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ティータイム・トライアングル

香霖堂発売1周年記念と、カフェオレさんの誕生日記念も兼ねて。
カフェオレさんにネタをもらったからとも言う。

最初は咲霖のつもりだったんですが。


霖之助 咲夜 レミリア








「おかしいと思ったのよ!」


 ドンと音を立てながら、レミリアが香霖堂のカウンターを叩く。

 吸血鬼たる彼女が本気で叩いたら一発で真っ二つに折れたところだ。
 いまだ無事なところを見ると、怒ってはいるが我は忘れていないようだ。


「で、なんの話だったかな」
「とぼけないで。咲夜のことよ」
「彼女はよく出来たメイドだね。ぼけたところがあるのが玉に瑕だが」
「キズ!? アナタ、咲夜をキズモノにしたんじゃないでしょうね!?」
「落ち着いてくれ、誰もそんな事は言ってない」


 霖之助の言葉に、早合点したと気づいたらしい。
 レミリアは椅子に座り直すと、改めて正面から霖之助を睨み付けた。


「最近咲夜を紅魔館で見かけないのよ」
「そうなのかい?」
「ええ。いったいどこに行ったのかとずっと疑問に思ってたわ」
「ふむ。だが彼女が君をないがしろにするとはとても思えないんだが」
「そうね、必要なとき呼べば現れるわ。でも前は、もうちょっと屋敷の中をウロウロしてた気がするんだけど」
「ウロウロ、ね」


 つまりあちこち回りながら仕事をしていたと言いたいのだろう。
 レミリアの言葉だけ聞くとまるでサボっているように聞こえるから不思議である。


「といっても紅魔館の仕事をしないわけじゃないのよ。むしろいつにも増して完璧にこなしているわ」
「なるほど、彼女の能力か。それなら姿を見なくなるのも頷けるね」
「時を止めて仕事するから、いつ仕事をしているのかもわからない。今までもあった事なんだけど」
「最近はそれが顕著になってきたと」
「ええ。もう完全に姿無きメイドと化してるわ」
「呼べば来るあたり、彼女らしいがね」


 そう言ってレミリアは肩を竦めた。
 霖之助もつられて苦笑を浮かべるが……そんな彼に、彼女は不満そうな視線をぶつける。


「だから、ちょっと咲夜の行き先を調べてみたのよ」
「ほう。で、わかったのかい?」
「ええ、それはもうバッチリとね」
「なるほど、それはたいしたものだね」


 そこでようやく納得したように霖之助は頷いた。
 それから視線を斜め上に向け、とぼけるように口を開く。


「まあ僕も、最近咲夜がよくうちに来るなとは思ってたんだが」
「だったら、まず何か私に言う事があるでしょう!?」


 バン、とレミリアはカウンターを両手で叩いた。
 ヒビでも入ったのではないかと心配になったが、今のところその様子はない。


「まあまあお嬢様、落ち着いてください。お茶でもいかがですか?」
「ねえ咲夜、アナタのことで話をしてるんだけど」


 霖之助のすぐ隣で完璧な笑みを浮かべる従者に、レミリアはジト目を向ける。
 彼女の言う咲夜の行き先とは、他ならぬ香霖堂の事なのだ、と。


「咲夜の言う通りだよ、レミリア。まずは事態の確認をしようじゃないか」


 霖之助はレミリアを手で制すと、彼女のカップにお茶のお代わりを注いだ。
 レミリアが机を叩いたのにもかかわらずお茶が零れなかったところを見ると、きっと咲夜が何かしたのだろう。


「まず最初に……これは咲夜から聞いた話なんだが、君が彼女に自由時間は好きにしていいと言った事がきっかけだそうだね?」
「ええ、その通りですわ」
「確かに言ったわよ。言ったけどさ」
「ふむふむ、なるほど」


