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下駄と尻尾と山歩き

天狗が好きです。
というわけで椛熱が高まりすぎたので椛霖。

セルフバーニング韮白さんに挿絵を描いていただきました。
感謝感謝。ウフフ。


霖之助 椛





下駄と尻尾と山歩き


「何をしているんですか?」


 降ってきた声に、霖之助は視線を向けた。

 目に入るのは青い空。
 冬だというのに雲も少なく太陽が活発で、珍しく気温が高いのはそのせいだろう。

 眩しさに眼を細めながら顔を動かすと、見慣れた服と白い髪が目に入る。
 下から見上げるように声の主を確認すると、霖之助は誤魔化すような笑みを浮かべた。


「やあ、椛じゃないか。いい天気だね」
「こんな昼間から地面に寝っ転がるなんて……。ひょっとして酔っぱらってます?」
「いいや、僕はシラフだよ。どこかの鬼と一緒にしないでもらおうか」


 恥ずかしいところを見られてしまい、誤魔化しも失敗したらしい。
 椛の疑問の視線に、霖之助は地面に寝たまま器用に肩を竦める


「見ての通りさ」
「見て、と申されましても。お店をサボって遊んでいるようにしか見えません」
「サボるならこんな店先で寝っ転がってはいないよ。いつでもお客に対応するための心構えだと見て欲しいね」
「私の千里眼を以てしても、それは無理です」
「……そんなにはっきりと言わなくてもいいじゃないか」


 真顔の椛に、ため息を吐く霖之助。
 融通が利かないところも彼女らしいと思うが、正直すぎるのでたまに心が痛い。


「それに遊んでるわけじゃないんだが……やれやれ、君は相変わらず真面目だな」
「それはどうも。お陰様で皆からもそのような評価をいただいております」


 果たしてその評価は褒めているのだろうか。
 普段の彼女を想像してみたものの、あまりいい意味だとは思えない。


「ところで、ここは買い物に来た客に店主が寝たまま応対するような店なのですか?」
「ああ、客だったのかい。それは済まないことをしたね」
「当然でしょう? ここは道具屋なんですから」
「そう言ってくれる君がどれだけ貴重なことか」


 霖之助は苦笑を浮かべると、そこでようやく上体を起こした。
 視線が高くなり、椛の顔が少し近づく。


「それで、何をしていたんです?」


 立ち上がる前に、彼女から質問が降ってきた。

 どうやら買い物をするより気になったらしい。
 霖之助は地面にあぐらをかいたまま、言葉を探すように少しだけ視線を逸らす。


「実は練習してたんだよ」
「はい?」
「だから、練習さ。見てわかるだろう? ちょうど失敗して転んだところでね。サボってたわけじゃないよ」
「何か、変わったことでもやってたんですか?」
「……ああ、そうか。君達にはそう見えないかもしれないね」


 言いながら、足下を指さした。
 正確には、霖之助の足の裏。


「これさ」
「下駄ですか? そのようなもの、珍しくないでしょう」
「そうでもない。これみたいに一本歯で高いタイプのものは……人間には、ね」


 霖之助が指さすのは、歯が長めの一本歯下駄だ。
 どうやら椛はわかっていないようで、顔にハテナマークが浮かんでいる。


「天狗の君にはわからないかもしれないが、普通の下駄というのは歯が二本ついているものなんだよ」
「ああ、そういえばそんな違いがありましたね。でもたいして変わらないんじゃないですか?」
「それがなかなかどうして。慣れないうちは歩くのにも難儀するのさ」
「そうなのですか」


 不思議そうに彼女は首を傾げる。

 ……もっとも、生まれた時からこの下駄を履いているような彼女たちにしてみれば当然の疑問なのかもしれない。


「もしかして、練習というのは」
「ご名答」


 霖之助は肩を竦め、吐息を漏らす。
 それから椛の顔を見上げ、疑問をひとつ。


「しかし意外だったな」
「何か?」
「てっきり見ていたのかと思ってたよ。千里眼、君の能力だろう?」
「私の能力は仕事くらいにしか使いませんよ。疲れますし、監視ならともかく覗き見するような趣味は持ち合わせていません」
「真面目だね、ほんとに。しかしその言葉、ぜひスキマ妖怪に聞かせてあげて欲しいよ」


