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銀髪同盟~ナズーリン編~

ナズーリンを銀髪といっていいのか迷うものの、とりあえず押し切ることに。
ねずみ色? いいえ銀髪です。


霖之助 ナズーリン









「誤解だ、と言っても聞いてはくれないんだろうね」
「そんな事はないさ、私は寛大だからね」


 肩を竦める霖之助に、ナズーリンはゆっくりと首を振る。


「ちゃんと言い訳をする時間くらいは用意してあるよ」


 あくまで笑顔で、彼女はそう言った。
 背後で炎が燃えているようにも見える。
 それなのに、もうすぐ夏だというのに、霖之助は背筋に寒気すら覚えていた。


「それに霖之助君がどんな言い訳をするのか、今から楽しみで仕方がないのさ」
「とても許す気があるようには聞こえないんだが」
「それは些細な問題だよ、霖之助君。どういうふうに聞こえようと、真実はいつもひとつ。なに、ジャッジは私に任せたまえ」」


 ハハハと陽気な笑い声が、かえって不安を募らせる。
 ジャッジをするならもっと公平な人物にお願いしたいのだが、残念ながら霖之助の知る限りそのような相手はほとんどいなかった。


「ではそろそろ喋ってもらおうじゃないか。霖之助君がこのような蛮行に及んだ経緯を!」
「……蛮行なのかい?」
「そうでなければ淫行だ。実に度し難い」


 眉根を吊り上げ、ビシッとカウンターの上を指差し、ナズーリンが吠える。
 そこには毘沙門天の化身である星の姿が一枚の紙に写されていた。

 彼女の絵を枕の下に敷いて眠るといい夢が見られる、というのが最近里の人間、とりわけ商人の間で流行っていた。
 霖之助もその流行に乗ってみたというわけである。

 ……と、さっきからそう言っているのたが、ナズーリンは全く聞く耳を持たない。

 もっとも、今問題となっているのはここにあるのが絵でなく星の生写真であるということなのだが。


「じゃあ僕が毘沙門天の敬虔な信者だから、というのはどうだい?」
「初耳だね。今の今まで私の耳に入ってこないほどひた隠しにしていた君の慎ましさは称賛に値するよ。
 褒美に来週行われる48時間耐久読経ライブの最前席の手配をしてあげよう」
「冗談だ。ぜひ遠慮願いたいね」
「ふん、冗談は時と場合を選びたまえ」


 つまらなそうに鼻を鳴らし、ナズーリンは霖之助を睨みつけた。
 その視線を受け流しながら、改めて彼は写真を指し示す。


「断っておくが、この写真を撮ったのは僕ではないよ。むしろ押し付けられたと言っても過言ではないだろう」
「ほう、つまり悪いのは他人で自分ではないと言いたいのかい?」
「そうは言ってない。そもそも僕はカメラは持っているが写真を現像することはできないんだ。撮りたくても撮れないと言えばいいのかな」
「現像の技術があれば今にも撮りに行きそうな言い方じゃないか、霖之助君」
「言葉の綾だ。揚げ足を取るんじゃないよ」
「ふむ、なるほど。私はてっきり霖之助君が盗撮したのかと思っていたよ。こんな……こんな破廉恥な……!」


 写真に写っているのは、命蓮寺の縁側でだらけきった星の姿。
 薄着でくつろいでいる上に撮られていることに全く気がついていない様子なので、盗撮というのが一目でわかる。
 ナズーリンの怒りの視線はその写真に向けられていた。


「ナズーリン。もう少し寛大な心で話を聞いてほしいね。
 ついでに落ち着いてくれるとなお嬉しいよ」
「私はいたって冷静だ」
「それならこのロッドの切っ先を僕に向けないでくれないか」
「これは失礼。ついうっかり」
「なにがうっかりなんだい、まったく」


