彼と彼女の輪
アクセラさんがポンデ霖と仰ったのでポンデ藍霖を書いてみました。
とりあえずpixivのほうにもたまに。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=579273
霖之助 藍
道具の名称と用途を知る――。
これは道具の記憶を共有することで可能となる、霖之助の能力だ。
つまり製造、あるいは使用の過程でそう呼ばれた記憶があるはずだった。
だから神が名前を付ける前の物体には霖之助の能力は適用されない。
作り手の意識に左右されやすい創作料理などに対しても効果は薄い。
そう、理解していた。
逆に言えば、名前が読み取れるということはそう呼ばれていたことがあると言うことであり。
「……しかしこれは、名は体を表すという言葉への反逆ではないだろうか」
「反逆だなんて物騒ですね」
カランカランというカウベルの音ともに、声が聞こえてきた。
金色の髪、白い導師服。そしてなにより目を引く九つの尻尾に、霖之助は笑みを浮かべた。
「こんにちは、霖之助さん」
「いらっしゃい、藍。ちゃんと玄関から入ってくれて嬉しいよ」
「あら、玄関から入ってこないような人がいるんですか?」
「ああ、困ったことに君の主人とかね」
「それについては……私からは、なんとも」
藍は苦笑しつつ、霖之助の前へと歩み寄る。
軽い挨拶を交わすと、ちょうどいいとばかりに霖之助は彼女へ質問を投げかけた。
「ところで藍。君はライオンについてどう思うかい?」
「……霖之助さん、まさかあんな猫科のケダモノが好みなんですか?」
ショックを受けた様子で、藍が天を仰ぐ。
まさかの言葉に、霖之助は内心思わず目を丸くした。
……表面上はいつもの通り、ゆっくりと肩を竦める。
「ずいぶんな言いぐさじゃないか。相手は百獣の王とも言われる存在だよ?」
「パンダと並んでぐうたらの権化ですよ。そういえばジャイアントパンダは別名大熊猫でしたね」
「ライオンはトラと並んで捕食系の頂点じゃないか」
「ライオンにもトラにもロクなのがいませんよ。だって猫科ですから」
「……だいたい君の式も猫又だろうに」
「橙は橙ですから。可愛いでしょう?」
数式が具現化したような存在の彼女にしては、破綻した論理である。
霖之助は諦めたようにため息をつくと、ゆっくりと頷いた。
「……君の趣味はよくわかった。
けどまあ、僕が聞きたいのはおよそライオンとは呼べない代物でね」
言いながら、机の横に置いておいたぬいぐるみを引き寄せる。
話の発端となったライオンのぬいぐるみだ。
ポン・デ、という枕詞が付くが、ライオンである。
丸い、まるで卵のようなつるんとした頭からは、とてもそうは見えないのだが。
「ああ、これですか」
「知っているのかい? この……ライオンを」
「ええ。これがどうかしましたか?」
不思議そうな表情の藍に、霖之助は首を振る。
「僕の見たところ、百歩譲ってネコに見えたとしてもとうていライオンには見えやしない。
しかし確かに僕の能力ではこのぬいぐるみがライオンだという事を示している。
これがどういう事かをずっと考えていたんだが……」
「確かに見えませんよね、このままじゃ」
「だろう? 霊夢や魔理沙に聞いても同じ事を言われたよ。
ただ早苗だけがこれはライオンだと言い張ってね。
