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新月酔談

酔いどれめておさんの絵にSSを書かせていただきました。
幼なじみな慧霖ってとても素晴らしいものだと思います。


霖之助 慧音









 新月の幻想郷は静寂に満ちていた。

 月のない空。
 こんな時に元気なのは星の妖精くらいなものだろう。

 以前霊夢達へ妖怪の太陰暦の説明で、新月が夜中で満月が昼間と例えたことがあったが……。
 結構上手い例えだったのではないか、と霖之助は今にして思う。

 もっとも人間にも徹夜や夜更かしする者がいるように、妖怪も新月の夜に眠ると決まったわけではない。

 霖之助もどちらかと言えば夜更かし側の存在だった。
 月のない空を見上げ、酒を飲む。

 慎ましやかな酒宴はしかし、厳かには行われそうにない。


「霖之助ー、飲んでるかー?」
「ああ、見ての通りだ。いただいてるよ」
「そーかそーか。足りなくなったらいつでも言ってくれ、な!」
「ありがとう、慧音。とはいえひとりでも大丈夫なんだが」
「いやいや、こういう席で手酌はよくない。よくないぞ、うん」


 すでにできあがっている少女にため息を漏らしつつ、霖之助は苦笑いを浮かべる。

 半人半獣の歴史教師、慧音も夜更かし側のひとりだった。
 後天的に半妖となった彼女は霖之助と同じくどちらのカテゴリにも属さないのかもしれない。

 慧音と霖之助はいわゆる幼なじみという関係だ。
 初めて会ったのは慧音がワーハクタクとなって間もなくの頃なので、思い返せばもう長い付き合いになる。


「しかしなかなかいい酒を持ってきてくれたね」
「そうだろうそうだろう。生徒の親御さんにもらったんだ。ひとりじゃもったいなくて、せっかくだから」
「そうか。上手くやっているようで何よりだよ」


 霖之助は杯を傾けつつ、薄ぼんやりと昔のことを思い出していた。

 脳裏に浮かぶのは、幼い頃の約束。
 かたや人間と妖怪のハーフ、かたや後天的な半人半獣と境遇こそ違えども、奇妙な連帯感はお互いの距離を近しいものにした。

 ある時ふたりは月の伝承に目を向ける。
 満月になると妖怪の力が増す慧音。
 ならば新月には、人間となるのだろうか、と。

 ふたりはそれを確かめるため、新月の夜は一緒に過ごすことにしたのだが……。


 まあ結論から言うと、特に何も変わらなかった。
 しかしすっかり習慣となってしまった今では、単にふたりで酒を飲む口実になっている気がしなくもない。


「ううん……」
「慧音、目が回ってるよ。水を飲むといい」
「うん、もらう」
「飲み過ぎだよ、まったく」


 赤い顔の慧音に、霖之助は肩を竦める。


「酔ってませんー。全然酔ってませんー」
「酔ってる者はみんなそう言うんだ」
「大丈夫。ホントだぞ。だからもっと霖之助と一緒に飲む」
「はいはい」
「もっと霖之助と一緒にいる」
「はいはい」


 手をパタパタと振りつついいわけをする彼女に、呆れ顔で答える。

 まったくいい大人のやることではない。
 酒は飲んでも飲まれるなと昔から言うではないか。

 と、酒瓶を杯へ傾けている慧音を横目で見つつ、再びため息。


「慧音? 手酌はよくないんじゃなかったのかい?」
「私はいいんだ。でも霖之助はダメだ」
「何故だい?」
「私が注いであげられないからに決まってるだろう」
「……それはどうも」