 彼女をなだめながら、ため息ひとつ。
 まあ霖之助としても、こんな写真で御利益があるかは疑わしいのだが。


「なるほど、偶然こんな写真を貰ったとしよう。しかし霖之助君の意思で枕の下に入れていたことには違いないんじゃないかね?」
「それはそうだが、選択肢がなかったんだよ。僕が持っている写真はそれだけだからね」
「本当かい?」
「もちろん」


 もちろん嘘である。
 正確には、それが一番まともな写真だったのだ。

 ……そんな写真でも、といったほうが正しいかもしれない。


「ナズーリンも天狗のブン屋を知っていると思うが……」
「ああ、チョロチョロと嗅ぎまわっているようだね。まったく、チョロチョロするのはネズミの専売特許だというのに」
「その中に、清く正しいのがいるだろう」
「いるね、清く正しいのか」


 おそらく取材を受けたことがあるのだろう。
 件の人物像はすぐに思い浮かんだようだ。


「それで、つい昨日のことだ。清く正しい彼女にこの写真を渡されたんだよ。
 ネズミ避けにどうぞ、とね」
「……まさか、霖之助君」


 ショックを受けた様子で、ナズーリンは一歩後ずさる。
 そんな彼女を静止するかのように、霖之助は言葉を続けた。


「断っておくが、僕にそういう意図はないよ。
 ただせっかく手に入れたのだし、噂のご利益を試してみようと思ったのさ」
「……なるほど、ネズミ避けとはそういうことか。私が発見することを想定して……ふむ。
 私としたことが、あんな天狗の術中にハマるところだった」


 なにやら納得したように、ナズーリンはしきりに頷いていた。
 さっきから似たような説明はしてたのだが、ようやく事情を理解してくれたらしい。

 ……最初から天狗のことを話せばよかったのかもしれない。


「どうやら誤解は解けたようだね」
「全て、ではないがね」
「……まだ疑わしいところでも?」
「もし自分が公明正大な人物だと思っているのなら今すぐにでも寺に来るといい。
 そんな聖人君子を迎え入れられるとあっては聖が厚く歓迎してくれるだろう。
 まあ聖の場合、いつでも歓迎しそうだけど……」


 何やら呟きながら、しかしナズーリンは未だ恨みがましい瞳で星の写真を睨みつけた。
 よくよく観察すると、彼女の視線はある一部分に注がれているようにも見える。
 そこがどこなのかは、わからなかったが。


「聖といいご主人といい、やはり霖之助君は大きいほうが……」
「……何の話だい?」
「なんでもない。忘れてくれたまえ」


 コホンと咳払いひとつ。
 いつもの笑顔を浮かべて、ナズーリンは肩を竦める。


「確かにうちの主人は毘沙門天様の化身だ。更に言うと自然と財宝が集まってくるありがたい存在だから、霖之助君が信仰したくなる気持ちもよく分かるよ」
「さっき僕が信者だと言っても全く信じなかったじゃないか」
「やれやれ、意外と過去にこだわる男だね」
「こだわらなすぎるのもどうかと思うがね。温故知新と言うじゃないか」
「それはそれ、これはこれだよ霖之助君」


 先ほどまでの怒りはどこへやら。
 まったく悪びれた様子を見せずに、薄い笑みを浮かべるナズーリン。


「しかし霖之助君に夢見願望があったとは驚いたな」
「もちろんさ。夢というのはもう一人の自分に語りかけるチャンスだからね。
 そこでしか知りえないこともあるわけで、昔の人は大いに活用していたんだよ」
「ああ、胡蝶の夢というやつかい」


