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煙に巻かれて

『雲に巻かれて』の続きかもしれない。

突然抱きつかれたらどうなるのシリーズ。
今回は霖之助が少女に、ですが。いやひょっとしたらry

そして前回とプラスして協力者はこちら。


忘却のジューシローさん(リベリオン)。
松田アクセラさん(ミスダー)。
プラモデラー夢茶(お空制作中)。


霖之助 一輪







 ぽふと軽い音を立てて、彼女は腕の中へ飛び込んできた。
 胸元に顔を押しつけ、一輪は霖之助の顔を見上げる。


「もっとぎゅっとしてください、私なら大丈夫ですから」
「……こうかい?」
「そうです、腰に手を回して……」


 言われるがまま、彼女の背中に手を回す。
 一輪の身体と彼女の纏った霞のようなものを、確かな手応えとして霖之助は感じていた。


「……感想はどうですか?」
「ふかふかしてる」
「あら、褒め言葉ですか?」
「まあ……そうかもしれないね」


 一輪はそれほど背が高いというわけではない。
 しかし香霖堂の常連よりは大人であり、話のわかる少女だった。

 そしてなにより、貴重な喫煙仲間でもある。

 香霖堂の奥、居住空間の縁側で、ふたりは静かに抱き合っていた。


「思ってたより細くはないのですね」
「それ、褒めているのかな」
「あら、こんなところに糸のほつれが」
「どこを見てるんだい、まったく」


 霖之助の服をもぞもぞとまさぐる彼女に、大きくため息。

 仕方ないこととは言え、落ち着かない。
 こうして少女に抱きつかれていると、なんとも不思議な気分である。

 少し離れたところに浮かぶ雲山の顔に、霖之助は苦笑を浮かべた。


「そろそろいいんじゃないのかい?」
「まだです。そうですね、ゆっくり10数えましょうか」
「まるで風呂みたいだね」
「あら、私とお風呂に入りたいんですか? えっと、今日はダメですけど……」
「いやいや、例え話だよ」


 今日じゃなければ、なんだというのだろう。
 ゆっくりと身体を離す一輪に、霖之助は疑問を投げかけた。


「……どうかな?」
「ん~。まあよろしいでしょう」


 何故か少しだけ名残惜しそうに、彼女は頷いた。
 霖之助も袖を鼻先に近づけ、匂いをかいでみる。

 自分ではよくわからないが……何とかなったと信じよう。


「ふーむ、これで煙草の匂いが消えるというのも不思議な話だね」
「あら、煙と雲はとても仲がいいんですよ?
 なので私達の身体から、より仲のいい方に移ってもらうだけです。
 不思議でもなんでもないでしょう?」
「なるほど」


 そう言って一輪が指を鳴らすと、先ほどまでふたりの身体を覆っていた雲がひとつに固まった。
 言うまでもなく、彼女が操る雲山の一部である。

 固まった雲はふよふよと浮かび、やがて庭先に出たところで綺麗に霧散した。
 匂いは外に、と言うことだろうか。


「……で、抱き合う必要はあったのかな?」
「雲山の手間を省いただけです。合理的でしょう?」
「そう言われると、まあ……」


 思わず納得しかけるが、同時に覚える違和感。
 やがて霖之助は面倒なので考えるのをやめた。

 煙に巻かれた気分である。


「ありがとう、これで配達に行けるよ。
 煙草の匂いがすると五月蠅いからね、慧音は……」
「どういたしまして」


 事の発端は、一輪と煙草を吸いながら寺子屋の話をしたことだった。
 煙草の匂いをさせていると慧音から文句を言われると漏らしたが、そこで一輪が提案したのだ。

 雲山の消臭を体験してみませんか、と。

 そして今に至る。
 どうやら効果覿面だったらしい。


「ありがとう、雲山」
「これくらいおやすいご用だ、らしいですよ」
「……そう、ならいいんだが」


 霖之助では雲山の表情を読むことは出来ない。
 しゅるしゅると小さくなり、雲山は一輪の肩あたりに収まった。

 だいたいいつもの定位置だ。


「貴方には毎度毎度お世話になってますからね」


 そして一輪はにっこりと微笑む。


「毎度毎度、煙草をお安く譲ってくれたりとか」
「……それは値引き交渉かい?」
「あら、そんなつもりはないんですけど」


 要領がいい、というのが彼女の評価だ。
 なんというか、立ち回りが上手い。

 ……あまり悪い気はしないのは、彼女の人徳だろうか。


「まあ、君はお得意様だからね。それに先日の件もある。今日は……今日も、勉強させてもらおうじゃないか」
「まあ、よろしいんですか?」
「驚き方が白々しいよ、一輪」


 先日、煙管に使う煙草は細ければ細い方がいい、と山の神は言っていた。
 外の世界では髪の毛より細いものもあると聞き、早速霖之助は河童から買った煙草の葉でチャレンジすることに。

