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半月昇夜 霊夢ルート

お盆と言うことで、前に作ったゲーム風ノベルのテキスト版。
もう作ったの2年前なんですねえ。

と言うわけで霊夢ルート。


霖之助 霊夢 魔理沙 咲夜









1日目・昼(共通)
 背景:地獄・執務室


「すみません、手違いで貴方を死なせてしまいました」


 冥界で映姫から告げられた霖之助は、思わず言葉を失った。

 気が付いた時には閻魔の前に立たされていた。
 さっきまで、ただ香霖堂で本を読んでいただけだというのに。


「本来なら貴方ではなく、暑さで貴方のストーブが壊れるはずだったのですが……おかしいですね」


 そう言って映姫は手元に置いてあった袋から錠剤を取り出し、口に放り込んだ。
 そして水も使わず飲み込む。


「貴方も飲みます?」
「……なんだい、それは」
「ミネラルサプリメントです。銅とかも入ってるんですよ」


 ……そういえば閻魔は人を裁く時、煮えた銅を飲むという。
 地獄のスリム化は、こんなところにまで影響を及ぼしているようだ。


「結構だ」
「そうですか」


 映姫はさしたる感情も見せず、口に何かをくわえた。
 煙草……ではない。スティックタイプの飴のようだ。
 事務職とはいえ疲労が溜まる……のだろうか。

 もちろんそんな事は霖之助にとってどうでもいい。


「で、僕はどうなる?」
「今回の非は完全にこちらにありますからね。もちろん復活してもらいます」
「そうか、ならすぐに頼む」
「ただし、次の半月まで待ってもらわなければなりません」


 疑問の視線を投げかける霖之助に、映姫はきっぱりと答えた。


「復活の儀式というものは繊細なものなのですよ。
 ましてや貴方は妖怪でも人間でもないのですから」


 『閻魔』としての顔の映姫は、身震いするような威厳に満ちあふれている。
 だからこそ、言葉に説得力がある。
 まるで、有無を言わさぬ判決のように。

 次の半月……下弦の月まであと10日ほどあった。
 それまでこの状態が続くという事だ。

 まあ、ただ我慢すればいいなら問題ない気きもする。
 その間、香霖堂で商売が出来ないだけが心残りだが……。


「そして貴方はその時までに善行を積まなければなりません」
「善行? 僕がかい?」
「はい。ごく簡単なものです。客観的に見れば」


 彼女はそう言うと、霖之助を安心させるように微笑んだ。

 映姫の少女としての顔。
 先ほどまでの重圧が霧散する。


「まだ時間もありますし、しばらくはゆっくりと幻想郷を見て回ってみてはどうでしょうか?
 普段とは違う景色が見られると思います。今の貴方は、普通の人妖には姿は見えませんから。
 あ、でもイタズラしてはダメですよ。地獄行きです」
「しないよ、そんなことは……」


 だが普段と違う幻想郷という言葉に魅力を感じるのも事実。
 これも歴史の1ページに載せる価値があるかもしれない。


「そうそう……」


 思い出したように、閻魔が呟く。


「貴方の身体ですが、現在仮死状態にあります。
 簡易結界を張っておきましたので腐ったりする事はないと思いますが……。
 まかり間違って火葬されないように手を打っておかないといけませんね」
「早く言ってくれ……すぐに伝えてくる。書き置きでも残しておけば……」
「もうひとつ」


 彼女の強い声が、歩き出そうとした霖之助を遮った。


「顕界のものに触れたりする事は出来ませんよ。貴方は今、魂だけの存在ですから。
 それにその状態でこの冥界から離れると迷ってしまい、自我が無くなるまで戻っては来られないでしょう」
「なら、どうすればいい?」
「小町と一緒に行動してください。
 曲がりなりにも彼女は死神ですからね。……曲がり過ぎてますけど。
 行動にさえ気をつけていただければ気楽にしてくれて結構です」


