例えばこんな藍ルート
ゆうまさんのHPの藍霖の絵を見てたら降ってきたネタを。
元の絵はすごくいいほのぼのなんですよ!
ただ僕が病んでたってだけで。
たまには丁寧語の藍を。
傾国の美女だもの。主を差し置いてもいいじゃない。
霖之助 藍
「お茶が入りましたよ」
「ああ、ありがとう」
霖之助は渡された湯飲みをそのまま口に運んだ。
……温度といい、濃さといい、自分で入れるお茶より遙かに美味い。
緑茶に関してはそこそこ自信があったのだが、間違いなく霖之助の完敗だった。
お茶と言えば古来大陸から伝わったとされている。
やはり大陸から来たという妖怪とは相性が良いのだろうか……。
と、そこまで考え。
「……なんで君がいるんだ?」
「はい?」
呼ばれて彼女……藍は台所で振り返った。
割烹着姿にお玉片手で首を傾げている。
「白味噌のほうがよろしかったですか?」
「そうじゃなくて」
どうして幻想郷の少女はわかった上で見当違いの答えを返すのだろう。
しかもこの八雲を名乗る妖怪たちはこちらが困惑するのを見越しているから余計タチが悪い。
「また紫に無理難題を押しつけられたのかい?」
「いえ、そういうわけではないのですが」
大した用事ではないと判断したのか、藍はそのまま鍋に向き直った。
ふさふさした尻尾が揺れている。
作業の邪魔にならないのだろうか、と思うがそもそも霊力の顕現に実体があるのかも疑わしい。
一度じっくりと調べてみたいところではあるが……それはさておき。
炊事を行う藍の手つきは手慣れたもので、一品完成するころには使った道具の後片付けもほぼ終わっている。
そういえば、しばらく食事をとっていなかった事を思い出した。
「もうすぐ七夕ですからね」
「そう言えばそうだな。あまり気にしてはいなかったが」
天の川を肴に酒を呑むのは格別ではあるが、七日にしか見られないものではない。
それにひとりで浸るにはいささか似つかわしくない逸話だった。
恋人同士の語らいならばともかく……。
「店主殿は、いつも突然来られる紫様にご迷惑そうなお顔をなさるので」
「……否定はしないよ」
「ですから、予約をと」
料理の盛りつけられたお盆を手に、藍は霖之助の側にやってきた。
そうしているとまるで新妻のようだ。
「つまり、七夕の日は空けておけ、と言いたいわけかい?」
「そういうわけでは。どちらにしろ用事など無いでしょうし。ただ伝えておこう、と」
ずいぶんと言えばずいぶんな言葉を言いながら、彼女は台所と机を数度往復した。
みるみるうちに食事の準備が整っていく。
藍や紫とは何度か香霖堂で酒を呑んだ事がある。
その際に場所を覚えたのだろうが……勝手知ったる他人の家。
下手すれば霖之助より手際が良いかもしれない。
「……それは紫の指示かい?」
「いいえ、自分の意志です」
「そうか、君は主想いなのだな」
ひとりで食べるのも味気ないから、と霖之助は藍に同席を促す。
一応ふたり分作ってあったらしく、彼女は少し迷っていたようだがやがて霖之助の前に腰を落ち着けた。
「紫と一緒に食事をしたりしないのかい?」
「私は式ですから。
……それ以前に、紫様の起きていらっしゃる時間がまちまちですので……」
「そうか」
苦笑する藍に、霖之助も苦笑で返す。
手際もさることながら、藍の料理の腕はかなりのものだった。
食材は自分で持ってきたのだろう。
ここまでされたら七夕の夜は彼女たちを迎えなければならない。
霖之助はそう考えていた。
恩には恩で返すべきだ。
例えそれが突然の押し売りでも。
恋人たちの語らいにはいささか遠いかもしれないが、楽しくは呑めるだろう。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
「少し待っているといい。お土産を渡そう。確か油揚げが……」
恩には恩、礼には礼。
人も動物も同じだ。
……そう、思っていた。
「しかし突然やって来たところで追い返しはしないよ」
「不機嫌にはなるでしょう?」
「まあ、ね」
「でしたら意味がないのです」
首を振る。
「そうか、君はずいぶん主の事を――」
「いいえ」
藍は改めて言った。
「自分の意志です」
彼女の言葉は何を否定したのか。
そう言えば――。
藍は七夕の時、紫が来るとは一言も言わなかった。
元の絵はすごくいいほのぼのなんですよ!
