話である。
 まあ自分が広めた祭りが成功する、ということが重要なのだろう。

 内容も要するに大規模な縁日と変わらないため、きっと幻想郷の参加者には『どこかの神のお祭りを守矢神社が盛大に執り行った』という印象を与えるはずだ。
 その行動力には素直に感心してしまう。霊夢も少しは見習うべきだ、と思うのだが。


「僕は異国の風習が根付くことには特に興味は無いんだけどね。
 しかしながら、もっと重要なことにクリスマス周辺の期間だけで一年の半分の売り上げが集中する国があるという。年末商戦というらしいよ」
「そんなに、ですか?」
「ああ。なるほどクリスマスプレゼントという人のために物を買う習慣があれば、財布の紐も緩くなるというものだ。
 親から子へ、恋人同士、あるいは友人同士といった具合にね。
 僕はその発想が気に入って、こうして協力しているというわけさ」
「ふふ、霖之助さんらしいですね」


 それにしても、山の神達は次は商売の神として商人達の信仰でも持っていくつもりなのだろうか。
 そしてどこに向かうのだろうか。少しばかり気になるところではある。

 ……気がかりと言えば、さっきから白蓮が妙に大人しいところも不思議に思っていた。
 元々物静かなタイプではあるが、今日はそのくせ妙に落ち着かない様子なのだ。

 だがあまり他人の事情を詮索するのも野暮と思い、話を続けることにした。


「ちなみに君のところの寺では何かやる予定はあるのかな?」
「ええと、いえ特には。せっかく里でクリスマスがあるんですから、異教といえどそれを邪魔するのも無粋だろうという話になりまして」
「なるほどね」


 命蓮寺は妖怪寺ではあるものの、人間もよく出入りする。
 特に今回のイベントに関しては人里の商家も多く関わっている以上、邪魔は出来ないのだろう。


「あ、でもナズーリンはバザーを出すって張り切ってましたよ。
 置き場所がなくなってきたからお宝を処分したいとかで」
「ふむ、彼女のお宝か……どんなものだろうな」


 白蓮の言葉を聞き、霖之助の眉がぴくりと揺れた。
 このところよく無縁塚でかち合うようになった彼女はいい友人であり、また商売敵である。
 しかもナズーリンが持っている道具は、霖之助が手に入れてた可能性があるわけで。

 そう思うと気になって仕方が無い、というのが正直なところだった。


「それに年末の準備もしないといけませんし、参加だけならともかくさすがにクリスマスのイベントまでは手が出ませんね」
「そうか、お寺はそこが本番だね。時間があったら、除夜の鐘でも聞きに行かせてもらうよ」
「はい、ぜひ。お待ちしてますね。よろしければ読経ライブも……」
「それは勘弁願いたいね」
「そうですか……」


 しゅんと残念そうな表情の白蓮に、少しばかりの罪悪感を抱きながら。
 ふと霖之助は記憶をたぐり、疑問を口にした。


「そう言えば僕に話があるんじゃなかったのかな?」
「え、ええ」


 白蓮は少し戸惑ったように顔を伏せ……恐る恐るという様子で口を開く。


「……ひとつ確認したいのですが。一輪達が何か言いに来てたりします?」
「いいや、彼女たちは最近来ていないが……」
「そう、ですか」


 ほっと胸を撫で下ろし、彼女は笑顔を浮かべた。


「よかった、いきなりクリスマスの話なんてされるからてっきり根回しがあったのかと」
「根回しとは穏やかじゃないね。どうかしたのかい?」
「ええと、なんと言いますか。
 『クリスマスなんてものがあんなに賑やかなお祭りになっているんだから、姐さんの誕生日も幻想郷のお祭りにするべきだ』ってあの子たちが……。
 そんなの、恥ずかしいから嫌なのに。霖之助さんからも何か言ってやってもらえませんか?」
「ふむ、そういうことか」