 本当は動かないのが一番なのですが、とため息。
 非は映姫たちにあるため、行動を制限する権利はないということか。


「だいたいの事はわかった。しかし善行を積むのはいいんだが、それはどのようなものだい?
 土壇場に無理だと言われてもどうしようもないからね」
「あら、眠りから覚める方法と言ったら決まっているでしょう?」
「……?」


 映姫の言葉に、しかし首を傾げる霖之助。


「……まあ、気づくとは思いませんでしたけど」


 こめかみを押さえ、ため息。
 そして再び錠剤を飲む。
 きっとカルシウムもたっぷり配合されているのだろう。


「半分の月が昇る夜に、誰か……貴方の事を想っている相手に、貴方の肉体に口付けをしてもらう事です。
 そしてその相手を選ぶ事が貴方に積める唯一の善行」
「な……」


 反論しようとして……映姫の目に、何も言えなくなる。
 閻魔が冗談でこのような事を言うはずがない。


「わかったらお行きなさい。小町は外で待たせてあります」


 映姫は手元の書類に目を落とし……ややあって口を開いた。


「……もし貴方がどうしてもというのなら……。
 その、私が……」
「おーい、旦那ー。暇だったんで迎えに来たよー」
「…………」


 声に顔を上げると、既に遠くを歩く霖之助の後ろ姿。


「どうしたんですか、閻魔様。鬼みたいな表情をされて」





 そんな彼女の元に、転生申込書類を携えた阿求がやってきた。


「なんでもありません。転生の手続きですね、すぐに取りかかります」
「それより閻魔様」


 ずいっと阿求は映姫に詰め寄り、視線を合わせた。
 それから……ニヤリと笑う。


「……なにやら面白い話をしてましたね?」







 背景:三途の川中・昼


「旦那も災難だねぇ」


 小町の操る船に揺られながら、霖之助は顕界へと向かっていた。
 来る時には乗った覚えがないのだが……それだけ緊急に連れてこられたと言う事だろうか。


「決まった事に文句を言っても仕方ないからね。なるようになると思うよ。
 それより、この事を誰かに伝えるにはどうしたらいいんだい?」
「ああ、それは夢枕に立てばいいのさ」
「夢枕? と言うと、あの……」
「そう、寝ている相手のところに行ってね」


 つまりそれは寝室に入らなければいけないという事だ。

(地獄行きです♪)

 ……悔悟棒を手に笑顔で迫る閻魔の姿が目に浮かぶ。


「しっかし旦那、死んだってのに余裕だねぇ」
「さぁね。少なくとも悲観はしていないよ」
「ふ~ん。あ、さては誰かに当てがあるとか? ニクいね」
「そうだね……見つからなかったら君に頼もうかな、小町」


 実際、楽観視しているのは単に失敗してももうひと月待てばいいだけだ、と言う理由からなのだが。
 外に出られるなら、拾えないにしても無縁塚で道具のチェックは出来るだろう。


「え?」


 小町は霖之助の言葉に動きを止めると、しばし考え込んだ。


「そんなもののついでみたいな頼み方じゃダメだね」
「はは、考えておくよ……」







 背景:香霖堂・外・昼


 香霖堂の前に三つの人影があった。
 ひとつは紅白、ひとつは白黒、もうひとつはメイド。


「こーりーん」
「……おかしいわね。全然反応がないわ」
「出かけてるんじゃないですか?」
「それはないわね」
「出かけてるならちゃんと私たちにもわかるようにしていくはずだぜ。
 ……その、いない時にツケが増える真似をするなって怒られたことあるからな」
「……そうね」