外の世界だとこんなライオンがいるのかと考えたほどだ」
「ふふふ」
そこまで聞いて、藍はおかしそうに笑った。
彼女がそうして笑うところはほとんど見たことがなかったので、霖之助は思わず目を奪われる。
「山の風祝はずいぶんと説明が足りないのですね」
「なんだって?」
「それにしても、ライオンですか……」
そう言ってまた笑う。
ひとしきり笑い終えると、彼女は持ってきた袋の中に手を入れた。
「ごめんなさい、あまりにもタイミングがよかったものですから。
今日私が来たのは、外の世界のお土産を持ってきたからなんですよ」
袋から取りだしたのは、紙の箱。
箱にはいくつものドーナツの絵が描かれていた。
いや、写真だろうか。
「これ、ちょっとお借りしますね」
「ああ、どうぞ」
藍はライオンのぬいぐるみを抱え上げると、紙箱から丸い何かを取りだした。
そしてぬいぐるみと丸いものを合体させ……。
「はい、どうですか?」
ぱっと表情を輝かせる藍。
その笑顔はまるで幼い少女のようで、大変可愛らしいものだった。
「……なるほど、そういうことか」
「ええ、この子のたてがみがドーナツを模してるんですよ」
長らく抱いていた疑問がようやく氷解した。
ライオンのぬいぐるみの頭に藍が取り付けたのは、丸い輪っか状のドーナツだ。
組み合わせた状態で見れば、確かにライオンに見えなくはない。
……百獣の王にしては、いささか迫力に欠けるのだが。
「欠けた状態で考察してもわからないわけだね」
「ですね。わかったのが山の風祝だったのは……現物を見たことがあるからでしょうけど」
「早苗が説明してくれればよかったんだが」
「ええ、その通りですね。そしたらこんなに悩まなかったんでしょうけど」
確かに彼女の言う通りである。
しかしまあ、わからなかったおかげでこうして語り合えたのだと思うと……あまり悪い気はしない。
「では、悩みもなくなったところでお土産をどうぞ」
「ありがとう……外の世界のものかい?」
「ええ。有名なドーナツ店の商品ですよ。ドーナツ自体は食べたことありますよね?」
「ああ、紅魔館で頂いたこともあるし、作ったこともある。なかなか思うようにはいかなかったがね」
藍からドーナツを受け取りつつ、再びぬいぐるみに視線を送る。
試しにたてがみを外してみるが、やはりライオンには見えそうにない。
自分は間違ってなかったのだと納得すると、手にした輪っかに齧り付いた。
「……美味いな」
「まだありますから、遠慮なさらないでくださいね」
「さすがに全部は食べきれないよ。せっかくだから、君も一緒にどうだい?」
「私もですか?」
霖之助の申し出に、首を傾げる藍。
ドーナツと彼とを、不思議そうに交互に見やる。
「てっきり霊夢や魔理沙と分けるものかと思ってたんですが」
「それも考えたがね。つい先日僕の大事にしていたお茶菓子をふたりに食べられたんで、お仕置きも兼ねて。
もちろん美味しかったと感想は伝えてやるつもりだよ。あまり甘やかすとクセになるからね」
「あら、今でも十分甘いと思いますけど」
藍の苦笑に、霖之助は無言で首を振った。
その仕草が面白かったらしく、彼女はますます笑みを深める。
「ではお言葉に甘えていただきます」
「ああ、お茶を入れ……いや、コーヒーがいいかな?
