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名前で呼んで 06

あけましておめでとうございますの気持ちをこめて先代霖。
すごく今更ですが!


霖之助 先代巫女 幽香

賀正








「いざ、尋常に勝負!」


 目の前に突きつけられた羽子板に、霖之助は肩を竦めた。

 正月も3日目だというのに、彼女の頭の中はもう春なのだろうか。
 いや、正月は新春と言うから間違っていないのかもしれない。
 ここ霧雨道具店もそろそろ初売りに向けて準備を始めなければならないのだが……。

 それはともかく。


「なんの真似だい、巫女」
「見ての通り、羽根突きのお誘いに来たんだけど。参拝客から貰っちゃってね、せっかくだから」
「羽根突きは少女の遊びだよ。だから誘われてもどうしようもないね」
「あれ、そうだっけ?」
「元は神事だろうに、巫女の君が知らなくてどうするんだい。
 古くは千年以上の昔、男子は蹴鞠、女子は毬杖をやってだね……」
「まったく、騒がしいわねぇ」


 ため息とともに、横手から呆れたような声が上がる。
 まだまだ喋り続けようとする霖之助を完全に無視して、巫女はその声の主を睨み付けた。


「って、なんで幽香がここにいて、しかもモチ食べてるのよ」
「なんでって、見ての通り買い物だけど」
「買い物……?」
「それ以外に何があるのよ、ほら」


 幽香は巫女に見せつけるように、片手で包みを掲げてみせる。

 彼女が買ったのは園芸用の小さなシャベルだ。
 今まで使っていたものが壊れてしまったらしい。


「霖君、ここってお正月も営業中だっけ?」
「まさか。もちろん休みだよ」
「だよね」


 納得がいかない様子で、巫女は幽香と霖之助を見比べる。
 霖之助の服装は袢纏姿に作業ズボン。どう見ても営業中の服装ではない。

 しかしながら開店中の札は出ていなかったものの、今巫女が入ってきたように鍵が掛かっていたわけでもない。


「でも営業はしてたわよ。店員もいたし、買い物も出来たわ」
「そりゃあいるだろう。店なんだから」
「休みなのに? 結局どういうことなの?」
「別に、大したことじゃないよ」


 霖之助はお茶で喉を潤すと、軽く椅子に座り直す。

 ……先程喋ることが出来なかったのでそのリベンジというわけではない。
 決してない。


「霧雨の親父さんが年始の挨拶に回ってることは知っているだろう?」
「うん。昨日へべれけで神社に挨拶しに来たよ。奥さんに怒られてたけど」
「それは忘れてやってくれ。とにかく、霧雨の親父さんは霧雨道具店の長として顔を売りに行ってるわけだよ。
 すると当然商談に発展することもあるだろう」
「あの様子ではとても覚えてるとは思えないけど」
「……そうでなくても、道具屋への用件を思いつくこともあるだろう。きっと」
「ふむふむなるほど。つまり霖君は留守番ってことだね」
「だいたいそんなところだよ」


 それから、と霖之助は付け加える。


「正月とはいえ、火急の客が来ないとも限らないからね」
「例えば幽香みたいな?」
「まさか。別にいつでもよかったんだけど、年が変わったみたいだし顔見せがてら覗いてみただけよ」
「……ずるい」


 幽香の言葉に、巫女は唇を尖らせた。
 何がずるいのかは……霖之助にはわからなかったが。


「どのみち暇だったし予定もなかったからね。店先でのんびり暮らすのもなかなかどうして悪くないよ。
 少々寒いのが難点だけど、冬だから仕方ないか」
「なら手伝ってくれてもよかったのに」
「手伝うって、神社かい?」
「そうだよ。年末年始は大忙しだったんだから。ようやく一段落して出歩けるようになったんだけど」
「商売繁盛けっこうじゃないか。神社は一番の稼ぎ時だろうに」
「博麗の商売は結界管理と妖怪退治なんだけどね」


 そう言ってジロリと幽香を睨む。
 対する彼女は、しかし涼しい顔。


「あら、私に神社を手伝って欲しかったのかしら」
「どこの世界に妖怪に手伝ってもらう神社があるのよ」
「まあ、それもそうだね」


 幻想郷で唯一の神社である博麗神社。
 そして博麗の巫女は妖怪退治を生業にしているわけで。

 どう考えても神社と妖怪は相容れないだろう。
 たぶん。


「それに暇なら暇で、もっとやることがあるじゃない」
「やること……? なにかあったかな」
「あるでしょ、初詣とか初詣とか初詣とか!」
「あー」


 巫女に詰め寄られ、霖之助はようやく思い出したかのように頷く。
 ふたりの距離を見て幽香が眉をしかめたが、彼が気づくことはなかった。


「初詣ならもうやったよ」
「ほんと? いつ? 来てたなら教えてくれればよかったのに」
「いや、博麗神社には行ってないんだ」
「うちじゃないって……どこに行ったの?
「どこって、ほら」