 妙なところで律儀な霊夢たちに、咲夜は心の中で微笑んだ。
 香霖堂からものを借りたりするのは彼女たちにとって、ただ道具のためだけではないのだろう。


「困ったわね、このままではお嬢様のお使いが……」
「まったくだぜ、いないならいないでどこに行くか書いておいてもらわないと」


 咲夜はお使い。
 魔理沙はいつもの暇つぶし。
 霊夢は……何か胸騒ぎがしたのでここに集まっていた。


「おや、お姉さんたち。おそろいで何やってんの」


 ふと、そんな三人に声をかける少女がいた。
 猫耳に猫車。
 期待一杯、といった満面の笑みで近づいてくる。


「お前は……地底の泥棒猫!」
「ひどいなー。落ちてる死体を片付けてやってるのにー」


 大して気にしていない様子で、お燐が笑う。


「……貴方、なんでここに?」


 霊夢が強い視線で睨み付けた。
 その様子に咲夜が首を傾げる。


「この辺からあたい好みの匂いがしてさー。確かめに来たってわけですよ」


 お燐の言葉に、顔を見合わせる三人。


「まさか……」
「……!!」


 言葉を発するより行動のほうが早かった。
 次の瞬間には、香霖堂の扉が吹き飛んでいた。


「…………」
「嘘だろ?」
「まさか」


 一同が見たのは倒れた霖之助の姿。


(あちゃー、遅かった)
(君が寄り道なんかしてるからだろう。こんな時にサボらなくても……。
 いや、のんきに構えてる暇はないぞ。早くあの三人を止めてくれ。店が破壊されてしまう)
(そうは言っても旦那のサポートをしてる限り、あたいもあの娘らと直接話しちゃいけないんだよ。死者が口をきいていいのはお盆と冥界の中だけだからね)
(なんだと)


 このままでは騒ぎが大きくなり、おそらく香霖堂は全壊。
 明日の新聞の一面が容易に想像出来た・


「香霖……?」
「…………」
「…………」


 霊夢と咲夜が見守る中、魔理沙が霖之助に触れた瞬間。


「そこまでです!」


 周囲を黒服を着た男たちが取り囲んだ。
 その中心にいるのは、稗田阿求その人である。


「この場は稗田が預かります。
 無駄な抵抗はやめて大人しくしなさい!」







 背景:稗田家・室内・昼


「さて、結論から言うと霖之助さんは死んでません」


 阿求の言葉で、一同に安堵が広まった。
 ……ひとりを除いて。


(おーおー。よかったね、旦那。みんな安心してるよ)
(…………)


 ……突然の事なので稗田の屋敷まで慌てて付いてきたのだが、何となく気恥ずかしい。
 本人たちもまさか霖之助が見ているとは思っていないはずだ。


「詳しくは言えませんが……霖之助さんは現在復活の儀式の最中なのです」


(なんで阿求が知ってるんだ?)
(旦那が映姫様のところに行ったろ? そのすぐあとにあたいが運んだから……)


 立ち聞きしてた、ということか。
 意外に腹黒い……。
 いや、元々だったかもしれない。

 しかしそうするとどうやってこっち側に渡ってきたのだろう……と思い、すぐに考え直す。
 誰かに運んでもらえばいいだけの話だ。
 妖夢たち冥界の住人が船を使っているなんて聞いた事がない。

 阿求の場合……おそらく映姫直々に運んでもらったのだろう。


(しかし生者に言ってもよかったかな……? ……まあ、いいや)


 首を捻る小町だったが、あっさりと思考を放棄する。


(稗田のは普通に生きてるとは言い難いし、問題ないか。そもそも転生も似たようなものだし)
(それでいいのか、地獄のシステム……)


 頭を抱える霖之助。
 ちゃんと復活出来るか心配になってきた。


「というわけで」


 どうやらあちらの説明も済んだらしい。
 あまり聞いていなかったが、ちゃんと説明していた……と信じよう。


「霖之助さんが復活するまで体はここで預かります」
「えー」


 不満そうな声を上げるお燐。
 皆の鋭い視線が彼女を睨むがどこ吹く風だ。


「幸い結界を張り直したりする必要はなさそうなのですが……。
 だからといってあなたたちがずっと見るわけにもいかないでしょう?
 こういうのも居る事ですし」
「私は別に、それでも……」
「そ、そうよね」