少し待っていてくれ」
「ありがとうございます、霖之助さん」
頭を下げる藍に見守られつつ、霖之助はふたり分のコーヒーを用意した。
砂糖とミルクも用意してみたが、藍は使わないらしい。
霖之助も何となく入れる気になれず、火傷しないように気をつけながらカップを傾けた。
ブラックの苦みが、口いっぱいに広がる。
「お世辞ではなく、本当に美味しいね。これはずいぶんモチモチした食感だが……」
「そっちはお米から作ったドーナツですよ。
このクリームの入ったチョコドーナツもオススメです。
あとそれと……」
「そんなに一気には無理だよ。僕の世話ばかり焼かずに、君も食べるといい」
「それもそうですね」
米と聞いて、こんな事なら緑茶も用意しておけばよかったかもしれないなどと思いつつ、独特の食感を霖之助は気に入っていた。
……しかしふと気づいてみれば。
霖之助がひとつ食べる間に、藍はふたつほど口に運んでいる気がする。
「それにしても、君も甘い物が好きなんだね」
「あら、私をなんだと思ってたんですか?」
「いいや、単にそう思っただけだ。他意はないよ」
なんにせよ、喜んでくれているのなら何よりだ。
霖之助ひとりで食べるよりは何倍もいいだろう。
「……見れば見るほど、ライオンのわりにはずいぶん愛嬌のある顔をしている気がするな」
「可愛いでしょう? 橙のお土産にすると喜ぶんですよ。
私も好きです。お腹がすきますけど」
「でも猫科だよ?」
「それはそれ、これはこれです」
ずいぶん都合のいい言葉である。
策士の彼女からしてみれば日常茶飯事なのかも知れないが。
臨機応変というやつだろう。
「外の世界には、こんな店があるのか」
やがてお腹がふくれたところで、霖之助は感慨深げに呟いた。
「いつか行ってみたいものだね、外の世界に」
「そうですか」
藍は食事の後片付けをしながら、彼の言葉に答える。
置いたままでいいと言ったのだが、ゴミは持ち帰るつもりらしい。
「なんなら、私が連れて行ってあげましょうか?」
「君が? 出来るのかい?」
「ええ、私も八雲の姓を冠する者。人ひとりの行き来くらいたやすいものですよ」
思わず霖之助は彼女の顔を見つめた。
だが妖艶な笑みを浮かべる九尾の瞳はどこまでも深く、やはり彼女も容易ならざる存在だと言うことを思い知らされる。
彼女も八雲の姓を冠する者、だということだ。
「とりあえず、自分でなんとか考えてみるよ」
霖之助はそう言うと……やがてため息をついた。
「それでも無理そうだったら……頼むかも知れないな」
どのみち永住しようというわけではない。
ほんの一日……いや、数時間だ。
誰かの力を借りたところで、それはあくまで手段である。
目的が達成できれば問題ないのではないか、と誰ともなしに弁解する。
「君の思い人も、ちゃんと見てみたいからね」
言いながら、霖之助はぬいぐるみをつついた。
思い人と言っても、人ではないが。
「お待ちしてます。
彼のことなら、霖之助さんも一目で気にいると思いますよ」
「それは楽しみだ」
願わくば、そういう世界であって欲しいものだ。
いや……気にいるかどうかなど、心がけひとつなのかも知れない。
そう、この幻想郷のように。
「でも、霖之助さんとあのお店に出かけるのも悪くないですね」
「そうかい?」
「そうですよ。だって……」
そこで藍は言葉を切り、ライオンを胸元に抱え上げる。
「私の好きな人が、一緒に揃うんですから。
両方とも人ではないですけど、ね」
「それって……」
霖之助が何かを尋ねる前。
彼女はすっと唇を寄せて、霖之助に囁いた。
「クリーム、付いてますよ?」
「……ああ、ありがとう」
ぺろりとクリームを舐め取り、藍は身体を離した。
あとに残ったのは、聞きそびれてしまった言葉と、彼女の体温。
「質問があれば、何でもどうぞ。
ドーナツでも食べながら、お答えしますよ」
「……では、そうしようか」
どこで、とは聞かなかった。