 むしろ霖之助としては慧音に注いであげることで酒量をコントロールしたいのだが。
 杯に口を付けながら、霖之助は笑みを零す。

 騒がしいことに変わりはないものの、無理に酒を進めてくるわけではないので無害なほうだ。
 そういうのを霖之助が苦手とすることを知っているからだろう。

 ……酔いつぶれた慧音の介抱はいつも霖之助の仕事なのだが。

 まあこれももはや慣れたものだ。
 酒を持ってきてもらったことを考えれば、おつりが出るというものだろう。


「さっきから飲みすぎだよ。すこし休憩しなさい」
「ぶー」


 酒瓶を取り上げると、慧音は頬を膨らませた。
 完全に幼児退行である。

 それほど酒に弱いというわけでもないし、みんなと一緒の宴会では節度を守った飲酒をする彼女なのだが、どうしてふたりだとこうなのだろうか。


「世界が回っているな、霖之助」
「それは酔っぱらいの言うことだよ」
「霖之助を中心に……」
「そんな大それたことは望んでないさ」
「じゃあ私の世界では霖之助が中心なんだなー」


 言いながら、こてんと慧音は横になった。

 このあとのことはだいたい想像が付く。
 いろいろとくだを巻きながら眠り、だいたい次の日の朝には記憶がなくなっているのだ。

 最善の策はこうなる前に帰して寝かせることなのだが。
 残念ながら今まで上手くいったためしがない。

 まあ、こんな状態になった彼女を放り出すのも気が引けるわけで。
 ……結局いつもと同じ、と言うわけである。


「慧音?」
「大丈夫、寝てない寝てない」
「寝るなら寝て構わないけど、風邪引かないよう気をつけるんだよ」
「うん……」


 目をこすりながら起き上がる。
 とろんと半分閉じたその瞳は、酒で上気したせいか妙に潤んでいる気がした。


「霖之助ぇ……。人里で暮らす気はないのか?」
「何度目だい、その質問は」
「何度も聞くぞ。霖之助の気が変わるまで」
「僕はここが気に入ってるんだ。そうそう気は変わらないよ」
「客もいないのに?」
「客ならいるさ。数こそ少ないが、誰もが大事な客人だ」


 そこで霖之助は言葉を切って、ニヤリと彼女に微笑みかける。


「そして君もその中のひとりだろう? 慧音」
「うー」


 慧音は何か言いかけ……やめる。
 そして霖之助を睨み付けるように見上げると、唇を尖らせながら言った。


「ずるい」
「ずるくて結構」


 涼しい顔で、霖之助は酒を呷る。

 何となく窓を少し開けると、ストーブで暖まった室内に清涼な風が吹き抜けた。
 火照った身体にちょうどいい……が、やはり少し寒いかもしれない。


「慧音?」


 少し目を離していただけで、なんだか妙に彼女の様子が静かになった。

 かと思いきや、少し離れた場所からガサゴソと謎の音。
 不審に思った霖之助は、屈み込んだ彼女の手元を覗き込む。


「……何してるんだい」
「うん。私の好きな霖之助のにおいがする」


すんすんすん


 見ると、慧音は霖之助の服に顔を近づけスンスンと匂いをかいでいるようだった。


「これもらっていいか?」
「……ダメ」
「どうしても?」
「ダメ」
「寺子屋にひとつ置きたいのに……」


 反応に困っている霖之助に、慧音は真顔で質問を重ねる。
 もし頷いていた場合、明日の朝正気に戻った慧音が霖之助の服をどうするかが少し気になるのだが。
 ……なんか恥ずかしいのでぜひやめてもらいたいところだ。

 まあこれもそれも、酒が悪いと言うことで。
 あと酒癖。


「慧音。もう寝たらどうだい?」
「や。もう少し霖之助といる」


 別に寝たくらいで別れるわけではないのだが。
 酔っぱらいにはそういう言葉も通じないのだろう。

 霖之助は彼女の頭に手を置き、安心させるように撫でてみる。


「慧音、君は疲れてるんだよ」
「そんなことない。仮にそうだとしても霖之助分が足りなくなってるだけだ」
「……初めて聞いたよ、そんな摩訶不思議な成分は」
「知らないのか? それは人生の8割を損してるな」
「まあ待て。どこから突っ込めばいいかちょっと考えさせてくれないか」