 霊夢と魔理沙が言いかけるが、阿求が眉を跳ね上げる。


「いいですね」


 無言のプレッシャー。
 霊夢は金銭的な援助が、魔理沙は実家の事があるため強く出にくい。


「あの。紅魔館ならもっと安全に……」
「もう決めた事です」
「……横暴です」


 まだ不服そうな三人に、阿求は近くに置いてあった袋をたぐり寄せる。


「……そうそう。霖之助さんの死因ですが。
 疑惑の深いものが出てきました」


 阿求は三人を一瞥すると、三本の筒を取り出した。


「あなたたち、これに見覚えはありますよね。
 これらのどれかが……霖之助さんの死因」


 言った瞬間、三人の表情がこわばる。
 ……かもしれません、とこっそり阿求が付け加えたのを聞いたのは、霖之助だったかもしれない。


「そうですよね、霖之助さん?」


 阿求が虚空に向かって声を上げる。
 それを合図に三人は弾かれたように顔を上げた。
 見渡す……が、生身の人間に霖之助を見る事は出来ない。

 なるほど、かなり細かいところまで阿求は映姫から聞いているようだ。

 ……確かにあれは香霖堂にあったものだ。
 赤い筒は霊夢が持ってきた……いや、捨てていった緑茶。
 黒い筒は魔理沙が持ってきたきのこスープの素。
 青い筒は咲夜が持ってきた紅茶が入っていた。

 あの時、どれかを飲もうとして……。

 しかし、毒などではなかったはずなのだが。
 それはちゃんと確認した。

 ……映姫の言うとおり、何か予想外のものが紛れていたのだろうが。


「まあ、返事しても私たちには聞こえないんですけど」


 阿求は肩を竦めて、三人に向き直る。


「とにかく、近いうちになにかしらの連絡があると思います。
 それまで大人しくしておくべきですね」


 渋々了承、と言った様子の三人。
 会議はこれで終了のようだった。


(旦那、そうなのかい?)
(覚えてないんだ。なにか飲もうと思ったのは確かなんだが……)


 死んだ時のショックだろうか、綺麗に記憶が抜け落ちていた。


(まあ、生き返るなら些細なことだよ)
(……旦那、長く生きてると生死の境界も曖昧になるのかい?)
(君に言われたくないな……)


 違いない、と微笑む小町。
 しかしふと、表情を真剣なものに戻す。


(あの娘たちには、結構大問題みたいだったようだけどね)


 去っていくそれぞれの背中を見送る。

 ……いつもより、小さく見えた。
 もしかしたら自分が……とでも思っているのだろうか。


(本当にあれが死因かもわからないのに)


 むしろあの場を収めるための阿求の嘘だった可能性もある。
 ……本人に確認しても、正直に話してくれるとは思えないが。


(で?)
(うん?)
(誰の夢枕に立つんだい?)
(そうだな――)



1.霊夢
2.魔理沙
3.咲夜









→霊夢
 背景:香霖堂・外・夜


「おや、霊夢のところに向かうのかい?」
「ああ。僕が死んだ事くらい大して気にしてないかもしれないが、だからこそ冷静に話を聞いてくれるだろう」
「大して……ね。やれやれ」


 肩を竦める小町に、霖之助は首を傾げた。

 霊夢は会いたくなった時には冥界まで押しかけてくる。そんな性格だ。
 だからそう思ったのだが……。


 背景:神社・外・夜


 霖之助が神社に向かうと、夜中だというのにまだ明かりがついているようだった。


「……まだ寝てないのかな?」
「起きてる相手の夢枕に立つ事は出来ないねぇ」


 小町と一緒に、神社の中へ。
 その一室、明かりのついている部屋を覗いてみる。


 背景:神社・室内・夜


 霊夢がいた。
 規則正しく並べられた蝋燭の中央に正座している。
 部屋の中は何とも言えない雰囲気に満ちていた。
 一歩踏み込んだ瞬間、ぴくりと霊夢が反応する。


「……霖之助さん? ……と、もうひとりね。死神かしら」

(おっと、僕の姿は見えないんじゃなかったのか? それとも巫女だからかな?)
(いや、巫女と霊媒師は全然違うものだよ。旦那が幻想郷に仇なす悪霊だったらあるいは、見えたかもしれないけどねぇ)
(ふむ、となると……)
(どうやら見るための修行中、といったところかね)
(……霊夢が?)


