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桜色のキモチ

何となくアリ霖という気分だったので。
もうすぐ春ですねぇ。え? もう?


霖之助 アリス









「春って、何色かしら」


 香霖堂の窓から外を眺めながら、七色の魔法使いはそんな事を呟いた。
 視線の先には、まだ蕾を付け始めたばかりの草花。
 立春はとうに過ぎたのだが、本格的な春が訪れるはもう少し先のことだろう。


「一般的には明るい暖色系かな。もしくは淡い緑……いわゆる草花の芽生えの色だね。
 ただ何と言っても一番有名なのは桜色だと思うよ」
「桜色……桜色ねぇ」


 霖之助の返答に、彼女はくるりと振り返った。
 しかしどうやらお気に召さなかったらしく、うーん、と首を傾げる。


「桜色ってアレでしょ? あのピンクというか桃色というか……」
「言っておくがアリス、ピンクも桜色も桃色もすべて別の色だよ」
「わかってるわよ。私を誰だと思ってるの?」
「これは失礼。七色の人形遣いに言う言葉ではなかったかな」


 今のはまさに釈迦に説法というやつだろう。

 ……色といえば、虹の名を冠するスキマ妖怪とその式とその式の式も詳しそうに思える。
 今度機会があったら聞いてみよう、などと霖之助はぼんやり考えていた。


「だって桜って一言で言っても、真っ白だったり薄紅色だったり曖昧じゃないかしら。
 ほら、貴方の店の裏の桜だって確か……」
「確かにね。学術的な桜色の定義はあるらしいんだが、実際桜の花がすべてその色というわけではないよ」
「四十八茶百鼠と言うわりに、そのあたりはおおらかね」
「むしろ鼠色にも百種類の色があるのだから、桜色にもそれ以上あると考えるのが妥当ではないかな」
「浮気性なのね」
「それだけ日本人は桜が好きなのさ」


 古来から日本で花と言えば桜を指すほどだ。
 和歌や唄など、モチーフになる頻度も群を抜いている。

 だからこそ、種類もいろいろとあるのだが。


「それでいくと、白も春の色と言えるかもしれないね」
「白……そうね。白は雪だけじゃないもの。リリーホワイトの服も白だし」
「名前にホワイトが入ってるから……ってわけじゃないのかな」
「でも、たまに黒い服も着てるわよ?」
「ふむ」


 アリスの言葉に、しばし考える。
 あいにく霖之助は黒い服の春告精を見たことはなかったが、彼女が言うなら本当なのだろう。


「僕が思うに、それは春雷を意味しているんじゃないかな」
「春雷? 確かに暗くなるし、春の風物詩のひとつではあるけど」
「春は温かいばかりじゃないことの表れだね。妖精は自然の顕現だから、いろいろな面があるのさ」


 天が与えるのは恵みばかりではない。
 神も妖精も、似たようなものだ。要は受け取り方の問題なのである。


「もちろん、ただの気分転換の可能性も否定は出来ないけどね」
「そうね、今度本人に聞いてみましょう」


 微笑む彼女に釣られるように、霖之助も窓から外へと視線を向けた。
 元気に跳び回るリリーホワイトの姿は、きっともうすぐ見られるのだろう。


「ところでアリス、今度は色の研究でもしてるのかい?」
「そう言うわけでもないけど。気分転換も兼ねてちょっとね」


 言いながら、アリスは上海人形を手元に引き寄せた。
 金髪碧眼、そしてエプロンドレスに赤いリボン。
 西洋人形然としたその格好は、毎度見慣れたものだった。


「いつも同じ服じゃ、飽きちゃうでしょ?」
「それは着ている人形本人の話かな? それとも見ている君の話かな?」
「その結論を出すには、まず服とは何なのかから議論しなければならないのだけど」
「オーケーアリス。議論するのは構わないが結果が目に見えているから遠慮願おう。
 なるほど確かに人形にも気分転換は必要だね」
「そういうことよ」


 物言わぬ人形とはいえ、感じる心はある。
 それは他の誰よりも、道具の気持ちになり、記憶を読むことで名前を知る霖之助が一番わかっていることだ。
 ましてやひとのかたちを模した人形と言えばなおさらである。

 とは言っても、とアリスは言葉を付け加える。


「もちろん見ている私にも気分転換は必要なのよ。
 だって周りにいるのは紅白とか白黒とか青白とか青黒とか、変わり映えがないんだもの」
「ちょっと待ってくれ、今僕も数に数えられた気がするんだが」
「だって事実でしょう?」
「僕の服は香霖堂の店主という立場を明確にするためにだね」
「霖之助さん。それはそれ、これはこれよ」


