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名前で呼んで 05

久しぶりに先代霖。
矢本さんのいい夫婦企画に乗っかった感じでもあります。ウフフ!


霖之助 先代巫女 幽香

11月22日








「うぃーうぃるうぃーうぃるろっきゅー。霖君元気?」


 外からそんな歌が聞こえてきたと思った矢先、霧雨道具店の玄関が開いた。
 入ってきたのは博麗の巫女。長い髪を揺らしながら、なにやらリズムに乗せて歌を口ずさんでいる。

 彼女は霖之助が勤務している時間帯によくやってくる。
 いわゆる常連というやつだ。

 店内には他の客の姿はない。これもいつものことだ。
 ……彼女が来るから客がいないのか、客が居ないから彼女が来るのかはわからないが。


「巫女、ずいぶんゴキゲンなようだが……それはなんの真似だい?」
「あ、そんな事言っていいのかな? 今日のわたしはお客様だよ」


 そう言うと彼女は肩に担いでいた物体をカウンターに置いた。
 結界を管理する博麗神社の周辺には、外の世界から流れ着いた道具が落ちていることがある。
 そんな道具を拾っては、たまにここへ持ってくるのだ。


「名称はラジカセ。用途は音楽を聴くこと。同じものを前も拾ってきたことがあっただろう?」
「うん、そうだね。でもこれ、けっこうゴキゲンな音楽だったよ」
「……まさか、このラジカセが動いたのかい?」


 霖之助は少し驚いた表情を浮かべた。
 幻想郷に流れ着く道具、特に電化製品はほとんど壊れていたり、もしくは何かの問題があって動かないことがほとんどだ。

 ひょっとしたら動く道具が見られるかもしれない、と霖之助は期待をこめて巫女を見つめる。
 しかし彼女は視線を外し、少し気まずそうに口を開いた。


「んー、使い方はアイツに聞いたけど。普通に聴けたよ、昨日までは」
「……つまり今は動かない、と」
「うんまあ、そんなとこ」
「なるほど……できれば動いているうちに持ってきてほしかったね」


 期待した分だけ落胆も大きい。
 アイツという人物が誰なのか少し気になったが、霖之助は尋ねる元気も起きず椅子に深く座り直した。

 さっき歌ってた曲はラジカセから流れていたものなのだろう。
 外国の歌らしく、歌詞もうろ覚えのようだったが。


「で、わたしはこれを売りに来たわけだけど」
「売りに来たって言っても、動かないんだろう? おそらく動力が切れたんだと思うけど」
「ひょっとしたら動くかもしれないじゃない。少なくとも動作確認はしてるよ」
「君だけが確認してもね」


 霖之助は巫女からラジカセを受け取り、裏のカバーを外す。
 そこには予想通り、赤い円筒形をしたものが4本格納されていた。


「乾電池だっけ、それがあればいいんでしょ?」
「言葉ではそうなんだが、なかなか上手くはいかないんだよ」


 乾電池に貯められている動力というのは自然に放出されてしまう類のものらしい。

 だから、ではないが。
 幻想郷に流れ着き、霖之助が手に入れるような乾電池には動力が残ってない場合がほとんどだった。

 まるで誰かが故意に動力を抜いているのではないかと考えてしまうほどに。


「とにかく、この店の売り物にはならないからね。仕方ないけど僕が個人的に買い取ろうじゃないか」
「うん。霖君ならそう言ってくれると思ってたよ」
「胸を張るんじゃないよ、巫女。拾いものだろうに」
「じゃあ買わなくてもいいけど?」
「誰もそんな事は言ってないさ」


 唇を尖らせる彼女に、首を振る霖之助。

 拾いもので売買をするのはどうかと真っ当な道具屋で働いている霖之助は思うものの、ニーズがあるから売買が成立するのも事実なわけで。


 霧雨道具店ではこういった道具は扱わないのだが、最近人里から離れたところに隠れ家的物件を見つけたので、そこを研究所兼倉庫のような扱いにしていた。
 店が休みの日などは一日中外の道具を調べたり出来るので、とても気に入っている。