 霊夢と修行がすぐに結びつかなく、霖之助は疑問符を浮かべる。


(そう言えば昼に会ったときは見えてなかったな)
(この部屋に結界でも張ってあるんだろうね。健気というかなんというか……。でも、これは……)


「霖之助さん。そこにいるの?」

(ああ、霊夢。実は……)
(待って、旦那。聞こえてないみたいだよ)

「……声を聞く事は出来ない、か」


 霊夢はひとり呟いた。
 視線はずっと、前を向いたままで。

 おそらく気配だけしか感じることが出来ないのだろう。


「10日よ。たったの10日待てばいいだけ。たったの……」


 同じ言葉を繰り返す霊夢。
 しかしだんだんと力がこもってくる。


「待てるわけ無いじゃない……!」


 霊夢の瞳は、蝋燭の炎を写して紅く燃えていた。
 まるで、決意を滾らせるかのように。


「霖之助さん。すぐに私が……」


 そう言いかけ……霊夢の言葉は途切れた。
 集中状態に入ったのだろう。


(で? 誰が冷静に話を聞いてくれるって?)
(…………)









2日目・昼(共通)
 背景:香霖堂・室内・昼


「結局肝心な事は伝えられなかったねぇ」
「……ああ」


 小町の言葉に、霖之助は肩を落とした。
 自分の死というものが考えていたより少女たちに影響を与えているのを見て、認識を改めざるを得なかったのだ。

 予想ではもっとこう……
「おお店主よ、死んでしまうとは情けない」
 と言われるくらいだろうと、簡単に考えていたのだが。

 霖之助は山の神に教えてもらった外の世界の遊技を思い出しつつ、小町に向き直った。


「なに、まだ復活まで時間がある。今日伝えればいいさ」
「……ま、そう言うことにしておこうか」


 含みのある表情で笑う小町に霖之助は視線を背ける。

 魂の状態で見る香霖堂は、いつもと変わらない。
 客のいない店。
 違うのは、店主もいないということだけだ。


「何か言いたいことがあるようだね、小町」
「べっつにー。旦那も少しは自分の立場というものがわかってきたかなと思っただけさ」
「…………」


 反論できないので、霖之助は別の角度から反撃することにした。


「そもそもの原因は君たちのせいだろう」
「いや全くその通り。悪いと思ってるよ。思ってるからこうして一緒にいるんじゃないか」


 小町は全く悪びれた様子もなく、ニヤリと笑う。
 むしろ小町が一緒にいるのは仕事をサボりたいがためだと思っていたのだが。


「ね、旦那。野暮なことは言わないけどさ。旦那はあの娘たちにとって大事な場所なんだよ、きっと。
 お? あたい今いいこと言った?」
「……その一言で台無しだがね」
「あちゃー、そっか」


 おどける小町に、何となくふたりで笑い合う。
 これも小町の気遣いかもしれない。
 霖之助は先ほどまでの暗澹たる気分をとりあえず置いておくことにした。


「旦那は必ず復活できるんだから、暗い顔は似合わないよ」
「ありがとう、小町」
「いいってことさ」


 照れたように顔を染める小町。
 霖之助が口を開こうとしたとき、玄関のカウベルが音を立てた。


「……誰かいたような気がしたけど……気のせいか……」


 やってきたのは魔理沙だった。
 少し俯いた様子で、いつもの指定席である壺に腰掛け足をぶらぶらさせる。


(魔理沙……)
(聞こえないよ、旦那)


 言われなくてもわかっている。それでも呼びかけずにはいられない。
 大事な場所。
 その意味が、少しわかった気がした。


(声をかけることも出来ないとは、無力なものだな)
(死ぬというのは本来そう言うことさね)