 しかし結果は無残なものだった。
 よほどの熟練をしない限り無理と悟った霖之助は、たまたま来ていた一輪にもやらせてみたのだが。


「あれくらいならおやすいご用ですからね。いつでも言ってください」
「あれくらい、を僕には出来なかったんだが」
「適材適所というやつですよ」
「……確かにね」


 一輪はやってのけた。
 それはもう、見事なほどに。

 髪の毛より細い煙草の葉は、確かにいつもより繊細な味がする……気がした。
 吸い比べたわけではないので、気分的なものではあるが。

 だが気持ちを落ち着ける嗜好品には、そういう気分的なものこそ大事である。


「しかし本当に君は煙草が好きだな」
「嗜好品を嗜むのは姐さんからも推奨されてますからね。やっぱり匂いを持ち帰るのはいい顔はされませんけど」
「うちならいつでも歓迎だよ。同好の士は大事にしないとね」
「ありがとうございます。でも新製品を売りつけるための布石なら考えさせてくださいね」
「……そんなつもりはないよ」


 そう言いながらも、霖之助は少しだけ視線を逸らす。

 一輪はそんな彼に笑みを浮かべた。
 そして顎に指を当て、思い出したように口を開く。


「嗜好品と言えば、最近姐さんがハチミツにハマっているんですよね」
「白蓮が、ハチミツにかい?」
「ええ。差し入れで貰ったものが美味しかったらしくて。
 それで、ハチミツを使ったお菓子などのレシピがあればいただけませんか?」
「構わないよ。いくつかあったと思うから、探しておこう」
「助かります」


 頭を下げる彼女に、霖之助は肩を竦める。


「それにしても、寺の住職がハチミツか」


 ふと一休和尚の逸話を思い出していた。
 もし白蓮がハチミツの容れ物を、毒の入った壷だとか言い出していたらと思うと。

 ……間違いなく大騒ぎになるだろうな。

 そんな想像をして、首を振った。
 彼女だったら、そんな独り占めはしないだろう。


「じゃあちょっと在庫を確認するから、しばらく待っててくれるかい?」
「お願いします。あとナズーリンのチーズもあれば」
「……了解」


 赤身の少ないものは食べてられない。
 ナズーリンがそう言っていたことを思い出した。

 いや言っていたのは彼女の鼠らしく、ナズーリン自身は……そういう事のようだ。


「ああそうそう、ムラサがカレーを探してきてって言ってたんですよね」
「カレーねぇ。ルゥとレトルトがあるけど」
「あるだけ全部って言ってました。毎週金曜日をカレー曜日にするとかで」
「すごい情熱だね。売るのは構わないが、全部は困る」
「何故です?」
「全部売ったら僕が食べられなくなるからね」
「あら、でしたらお寺に食べに来ればいいんですよ」
「考えておくよ」


 霖之助は笑いながら、店舗部分へと足を向けた。
 後ろについて来る一輪の足音を聞きながら、ふと言葉を続ける。


「ふむ、それならちょうど人里に行く用事があるから、持って行こうか。
 どうせ配達するんだし、一軒も二軒も変わらないだろう」
「え? 今日は寺小屋にいるんじゃないんですか?」
「寺小屋に配達する用事はあるけど、滞在する用事はないよ」
「だって慧音さんに呼ばれたんですよね?」
「そうだが、すぐに帰るつもりだけど」
「……そうですか」


 かわいそうに、と彼女は言った。
 それが誰に対してのものかは……わからなかったが。


「それなら遠慮無く、配達をお願いします」
「ああ。今後もご贔屓に頼むよ」
「ええ、それはもう」


 一輪が頭を下げたのが気配でわかった。

 霖之助は香霖堂のカウンターまで歩み寄ると、机の中から鍵を取り出した。
 食料が入っている保存庫の鍵だ。
 泥棒対策だが、店の常連の泥棒は鍵の場所を知っているのであまり対策になっていない。