 深々とため息ひとつ。
 そうしているうちに、慧音がうつらうつらと舟をこぎ出すのが見えた。

 そろそろ限界のようだ。
 今日はよく保った方だろう。


「眠そうだね」
「眠くない」
「嘘はよくないな」
「……眠いけどまだ寝ない」
「素直でよろしい。というわけでその服は返しなさい」
「むぅ」


 何が彼女をそうさせるのか。
 霖之助が慧音の手から自分の服を救い出すと、彼女は名残惜しいのか服に引かれるようにふらふらとバランスを崩した。


「おっとっと」


 ぱたり、と霖之助にもたれかかるように倒れる慧音。
 軽く、しかし柔らかな彼女の身体を受け止めると、少し甘い匂いがした。

 霖之助の服よりこっちの方がいい匂いだと思う。
 ……本人にそんな事は絶対言えないが。


「やっぱり霖之助はあたたかいな」
「……そうか」


 そう言われて悪い気はしない。
 普段お堅い彼女がこうやって羽目を外しているのは、信頼の表れなのだと。

 ……たぶん、そういう事だと思う。


「……慧音?」
「……くぅ……くぅ……」


 霖之助に抱きついたまま、慧音は寝息を立てていた。
 こうなるともう揺すっても朝まで起きないのだ。

 もうちょっとペースを考えれば、楽しく飲めると思うのだが。

 ……まあ始終笑顔の彼女を鑑みるに、十分楽しんでいるのかもしれない。


「やれやれ」


 霖之助は彼女の身体を抱え上げ、隣の部屋に敷いた布団の上へと運ぶ。
 これも毎度のことで、太陽が昇る頃にはいつもの慧音に戻っているだろう。
 記憶がないもののいろいろ騒いだことだけはなんとなく覚えている彼女が、謝りながら朝食を用意してくれるところまでが毎月の恒例行事だった。

 そして霖之助の仕事は、寝る前までに宴会の後片付けをすることなのだが。


「ん」


 彼女を布団に放り込み、戻ろうとしたところで違和感を覚えた。

 慧音の手が霖之助の裾をがっちりと掴み、離さない。
 これでは後片付けはおろか隣に移動することすら出来ないわけで。


「……やれやれ」


 仕方なく霖之助は上着を脱ぐと、彼女にかける。
 そんなに欲しかったのだろうかと疑問を浮かべながら、素早く部屋を移動した。
 風邪を引かないうちに替えを羽織らなけらばならない。

 ……幸いにも先程彼女が引っ張り出した者がこんな形で役に立つとは思わなかったが。


「お休み、慧音」


 そう言って彼は扉を閉める。

 霖之助の服を抱き寄せ、幸せそうに眠る慧音に。
 明日になったら返してくれますように、と願いながら。

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なにこのけーねちゃん可愛過ぎる天使か。
霖之助さんよ、こんな大きな女の子が寝てるんだからちゃんと添い寝してあげないと駄目じゃないか!
しかし、霖之助の服を抱き締めながら幸せそうに眠るけーねてんてーが目に浮かびますね。にへらーっと笑ってそうです。

No title

そして服は「洗って返す」とか理由つけて持って帰っちゃうんですね!

そして自宅でクンカクンk(ピチューン

幼なじみな慧音先生はやはりすばらしいですね!
ところで、慧音と霖之助が幼なじみだとしたら慧音は村八分にされていてもおかしくないはず。そして、半獣になり人里を放逐され霖之助の元に逃げる。逃げてきた慧音を守る霖之助。そんな霖之助に依存してしまう慧音・・・とか、こないだ妄想しましたwww

No title

予想以上に気に入っちゃって無いと眠れなくなっちゃったり。
数日迷ってから借りに来たりしてイヤッホウ

けーねとの相性は抜群過ぎて怖い。
現在で無関係なのが嘘みたいだ

No title

慧音、君は疲れてるんだよ…から、
モルダー、あなた疲れてるのよ が思い浮かんだ。
普段しっかりとしている人ほど酔っぱらうと可愛い気がする。

No title

普段大人びているキャラが酔って子供っぽくなるのって素敵ですよね(笑)

霖之助が知らないだけできっと幻想郷の少女達には常識なんだろうな
霖之助分ってwww 一体どんな効用があることやら。
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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