 どこからともなく現れる妖怪の賢者。
 今頃冬眠している頃だろうか。

 彼女の心を見透かすような言動は、いつもどこかで見ているからかもしれない……なんてことを思ったりしたこともある。
 もちろん真相は闇の中だ。

 そんな事を考えていると、椛がくすりと笑う。


「それとも店主さんは、ずっと見ているほうがお好みですか?」
「勘弁してくれ。君はそういう事をしないと信じているよ」
「そうですか」


 霖之助の言葉に、嬉しそうに椛は微笑んだ。
 それから、と付け加える。


「ただ、今までは山の外に目を向けようと思ったことがないというのも大きな理由ですけどね」
「そう考えると、君がうちによく来てくれるようになったのも霊夢達のおかげかな」
「店主さんがもっと山に来てくれてもいいのですけど。みんな待ってますよ?」
「ふむ。酒の量を考えてくれるようになったら行ってもいいかな」
「それは……難しいですね」


 妖怪の山を思い、苦笑いを交わすふたり。
 挨拶代わりの樽酒は妖怪の山では普通のことだ。

 記憶がなくなるまで飲まされるので、霖之助は天狗達と飲むのを出来るだけ避けていた。


「ところで、なんでまた下駄を?」
「ああ……最近拾った本に、この一本歯下駄が特集されていてね。
 新しい商品にしようと思い、文の新聞で取り上げてもらおうかとしてたんだが」
「ふぅん」


 霖之助の話を聞くや否や、あっという間に不機嫌になってしまった。

 そういえば、椛は鴉天狗を嫌っているらしい。
 鴉天狗というか、文を苦手としているだけかもしれないが。


「この下駄はね、別名天狗下駄とも言われるんだよ」
「天狗ですか?」
「ああ。由来は……天狗が履いてそうだからじゃないかな」


 目の前にいるのに履いてそうも何もあったものではないが。
 元は山で修行する者が履いていたらしい。
 天狗のイメージはそのあたりからだろう。


「ところが文にその話をしたら、天狗を足蹴にするなんてとんでもないと言われてボツになった、というわけさ」
「わからなくはないですけど、そこまで気にするほどのものですかね」
「さて、それはなんとも。それに紙面を下駄の話題で埋めるには地味すぎるそうだよ」
「確かに、弾幕ほどの派手さはないですけどね。天狗にとっては当たり前の道具ですし」


 椛は複雑そうな表情で頷いた。

 もっともそれは理由の半分で、霖之助がさっぱり上達しないことに文が痺れを切らしたというのもある。

 ……考えてみれば、歩けるようになってから話を持って行けば良かったかもしれない。


「新聞に載せてもらったら、少しは売れるかと思ってね。
 外の世界では健康器具にもなるらしいよ。バランス感覚を養えるとかで」
「そうなんですか?」
「ああ。あとダイエットになって美容にもいいとか……だからさ」


 そう言って霖之助は椛の瞳を見つめる。


「君達天狗のように綺麗になるかもしれないね」
「……!?」


 ぽん、という音を立てて椛の顔が真っ赤になった。
 しかし霖之助は気にした素振りもなく、言葉を続ける。


「……という売り文句で売っていこうと思ってたんだけど……。
 椛、どうかしたかい?」


 首を傾げる彼に、椛は半分涙目で睨み付け……。
 やがて大きく息を吐き出し、諭すように言った。


「やめた方がいいと思います。その売り方は、絶対」
「そうかい?」
「そうです。他の人には言わない方が身のためですよ」
「ふむ。君がそう言うならそうしようかな」


 よくわかっていない様子の霖之助に、椛は再びため息。


「どのみち天狗の新聞なんて天狗しか読みませんし、宣伝効果はないんじゃないでしょうか」
「それもそうか。どちらかというと寺小屋にでも持っていった方がよかったかもしれないね。竹馬の変わりくらいにはなるかもしれないし」
「下駄は遊具ではないんですけど……天狗を馬鹿にしてると言われても仕方なくないですか?」
「そんなつもりはないんだが……難しいね、どうも」


 呆れた彼女の視線に晒され、霖之助は困ったように頭をかいた。
 なかなか思うようにはいかないらしい。

 残念ながら、上手くいかないことに慣れてはいるのだが。


「せっかく作ってはみたものの、まだまだ日の目を見る日は遠そうかな」
「……もしかしてその下駄、作ったんですか?」
「まあね……っと、すまない。すっかり待たせてしまったね。今日は買い物だったかな」


 わりと長い時間話し込んでしまった事に気づき、霖之助はハッと顔を上げた。
 それから慌てて立ち上が……ろうとして転びかけ、改めて下駄を脱ぐ。

 気まずい空気と沈黙が流れる中、咳払いしつつ霖之助は立ち上がった。裸足で。


「……練習はまた今度かな」
「商品にならないのに、練習はやめないんですか?」
「いや、確かに今すぐ商品にすることは難しいかもしれないけど。
 せっかく作った道具だからね。そのままお蔵入りするのはもったいないだろう?」
「そうですか」
「それに運動不足の解消にはちょうど良さそうだし。健康器具として売り出すのに、売る側が不健康じゃ説得力がないからね」
「なるほど、よくわかりました」


