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冬の銀、夏の白

ベルナドット韮さんからプロットをいただいた咲霖。
そして片翼のめておさんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!

天然乙女の咲夜熱が高まりすぎて最近ヤバいです、はい。


霖之助 咲夜








 昼下がりの香霖堂に流れるBGMは、少女の鼻歌だった。

 元になったのは幽霊楽団の一曲だ。何となく聞き覚えがある。
 紅魔館でライブをたまにやるらしいので、その影響だろうか。

 少し寂しげで、しかしどこかノリのいいリズムに、霖之助は思わず笑みを零す。


「ずいぶん機嫌がいいみたいだね」
「あら、そう見えます?」


 左手で紅茶のカップを弄びつつ、咲夜は首を傾げてみせた。
 その拍子に銀色のクセっ毛がひょこりと揺れる。

 まるでいぬみみが倒れたように見えるのは、彼女が悪魔の犬だからだろうか。
 夜の王たる吸血鬼を主に持つ彼女は、昼間はわりと暇なことが多いらしい。


「何かいいことでもあったのかな」
「いえ、特にはありませんけど。いつも通りですね」
「ふむ、確かに」


 咲夜の言葉に、霖之助はひとつ頷く。

 彼女が言っていることは本当だ。
 他の姿はあまり知らないが、少なくとも……。


「香霖堂で見る君は、いつも機嫌がよさそうに見えるよ」
「え……ええ。おかげさまで」


 変な礼を言いつつ、彼女は頭を下げた。
 珍しく、咲夜が慌てたようにも見える。


「と、ところで、お嬢様に似合いそうな服ってどれだと思います?」
「レミリアに、ねぇ」


 少し早口で、彼女は広げたページの一角を指さした。
 読んでいるのは女性向けのファッション雑誌というやつだ。

 定期的に流れ着くそれは、今では香霖堂の隠れた人気商品となっていた。
 ただし買ってまで読みたいものではないらしく、彼女のように店内で読んでいく客がほとんどだったが……。

 まあ、客寄せとしては十分だろう。


「……少々彼女には早いんじゃないかな」


 そこに載っていたのは、十代後半の少女をターゲットにしたような服ばかりだった。
 永遠に幼い吸血鬼に似合うかと問われれば、首を傾げざるを得ない。


「それもそうですね」


 あっさり認める咲夜に、霖之助は疑問符を浮かべた。
 まるでただ話題を変えるように思える。

 そんな彼の表情に、咲夜はにっこりと微笑んで見せた。


「えーと、もしお嬢様に似合う服があったら作ってみるのも面白いかと思いまして。
 ほら、やっぱり外の世界の方がデザインが豊富じゃないですか」
「その点については、まったく君の言う通りだが」


 頷いて、そこで動きを止める。


「でも君、裁縫苦手だろう?」
「……はい、お恥ずかしながら」


 苦笑混じりに、咲夜は肩を竦めた。
 見ると、今日も絆創膏が彼女の手に巻かれている。

 ……なんだか店に来る度増えている気がする。


「気にすることはないさ。人間何かしら得意不得意はあるよ」
「でも最初、店主さん笑ってたじゃないですか」
「ああすまない。謝るから根に持たないでくれないか」
「持ってません」


 拗ねたように唇を尖らせ、そっぽを向く咲夜。
 霖之助は低頭しながら、その時のことを思い出していた。


「君は何でも出来ると思っていたんだよ。よくできたメイドだからね」
「はい。よくできたメイドなのは違いないですけど」
「ああ、実にその通りだ。だからこそだよ」


 そんな彼女に実は裁縫が苦手なんですと言われたからら、ギャップに少し笑ってしまったのだ。
 当然すぐに謝ったのだが、彼女はまだ許してくれないらしい。

 指の絆創膏はそのせいだろうか。
 きっと練習しているのだろう。

 そのギャップに思わずかわいいと思ってしまったのは……言わないでおく。


「じゃあ、店主さんは美鈴にどんな服が似合うと思いますか?」
「彼女にねぇ」


 紅魔館の門に立つ少女を思い出し、そして紙面に視線を移す。
 すらりとした美人である美鈴なら、どれもきちんと着こなせるだろう。

 それでもあえて言うならば。


「普段チャイナドレスだから、やはり活発なイメージがあるな。このあたりはどうだい?」
「シャツにデニムのパンツですか。確かに似合いそうですね」
「だろう? 目利きには自信があるんだ。商人だからね」
「でも店主さんって古道具屋さんですよね?」
「そこはそれ、客に似合いの商品を紹介することにかけては通じるものがあるってことさ」


