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古今の縁

酉京都幻想とは違った形の蓮子霖。
秘封霖はもっと増えるといいと思います。

「えにし」読もうか「ゆかり」と読もうか。


霖之助 蓮子








 いつも通り慣れた道も、路地をひとつ跨げば違った景色を見せる。

 大学からの帰り道。
 蓮子はふとした気まぐれで、普段とは違った道を歩いていた。

 そして見かけた、一軒の古道具屋。
 路地裏にあるそれはまるで別世界のような雰囲気を醸し出しており、彼女の興味を惹くには十分だった。

 秘封倶楽部の一員である蓮子。
 不思議なものには目がないのだ。


「これってトランジスタかしら? へぇ、こんなに大きい時代があったんだ。
 こっちは集積回路かな。レアメタル使ってたっていう……」


 商品棚を物色しながら、彼女はひとり呟いていた。
 古道具とは名ばかりで、店の商品の大部分は昔の電化製品、それもジャンクばかりのようだ。

 少し騙された気もしたが、それでも珍しいものが多く、帰ろうという気は起きなかった。


「ふ~ん……いろいろあるのねぇ」


 他に客はおらず、また人通りもない路地だ。
 蓮子が入ってきたというのに店員が出てくる気配すらない。

 この様子から、趣味でやっている店なんだろうということが容易に想像出来た。

 もちろん万引きする気などさらさら無いが、少し不用心すぎるのではないだろうかとすら思う。


「うわ、ここ全部コードが付くのかしら。無線に出来なかったのかな。
 ……ま、押しても動かないよね」


 正体不明の機械をいじりつつ、蓮子は首を傾げる。
 疑問を発しても、答える者はいない。

 興味はあるが名前も用途もわからないのだ。
 かといってPDAで検索するのも無粋な気がする。

 今はただ、不思議なものを不思議と思う感覚に包まれていたかった。
 それに蓮子もまったく知識がないわけではない。

 メカにはそこそこ強い自信があるし……それに、機械いじりは嫌いじゃない。


「……あれ?」


 古い道具ばかりあるので物珍しそうに見て回っていると、少し離れた場所で同じように商品を見ている男性に気づいた。

 いつからいたのだろうか。
 無造作に揃えたような、短い銀髪。
 少しくらいの年上にも見えるし、もっと上にも見える。

 眼鏡の奥には知性の光が宿っていたが、同時にどこかずれたものを感じさせるのはその金色の輝きのせいか。

 本物だろうか。偽物だろうか。
 染めているのか、コンタクトか。

 とにかく気になる男だった。
 蓮子に気づいている様子だが、何も言わない。

 蓮子は少し考えると……近くにあった道具を掴み、彼に向かって歩みを進める。


「すみません」
「……なんだい?」


 声をかけると、彼は落ち着いて返事をした。
 接客に慣れているところを見ると、この店の店員なのかもしれない。

 そんな事を思いながら、蓮子は手に持った道具を少し掲げた。


「この道具ってなんて言うんですか?」
「これは扇風機さ。用途は涼を得ることだね。
 これは風を起こすことで熱を飛ばすんだ」
「なるほど……」


 すらすらと答えられ、感心した様子で頷く蓮子。
 やはり店員なのだろう。在庫のチェックでもしているのかもしれない。

 彼女は自分でそう納得すると、別の道具を指さした。
 もののついで、と言わんばかりに。


「じゃあこっちはなんです?」
「冷風機だね。用途は涼を得ること」
「……さっきのとどう違うんですか?」
「さて、どう違うのかな」


 質問に質問で返す彼の言葉は、とぼけているようで、問いかけているようで。
 答えを探すように冷風機をいじっていると、蓮子はふとあることに気がついた。


「ああ、これって水を入れるようになってるんだ」
「ん? ああ、水冷式なのか」
「そうですね、多分気化熱を利用して温度を下げるんだと思います」
「ふむ、つまり水気を利用して火気を取り込んでいくのかな。
 それに風を当てて散らせば……なるほど、合理的かもしれないね」
「火気? ああ、五行ですか」