 先ほどから落ち着かない様子はおそらくそのせいなのだろう。

 霖之助は彼女の話を聞き、大きく頷いた。
 ……その様子を見て、白蓮は不安げな声を上げる。


「……あの、霖之助さん?」
「生憎、その手のイベントは昔から商売人の味方でね。グッズ展開は任せてくれ、とでも言っておこう」
「そんな! いきなり裏切られるだなんて!」


めでたい命蓮寺一家


 白蓮は目の端に涙を浮かべ、悲愴な面持ちで叫んだ。
 その様子を楽しそうに眺めつつ、霖之助は肩を竦めてみせる。


「いいじゃないか、みんな君のことを慕っているのさ」
「私が恥ずかしいんです!」
「なんなら甘茶でも用意しようか?」
「いいえ、お釈迦様と同列だなんてそれこそ畏れ多いですよ」


 仏教版の誕生祭といえば4月8日に行われる灌仏会だ。
 釈迦の誕生を祝って九頭の龍が甘露を注いで産湯を使わせたという故事にちなみ、仏像に甘茶をかける行事である。

 もし開催するなら白蓮の像でも造ろうかと思ったものの……。
 この様子では許可してもらえそうにないので断念することにした。


「しょうがない、今度彼女たちと会った時にでも話してみることにするよ」
「すみません、お願いします……」
「しかし、僕の言うことを素直に聞くとは思えないがね」


 命蓮寺の面々は普段はとても物わかりのいい子達なのだが、こと白蓮のことになるとなかなか譲らないところがある。
 それだけ情が深いということだろう。

 まあ彼女たちも白蓮が嫌がることはしない……と思う。


「そうだ、クリスマスに予定がないならひとつ頼まれてくれないかな」
「はい、なんでしょう」


 すっかり白蓮は落ち着きを取り戻したようだ。
 霖之助は机の上のサンタクロース人形を仕舞いながら、苦笑を浮かべてみせる。


「実はクリスマスのバザー、僕も参加しようと思っていたんだが……申し込みするのを忘れてしまってね。
 よかったら、ナズーリンのところに間借りさせてくれるよう、掛け合って欲しいんだ」
「ナズーリンにですか?」
「ああ、今から申し込んでも隅っこにしか配置されないだろうし……」


 店舗ならともかく、一夜限りの出店は立地条件が重要項目だ。
 人通りの多い場所に配置されるかどうかで売り上げの大部分が決まると言っても過言ではない。


「構いませんよ。どのみちクリスマスはみんなでナズーリンのバザーを手伝おうかと言っていたところですから。
 みんなも霖之助さんのこと手伝ってくれると思います」
「ありがとう、ついででも嬉しいよ」
「ふふ、でも霖之助さんもうっかりすることがあるんですね」
「面目ない」


 というのも人形の複製作業など別の仕事を色々渡されていたので、申し込むのをすっかり忘れていたせいだ。

 ……そもそも、手伝うのだから便宜を図ってくれてもいいと思うのだが。
 それはそれ、これはこれと早苗にばっさり言われたのだからどうしようもない。

 まあ、店舗の配置などは人里の元締めに任せているようなので致し方ないのだろう。
 霧雨の親父さんに頼み込めば何とかなるかもしれないが、こんなことで借りを作るのも悪い気がした。


「でも霖之助さんは、何をバザーに出されるのですか? やはり香霖堂の出張版みたいな感じなのでしょうか」
「いいや、それだとナズーリンとかぶってしまうかもしれないからね。それで、売る商品なんだが……」


 霖之助はそこで言葉を切ると、彼女の顔をじっと見つめた。
 それから腰を上げると、カウンターの横に置いてある冷蔵庫に手を伸ばす。
 一抱えほどの大きさで、魔力で駆動する便利な箱だ。


「白蓮、甘い物は好きかい?」
「え? ええ、人並みには」
「それはよかった。実は最近、お菓子作りに凝っていてね」


 きっかけは外の世界のレシピ本だった。
 お菓子作りは科学、という謳い文句に刺激され、今に至るのである。


「材料は簡単、必要なのは腕。実にお菓子作りは奥が深い。
 その成果を売りに出そうと思ってるのが、このプリンさ」
「プリン……ってこんな色合いでしたっけ?」
「まあ、色々手は加えているけどね」