きっと彼女が、連れていってくれるのだろう。
すっかり彼女の策にはまってしまった気がしたが……。
あえて霖之助は、それに乗っかってみることにした。
とりあえずpixivのほうにもたまに。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=579273
霖之助 藍
道具の名称と用途を知る――。
これは道具の記憶を共有することで可能となる、霖之助の能力だ。
つまり製造、あるいは使用の過程でそう呼ばれた記憶があるはずだった。
だから神が名前を付ける前の物体には霖之助の能力は適用されない。
作り手の意識に左右されやすい創作料理などに対しても効果は薄い。
そう、理解していた。
逆に言えば、名前が読み取れるということはそう呼ばれていたことがあると言うことであり。
「……しかしこれは、名は体を表すという言葉への反逆ではないだろうか」
「反逆だなんて物騒ですね」
カランカランというカウベルの音ともに、声が聞こえてきた。
金色の髪、白い導師服。そしてなにより目を引く九つの尻尾に、霖之助は笑みを浮かべた。
「こんにちは、霖之助さん」
「いらっしゃい、藍。ちゃんと玄関から入ってくれて嬉しいよ」
「あら、玄関から入ってこないような人がいるんですか?」
「ああ、困ったことに君の主人とかね」
「それについては……私からは、なんとも」
藍は苦笑しつつ、霖之助の前へと歩み寄る。
軽い挨拶を交わすと、ちょうどいいとばかりに霖之助は彼女へ質問を投げかけた。
「ところで藍。君はライオンについてどう思うかい?」
「……霖之助さん、まさかあんな猫科のケダモノが好みなんですか?」
ショックを受けた様子で、藍が天を仰ぐ。
まさかの言葉に、霖之助は内心思わず目を丸くした。
……表面上はいつもの通り、ゆっくりと肩を竦める。
「ずいぶんな言いぐさじゃないか。相手は百獣の王とも言われる存在だよ?」
「パンダと並んでぐうたらの権化ですよ。そういえばジャイアントパンダは別名大熊猫でしたね」
「ライオンはトラと並んで捕食系の頂点じゃないか」
「ライオンにもトラにもロクなのがいませんよ。だって猫科ですから」
「……だいたい君の式も猫又だろうに」
「橙は橙ですから。可愛いでしょう?」
数式が具現化したような存在の彼女にしては、破綻した論理である。
霖之助は諦めたようにため息をつくと、ゆっくりと頷いた。
「……君の趣味はよくわかった。
けどまあ、僕が聞きたいのはおよそライオンとは呼べない代物でね」
言いながら、机の横に置いておいたぬいぐるみを引き寄せる。
話の発端となったライオンのぬいぐるみだ。
ポン・デ、という枕詞が付くが、ライオンである。
丸い、まるで卵のようなつるんとした頭からは、とてもそうは見えないのだが。
「ああ、これですか」
「知っているのかい? この……ライオンを」
「ええ。これがどうかしましたか?」
不思議そうな表情の藍に、霖之助は首を振る。
「僕の見たところ、百歩譲ってネコに見えたとしてもとうていライオンには見えやしない。
しかし確かに僕の能力ではこのぬいぐるみがライオンだという事を示している。
これがどういう事かをずっと考えていたんだが……」
「確かに見えませんよね、このままじゃ」
「だろう? 霊夢や魔理沙に聞いても同じ事を言われたよ。
ただ早苗だけがこれはライオンだと言い張ってね。
外の世界だとこんなライオンがいるのかと考えたほどだ」
「ふふふ」
そこまで聞いて、藍はおかしそうに笑った。
彼女がそうして笑うところはほとんど見たことがなかったので、霖之助は思わず目を奪われる。
「山の風祝はずいぶんと説明が足りないのですね」
「なんだって?」
「それにしても、ライオンですか……」
そう言ってまた笑う。
ひとしきり笑い終えると、彼女は持ってきた袋の中に手を入れた。
「ごめんなさい、あまりにもタイミングがよかったものですから。
