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友人として02

ものすごく久しぶりの天魔霖。
天魔さんについてはこちらとかこちらを。

オリキャラ注意と言うことでひとつご了承ください。
そして某炭水化物さんに素敵な絵をいただきました。ウフフ。


霖之助 天魔









 霖之助は逃げ出した。
 しかし回り込まれてしまった。


「甘いねぇ、霖之助。チョロ甘だよん」
「……気づかれないように出てきたつもりだったんだが」
「そもそも、うちの目を誤魔化せると思ってるところからもう間違ってるねぃ」
「こんなところまで追ってくるとは思わなかったんだよ」
「そうなん? むしろ誘ってるのかと思ってたんだけど」


 カカカと笑うのは、ここ天狗の山を治める大妖怪……天魔だ。
 彼女はちゃぷちゃぷと温泉に浸かりながら、苦い表情を浮かべる霖之助に近づき、ちょんちょんとほっぺたを突く。

 一糸纏わぬその姿は女性らしい丸みを帯びており、とても幻想郷トップクラスの妖怪には見えない。
 しかしながら微塵の気恥ずかしさも見せず堂々としたその振る舞いは、さすがの貫禄を感じさせる。

 まあ、堂々としているからと言って女性の裸をまじまじと見ていいというわけではないのだが。
 とはいえ彼女と一緒にこうして温泉に入るのも初めてではないので、霖之助は答えの代わりにただ深いため息をついた。


「まったく、もう天狗とは呑まないと決めていたんだがね」
「祭りの席だ、細かいことは言いっこなしだよん。それに、来ることを決めたのは霖之助じゃないの」
「まあ、それはそうなんだが」


 何か言いたげな霖之助の視線を、天魔は涼しい顔で受け流す。

 発端は彼女の一言だった。
 妖怪の山で天狗の宴会があるから来ないか、と霖之助を誘いに来たのが一週間ほど前のこと。
 その時天魔はダメ元で誘いに来たようで、いいよと二つ返事で頷いた彼に驚いた顔をして見せたものだ。

 貴重な彼女の驚き顔に気をよくし、意気揚々と乗り込んだ霖之助。
 そんな彼を待っていたのは、いつも通りの天狗の樽酒だった。


「普通に考えて、樽に入っている酒の量が胃袋に収まるはずないだろう?」
「ん? みんな呑んでたじゃないの」
「……まあ、君たちは普通じゃないからね」


 そんなこんなで霖之助はキリのいいところで逃げ出し、麓にあった温泉で一息ついて……いたところで天魔に追いつかれた、と言うわけだ。

 間欠泉異変の時に地下から湧いた温泉は妖怪の山にも残り、一種の名物となっていた。
 つい休みたくなっても仕方のないことだろう。


「椛が潰れたから安心してたんだが……」
「カカカ。千里眼の能力なんてうちも持ってるからねん。というか、ある程度能力があれば誰だって使えるようなものだし。仏教徒の天眼とか、魔女の水晶とかも同じさね」
「……なるほど、それは確かに僕の見通しが甘かったと認めざるを得ないな」
「そうそう。ちゃんと隠れ蓑をまいておかないとねん」


 そう言って彼女は霖之助にウィンクして見せた。
 どうやらすでに結界は張ってあるらしい。

 だとすればすぐに他の追っ手がかかるということもないのだろう。
 つまりしばらくは二人きりと言うことだ。

 安堵の表情を浮かべる霖之助に、天魔は楽しそうな笑みを浮かべる。


「しかしひどい男だねぇん。椛を介抱してあげれば好感度も上がるだろうに」
「かもしれないが、無理な相談だ。椛の元にたどり着く前に僕が潰されるよ」
「それもまた一興。その時はうちが介抱してあげるよん」
「それはそれで問題になる気がするな」


 天魔が霖之助の友人であることは、ごく一部の者だけが知る事項だった。
 先ほどの宴会中のように一般の天狗の前では、彼女が霖之助の前に現れることはない。

 そもそも天魔がどこで呑んでるかもよく分からなかったのだが、きっとVIP席のようなものがあるのだろう。
 神奈子や諏訪子はふらふらしていた気がするが……彼女たちは信仰集めが目的なので、ふらふらするのも仕事のうちなのかもしれない。