 紫色から黄金色のグラデーション。
 カラメルプリンにブルーベリー・ソースをかけたそれは、ぷるんと鮮やかに揺れていた。


「実は君をイメージして作ってみたんだよ」
「私、ですか?」
「まあ、主に色合いなんだけど。ただ卵とかを使ってるから、味見してくれとは言いがたいが……。
 そう考えると、出し物としても不適切かな?」
「いいえ、構わないと思いますよ。お寺の出し物として出すわけではないですし、それにあの子達、私に隠れて色々食べてるようですし……」
「ああ、そう言えばそんなことを本にされていたね」


 頬を膨らませる白蓮に、霖之助は笑みを浮かべた。
 ……一輪や水蜜とたまに一杯やる手前、あまり強くは言えないのだが。


「じゃあすまないが、お邪魔させてもらうよ」
「ええ、ナズーリンの説得はお任せください。と言っても、彼女も反対はしないと思いますけど」
「だといいがね。とにかくよろしく頼む」


 霖之助はひとつ頭を下げると、減ってしまった湯飲みにお茶を注ぎ足し、再び腰を上げた。


「さて、せっかくだからお茶にしようか。
 ちょうどハニービスケットを準備していたところなんだよ。住職といえば蜂蜜だしね」
「あら、それじゃあ一輪達に盗まれてしまいますよ」
「それならまた作ればいいさ」


 そんなことを言いながら、笑い合う。
 霖之助はプリンを。白蓮にはビスケット。


 甘いお菓子に舌鼓を打ちながら……二人きりのお茶会は、和やかなまま過ぎていった。









「私、食べられちゃいました」


 その夜、寺に戻った白蓮の呟きにより一同騒然となるのだが。
 霖之助がその事態を知るのは、次の日命蓮寺に足を運んでのことだった。

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ええ感じに締めくくられたのに最後にツァーリボンバ級の爆弾投下していきやがったww

No title

「君をイメージして作ってみた」って、完全に口説き文句じゃあないですかー! やったー!!

この後白蓮さんの爆弾発言のオチとしては、
「守護者な女教師」「妹分ふたり」「たまたま人里に来ていた吸血鬼とその従者」
「某フラワーマスター」「布教活動しに来た祝詞」etcらが
香霖堂に殴りこみですね。ガクガクブルブル
・・・え?紫さん?あなたこの時期冬眠中でしょ?

No title

ほうほう、あの店主が、美人住職のぷりんぷりんプリンを美味しく頂いたと
これは号外にしなければならない事態でしょう!?

半泣きのけーねせんせーが香霖堂に突撃してくる未来が見えました
そしてゆうかりんと南無三のガチンコバトルも!!

前回は肉まん
そして今回はプリン……
なんだろう食べ物の名前なのに
仄かに漂うこのエロスは

相変わらず聖お姉さんは
天然エロスで安心しました
今度は文字通り食べられに行くのですね
えぇ、分かります

No title

前回はホットな肉まん…
今回はブルーベリーなプリン…

もうちょっとしたらクリスマス…

ハッ!

次にくるのは甘酸っぱいイチゴのムースで神綺様が来るんですね!
幻想郷のサンタさんが可愛らしい魔界神だっていいじゃない!

あと聖さんの最後の発言がとても…

ひじりん、おそろしいこ…!(色んな意味で)

No title

終始ほのぼのな感じで進んでいたのに、最後の一言で一気に爆発しましたねwww
しかし寺に戻ったのが夜なんですよねぇ。お茶会だけで夜まで過ごすとは考えにくいので、もしかするとお茶会~帰るまでの間で本当に聖が食べられていたり・・・とか妄想していたり(笑)
何れにせよ、この爆弾発言の影響で霖之助は散々な目に会いそうですなwww
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Author:道草
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