今日私が来たのは、外の世界のお土産を持ってきたからなんですよ」
袋から取りだしたのは、紙の箱。
箱にはいくつものドーナツの絵が描かれていた。
いや、写真だろうか。
「これ、ちょっとお借りしますね」
「ああ、どうぞ」
藍はライオンのぬいぐるみを抱え上げると、紙箱から丸い何かを取りだした。
そしてぬいぐるみと丸いものを合体させ……。
「はい、どうですか?」
ぱっと表情を輝かせる藍。
その笑顔はまるで幼い少女のようで、大変可愛らしいものだった。
「……なるほど、そういうことか」
「ええ、この子のたてがみがドーナツを模してるんですよ」
長らく抱いていた疑問がようやく氷解した。
ライオンのぬいぐるみの頭に藍が取り付けたのは、丸い輪っか状のドーナツだ。
組み合わせた状態で見れば、確かにライオンに見えなくはない。
……百獣の王にしては、いささか迫力に欠けるのだが。
「欠けた状態で考察してもわからないわけだね」
「ですね。わかったのが山の風祝だったのは……現物を見たことがあるからでしょうけど」
「早苗が説明してくれればよかったんだが」
「ええ、その通りですね。そしたらこんなに悩まなかったんでしょうけど」
確かに彼女の言う通りである。
しかしまあ、わからなかったおかげでこうして語り合えたのだと思うと……あまり悪い気はしない。
「では、悩みもなくなったところでお土産をどうぞ」
「ありがとう……外の世界のものかい?」
「ええ。有名なドーナツ店の商品ですよ。ドーナツ自体は食べたことありますよね?」
「ああ、紅魔館で頂いたこともあるし、作ったこともある。なかなか思うようにはいかなかったがね」
藍からドーナツを受け取りつつ、再びぬいぐるみに視線を送る。
試しにたてがみを外してみるが、やはりライオンには見えそうにない。
自分は間違ってなかったのだと納得すると、手にした輪っかに齧り付いた。
「……美味いな」
「まだありますから、遠慮なさらないでくださいね」
「さすがに全部は食べきれないよ。せっかくだから、君も一緒にどうだい?」
「私もですか?」
霖之助の申し出に、首を傾げる藍。
ドーナツと彼とを、不思議そうに交互に見やる。
「てっきり霊夢や魔理沙と分けるものかと思ってたんですが」
「それも考えたがね。つい先日僕の大事にしていたお茶菓子をふたりに食べられたんで、お仕置きも兼ねて。
もちろん美味しかったと感想は伝えてやるつもりだよ。あまり甘やかすとクセになるからね」
「あら、今でも十分甘いと思いますけど」
藍の苦笑に、霖之助は無言で首を振った。
その仕草が面白かったらしく、彼女はますます笑みを深める。
「ではお言葉に甘えていただきます」
「ああ、お茶を入れ……いや、コーヒーがいいかな?
少し待っていてくれ」
「ありがとうございます、霖之助さん」
頭を下げる藍に見守られつつ、霖之助はふたり分のコーヒーを用意した。
砂糖とミルクも用意してみたが、藍は使わないらしい。
霖之助も何となく入れる気になれず、火傷しないように気をつけながらカップを傾けた。
ブラックの苦みが、口いっぱいに広がる。
「お世辞ではなく、本当に美味しいね。これはずいぶんモチモチした食感だが……」
「そっちはお米から作ったドーナツですよ。
このクリームの入ったチョコドーナツもオススメです。
あとそれと……」
「そんなに一気には無理だよ。僕の世話ばかり焼かずに、君も食べるといい」
「それもそうですね」
米と聞いて、こんな事なら緑茶も用意しておけばよかったかもしれないなどと思いつつ、独特の食感を霖之助は気に入っていた。
……しかしふと気づいてみれば。
霖之助がひとつ食べる間に、藍はふたつほど口に運んでいる気がする。
「それにしても、君も甘い物が好きなんだね」
「あら、私をなんだと思ってたんですか?」
「いいや、単にそう思っただけだ。他意はないよ」
なんにせよ、喜んでくれているのなら何よりだ。