「それにしても、やはり天狗の宴会というのはすさまじいものだね。一月分の酒を一晩で呑んだ気がするよ」


 身体から酒気を追い出すかのように、霖之助は長く息を吐き出した。

 始まったのは昨日の夕方のことだ。
 今はもうすっかり日が昇り、傾き始めている。

 しかし宴会はまだまだ続くのだろう。
 霖之助は逃げてきた宴会場を思い返し、思わず冷や汗を流した。


「んー、今回はいつもよりおとなしかったと思うけど」
「あれでかい?」
「そうそう」


 首を振る天魔に、驚きの表情を浮かべる霖之助。
 天狗の宴会に参加したのは数えるほどな上にほとんど記憶が飛んでるので、なかなか比較というのが難しいのだ。


「いつもと違ってさ、見られてるのが気になってはっちゃけきれない天狗が何人かいたせいかもしれないねん」
「ふぅん、天狗でも人の目を気にすることがあるんだな」
「……ま、気づかないならいいさね」


 やれやれと彼女は肩を竦めてみせる。
 そのため息は誰に対してのものだったのか。
 ……何となく、同情の光が見えたような気がした。


「でも霖之助だって前より酒に強くなってきたじゃないか」
「ああ、今日は事前に対策をしてきたからね」


 霖之助はひとつ頷くと、服の横に置いてある箱に視線を送る。
 天魔もそれを追い……呆れたような表情を浮かべた。


「なんだ、ドーピングじゃないのん」
「人の英知と言って欲しいね。分析し、対応策を講じるのが成長というものだよ」
「その肝心の策が人任せじゃないか」
「自分が出来ないことは人に頼ればいいのさ」


 酔い止めが竹林の薬師製であることは天魔も知るところらしい。
 ああ言えばこう言うんだから、と苦笑を漏らし、彼女は明るい声を上げた。


「しかしまあ、今回はよく参加してくれる気になったねぃ。まさか霖之助のほうから来るとは思わなかったよん」
「たまにはいいかと思ってね。それに、一応誘われていたし」
「来てくれないと思ってた」
「来ない方がよかったかい?」
「まさか。来てくれて嬉しかったよん」


 そう言って、天魔は霖之助に身を寄せる。
 肌と肌が触れあうギリギリの距離まで来ると、彼女はきらりと瞳を光らせた。


「で?」
「……で、とは?」
「何かうちに隠してることがあるんじゃないのかい?」
「どうしてそう考える?」
「あいにく、霖之助がそれだけの理由でここを訪れると素直に思えるほど純情でもないし短い付き合いでもないからねぃ」


 複雑な表情の天魔に、霖之助は首を傾げる。
 心当たりがない、と言わんばかりに。


「君に会いに来た、だけじゃ不満かな」
「なるほどいい口説き文句さね。下心がなけりゃ完璧だけど」
「じゃあ他の天狗に会いに来た、とか」
「カカカ、くびり殺されたいのかい?」


 焼き討ちがいいかなぁなどとぼやく彼女に、霖之助は降参と言わんばかりに両手を挙げて見せた。


「やれやれ、君に隠し事は出来ないな」
「当然。うちを誰だと思ってるのかな?」


 百年早い、とその瞳が語っていた。
 実際百年経ったところで追いつけるかどうかはともかく。


「最初に断っておくが、名前で変な誤解をしないでくれよ」


 断りつつ、霖之助は自分の服へ手を伸ばした。
 いつも腰に付けている収納箱を開け、黒い瓶を取り出す。


「天魔殺し、というのがこの酒の銘だ」
「ほう?」
「……そんな剣呑な目をしないで、まず話を聞いてくれないか」


 瓶に描かれた銘を前に、霖之助は咳払いひとつ。


「神便鬼毒酒という名に聞き覚えはあるだろう?」
「もちろん。鬼退治に使われたやつだねぃ。今度は天狗退治でもしようって魂胆かい?」
「天狗退治、か。ある意味ではそうかもしれないね」