 言って、霖之助は壁に設置されている神棚を指さした。
 それから自信たっぷりな顔で、言葉を続ける。


「神棚は神社と同じ。つまりここに参拝すれば十分というわけだよ」
「そんなの屁理屈もいいところじゃないの」
「寒くて人の多い場所は苦手でね……」
「とんだ不精者ね、まったく」
「霖君はもう少し動いた方がいいと思う」
「耳が痛いよ」


 ふたりに呆れられ、霖之助は肩を竦めた。
 幽香は巫女が持っている羽子板を見つめると、ふと首を傾げる。


「ところで羽根突きってどんなのかしら」
「おや、知らないのかい?」
「ふん、人間のお遊戯なんて知らなくて当然でしょう?」
「なんだ幽香、興味あるの?」


 霖之助に断られたからか、巫女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
 どこからともなくもうひとつの羽子板を取り出し、幽香に渡す。


「じゃあ一度やってみようよ。習うより慣れろって言うし」
「その方が早そうね。私は別に構わないわよ」
「よし決まりっ。ところで霖君。羽根突きのルール知ってる?」
「ん、ルールかい?」


 巫女に話を振られ、霖之助はふと考える。
 やがて彼は小さく首を振った。


「いいや、そういえば知らないな」
「なあんだ、もう。肝心なところで役に立たないんだから」
「少女の遊びの内容までは詳しくないよ。落としたら負けくらいでいいんじゃないかな」
「んー、まあそんなところだよね」
「そんなものなの? ずいぶん単純なのね」
「まあ、遊戯だし」


 苦笑を浮かべる幽香に、つられて霖之助も笑みを零す。
 しかし彼女は不意に視線を強めると、強い口調で疑問を発した。


「ところでそれを打つのかしら」
「そうだけど」


 巫女が持っているのはムクロジの木の実に羽をつけた物だ。
 ムクロジとは無患子と書き、子が患わ無いという無病息災の縁起物で羽根突きには欠かせないのだが。


「ダメよ、そんなの」


 一言で切り捨てた。
 花の妖怪たる彼女には気に入らなかったらしい。


「えー。でもこれもひとつの伝統行事よ?」
「伝統は壊すためにあるって誰かが言ってたわ。
 ねえ、何か代わりになりそうなものってないの?」
「ないことはない、かな。霧雨道具店の商品ではないが……」


 霖之助はそう言うと、足下の箱を開けて何かを取りだした。
 ビー玉より一回りほど大きな、蛍光色の球。

 霖之助は手首を返し、球を軽く床へと放り投げた。
 ほとんど力を入れずに放たれたそれは、しかし綺麗な直線を描いて彼の手元へと戻ってくる。


「これは外の世界のおもちゃのひとつでね。スーパーボールという」
「丸いね」
「丸いわね」
「見ての通りだよ。ただこれはかなり弾力があってね。
 軽い力で投げてもよく跳ねるって代物だから、あまり打ち合いには向いてないかもしれないな」
「あら、構わないわよ」
「むしろそれくらいでちょうどいいよ」


 そう言って、巫女はふふんと鼻で笑う。


「んふふ、幽香の負け姿を見られるなんて幸先ががいいね」
「ふん、言ってなさい。吠え面をかかせてあげるわ」
「……どうでもいいが、外でやってくれよ。
 ああ、勝敗は教えてくれると嬉しいね」


 自分の役目は終わったとばかりに寒そうに袢纏の裾を寄せた。
 そんな彼に、巫女と幽香は顔を見合わせた。

 それからニヤリと、ふたり揃ってイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「何言ってるのよ」
「そうだよ、霖君が見ててくれなきゃダメじゃない」
「……だって、外は寒いだろう?」
「問答無用!」
「たまには外に出なさいな」


 腕を組まれ、首根っこを掴まれ、引きずられるようにして外へと連行される霖之助。
 外に出るなり、身を切るような冷たさを孕んだ空気が彼を襲う。

 しかしそれに反して、往来の人通りは多い。
 振り袖や紋付き袴で着飾った者、寒さに身を縮めて早足で歩き去る者、赤い顔した酔っぱらい。
 どの顔にも笑顔が浮かんでいるのは、正月の魔力というやつだろう。