 霖之助は自信ありげに頷いた。
 そんな彼を、珍しく感心したような視線で咲夜は見つめている。

 ……実際は霊夢の服を作らせられたり魔理沙のファッションに付き合わされてるからなのだが。

 何でもいい、と言っている割に希望を読み損なうととたんに不機嫌になるのだ、あのふたりは。


「えっと」


 銀色の髪を指先でいじりつつ、咲夜は何事か口ごもった。
 やがて深呼吸をひとつすると、改めて彼女は首を傾げてみせる。


「私には、どんなのが合うでしょう」
「君かい?」


 霖之助は咲夜を見て、それから雑誌に目を落とした。

 実に難しい質問である。
 第三者ならまだしも、面と向かって聞かれる場合は特に注意が必要なのだ。
 すなわち、この問いには似合うかどうかより『今度着てみたいもの』も含まれていたりする場合もある。
 つまりは背中を押してほしい、という心理というやつだ。

 もちろん単純に似合うのがどれかを聞いている可能性もあるので、その辺も加味して考えなければならない。
 今まさにセンスが問われているのだろう。

 しばし考え、霖之助はもう一度彼女に向き直る。


「どれでも、というのはダメかな」
「ダメです」


 考え抜いた末の結論は、一言で却下された。
 事実なのだが、仕方がない。


「そうだね……」


 メイド服のイメージが強い彼女だが、メイド服しか着ないというわけではないだろう。
 瀟洒で清楚な雰囲気はそのままに選ぶとしたらどうするか。


「この白いワンピースなんてどうかな」
「ワンピースですか? あまり着たことはありませんね。なんだかイメージと違う気がしまして」
「そうでもないさ。さっきも言ったが、君にはどれでも似合うからね」
「……あれ、本気だったんですか?」
「僕は嘘は言わないよ」


 セールストークはするが、嘘ではない。
 商品の魅力を伝えるのに少しぐらい大げさになっても仕方がないのである。

 しかし咲夜が顔を赤らめなにやら言いたそうにしているので、霖之助は奥にあるクローゼットを指さし口を開いた。


「気になるのなら、着てみたらいいんじゃないかな。
 残念ながら白ではないけど、ワンピースならいくつかあるよ」
「ふふ、お上手ですね。でもそうやって買わせるつもりなんでしょう?」
「そんなつもりはないんだがね。まあ、商品であることに違いはないけど」


 まあ、もし白いワンピースがあったとしても似合うのは夏の日差しだろう。
 アクセントに麦わら帽子なんてのもいいかもしれない。

 そんな事を考えていると、咲夜は本棚へ近づき、そしてカウンターへやって来た。


「そろそろいい時間なので、仕事に戻ります。今日はこの本を買っていきますね」
「毎度あり」


 咲夜の差し出した本と硬貨を見比べ、頷いた。
 中古の雑誌など安いものなので、対価は金銭だったり差し入れのクッキーだったりする。
 これに関しても咲夜はいいお得意さんだった。