 変な解説を入れる彼に、興味を持つ蓮子。
 これでもオカルトサークルに所属しているのだ。そういう話題は好みである。

 彼もそういう話が好きなのだろうかと思うと、何となく嬉しくなった。
 蓮子は自らの知識欲とを満たすついでにもう少し彼と話してみたいと思い、近くにあった細長いものを手に取る。


「ついでに教えて欲しいんですけど、これはなんに使うんですか?」
「これは煙管だよ。保存状態が悪いからあまりオススメはしないがね」
「煙管……ああ、あのタバコの」
「わかったかい? 今では少なくなってしまったがね」
「ですよねぇ、ほとんど見かけませんもん。こういう店でしか」


 知識では知っていたが、触るのは初めてである。
 それもそのはず、今の時代喫煙なんて習慣はほぼなくなってしまったのだから。


「ちなみにこっちの名前は水煙草だよ。使ってみると意外に面白い」
「そうなんですか」
「もちろんあまり勧められたものではないがね、特に若い子には」


 銀髪の彼は少し肩を竦めると、苦笑いを漏らした。
 それはまるではるか年上のような物言いで、けれど不思議と似合っていた。
 彼の纏う雰囲気のせいだろうか。

 そこでふと、蓮子は疑問符を浮かべる。


「……あの、何か探してるんですか?」
「どうしてそう思うんだい?」
「えっと、なんかそう見えたから……」


 一言で言うなら、勘だ。
 しばらく彼を見つめていた故の。

 だけど何となく、それを言うのは憚られた。


「探し物なら私も手伝いますよ。この店をすべて把握するなんて無理ですよね。
 ひょっとしたら私が見た中にあったかもしれないし」
「ふむ、そうかい?」


 見たものをすべて記憶するような能力でもあれば別だが。
 蓮子の言葉に、しばらく考えていたようだったが……やがて彼はひとつ頷き、懐に手を伸ばす。


「実はこれと同じ物を探していてね」
「これは……音楽プレイヤーですね」


 彼の懐から出てきた白い箱を、蓮子は首を傾げる

 何故か親友を思い出した。
 そうだ……どこか似ているのだ、このふたりは。

 見た目ではなく、雰囲気というか。
 とにかく何かが……似ているのだ。


「よく知っているね。同じ物があれば、動かし方もわかると思うんだが」
「ああ、これなら私持ってますよ」
「ほう? というと、動かし方も……」
「ええ、もちろん」


 蓮子はバッグから同じ白い箱を取り出した。
 彼のものと違うのは、ケーブルが付いている点か。


「この前メリーが貸してくれたんです。ずいぶん古い型なんですけど、どこかで拾ったみたいで」


 言いながら、蓮子はイヤホンを抜き取り、彼の音楽プレイヤーに接続。
 そのまま彼の耳にイヤホンを入れると、リモコンを操作した。

 なにやら不思議そうな顔をしていた彼だったが、曲が再生されると同時に驚きの色に染まる。


「これ、イヤホンで操作するタイプなんですよね。本体だけじゃ動かないかも」
「あ、ああ、そうかい?」
「って、聞こえてないですよね」


 驚く彼の顔が面白く、蓮子は思わず笑みを浮かべていた。

 まるで初めて体験するかのような表情に見えたが、どうやら音量大きめの設定のようだった。
 そんなものを突っ込まれたら、誰でも驚くだろう。


「どうですか、感想は?」
「……悪くない」
「それはよかった」


 蓮子は彼の片方のイヤホンを外して、尋ねる。
 背伸びしているせいか、少し彼の顔が近くなる。


「これをこうやると、次の曲に行くんです」
「なるほど、そういうことか」
「まあ、私も友達に教えてもらったんですけどね」


 そう言って、彼の耳にイヤホンを戻した。
 彼はずいぶんと音楽プレイヤーが気に入ったようで、教えた通りにイヤホン付属のリモコンを操作していた。
 まるでずっと探していた答えを見つけたように。