 結局商品にすること自体は諦めてはいないのだ。
 そのことに気づいたのか、椛も笑みを浮かべた。


「そうだ、店主さん」


 そしてポンと手を叩き、彼の顔を見上げる。
 やや背の低い彼女は、立って並ぶと普通に見上げる位置に顔が来るのだが。


「どうせなら手伝いましょうか?」
「手伝う……練習をかい?」
「はい。履ける者が見ていた方が、上達が早いかも知れませんし」
「ああ、それは確かに。もしよければよろしく頼むよ」


 霖之助は下駄を手に持ち、軽く掲げた。

 ……ついでに彼女の下駄を調べさせてもらうのも悪くないかもしれない。
 もしかしたらなかなか上手く歩けない理由は下駄のほうにも問題があるかも知れないわけだし。たぶん。


「それで、お願いなんですけど」


 恐る恐るといった彼女の口調に、椛の白い髪に覆われた耳がぺたりと垂れる。
 そこまで恐縮されると何でも聞いてあげたい気分になるのだが、それはさておき。


「私にもひとつ、下駄を作ってくれませんか?」
「下駄かい? それくらいなら構わないが……」
「よかった。あの、可愛いのをお願いします」


 喜ぶ椛の顔に、霖之助はふとある考えが浮かんだ。

 そういえば、鴉天狗はいろいろと独特な天狗下駄を履いている気がする。
 しかし椛が履いているのはごく普通の木の下駄だ。

 ……ひょっとしたら、少しばかり羨ましかったのかもしれない。

 もちろん本人にそんな事は聞けないが。


「ああ、おやすいご用だよ。とりあえず次来た時くらいに、デザイン案をいくつか渡すとしよう」
「はい、ありがとうございます」


 深々と頭を下げる椛。
 天狗装束から覗く尻尾がパタパタと揺れていた。

 ……椛はとても真面目で素直な娘だと思う。
 見ていてわかりやすいくらいに。


「歩けるようになったら、それ履いて出掛けましょうね」
「遠出するには先は長そうだが」
「大丈夫ですよ、私が付いていてあげますから」
「お手柔らかに頼むよ」
「はい」


 嬉しそうな椛の笑顔を受けながら、霖之助は香霖堂の扉を開いた。
 少し薄暗い店内に足を踏み入れると、ふとひとつの考えが浮かぶ。


「出掛けるなら、あそこがいいかな」
「どこか行きたい場所でもあるんですか?」
「行きたいとは限りないが……まあ、歩けるようになってからだね」


 疑問を浮かべる椛に、霖之助は笑って誤魔化した。


 天狗下駄は山の中で修行する僧侶や山伏が履いたとされる下駄だ。
 山歩き用の下駄なら、これを履いて……椛と一緒に、妖怪の山に登ってみるのも悪くないかもしれないと。

 そんな事を、考えつつ。

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No title

山登りをする際には歯が一本の下駄の方がむしろバランスを取りやすいんですってね
そういう理由があるので平地で一本下駄は膝を痛めそうな気が……
ぜひ椛の肩を借りてゆっくり練習してください霖之助さん

あとイラストがerrorを発してリンク先に飛べません><

No title

女性といる時に他の女性の話題をするなんて霖之助さんは本当に
女心が理解できていないんだから・・・と思ったけどいつものことかwww

それに「君達天狗のように綺麗になるかもしれないね」の一言で
椛的には帳消し以上でしょうからね(笑)

椛の献身的な協力もあって下駄で歩けるようになった霖之助さんが
椛と一緒に仲良く妖怪の山を歩いているのを見て悔しがる某天狗
の姿が目に浮か・・・おや?こんな夜遅くに一体誰だr・・・

No title

霖之助の言葉を真に受けて真っ赤になったり、耳や尻尾がぱたぱた動いたりと実にかわいらしい。
この調子で山に登ると天狗達に無いこと無いことで、からかわれる訳ですね!

No title

天狗下駄か……昔爺さんにはかせてもらったけど、こけて後頭部強打したのはいい思い出www

霖之助さんも後頭部強打して椛に怪我をみてもらうがいいよ。もちろん膝枕でな!ww

店主は相変わらず無自覚ジゴロやでえ。
だがあのセリフ、あややに言うのも見たいかもしれない
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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