 ちちち、と指を振るアリス。
 彼女の視線に射貫かれ、霖之助は動きを封じられた気分になる。


「霊夢は巫女、魔理沙は魔法使い、咲夜はメイド。確かに年中同じ格好をしている理由には十分ね。
 だけどそんなものは関係ないのよ、霖之助さん。
 今私が問題としているのは、一年中見た目が同じという結果だけなの。おわかりかしら」
「それを言われると僕にはどうしようもないな」


 実に端的だ。
 だからこそ、反論の余地もない。

 もちろん霊夢や魔理沙も年中同じ服ばかりというわけではない。
 ふたりともある一定の期間ごとに服を替えているのだが……色合いが同じ事には違いがないのだし。

 言いたいことを言ったのか、アリスは満足したかのように頷くと、それから霖之助の服に目をやった。


「霖之助さんもたまには別の服を着たらいいのに」
「全く着ていないわけじゃないよ。夏場とかは特にね。それにそういう君も似たようなものだろう?」
「私はいいのよ。七色だから」
「大は小を兼ねる、ということかな」
「この場合、多と少かしら」
「ふむ。それはもったいないね。君ならどんな服でも似合うだろうに」
「あら、お世辞かしら」
「もちろん本心さ」


 そう言って霖之助はゆっくりと一礼すると、店内の商品棚を指さした。


「気分転換がしたくなったら僕に相談するといい。いつでも希望の商品を用意するよ」
「たまには商売人らしいところもあるのね」


 アリスは苦笑を浮かべ、肩を竦める。
 ちらりと視線を向けたがすぐに戻したところを見ると、あまり興味はないのかもしれない。

 もしくは、人形の服で頭がいっぱいなのか。


「でもおかげで春色のイメージは出来たわ。ありがとう、霖之助さん」
「お役に立てたようで何よりだよ」
「ついでに春色の布があったらいただけるかしら? 量はそんなに多くなくていいから、種類があると嬉しいのだけれど」
「了解。少し待っていてくれ」


 服は売れなかったが、商売としてはまずまずである。
 ちゃんと買い物をしていくあたり、彼女がただの常連とは違うところだろう。

 実にありがたいことだ。


「そう言えばもうすぐお花見の季節ね」
「ああ、もうそんな時期か」
「また神社に集まるのかしら」
「だろうね。去年も連日の大騒ぎだったようだし、今年もそうなるんじゃないかな」


 様々な布を取り出しながら、彼女の言葉に応える。
 霖之助の脳裏には、去年の風景が思い出されていた。

 ……飲まされすぎて記憶が飛びかけた、苦い思い出が。


「霖之助さんも行くのかしら?」
「さて、どうかな」
「お花見なんかの季節の行事、霖之助さんは好きそうだと思うのだけど」
「花見は好きだよ。花見はね」


 勘定台に布の束を置き、梱包を開始。
 アリスが何も言わないところを見ると、問題ないということだろう。


「だけど騒がしい席はどうも苦手でね。酒は静かに飲むのが一番だと思うよ」
「あら、お花見はお酒を飲むことがメインじゃないわよ。
 お花見というのは、あくまで桜を愛でることがメインでしょう?」
「確かにそうなんだが……あの面子で酒が入らないということが、まず考えられそうにないよ」
「それは確かに……無理かもね」


 人間や妖怪だけではなく、鬼や天狗、神まで参加するようになった神社の宴会。
 もはや宴会という単語でくくっていいものか怪しいところである。

 ……毎回思うのだが、鬼や天狗はあれだけの酒の量を身体のどこに入れているのだろうか。


「それに、花を愛でるのならそれこそひとりで十分じゃないかな」
「それはまあ……そうだけど……」


 残念そうに、彼女は呟いた。
 そんな仕草を見、霖之助は首を傾げる。


「ひょっとして、宴会で僕に用事でもあったのかい?」
「え?」
「いや、なんとなくだけどそんな気がして。違ったのならすまないが」
「うーん、別にそういうわけじゃないのだけれど」