「ルールは……打ち漏らしたら負けってことで。わかりやすいでしょ?
 もしくは相手の届かないところに打っても負けでいいよね」
「ちなみに負けたら顔に墨で落書きされるんだよ。
 これは墨に厄除けの効果があると考えられたからであり、おそらく化粧の真似事として……」
「正々堂々、一本勝負で行きましょうか」
「ふん、望むところよ」


 霖之助の解説は華麗にスルーされた。
 ……なんだかスルーされるのにも慣れてきた自分が怖い気もする。

 いざ開始、と思った矢先。
 巫女がくるりと振り返る。


「ところで霖君って明日までお休みだっけ?」
「ああ、一応ね」
「じゃあ、勝ったら明日は霖君を自由に出来るってことで」
「あら素敵ね。その提案に免じて先攻は譲ってあげるわ」
「ふふ、ずいぶん余裕じゃない。後悔しないといいけど」
「いやいや盛り上がってるところすまないが、どうしてそうなるんだい」
「いざ、尋常に!」
「勝負!」


 その言葉と同時に、ふたりはお互いに距離を開けた。


「やっ」
「たあっ」


 カン、というまるで金属のような音を立て、ふたりの間を蛍光色のボールが行き来する。
 軟質で弾力を持つ物質のはずだったのだが、どれだけの力で叩けばああなるのだろうか。

 珍しさか、3人の回りにギャラリーが集まってきた。
 確かに見ている分には楽しいかもしれない。

 幽香は妖怪だが、巫女がいるからだろうか。
 ギャラリーの表情には安心感さえ浮かんでいる気がする。


「まるで弾幕だな……」


 ひとつのスーパーボールが10にも20にも見える気がする。
 それほどの打ち合いだった。

 だがそれも、長くは続かず。


「あれ?」
「あら」


 異変に気づいたのは、どちらだったか。
 最初は幽香が羽子板を空振りしたと思った。

 だがそうではない。
 スーパーボウルが砕け、使い物にならなくなってしまったのだ。

 これでは続けることが出来ないだろう。


「勝負は引き分け、かな」
「ふん、脆いわね」
「いいところだったのに……」


 砕けてしまったスーパーボールを拾い、霖之助は肩を竦める。
 不満そうな表情を浮かべるふたりに、ふと疑問を浮かべた。

 羽根突きとはこんな遊戯だっただろうか。
 少なくとも、自分の知ってる羽根突きとは違う気がする。


「とりあえず、今日はお開きだよ。店に戻ろう」
「そうね」
「わかった。あ、博麗神社と霧雨道具店をよろしくお願いしますー」


 霖之助のあとに幽香が続き、巫女は往来のギャラリーに手を振っていた。
 堂に入って見えるのは、手慣れているせいか。
 幻想郷で巫女と言えば彼女のことを指す。
 その理由の一端を垣間見た気がした。


「宣伝ありがとう、巫女」
「どういたしまして」
「もっと強度のある球はなかったのかしら」
「まさかこんな事になるとは思わなくてね。今度探しておくよ。
 ところで寒くないかい? 今熱いお茶を入れよう」
「動いたら暖かくなってきたけど、せっかくだからお茶はもらうよ」
「そうね。喉が渇いたわ」
「ああ、少し待っていてくれ」


 店内はすっかり冷え切っていた。
 魔法の品でもあれば便利なのだろうが、残念ながら霧雨の親父さんはそういった品を店に置くのが好きではない。
 霖之助は火鉢の台にヤカンを乗せると、湯飲みを用意する。

 幸いなことに先程までお茶を飲んでいたため、ヤカンはある程度温まっていた。
 さほど時間をかけず3人分のお茶を注ぎ、霖之助はカウンターに座る。

 向かって巫女が右、幽香は左に腰を下ろす。


「まあでも、そこそこ楽しめたわね」
「わたしもだよ。言うだけのことはあるじゃない」
「当然よ。ねえ、あなたもやってみたら?」
「勘弁してくれ。僕にあんな動きはとうてい無理だよ」