 霖之助の肩を励ますように叩く小町。

 同時に、タイミングを見計らったかのように玄関から再び音が響く。


「……魔理沙」
「霊夢か……」


 ふたりはお互いの目を見……そのままいつもの定位置へと移動する。


「はい」
「ああ」


 霊夢はお茶をふたり分用意した。
 自分と、魔理沙と。

 その隣に、まるで手品のようにティーカップが現れる。


「来てたのね」
「ああ」
「貴女こそ」


 突然現れた咲夜にも、ふたりは驚きを見せなかった。
 まるで来ることがわかっていたかのように。


「…………」
「…………」
「…………」


 しばし無言。


「今までもあったんだよ。10日以上会わない事なんて。何度も」


 ややあって魔理沙が口を開いた。


「……だけど。10日会わないのと10日会えないのは全然違うんだな」
「そうね」
「……ええ……」


 3人の目は赤い。
 それぞれ、別の理由で。


「一番高いお茶ばかり飲むなって、よくそう言われたわ」
「……うん」
「お金も払わずに?」
「ツケよ」
「ああ、いつかちゃんと返すつもりなんだぜ」
「そう」
「私にも、売り物には腰掛けるなって……さ。
 もう私のものも同然なのにな」


 力なく笑い合う。


「私が買い物に来るとね、本当に嬉しそうな顔をするのよ。
 あの人はクールに振る舞ってるつもりみたいだけど……ふふっ」
「そうだな。よく顔に出るやつだから……」
「そうね……」


(おやおや、よく見られてるんだねぇ)
(身に覚えがないな)


 小町に笑われ、霖之助は気まずくなって立ち去ろうとした。
 本来聞いていい会話ではない。
 ……そんな彼を、小町が引っ張る。


(旦那、旦那)
(なんだい小町)
(女の子がヘコんでるんだ。ここで甲斐性見せておけば好感度がうなぎ登りってやつだよ)
(はぁ……どうやって見せるんだい?)
(それはその……気合いで?)


 3人を心配してるのは小町も同じらしい。
 しかし有効な解決策が浮かばないまま……3人が席を立つのを見守っていた。


「帰るわ。やることがあるから」
「……私も、仕事がありますから」
「ああ……そうだな……」


 魔理沙はこのまま残るようだ。


(ほらもう、早くしないから行っちゃうじゃないか)
(無茶を言うんじゃないよ)
(それで、どうするんだい? 旦那?)


選択肢

→霊夢
→魔理沙
→咲夜









→霊夢
 背景:神社・外・昼


「やめなさい。咲かない桜はひとつで十分。貴女は少し我慢というものを覚えるべきね」
「なんですって……?」


 霊夢の様子を見に来た霖之助たちの耳に、怒気を孕んだ声が聞こえてきた。
 霊夢の声だ。

 いつも超然とした彼女がここまで感情を表すのも珍しい……と神社の一室を覗き込む。


 背景:神社・室内・昼


 相対しているのは、妖怪の賢者……紫のようだ。
 紫は部屋に入ってきた霖之助たちにちらりと視線を送ってくる。


(……気づかれたのかと思ったよ)
(いや、あれは気づいてるね)
(本当か? どうやって……)


 こんな芸当も妖怪の賢者ともなれば朝飯前という事だろうか。
 しかしすぐに紫は霊夢に視線を戻す。


「聞こえなかったのかしら。我慢しなさいと言ったのよ。まったく、聞き分けのない子供みたいね」
「……誰が子供ですって……?」
「貴女のことよ、霊夢。そんなに怒って……焦っているのは、何故かしら?」
「霖之助さんが死んでるのよ、怒って当然じゃない!」
「そうね。そして私はその理由を尋ねてるの」
「理由って……」
「お気に入りのおもちゃが取られたからかしら? タダでお茶が手に入らなくなったからかしら? それとも……」
「もういいっ!」