 あれはもう2週間ほど前のことになる。
 時間が出来たから、という理由で咲夜が香霖堂へと顔を出すようになった。

 ……まさかそれから毎日顔を出すようになるとは思わなかったが。


「それで君の言う自由時間とは、仕事を片付けた空き時間だと」
「そうね、それは認めるわ」
「やることはやってますわ」


 えへん、と胸を張る咲夜。
 さすがは完璧なメイドといったところだ。
 そのあたりは譲れない一線なのだろう。


「で、仕事は完璧にこなしてるんだったね」
「メイドですから、当然です」
「そういえ咲夜の姿を見ないからって、美鈴が珍しく働いてたわね」
「むしろそれはいい事なんじゃないか?」


 たまに紅魔館に配達しに行く時、居眠りしている美鈴と会ったりする。
 もしくは妖精と遊んでいたりもするが。

 しかし眠っていても気配で気づくあたりさすがと言ったところだ。


「ちなみに食事のグレードが落ちたりとか、そういった事もないのかい?」
「……ないわね」
「お館の皆様は小食ですから。あまり作りがいもないんですよねぇ」
「ああ、通りで……」


 通りで最近、咲夜が香霖堂で料理を作りたがるわけだ。
 と言いかけてやめる。

 下手な事は言うものではない。


「……まあ、先ほども話に出たように、決して咲夜は君をないがしろにしているわけでもないと」
「当然ですわ」
「そりゃあね、今までの付き合いもあるわけだし、多少の事は大目に見るけど」


 咲夜はちゃんと仕事してるから怒られる筋合いはないわけで。
 そもそもレミリアの提案の結果ということを考えると……。


「……君が選んだ運命だと思うんだが。今のままでいいんじゃないかな」
「私もそう思います」
「ちょっと! なんでそんな結果になるのよ!」


 まるで予想外と言わんばかりに、レミリアは驚愕の表情を浮かべた。

 ひょっとしたら、レミリアは咲夜がいなくて寂しかったのかもしれない。
 ふと、そんな事を思った。

 悠久の時を生きる吸血鬼でも……いや、だからこそそれは問題なのだろう。


「ところで霖之助さんは布団とベッドどっちがお好きですか?」
「どうして突然そんな事を聞くんだい?」
「あら? これから紅魔館に住まれる事になるんじゃ……」
「そんな事を言った覚えはないよ」
「てっきりそんな話の流れかと思いましたのですけど」


 首を傾げる咲夜に、霖之助はため息をついた。

 偶然にも同じ結論に至ったのかも知れないが……。
 だが宇宙的思考を持つ彼女の事だ。油断は出来ない。

 まあ彼女としても主人を寂しがらせるのは本懐ではないのだろう。


「レミリア」
「なによ」


 拗ねたように唇を尖らせるレミリアに、霖之助は肩を竦めてみせる。


「最近咲夜から紅茶の入れ方を習っていてね」
「ふぅん」


 興味がなさそうに、彼女は素っ気なく答える。
 だが彼女の黒い羽根がぴくりと動いたのを、霖之助は見逃さなかった。


「たまに話に聞くんだよ。君の好みの紅茶の温度とかをね」
「お嬢様は熱いのが苦手でいらっしゃいますから」
「べ、別にいいでしょ! 最適な温度ってものがあるのよ!」


 顔を赤らめ、彼女は吠える。
 普通の炎くらいでは傷ひとつ付きそうにないのに、意外な弱点だと思う。

 そんなところもレミリアらしい。


「それで、だ。よければ僕の入れた紅茶を味見してくれないかな?
 夜中は少し困るが、昼下がりのティータイムならうちも開いてるしね」
「私に? 咲夜じゃなくて?」
「ああ。咲夜は何を飲んでも美味しいとしか言わないからね。
 僕を思い遣っての事なのか味音痴なのかたまに不安になるよ」
「あら、失礼ですね」


 咲夜の文句は今はスルーしておく。
 実際彼女は表情ひとつ変えないので味見役には大変不向きなのだ。

 これでは霖之助の向上心が満足に発揮出来ないではないか。


「それで、どうかな?」
「つまりそれは、ティータイムをここで過ごせってことかしら」
「まあ、そうなるね」


 確かに紅魔館からここまでの移動時間を考えると不便かも知れない。
 咲夜については……彼女の場合移動する空間をいじっている可能性があるので、一概には言えないのだが。