 気になることと言えば。


「それにしても、毎回男物のファッション誌ばかり買っていくね」
「うちの門番に頼まれたんです」


 きっぱりとそう言い切る彼女。

 美鈴が男物のファッション誌ばかりそう読むものかと疑問だったのだが。
 返答までコンマ数秒という受け答えの速さに、それ以上聞くことが出来なくなった。


「……そうか」


 曖昧に頷きながら、霖之助は彼女の本を袋に入れ、手渡す。
 そのついで、と言ってはなんだが。

 視界に入った絆創膏が、つい気になってしまった。


「まあ、あまり無理はしないようにね」
「っ!!」


 何の気なしに、彼女の指に手を伸ばす。
 絆創膏の巻かれた白い手。なめらかな絹のようなそれに触れた瞬間……霖之助の視界から、彼女の姿は消えていた。

 指先に、柔らかな感触だけを残して。


「咲夜?」


 呼びかけてみるが、返事はない。
 帰ったのかと思った矢先、後ろからため息が聞こえてきた。


「女性の肌は気安く触れるものではありませんよ、店主さん」
「そうだったね」


 彼女の言うことももっともだ。
 霖之助は振り返らないまま、肩を竦めて了解の意を示す。


「……でも拒絶したわけではありませんから、気を悪くしないでくださいね」


 ギシ、と椅子の背もたれが音を立てた。
 首筋にかかるのは、彼女の吐息だろうか。

 後ろ向きなので咲夜の表情を窺い知ることはできないが……。
 怒ってはいないのだろう。

 それだけで十分だった。


「裁縫の練習は順調かい?」
「え、ええ、まあ」
「そうか。改めて、あまり無理はしないようにね」
「ええ、そうします」


 妖怪ならばそんな傷などあっという間に治るのだろう。
 しかし彼女は人間だ。そういうわけにもいかない。

 だが人間だからこそ、ここまで努力をしている。
 霖之助はそれがとても眩しいものに感じられた。


「もしよかったら」
「うん?」
「もし上手く作れたら、ひとつ貰ってくれますか?」
「ああ、構わないよ。君がどんな服を作るのか、興味もあるし」


 主へのプレゼントの練習台だろうか。
 ふとそんな事を考えてみる。

 とはいえ、理由などさしたる問題ではない。


「断る理由はないからね。ありがたく頂戴しよう」
「ありがとうございます、店主さん」
「礼を言うのは僕だろうに。まあ、それもまだ先のことかな」
「……もう、いじわる」


 笑い合うふたり。
 ではまた、と言い残し、咲夜の気配が消えた。
 振り返ると、やはり彼女の姿はない。今度こそ帰ったのだろう。


「服、か」


 霖之助はひとり呟くと、椅子から立ち上がり本棚へと歩み寄った。
 取り出したのは、先程咲夜が読んでいたファッション誌。

 白いワンピースのページを開くと、霖之助は改めて確信を強める。


「嘘は言ってない、さ」


 もし彼女が服をくれるというのなら……お返しにワンピースを作ってみるのも面白いかもしれない。
 そんな事を考えつつ、霖之助は本を閉じた。


 彼女の指がこれ以上傷つかないようにと。
 そんな事を、願いながら。












WinterIsTooColdToDrawAGrilWithOnePiece


「着心地はどうですか?」
「悪くないね。とても初めて作ったとはとは思えないほどだよ」
「ありがとうございます」
「それはそうとして、どうしてタキシードなんだい?」
「あら、仕事にも使えるかと思いまして」
「僕は道具屋なんだがね」
「メイド服と並ぶと、とてもいいと思うんですけど」
「確かに、似合うかもしれないが」


 そう言って、霖之助は肩を竦める。
 絹の肌触りは心地よく、縫い目が気になると言うこともない。
 吟味された素材と、バランスを考えられた縫製。

 その道のプロが作ったといわれても納得してしまいそうな出来だ。
 半年も経たずにここまで腕前を上げたのは、さすがと言うべきだろう。

 それにどこぞの魔女の仕業か、初夏だというのに長袖でも涼しく感じられた。


「咲夜」
「なんでしょう」


 緑の匂いを運び、少し強めの風が吹く。
 振り返った彼女に、霖之助は頷いて見せた。


「思った通りだな」
「何をですか?」
「白いワンピースに似合うのは、夏の日差しと麦わら帽子だということさ」
「あら、それだけですか?」


 不満そうに呟く咲夜に、ゆっくりと首を振る霖之助。
 それから少しだけ目を逸らし。
 観念したかのように、ため息ひとつ。


「その服、よく似合っているよ」


 揺れる銀色に、目を奪われないよう。
 霖之助は彼女の隣に並び、歩き出す。

 眩しいのは夏の日差しのせいだ、と思いながら。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

甘い、甘いお話でした
毎回綺麗な読了感を得られて素敵だと思います
いい物を読ませて頂きました

メイド服とタキシード、並び立つ日は来るのでしょうか。

No title

咲夜はやっぱり乙女ですねぇ~。片翼のめておさんの挿絵もすばらしい
の一言! 咲霖分を十分に補充できましたwww

・・・香霖堂ブランドの服が幻想卿で流行出すのは時間の問題ですね(笑)

いやあ、素晴らしいですなぁ

タキシードとメイド服、舞踏会とかで映えるんだろうなあ

すばらしく甘いお話でした。タキシードとメイド服もいいですけど、タキシードとワンピースなんて何処ぞの令嬢と執事みたいで妄想が止まらなくなりましたw咲霖もっと増えれ超増えれ
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Author:道草
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