 巫女が酒の力を借りて神を呼ぶように。
 夢の力を借りれば、もう一人の自分の声を聞くことが可能なのである。

 胡蝶の意味で言えばそちらが本当の自分という可能性もあるが、真相は定かではない。

 とにかく、本当の自分の夢というのは、文字通り夢の中から生まれるのである。


「で、いい夢は見れたのかな?」
「まあ、それなりにね」


 曖昧に笑いながら、霖之助は視線を逸らした。
 その仕草が気になったのか、ナズーリンは首を傾げる。


「なんだ、いやに言葉を濁すじゃないか」
「そう言う君は随分楽しそうだね、ナズーリン」
「いいや、詮索するつもりはないよ。しかし霖之助君の夢には興味があるかな」
「十分詮索してるじゃないか、まったく」


 大きくため息。
 彼女の双眸に見据えられ、霖之助は観念したかのようにため息をついた。


「……君が出てきたよ」
「うん?」


 短いその一言に、彼女は目を瞬かせる。


「ちょうどこんな風景だったかな。そして、夢のなかでもナズーリンと話していた。今みたいにね」
「そ、そうか」


 ナズーリンは落ち着かない様子で何やら頷いているようだった。
 霖之助は思い返すように目を瞑り、ゆっくりとした口調で言葉を続ける。


「話に聞いて期待していたのとはどうにも違ってね。写真の効果があったのかどうか……」
「なんだと。私が悪夢だというのか」
「そうは言ってない。いつもの日常ということだし、悪い夢ではないかな」
「そ、そうかい?」
「……ナズーリン、今日は随分慌てているようだね。普段の君らしくないな」
「むう……霖之助君のせいだよ」
「さて、心当たりはないんだが」


 まあ自分のことが話題に出れば落ち着いてもいられないのかもしれないが。
 そんなことを思いつつ、霖之助は話題を変えることにした。


「そういえば、先日稗田の書籍を読んだけど」
「ああ、あの」
「そう、アレだよ。阿求が色々と取材していたみたいでね、君に事も載ってたな」
「まったく、私も散々な書かれようだった。あの一件以来、私のネズミが不埒者を噛む回数が増えすぎて困る。彼女はいつもああなのかい?」
「残念ながらいつもあんな感じだよ。僕も前回は散々だったからね……」


 霖之助は肩を落とし、苦笑を漏らした。
 前回の幻想郷縁起の霖之助の欄を思い出したのだ。

 ……そして頭が痛くなってきたのでそれ以上考えるのをやめた。

 それはともかく。


「僕が君の夢を見たのは、毘沙門天繋がりだからかもしれないな」
「ふむ、ひょっとしたら可能性はあるかもしれないね」


 ナズーリンは本当の毘沙門天の弟子で、星のことを監視しているという話だ。
 ……本にも載っているくらいだから公然の秘密というか周知の事実なのだろう。

 実際霖之助もナズーリンの口から事前に聞いていたので驚きはなかったのだが。


「じゃあ逆に考えれば、君の写真でもいい夢を見られる効果はあるのかな」
「効果があるなら、どうするんだい?」
「さて、また君の夢を見るのも悪くないかもしれないね」
「……ふん。そんなことを言って、私のご主人の写真の件をうやむやにしようと思ったら大間違いだよ。
 まあ、そういったことは試したことがないから実際のところどうかはわからないがね」

 ナズーリンは机の上においてあった星の写真を拾うと、改めて霖之助を睨みつけた。
 どうやら霖之助がこの写真を所持していたこと自体が問題らしい。

 ……やがてナズーリンは少しだけ視線を逸らすと、いつもより早い口調で言葉を継ぎ足す。


「なんなら今度私の写真を持ってきてあげてもいいよ」
「そうかい?」
「ああ、天狗よけにもなるだろうし」


 フフフと含み笑いを漏らし、彼女は腕を組んだ。
 何やらよくない策略を巡らせているらしい。

 ……その申し出を受けるか受けないかはともかくとして。
 霖之助は大きく肩を竦めた。


「ところでナズーリン。僕からひとつ質問をいいかな」
「なんだい、霖之助君。そんなに改まって」
「なに、簡単なことだよ。僕が星の写真を枕の下に敷いていた。そのことを、君はどうやって確かめたのかな?」