 神話、あるいは伝説に名を残す道具を取り扱うのは道具屋の夢のひとつである。
 そして同時にそれらを自らの手で造り出してみたいと思うのも、職人の業であろう。

 もちろん、おいそれと再現出来るわけではない。
 ならば効果を限定してみてはどうだろう、と考えたのがそもそもの始まりだった。

 酒は前々から造ってみたいと思っていたし、鬼以外の身近な妖怪で酒に強くて洒落の分かりそうな相手というのが天魔くらいしか思いつかなかったというのもある。

 ……スキマ妖怪殺しや花の妖怪殺しなんて酒を造ってみても効果が怪しい以前に呑んでもらえるかが不明なので、ある意味消去法とも言えるだろう。
 ちなみに名前は外の世界の酒を参考にさせてもらった。

 目指したのは、天魔を酔い潰すための酒。
 ちなみに神便鬼毒酒は鬼の力を封じるといった付与効果があったらしいが、そのあたりは今回必要ではなく。


 ワイン造りに詳しい紅魔館の面々や鬼、それから薬師や巫女に話を聞きつつ、何度実験を重ねただろう。

 そろそろ完成しようかというときに宴会に呼ばれたので、渡りに船とばかりに受けてみたのだが……。

 名前が物騒なことこの上ないのであらぬ誤解を生みかねない、という事実に気がついたのは霖之助が妖怪の山に足を踏み入れてからだった。
 おとなしく持ち帰ろうとした帰り道で、こうなったというわけである。


「もしこの酒を宴会の席で出していたら、僕は山を下りられなかったかもしれないな」
「それは何とも霖之助らしいミスだねぃ」


 肩を落としながらそんなことを話す霖之助に、天魔は笑いを堪えた表情で鷹揚に頷いた。


「にしても、うち専用の酒かぁ」
「上手くいっていれば、だけどね」


 それを確かめるためにわざわざ霖之助はここまで来たのだ。
 先ほどまで成果なしで帰るつもりだったところに、チャンスがやってきたとも言えた。

 期待を込めた霖之助の視線を受け、天魔はにんまりと笑みを浮かべる。


「うん、だいたいわかったよん」
「信じてくれたのかな?」
「もちろんさね。じゃあ早速呑もうじゃないの」
「……いいのかい?」
「霖之助だって、元々そのつもり出来たんでしょ?」
「まあ、それはそうなんだが」


 頷く霖之助に、さらに彼女は言葉を続けた。


「それに、死ぬこともなさそうだし」
「まあ、ね」


 名前を参考にした酒も、例えであって別に呑んだからと言って鬼が死ぬわけではない。
 ……実験したわけではないので、一度試していたいところではあるが。


「じゃあ、改めて」


 杯を二人分用意し、酒を注ぎ交わす。


「この酒に、乾杯」
「乾杯」


 軽く掲げると、二人は同時に酒を口に運んだ。
 辛口のきりりとした味わいが広がり、温泉で温まっていた身体がかっと熱くなったようにすら感じられる。


「ん……」


 とはいえ半人半妖の霖之助にはただそれだけの普通の酒でしかない。
 神便鬼毒酒は人間が呑めば力がわき出てくるという話だったが、その辺は要研究だろう。

 まあ、今回のターゲットは天魔なので仕方がないとして。
 果たして想定通りの効果が現れているのだろうかと、霖之助が視線を移すと……。


友人として


「いやぁ美味しいねぇこれ!」


 天魔は飲み干した杯を見つめ、きらきらと目を輝かせていた。
 効果は抜群のようだ。


「あんまり飲み過ぎないように。天魔だろうと酔いつぶす剛酒なんだから」


 予想以上の反応に苦笑しつつ、霖之助は安堵の吐息を吐き出した。
 むしろ天魔にしか効果が無いのだが、それはそれ。


「わかってるって。もう一瓶だけにしとくよん」
「……やめろと言っても聞いてくれないんだろうな」


 早速彼女の視線は霖之助の収納箱にロックされていた。
 収納の魔法を使って予備として忍ばせてはいたのだが、あっさり看破されたらしい。

 ……少し悔しい。


「こんなことなら、何か酒の肴でも持ってくればよかったねん」
「確かに。ついでに入れてくるべきだったな」


 そんな会話をしているうちに、最初の瓶はあっさりと空になってしまった。
 封が切られ、中身を吐き出す次の瓶を、霖之助は諦めたような瞳で眺める。

 ……と、そんな天魔の手元が揺れていることに気がついた。


「天魔、大丈夫かい?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。霖之助は心配性だねぃ」
「いや、君のそんな姿は初めて見たからね」
「んんー?」