 そして本棚のコーナーの向かい、レシピ本をいくつか選び出す。


「実は隙あらば貴方を夕食に招待するよう指令を受けておりまして。
 ちょうどいい時間ですから、今晩どうですか?」
「どうせ行くんだから、お言葉に甘えるのもいいかもしれないね。
 でも準備が大変じゃないかい?」
「いえいえ、なにせうちは大人数ですから。
 ひとり増えたくらいではたいして差はないのです。
 ちょっと連絡を入れれば万事解決でですね」
「なるほど。先に帰って伝えるのかな?」
「んー、もっと簡単ですよ」
「……え?」


 言うが早いが、一輪は近くに浮かぶ雲山に手を伸ばした。

 そしてそのまま雲山をちぎって、そのカケラを放り投げる。
 カケラは小さい雲山となり、何処かへと飛んでいった。

 ……多分、命蓮寺だろう。


「大丈夫なのかい?」
「はい、いざとなったら雲山が文字に形を変えて伝えてくれますので、言葉の心配は」
「いやいや、そういう事じゃなくてね」


 そう言えば、一輪のスペルカードで雲山が増えてたりしたことを思い出した。

 入道の存在はよくわからなかったが、大したことはないのかもしれない。


「……まあ、大丈夫ならいいんだ」


 霖之助は疲れた様子で肩を落とす。
 その様子を見て、一輪はなにやら一歩近づいてきた。


「霖之助さん」
「うん?」
「雲山が気に入ったって言ってます。今度酒でもどうか? ですって」
「そうか。じゃあご一緒しようかな」


 誘われて断る理由はない。
 彼の誘いならなおさらだろう。


「ですので夕食が終わったらお酌しますね」
「ん?」


 しかし思わぬ提案に、首を傾げた。


「君も一緒に飲むのかい?」
「あら、雲山はよくて私はのけ者ですか?」
「そういうわけじゃないがね」
「じゃあいいじゃないですか。語らいの邪魔はしませんから、ご安心を」


 雲山はなにも答えない。
 表情もいつも通り。

 だが目を見ればなんとなく、言いたいことはわかる気がした。
 まあこういうのも……悪くないだろう。


「そうだね、楽しみにしておくよ」
「ええ、任せてくださいね」


 一輪はポンと手を合わせ、表情を輝かせる。
 そこまで喜んでくれるなら、受けたかいがあるというものだ。


「ではせっかくですから、配達もお手伝いしますよ」
「そうかい?」
「ええ。雲山に乗って移動していただければ、すぐ終わりますからね」
「なるほど、確かに」


 待ち合わせは午後6時。
 人里まで飛んでいけるというのなら、まだまだ時間は余裕がある。


「ですのでもう一服、いかがですか? 今日は煙管の羅宇とか、あとメンテナンス用品も見ておきたいですし」
「それは構わないが……せっかく煙を落としたのにかい?」
「あら、そんなことですか? 大丈夫ですよ」


 一輪はそう提案すると、彼の腕に手を回した。
 そっと身を寄せ、言葉を続ける。


「何度でも払ってあげますから。私と雲山で……ね?」

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No title

慧音先生涙目ww
一輪さんも雲山さんもええ味出してますな

で、霖之助さんが少女の事をハニーと言う展開はまだですか

No title

あれ?一輪さんが抱きついた状態で消臭?確かに煙草の匂いは消えるけど代わりに一輪さんの匂いは残るのでは・・・?

ハッ、まさか最初からそのつもりで!?
なら問題ないですね(ェ

一輪さんはフードを取ると途端可愛く思えてくるから困り者だよ。

ところで道草さん一輪さんは一体何時霖之助にガーターを見せ(ryピチューン

それでは、失礼します。

No title

コレはつまり、

 ・霖之助から配達に来る(少女同伴)
 ・煙草の臭いより嫌いな他の女の臭いがする
 ・慧音がマーキングする

という流れですね、わかります。

一輪さんって正直地味であんまり興味が無かったですが…
なんだこのSSはwww
初っ端から2828でしたwww

なにはともあれ、ご馳走様です。

No title

一霖カプはあまり見ないがハマりそうになるSSですた^^

だが、二人とも禁煙だ。何?口か淋しい?お互いの舌でもしゃぶれば良い。
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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