 指先でカウンターを叩きながら、ナズーリンと視線を合わせる。
 意志の強そうなその瞳が、少しだけ揺れたのを霖之助は見逃さなかった。
 小心者というのは本当らしい。もちろんそれは慎重とも置き換えられるのだが。


「いい質問だね、霖之助君。しかしそれに答えるには少々私も準備不足でね」
「何の準備が必要なんだい?」
「それは企業秘密というやつだよ」


 それだけ言うと、彼女はくるりと身を翻した。
 ネズミならではの軽い身のこなしに、霖之助は動く間もなくナズーリンの行動をただ見つめていた。


「では急用を思い出したから、私はこれで失礼するよ。
 次に来るときには私の写真を持ってくるとしよう」
「あ、ちょっとナズーリン」


 制止の声も虚しく、彼女の姿は扉の向こうに消える。


「逃げられた、か」


 溜息をつく霖之助。

 配下のネズミを使って霖之助が寝ている間に店内の商品を物色でもしていたのだろう。
 勝手に持っていく事はしないようだが、油断も隙もないとはこのことだ。

 しかしながら、星の写真はしっかり持っていかれてしまったようだった。
 ……残りの写真は気付かれないよう仕舞っておく必要がある。


「次来るときは、か」


 数日とおかず、彼女はその扉をくぐるのだろう。
 ……そうでなくても、無縁塚で会いそうな気がするが。


「楽しみにしているよ、ナズーリン」


 未だ余韻を残すカウベルを聞きながら。
 霖之助はひとり、そんなことを呟いていた。

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小心者かつ嫉妬しちゃうナズーリンが可愛いです。
問われて動揺しても、ばれないように言葉を返す辺りがまたらしくて。いつか準備が揃って答えを返す日がくるのかなぁ。

だらしない星の写真の代わりにナズーリンがどんな写真を持ってくのかが気になりますね!

つまり霖之助は大きいおっぱいがいいと……ふむ

No title

まとも"じゃない"写真に【興味があります】

や、冗談抜きに処分しないって事は霖之助も男なんだなぁと

No title

最終的に一番良い夢が見られる方法とか言いくるめて写真ではなくナズーリン本人が
霖之助と一緒に寝ることになるんだろうなぁwww

それにしても文は清く正しく(?)恋敵を蹴散らそうとしていますね(笑)

これは良い嫉妬ですね。自分に自信がなく、不安に感じてしまう様が可愛いです。

ナズーリンと霖之助はお互い言論を好むので丁々発止と話が展開されていくのが良いですね。

にしても、ナズーリンがその内霖之助の写真を枕元に忍ばせていそうな感じの光景を幻視しましたw
好きな人とは、夢のなかでも一緒に居たいと願うのは、少女の特権でしょうねw

……撮影、誰に頼むんだ?
ま、まさかナズはだらけ星ちゃんに対抗する写真を自撮りで?
なんと破廉恥な!

狸寝入りしてセルフタイマーで服をはだけさせた自分を撮っているうちに盛り上がってついつい過激な写真を生み出してしまい、ふと我にかえって顔を真っ赤にするナズーリンねずみ可愛い。


道草さんのSSはやはり読んでいて楽しいですね。これからもがんばってください。

霖之助が隠していた星の写真で致しているところを、ネズミを通してハイライト消えた目で見つめるナズーリンと、ハイライト消えた目で盗撮する本末転倒な文ちゃんが浮かんでしまいましたよ。

No title

>ジャッジをするならもっと公平な人物にお願いしたいのだが
閻魔「ガタッ」
>霖之助君に夢見願望があったとは
教授「ガタタッ」

ヤキモチですかー ニヤニヤ
くそぉ ナズは可愛いなぁ
霖之助さんの返しも紳士で
素敵過ぎる、フラグ過ぎる

そして
名前は出てないのに
スゴい存在感の最速天狗ww
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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