ただ僕が病んでたってだけで。
たまには丁寧語の藍を。
傾国の美女だもの。主を差し置いてもいいじゃない。
霖之助 藍
「お茶が入りましたよ」
「ああ、ありがとう」
霖之助は渡された湯飲みをそのまま口に運んだ。
……温度といい、濃さといい、自分で入れるお茶より遙かに美味い。
緑茶に関してはそこそこ自信があったのだが、間違いなく霖之助の完敗だった。
お茶と言えば古来大陸から伝わったとされている。
やはり大陸から来たという妖怪とは相性が良いのだろうか……。
と、そこまで考え。
「……なんで君がいるんだ?」
「はい?」
呼ばれて彼女……藍は台所で振り返った。
割烹着姿にお玉片手で首を傾げている。
「白味噌のほうがよろしかったですか?」
「そうじゃなくて」
どうして幻想郷の少女はわかった上で見当違いの答えを返すのだろう。
しかもこの八雲を名乗る妖怪たちはこちらが困惑するのを見越しているから余計タチが悪い。
「また紫に無理難題を押しつけられたのかい?」
「いえ、そういうわけではないのですが」
大した用事ではないと判断したのか、藍はそのまま鍋に向き直った。
ふさふさした尻尾が揺れている。
作業の邪魔にならないのだろうか、と思うがそもそも霊力の顕現に実体があるのかも疑わしい。
一度じっくりと調べてみたいところではあるが……それはさておき。
炊事を行う藍の手つきは手慣れたもので、一品完成するころには使った道具の後片付けもほぼ終わっている。
そういえば、しばらく食事をとっていなかった事を思い出した。
「もうすぐ七夕ですからね」
「そう言えばそうだな。あまり気にしてはいなかったが」
天の川を肴に酒を呑むのは格別ではあるが、七日にしか見られないものではない。
それにひとりで浸るにはいささか似つかわしくない逸話だった。
恋人同士の語らいならばともかく……。
「店主殿は、いつも突然来られる紫様にご迷惑そうなお顔をなさるので」
「……否定はしないよ」
「ですから、予約をと」
料理の盛りつけられたお盆を手に、藍は霖之助の側にやってきた。
そうしているとまるで新妻のようだ。
「つまり、七夕の日は空けておけ、と言いたいわけかい?」
「そういうわけでは。どちらにしろ用事など無いでしょうし。ただ伝えておこう、と」
ずいぶんと言えばずいぶんな言葉を言いながら、彼女は台所と机を数度往復した。
みるみるうちに食事の準備が整っていく。
藍や紫とは何度か香霖堂で酒を呑んだ事がある。
その際に場所を覚えたのだろうが……勝手知ったる他人の家。
下手すれば霖之助より手際が良いかもしれない。
「……それは紫の指示かい?」
「いいえ、自分の意志です」
「そうか、君は主想いなのだな」
ひとりで食べるのも味気ないから、と霖之助は藍に同席を促す。
一応ふたり分作ってあったらしく、彼女は少し迷っていたようだがやがて霖之助の前に腰を落ち着けた。
「紫と一緒に食事をしたりしないのかい?」
「私は式ですから。
……それ以前に、紫様の起きていらっしゃる時間がまちまちですので……」
「そうか」
苦笑する藍に、霖之助も苦笑で返す。
手際もさることながら、藍の料理の腕はかなりのものだった。
食材は自分で持ってきたのだろう。
ここまでされたら七夕の夜は彼女たちを迎えなければならない。
霖之助はそう考えていた。
恩には恩で返すべきだ。
例えそれが突然の押し売りでも。
恋人たちの語らいにはいささか遠いかもしれないが、楽しくは呑めるだろう。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
「少し待っているといい。お土産を渡そう。確か油揚げが……」
恩には恩、礼には礼。
人も動物も同じだ。
……そう、思っていた。
「しかし突然やって来たところで追い返しはしないよ」
「不機嫌にはなるでしょう?」
「まあ、ね」
「でしたら意味がないのです」
首を振る。
「そうか、君はずいぶん主の事を――」
「いいえ」
藍は改めて言った。
「自分の意志です」
彼女の言葉は何を否定したのか。
そう言えば――。
藍は七夕の時、紫が来るとは一言も言わなかった。