 アリスはなにやら迷っているようだった。
 言うべきか、言わざるべきか。

 やがて上海につつかれ、彼女は意を決したように顔を上げる。
 まるで意志を持っているかのようなその動きに、霖之助は思わず感心してしまった。


「霖之助さんって滅多に宴会に来ないでしょう?」
「まあ、そうだね」


 断って言うと、滅多にであって全くではない。
 1、2回顔を出す程度なので、宴会の頻度から言えばまったくと言っても差し支えはないのかもしれないが。


「……だから今年こそは、たまには一緒にお花見でもと思っただけよ」
「なんだ、そんなことか」
「なんだってなによ。私だってねぇ? 私だって……」


 アリスは怒ったような視線で霖之助を睨み付けた。
 しかし彼は意に介すことなく、笑みを浮かべる。


「じゃあ、裏の桜が咲いたらふたりで花見をしようか」
「へ?」
「宴会とはいかないがね、こういうのもいいだろう」
「ええと」


 彼女にしては珍しく、落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。
 普段見られない彼女の仕草に、少しだけ霖之助は驚きを覚えた。


「嫌かい?」
「ううん、嫌とかそう言うんじゃなくて、ちょっと驚いちゃって……」


 そう言って、大きく深呼吸。
 それから深々と頭を下げた。


「……よろしくお願いします」
「こちらこそ」


 改まって言うと、なんだか変な気分である。
 まるで交際を申し込んだような妙な雰囲気だ。

 ……まあ、こういうのも悪い気分ではない。


「私、お弁当作ってくるわね」
「ああ、助かる」
「霖之助さんの好きなもの、たくさん入れてくるわよ」
「それは楽しみだね。アリスは料理が上手だから」
「ふふ、ありがとう。霖之助さん」


 そしてアリスはじっと霖之助の顔を見つめる。
 何か言いたそうな、熱を帯びた瞳で。

 なんだい? と聞くと、彼女は納得したかのように大きく頷いた。


「……私、わかった気がする」
「何がかな?」
「春の色。たぶんこんな感じなんだって」
「ほう?」


 どのような心境の変化だろうか。
 アリスはなにやら照れた様子で、上目遣いに霖之助の顔を覗き込む。


「教えて欲しい?」
「興味はあるね」


 頷く彼に、顔を輝かせるアリス。
 彼女はそっと耳元に唇を寄せると、甘い吐息とともに言葉を紡いだ。


「今度、教えてあげるわね。私の……春色の気持ちを」

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No title

裁縫得意の2人による服談義。そして春の訪れ。
花見の頃には、もうひとつの花も満開になりそうですね。

そして夜になると夜桜を傍らにアリスのピンクな花びらを……
むうん、エロイッ

No title

ピンクは淫r……ゲフン。アリスもちょっと春になってますね!

No title

やったねアリス!他のヒロイン達を出し抜けたよwww そして上海はナイスアシスト!
一体どんな風に春色の気持ちを伝えるのか気になるなぁ(2828
・・・しかしアリスの予想を上回る返事を返す霖之助は流石ですね(笑)

もうすぐ春ですね(ピンクレディー略

朱に染まる、ほんのり桜色、白魚の指、上気した肌……色を表す日本語って艶やかですよね!
満開の桜の下で、アリスの潤んだ瞳にはいったいなにが映るんでせうねー。
そして霖之助は蕾を頂くんですね分かります。蕾は春の風物詩ですもんねー。

……あれ、後編という名の本番はどちら?

これが恋色ってやつですか魔理沙さん?
さすが七色の魔法使いどんな色でも自由自在だ!

しかし、このアリスさんエロいですね・・・・・・you(複数形で)押し倒しちゃいなよ!

あと私事ですが大学留年しました(つд;*) 量子力学なんてくそくらえーー!

No title

なにこれ2828する。 まるで恋人同士か新婚夫婦のような雰囲気の二人…いや、
一歩手前といったところでしょうか?

霖之助さんの ふいうち! こうかは ばつぐんだ!!

真正面から不意打つなんて霖之助さんずるいw
そして不意打ちに弱いアリスさんかわいい!

No title

アリ霖はいいものだ…。
こういう甘めのアリ霖はこの所ご無沙汰だったので
堪能させていただきました。

ところでコメント見て思ったんですが
確かピンクレディーじゃなくてキャンディーズですよね、あれって。

No title

もうね、二人とも春色に染まり切っちゃえばいいんじゃないかな!
みんな霖之助が桜を愛でるのを見たいようだしね!

最近の道草さんの話を見ていると、キャラから妙な色気が感じられる。

素晴らし(*^^*)b
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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