 紫の言葉を最後まで聞かずに、霊夢は部屋を出て行った。


「ふぅ。私ですら我慢しているというのに……」


 ひとり呟く紫。
 霊夢が遠くへ行った事を確認すると虚空に呼びかける。


「最近は覗き見が趣味になったのかしら?」
「……よしてくれ、縁起でもない。まるでスキマ妖怪のようだ」
「あら、それは素敵な事ね」


 胡散臭い紫のいつもの笑みも、少しだけ疲れて見えた。


「そんな不思議な顔しなくても、姿も見えてるし声も聞こえてるわ」
「お、さすがだね」
「君はこんな事も出来るんだな」
「生と死の境界にいる貴方ですもの。それとも……霖之助さんだから、と答えた方がよかったかしら?」
「……冗談と受け取っておくよ」
「つれないのね」


 パタン、と扇を閉じる紫。


「おもちゃを取られた子供……か。子供の相手をするのは疲れただろう、紫」
「あら? 貴方は霊夢を子供だと思ってるのかしら?」
「だってさっき君がそう……」
「やれやれ、少しは変わったかと思ったら相変わらずだねぇ」


 小町と紫が顔を見合わせて苦笑する。


「霖之助さん。霊夢が変なことしないように、様子を見てあげて頂戴」





 背景:神社・外・昼


「誰が子供よ。それに焦ってなんかないわよ」

(様子を見て……と言っても、何が出来るわけではないんだがな)
(いやいや旦那。知ってるって事はそれだけで価値があるのさ)
(道具の知識ならそうだろうけどね。人間は……)

「ああもう!」


 背景:神社・室内・昼


 霊夢は溜まったストレスをぶつけるように叫ぶと、自室に帰ろうとして……風呂場の前で立ち止まった。
 洗濯物が溜まっている。
 家事をしている暇はないのだが……こんな気分でやってもはかどらないと思ったのか、服をまとめて抱え上げた。


 背景:神社・外・昼


「……いい天気」

(旦那は家庭的な女は好きかい?)
(どうして今その質問をするんだい、小町)
(うん? いや、だってさ……)


 霊夢は服をまとめて洗濯桶の中に入れると、石鹸を使って洗い始めた。


(ちゃんと石鹸使うんだねぇ)
(本来は高価なものなんだがね。あの石鹸はいつの間にかうちから無くなったやつだよ……)
(……なるほど)

「あ」


 洗濯を続けていた霊夢が声をあげる。
 見てみると、霖之助の服を取り出したままの状態で止まっていた。

 そしてその服を、そっと抱きしめた。


「霖之助さん……」


(…………)
(あれ? 旦那、どこに行くんだい)
(別に。洗濯を見てても仕方ないだろう)
(あ、ひとりになりたい? ひとりにしたい? 可愛いところもあるもんだねぇ)
(…………)
(よし、一緒に冥界で飲もうじゃないか)









2日目・夜(共通)
 背景:地獄・執務室


「は? まだ伝えてない? ……何をしてたんですか、今まで」
「いろいろあったんだよ」
「いろいろ、うん、そうだねぇ……。いろいろありましたよ、映姫様」


 小町のニヤケ顔を我慢しつつ、霖之助は映姫に向き直る。


「いろいろあって……で、あんなところで飲んでたわけですか」
「ああ、まあ」


 ふたりは三途の川で飲んでいたところを、先ほど映姫に呼び出されたのだった。


「それよりひとつ聞きたいんだが……もっと早く生き返る方法はないのかい?」
「あら、現世が恋しくなりましたか?」
「いや、旦那が恋しくなったのは……おっと」


 霖之助の視線に、小町は笑いながら顔を背けた。


「……すぐに現世に戻る方法ならありますよ」
「あるのか?」


 思わず聞き返す。
 早いのならそれに越したことはないではないか。


「そうですね……まず、生き返るのを諦めて死神に転職する。小町のように顕界に姿を現すことも可能です」
「お、それいいね。そうしなよ、旦那」
「……あいにく、香霖堂の店主でいたいんでね」


 首を振る霖之助に、そうですか、とだけ映姫は言う。
 元々受けると思っていなかったのだろう。


「次は別の人間、妖怪として転生する。この場合よっぽど特殊な方法をとらないと記憶は消えるでしょうね」
「……それでは意味がないな」
「あるいは亡霊となる。冥界の管理者に聞いてみればわかるでしょうけど……。
 この場合死亡が確定します」
「生き返ってはいないな」
「現世に戻る方法、といったでしょう。あとは……いえ、なんでもありません」