 ゆらりゆらりと頭を振りながら、彼女は元気に言ってのける。
 どうやらかなりできあがっているようだ。


「実験は成功、でいいのかな」
「失敗するはずがないよん、霖之助」


 当初の予定では、霖之助が酔い潰れるのと同じだけの量を摂取すれば彼女もまた酔い潰れたはずだ。
 つまりこれは二人が対等に呑むための酒であるとも言える。

 ……そのことを知ってか知らずか、彼女はふわふわした口調で呟いた。


「うちのために、友人が八方手を尽くして造ってくれた酒だ。
 これで酔えないようなら生きてる資格がないねぃ」
「そう言ってくれると、造った甲斐もあったというものだよ」


 それから最後に杯に残った酒を呷ると、天魔は力尽きたかのように霖之助に寄りかかる。


「本当に……いい酒だねぃ」
「天魔?」
「……くぅ……」


 返事の代わりに聞こえてきたのは、意外とかわいらしい彼女の寝息。
 気の抜けた様子の天魔を眺めながら、霖之助はため息をついた。


「さて、どうしたものかな」


 いくら結界があるとは言え、いつまでもこうしているわけにはいかない。
 そもそも天魔の意識が落ちた今、その効果もどれほど続くか怪しいものだ。

 とはいえ彼女を放っておけるはずもなく……。


 結局、復活した椛が探しに来るまで霖之助は天魔と肌を寄せ合っていた。
 本気で心配したらしい彼女の長い説教が待っていたのだが……それくらいで済んでよかったと言えるだろう。







 ……天魔を酔い潰した男として、霖之助はしばらく妖怪の山全体から狙われることになるのだった。

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非公開コメント

No title

あぁ、天魔を潰した男を潰した天狗になれば一躍時の人(?)ですもんねぇ……合掌。
加えて……潰して余計な事をしそうな面々まで居そうなw

No title

紅魔館の面々に鬼、薬師や巫女に協力を仰いでまで造った酒が他の女に渡すための酒とはねぇ・・・ このことをみんなが知ったときが霖之助の最後でしょうね(笑)

スキマ妖怪も花の妖怪も霖之助の思惑を分かった上で酒を飲みそうですね。むしろ進んで酔って、そのまま霖之助を押し倒すきっかけにするような気がしますなwww

・・・妖怪の山全体に狙われることになった霖之助の明日はどっちだ!

No title

天魔様と霖之助さんのやり取りにどんぶり飯三杯はいけるッッ!

ところではっちゃけきれない天狗とは、
「ショートカットの新聞記者」 「生真面目な白狼天狗」 「ツインテールな携帯持った鴉天狗」
でしょうか(2828)

No title

ナニをどんな風に狙われることになったんですかねぇ……?
まあ飲み比べから逃げ続ける羽目になったであろう霖之助さん乙。
その間誰の家に隠れているのやら、ハッ、まさかこれも天魔の策略?
こまった霖之助さんを自宅に匿い……
天魔、恐ろしい子!

No title

友人として、だと?
お前最後辺りのやり取りだけで砂糖吐きそうになったぞ畜生

霖之助は妖怪の山中に狙われているという噂が広まって最終的に天魔に手を出した男、みたいな尾ひれ背びれ付きまくった噂を聞いた少女達に血祭りにあげられるべき
いや、あながち噂に間違いは何もない、のか、この天魔さんが相手だと(深刻)

果たして本当に
友人としてなのでしょうか?
もう既に友人以上の関係と考えていて…
なんて関係も素敵ですよね

この二人の関係がどうなるかは
神様でも分からないでしょうが
確実に分かるのは
この後、霖之助さんは天狗たちから
飲み競べというなの地獄を見ると思います

No title

裸で寄り添う…………ゴクリ…
それはそれとしてお互い裸なのにネチョの雰囲気がないじゃないですかー!やだー!霖さんのフラクラ能力ぱなすぎですよ。

堪能させていただきました。・・・・・・なにこの子かわいい!
宴から離れたところで行われる宴に温泉。自分のためだけに用意された酒。幻想郷の少女が欲して止まないものでしょうね。
しかし、酒の銘が天魔殺しですか。・・・・・・男性が女性を殺すということは惚れさせるということにも通じますが・・・霖之助はきっと分かってないでしょうねw
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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