「それだけじゃなくて、もっと面白い道具もありますよ」


 蓮子は他の道具を見て回る。
 何か自分の知っているものがあれば、もっと驚かせられるかもしれない。

 蓮子は胸を躍らせると、棚に並んでいた携帯ゲーム機を手に取った。
 白くて少し大きな、年代物の箱だ。


「あ、じゃあこれを……」


 そして喜色満面に振り向くと……彼の姿はどこにもなかった。
 彼が手にした音楽プレイヤーも、蓮子が持ってきたイヤホンも。

 彼がいたという証すら、どこにも見あたらなかった。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん」


 この時になってようやく、店の奥から主人らしき人物が出てくるのが見えた。
 すっかり白髪になってしまった老人。

 彼とは違い、ごく普通の人間に見える。


「……あの、こんにちは」


 蓮子は持っていた携帯ゲーム機を商品棚に戻すと、気まずげに頬を掻いた。


「ええと……」


 試しに蓮子は眼鏡の店員について尋てみた。
 だが返ってきたのは知らないという答えだけ。

 この店には他に店員がいないらしい。




「ありがとうございました」
「うーん……」


 蓮子は店を出ると、しきりに首を傾げた。
 あの時会った彼は、ただの客だったのだろうか。

 だがそれにしては……異様だった。何もかもが。


「……もう一度、会わなくちゃね」


 もしかしたらここにも境界があるのかも知れない。
 ……次はメリーをつれてこよう、と決意する蓮子だった。


 だが真っ先にやらなければならないことは他にある。
 とりあえず……。


「イヤホンなくしたこと謝らないと」


 蓮子はひとり呟くと、振り返ることなく路地を後にした。













「ん……」


 香霖堂にて目が覚める。
 どうやら掃除の際に寝てしまったらしい。


「僕は……」


 ぼうっとした頭を、無理矢理働かせる。

 いつものカウンターから見える景色。
 だが音だけがいつもと違っていた。

 耳にはイヤホンが、そしてそこから音楽が流れていた。

 かつて紫に持って行かれた音楽プレイヤー。
 偶然同型のものを手に入れたので、いろいろと調べているうちに……眠ってしまったらしい。

 その時には、こんなイヤホンは付いていなかったはずだが。


「現実か、それとも」


 夢、と片付けるにはリアルすぎた。

 香霖堂ではない、古道具屋らしき店。
 そしてそこで出会った少女。

 霖之助が持っているのは、スキマ妖怪が最新型と言っていた音楽プレイヤーだ。
 紫が持っていったものと同型のそれは、しかし夢の中の彼女は古い形と言っていた。

 ひょっとしたら時も超えたのかもしれない。
 あり得るかどうかは……些細な問題だ。

 もしかしたら、道具が引き合った可能性も考えられるわけで。


「謎は尽きないね。だからこそ、面白い」


 霖之助は長く息を吐くと、音楽プレイヤーを弄り始めた。
 雑多とも言える曲の数々を、ひとつひとつ確かめていく。

 そして音楽プレイヤーを見ると、つい思い出すのは彼女の顔。


「……それにしても、面白い少女だったな」


 そう独りごちて、霖之助は笑みを浮かべた。

 あの少女にもう一度会えたら、次は何を質問してみようかと考えながら。

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非公開コメント

相変わらずの面白さ。うまさというべきか。
気づかないうちに幻想入りしてて、次に会えるのは果たして何年後でしょうかーー

「ふち」と読んだ私わwww

PDAってのは電子手帳みたいなもんですかね?

No title

読んでてなぜか昭和風な雰囲気を感じた。本気でなぜだ……?

とりあえず再会フラグおいしいです^q^

No title

こうゆう話大好物です
蓮子かわいい
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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