「で、僕に何をさせるつもりなんだい?」
「あれ、どうしてそう思うの」
「君の意図くらいわからないはずがないだろう」


 巫女がこうやって物を売りに来る……霖之助しか買わないようなものを持ってくる時は、だいたい何かしらの目的があるのだ。
 長年の付き合いだ。それこそ言わなくてもわかる。


「そろそろ肌寒くなってきたかなと思って」
「もうすぐ12月だからね。無理もない」


 彼女はひとつ深呼吸をすると、窓の外へと視線を向けた。
 つられて霖之助も外を見る。道ゆく人々はすっかり冬支度をしていた。


「だからそろそろ冬服が欲しくなってきたのよ」
「なるほど。むしろよくここまで我慢してたと感心するところだよ」
「わかってるなら言ってくれればいいのに」


 少しむくれて、巫女が霖之助を睨む。

 彼女が着ているのは薄手の巫女服で、秋の初めあたりに霖之助が作ったものだ。
 その時も今日と同じように外の世界の道具を持ってきた覚えがある。

 あの時彼女が持ってきた電気ストーブは、一度も動くことなく倉庫の奥で眠っているのだが。


「まあ、わかってるから用意はしてたんだがね」
「ほんと?」


 霖之助は棚から包みを取り出し、カウンターの上に広げた。
 デザインは同じだが、生地が少し厚めになった冬用の巫女服。

 ついでに思いついた防寒効果もいくつか溶かし込んであり、見た目とは裏腹に結構あったかい……はずだ。


「よかった、これで冬が越せそう。ありがとう、霖君」
「……ちょっと待った、巫女。ここで着替えようとするんじゃないよ」
「あ、そっか。霖君とふたりだから気づかなかったけどお店だったね、ここ」
「そういう問題でもないんだが」


 ここが店じゃなかったらどうしたのだろう。
 まあこれまでにも採寸やら治療やらあったわけで、今更彼女の裸を見たところでどうだという話なのだが


「まったく油断も隙もないね、君は」
「ごめんごめん」
「着てみた感想はあとで貰えると嬉しいね」
「うん、りょーかい」


 変なところで天然である。
 戦っている最中の彼女からは想像できないほどに。

 霖之助はひとつため息を吐くと、巫女が持ってきたラジカセを改めて調べ始めた。
 前にも似たようなものを見たことはあるが、こっちはもう少し新型のようだ。

 おそらく誰かの忘れ物がそのまま流れ着いたのだろう。


「ふむ……少し前まで動いていたと言うことは、何かしら動力を与えれば行けそうな気はするね」
「なんだかんだ言って楽しそうだよね、霖君が道具を調べてる時ってさ」
「やはり外の世界の道具は魅力的だよ」


 ラジカセの開閉ボタンを押し、カセットテープを取り出す。
 きっと巫女が聞いていたのはこの曲だろう。

 カセットテープに記されている文字から曲名が見て取れた。
 予想通り、日本の歌ではないらしい。


「いつか自分の店を持ったら、外の世界の道具をメインに取り扱うのも悪くないと思っているんだ」
「そう言えば言ってたね、霖君の夢」
「ああ。今はそのための修行中というわけさ」
「……じゃあもうちょっと真面目に店番した方がいいと思うんだけど」
「僕はいたって真面目だよ。そもそも君があまり買い物をしないだけだろうに」


 カセットテープをラジカセに納め、蓋を閉じた。
 やはり動力がないらしく、動きそうにない。

 しかし回路が正常ならば、河童あたりに協力を頼んで代替エネルギーを探すのも悪くない。

 そんな事を考えながら外を見ると、少し空が曇っていた。
 雪はまだ降らないだろうが、この時期の雨は冷たい。

 巫女はよく今まで秋服で過ごせたものだと思わず感心してしまった。


「そういえば11月22日はいい夫婦の日らしいよ」
「いいふーふ、ああ、語呂合わせね」
「天狗の新聞に載ってたんだ。誰が言い始めたことかは知らないけどね」
「ふーん」