霖之助ひとりで食べるよりは何倍もいいだろう。
「……見れば見るほど、ライオンのわりにはずいぶん愛嬌のある顔をしている気がするな」
「可愛いでしょう? 橙のお土産にすると喜ぶんですよ。
私も好きです。お腹がすきますけど」
「でも猫科だよ?」
「それはそれ、これはこれです」
ずいぶん都合のいい言葉である。
策士の彼女からしてみれば日常茶飯事なのかも知れないが。
臨機応変というやつだろう。
「外の世界には、こんな店があるのか」
やがてお腹がふくれたところで、霖之助は感慨深げに呟いた。
「いつか行ってみたいものだね、外の世界に」
「そうですか」
藍は食事の後片付けをしながら、彼の言葉に答える。
置いたままでいいと言ったのだが、ゴミは持ち帰るつもりらしい。
「なんなら、私が連れて行ってあげましょうか?」
「君が? 出来るのかい?」
「ええ、私も八雲の姓を冠する者。人ひとりの行き来くらいたやすいものですよ」
思わず霖之助は彼女の顔を見つめた。
だが妖艶な笑みを浮かべる九尾の瞳はどこまでも深く、やはり彼女も容易ならざる存在だと言うことを思い知らされる。
彼女も八雲の姓を冠する者、だということだ。
「とりあえず、自分でなんとか考えてみるよ」
霖之助はそう言うと……やがてため息をついた。
「それでも無理そうだったら……頼むかも知れないな」
どのみち永住しようというわけではない。
ほんの一日……いや、数時間だ。
誰かの力を借りたところで、それはあくまで手段である。
目的が達成できれば問題ないのではないか、と誰ともなしに弁解する。
「君の思い人も、ちゃんと見てみたいからね」
言いながら、霖之助はぬいぐるみをつついた。
思い人と言っても、人ではないが。
「お待ちしてます。
彼のことなら、霖之助さんも一目で気にいると思いますよ」
「それは楽しみだ」
願わくば、そういう世界であって欲しいものだ。
いや……気にいるかどうかなど、心がけひとつなのかも知れない。
そう、この幻想郷のように。
「でも、霖之助さんとあのお店に出かけるのも悪くないですね」
「そうかい?」
「そうですよ。だって……」
そこで藍は言葉を切り、ライオンを胸元に抱え上げる。
「私の好きな人が、一緒に揃うんですから。
両方とも人ではないですけど、ね」
「それって……」
霖之助が何かを尋ねる前。
彼女はすっと唇を寄せて、霖之助に囁いた。
「クリーム、付いてますよ?」
「……ああ、ありがとう」
ぺろりとクリームを舐め取り、藍は身体を離した。
あとに残ったのは、聞きそびれてしまった言葉と、彼女の体温。
「質問があれば、何でもどうぞ。
ドーナツでも食べながら、お答えしますよ」
「……では、そうしようか」
どこで、とは聞かなかった。
きっと彼女が、連れていってくれるのだろう。
すっかり彼女の策にはまってしまった気がしたが……。
あえて霖之助は、それに乗っかってみることにした。
コメントの投稿
No title
私はあまりドーナツを食べない(近くに店舗がない程度の田舎)のですが、チラシとかCMを見てると無性に食べたくなるんですよね。何であんなに美味しそうに見えるんでしょう?
それにしても藍様はエロ可愛いなぁ!でも牛乳と一緒にポンデもぐもぐしてる橙はもっとかわいいとおm(憑依荼吉尼天
それにしても藍様はエロ可愛いなぁ!でも牛乳と一緒にポンデもぐもぐしてる橙はもっとかわいいとおm(憑依荼吉尼天
No title
藍はしっかりしているな~紫とは大違いだ・・・そう思っていた時もありました(笑)
やっぱり彼女も「八雲」なんですねwww
しかし読んでたらミスドに行きたくなってきた
やっぱり彼女も「八雲」なんですねwww
しかし読んでたらミスドに行きたくなってきた
知的な面と独自の価値観、そして大人の艶やかさを兼ね備える藍様は素敵ですね。
もっと霖之助さんを攻めれば良いと思います。
もっと霖之助さんを攻めれば良いと思います。