 首を振り、降参の意を示す霖之助。
 ハーフとはいえ、あんな人以外の領域について行ける気がしない。

 ……まあ、巫女は人間であるが。


「それにしても、ルールを決めて勝負するってのはいい案かもしれない。異変解決もそうしてみようかな。
 誰の良心も咎めることのない、いい作戦だよね」
「そうね。アレなら遠慮無くあなたに勝てるでしょうし」
「もう少し続けたら私が勝ってたけど」
「夢を見るのは自由よね」


 うふふと剣呑な視線を交わすふたりに、霖之助の背筋まで寒くなってきた。
 冬だというのに、勘弁してほしい。


「ま、私は今のままでいいかな。そういうのは次の世代に任せることにするよ」
「……そうか」


 いつも通りの巫女の笑顔に、霖之助は一抹の寂しさを感じた。
 彼女は人間だ。当然のように歳を取る。

 いつか訪れる別れを予感し、霖之助は深いため息を吐いた。
 そしてそれは幽香も同じだったようで。

 似たような表情を浮かべた彼女に、こっそりと苦笑を漏らす。


「だけど勝手に人の休日を景品にするのは感心しないな」
「いいじゃない、どうせ暇だったんでしょ?」
「それはそうなんだがね」


 話題を変えるように、霖之助は首を振った。


「なんにせよ、引き分けならその話もなかったことになるかな」


 そしてそれには成功したらしい。
 しかし。


「引き分けって、引いて分けるんだよね」
「そうね。じゃあお互いに一歩譲りましょうか」
「……何の話だい?」


 不思議と目を輝かせるふたりに、霖之助は首を傾げる。

 自分は何か間違ってしまったのではないか。
 そんな予感を抱くも、後の祭り。


「仕方ないよね。明日の霖君は均等に分けると言うことで」
「私達ふたりと出掛けましょうか」
「……どうしてそうなる」
「だって引き分けなんでしょう?」
「そうそう。だったら結果に従わないとね。明日の朝に迎えに来るから」
「寝坊したら叩き起こすわよ」


 そこで霖之助は気づいた。
 引き分けではなく、無効と言うべきだったのだと。


「やり直しは」
「出来ると思う?」
「元はと言えば霖君が用意したものだし。
 じゃあ明日、楽しみにしてるからね」


 笑顔でそう言われれば、霖之助もそれ以上反論することはなかった。

 どうせ暇なのだし。
 そう結論づけると、ため息をひとつ。


 誘いと言ってもどうせいつも通りのノープランなのだろう。
 さしあたっての問題は、明日どこに連れて行くべきか。

 そんな事を考えながら、次はどんな方法で勝負をするか話し合っている巫女と幽香を前に、霖之助は再び苦笑を漏らすのだった。


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スーパーボールを粉々にする2人…引いて分けられた霖之助もいつか粉々に(ガクブル

No title

古くなったスーパーボールがボロボロに崩れるのは見たことがあるけど、
打ち合って粉々になるのはねぇ(笑)

せっかく無効に出来たのに、肝心なところで抜けているところは、
昔も今も変わりませんね霖之助は。そこが良いんでしょうけどwww

・・・この勝負がきっかけで、お正月には毎年「霖之助争奪羽根突き大会」
が開催されることに・・・とか妄想してみたり。

ふぅ、堪能させていただきました。先代がこう、いじらしいというか、可愛らしく手素敵。
媒体は違いますが私も先代霖を作ってるんで参考にさせていただきます。
あと脱字報告です。羽根突きが終わったあたりで博麗神社の博の字が抜けてました。

No title

霖之助だけを狙う少女かよ!?(違)

待て、逆に考えるんだ。
スーパーボールだからあそこまで保ったのであって、伝統に従いムクロジの実で
やったら最初の打ち合いで爆散してたはずだ。
ゆうかりんはそれが分かってたから却下したんだよ!
…多分

読み返すうちに「超次元羽根突き」とか「皇帝みすちー2号」なんて単語が浮かんだ
馬鹿は自分だけでいい。

スーパーボールってゴム製ですよね?
あれって日がたつとぼろぼろになりますけど打ち合って砕ける物のか…?


霖之助さんは両手に花でデートですか…
まぁ、下手すれば龍虎になる花ですがね

No title

前にテレビで見た、超高速で射出され、コンクリの壁にぶち当たり、スライムのように変形したあと元に戻るも、中まで細かいひび割れだらけになって、指で軽くぶちぶち千切れる脆さに早変わりしてしまったスーパーボールの超スローモーション映像を思い出した

相変わらずかわいい先代巫女さんですね! ですが結末が決まっている故、どこか悲しいかわいさですね

No title

霖之助って
リア充だよね
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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