 あまり興味がないらしく、彼女は冬服のサイズ確認に夢中のようだった。
 一応霖之助としても胸まわりに気を遣ったのだが、たぶん収まるはずである。


「それで、何かセールでもしようと思ったんだが……」
「でも11月22日って今日だよね。なにかやってたようには見えないけど」
「……ああ、何も思いつかなくてね。さすがに結婚はしたことないから……相手もいなかったし。
 親父さんに聞いても、好きにやれって言うだけだしね」
「そ、そうなんだ」


 巫女は何か言いかけ、やめた。
 霖之助の顔にチラチラと視線を送る。

 彼女にしては珍しい反応だ。


「しかしまあ、夫婦という言葉には男女の間柄というだけの意味ばかりではないからね。
 今にして思えば、夫婦茶碗あたりを売り出せばよかったと後悔してるよ」
「あはは、じゃあ来年のお楽しみだね」


 夫婦という言葉の意味に捕らわれすぎたのかもしれない。
 視野狭窄になっていたようで、反省点である。

 霖之助はラジカセをいじりつつ、そんな事を考える。
 例えば巫女は、自分の趣味をこうやって補佐してくれているわけで。


「その点で言えば、君は僕のいい女房役かな」
「え……」


 ふと漏らした言葉に、一瞬巫女が動きを止めた。


「やだもう、霖君ったら」


 彼女の言葉とともに、霖之助の鼻先に何かが迫る。
 それが巫女の放った裏拳だったと気づけたのは、間一髪で距離を取ったからだろう。

 回避できたのは運がよかったとしか言いようがない。
 直撃していたらと思うと、背中に冷や汗が伝う。


「危ないじゃないか、何をするんだ」
「霖君が変なこと言うからだよ」


 彼女は怒ったように腰に手を当てた。


「正直な感想しか言ったつもりはないが」
「え、正直って……」


 反論してみたものの、なぜだか逆効果な気がする。
 また暴走しそうな巫女を、霖之助は注意深く見守り……


「何を騒いでいるのかしら」


 その言い合いへ割って入るように、日傘をたたみつつ、幽香が顔を出した。
 霧雨道具店のもうひとりの常連である。
 もっとも相手をするのは主に霖之助の役目なのだが。


「やあ、いらっしゃい。買い物かい?」
「ええ、ちょっとランプを買いに来たんだけど……。
 で、こっちはなんでこんな状況になってるの?」
「いや……出来れば気にしないでほしいんだけど」
「あ、幽香じゃない。ちょうどよかった」


 一応止めてみたものの、巫女には効果がなかったらしい。


「霖君がね、私のことを女房だって言ったのよ」
「ふ~ん」


 彼女の声がどこか自慢げだったのは、気のせいだろうか。
 そして幽香の声がまるで氷点下なのは、気のせいだろうか。


「どういうことか、聞かせてくれるかしら」


 剣呑な光を宿す幽香の瞳に、霖之助はため息をついた。
 霧雨の親父さんに小言を言われるのは覚悟したほうがいいかもしれない、と思いつつ。

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No title

女房と言われて照れる先代巫女が可愛いの一言。
というか、落として上げるをナチュラルに繰り出す霖之助が素敵すぎるwww

霖之助・先代巫女・幽香の話はやっぱり良いですね。
幽香と巫女が来る順番だったら幽香が女房と呼ばれていたんだろうか?
気になって仕方がないZE(笑)

No title

霖之助に怒りを抱くべきか
先代に嫉妬すべきか
ま、両方なんですけどね
どっちもいいよどっちも
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