「仕方ない。もし面倒ならこの話は……」
「店主」


 霖之助が言いかけた言葉を遮るように、レミリアは口を開いた。


「わざわざ私の時間を使わせるのだから、それなりの自信はあるのよね?」
「もちろん、不味くはないと自負してるがね」
「不味くない紅茶程度なら妖精メイドだって入れられるわよ。
 いえ、あっちはホントに不味い時もあるけど」


 呟く彼女は、苦い記憶を思い出したかのように首を振った。
 きっと変なものを飲まされでもしたのだろう。


「呼びつけるからには、私を満足させなさい」
「できなかったら?」
「その時は、カフェオレでも貰おうかしら。
 紅茶の口直しにはちょうどいいわよね」


 そう言ってレミリアは霖之助の首筋に視線を送る。
 ちろりと出した牙が妖しく光った気がした。


「……やれやれ、僕は飲み物じゃないんだがね」
「あら、大丈夫ですわ。幸いここには医療品も置いてある事ですし、貧血にも対応出来るかと」
「失敗する事前提で話を進めないでくれないか」


 咲夜の言葉に、霖之助は肩を竦める。
 まあ、彼女を満足させれば血を吸われる事はないわけで。


「でも紅茶ばかりじゃ飽きちゃうからたまには飲みたいわね、カフェオレ」
「どっちにしろ吸うつもりかい、君は」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「減るよ。間違いなく血液は減るよ」
「じゃあ貧血になったら、私が膝枕してあげましょうか?」
「魅力的な提案をありがとう、咲夜」


 膝枕はともかく、良客が定期的に来てくれるのは魅力だった。
 彼女たちの好みを知れば、より適切な商品を紹介出来るようになるだろう。

 もっともそれだけに留まらず、普段世話になっている彼女たちに何かしらのお返しをしたいと思っていたところだ。
 少し遅めのお中元代わりというところだろう。


「……まあ、それくらいのスリルはあっていいかもしれないな」
「ふふん、交渉成立ね」
「よかったですね、お嬢様」


 対等な交渉だったかどうかは少し怪しいところだが。
 彼女たちも喜んでいるようだし、よしとしよう。

 霖之助のプラスにもなるだろうし。


「仕方ないわね、しばらく通わせてもらうわ。その間くらいは、アナタに咲夜を貸してあげる」
「はい、貸し出されました」
「咲夜はモノじゃないだろうに」


 平然と言い放す彼女に、霖之助は首を振った。
 しかし当の本人は不思議そうに首を傾げる。


「あら、私ではご不満ですか?」
「いや、不満はないけどね」
「じゃあいいじゃない。だいたいアナタは欲張りなのよ、店主」
「欲を欠いては成長もなくなるからね」
「むしろ勤労意欲は持った方がいいと思うのだけど。
 それにこういう時はああ言うんでしょう?」


 呆れ顔のレミリアは、少し悪戯っぽい笑みを浮かべて霖之助の顔を覗き込んだ。


「死ぬまで借りていく……ってね?」
「……言ったら、貸してくれるのかい?」
「構わないわよ。無論、一生かかけて借りを返して貰うけどね」


 息のかかるほどの距離で、吸血鬼が笑う。


「私は右側がいいかしら」
「では私は左側で」
「なんの相談だい?」
「マーキングの話よ」
「ええ、大事な話です」


 主従に挟まれ、霖之助はため息をついた。
 これから過ごす3人の日々に、少しの不安と期待を抱きながら。

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No title

ありがとうございます!
やっぱり道草さんの咲霖はピカイチやね・・・!
あれ?レミ咲霖? もうなんでもいいや!最高!
重ねてありがとうございます。枕に敷いて寝ます。

後日談で3Pに発展していくなんて不埒なことを考えてしまいましたw

No title

そしていつの間にか紅魔館メンバー全員が来ることになったりして・・・

咲霖もレミ霖もいいけどやっぱりこの主従は2人揃っているときこそ真価を発揮しますよね!

No title

そしてゆくゆくは紅霖堂になるんだな

No title

ヒャッハーレミ咲霖だ~!

主従による包囲網で霖之助が人生の墓場行きですねわかりますwww
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
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