 言って映姫は首を振った。


「どれも使えないな……」
「その通り。ですからあの方法を提案したのです。今回に関してはこちらが完全に黒ですからね。これでも譲歩してるんですよ」
「」
「本来死というのは別れ。そして輪廻転生の入り口なのです。それをやれ蓬莱人だ亡霊だと……」

(旦那、旦那)
(なんだい)
(このままだと映姫様の話だけで夜が明けちまうよ。早く向こう岸に行くとしよう)
(それは困るな……わかった)


「そもそも寿命というのは……」
「じゃあ映姫様。あたいたちは用事があるからこれで~」
「あっ、小町、霖之助さん、まだ話は……」


 部屋を飛び出していくふたりの背中を見送って、映姫はひとつため息を吐いた。


「……もう!」





 背景:三途の川中・夜


「それで旦那、どこに行くんだい?」
「ああ、今日は……」









→霊夢
 背景:神社・室内・夜


(……結局、霊夢はいつ寝るんだ?)
(さぁ……寝ないつもりじゃないかねぇ)
(無理をしなければいいんだが)
(無茶はするけど無理はしないってタイプなのにね。誰かさんのせいかな?)
(何を言ってるんだか……)


 霊夢は昨日と同じように部屋の中央に座っていた。
 霖之助が部屋に踏み込むと同時、霊夢が声を上げる。


「霖之助さん? 何心配そうな顔してるの?」

(こりゃ驚いた。もう見えてるよ。天才ってのはいるもんだねぇ)
(霊夢、あまり無理はしないほうが……」

「どうかしたの?」


 霊夢は霖之助の言葉に反応せず、首を傾げる。


(声は……聞こえてないみたいだな)
(昼間は見えてなかったみたいだし、やっぱりこの部屋が結界みたいなものなのかねぇ。しかしどこかで見たような……)


「霖之助さん。様子を見に来てくれるって事はやっぱり心配なのかしら?」


 そう呟くと、霊夢は再び蝋燭に向き直った。


「だけど心配しないで」


 再び瞳に火を灯す。
 いくつもの感情を決意に変えて。


「すぐに復活させてあげるから……」
(うん?)


 霊夢の呟きを聞き返すが、当然反応がない。
 すると近くから呼び声が聞こえてきた。


(霖之助さん)
(……紫?)
(ええ、ちょっとこっちへ)




 背景:神社・外・夜


「このままじゃマズいわよ」
「ああ、そうだろうな。このままじゃ霊夢は倒れてしまう」
「そうじゃなくて……いえ、そうね」


 紫は霖之助の言葉にひとつ頷いた。


「あの娘は近いうちに倒れるでしょう。その時に霖之助さんはどうなさるつもりかしら?」
「……どうにかするさ」
「ああ」


 もし倒れたら……夢の中に入って無理矢理叩き起こす。
 それでもダメなら……こっちは霊体だ。少しばかり身体を拝借して布団に寝かせるくらいのことは出来るだろう。
 もちろんそんなことをしたら映姫から怒られるだろうが……ペナルティは覚悟の上だ。


「……それには、ちゃんと霊夢を見ておかないとな……」
「ええ……そうね……」


 珍しく歯切れが悪い紫の言葉に、霖之助は首を傾げる。


「紫、どうかしたのかい?」
「いえ、別に……」
「旦那、ちょっと霊夢の様子を見てくるといいよ。これくらいの距離なら離れても大丈夫だからさ」
「ああ、わかった」


 小町の言葉に、霖之助は再び神社の部屋に向かうことにした。






「アンタも大変だねぇ」
「……わかってくれるかしら?」
「ああ。……わかるよ」
「そう……」









3日目・昼(共通)
 背景:地獄・執務室


「そういえば、まともに夢枕に立った事がないな」
「おかしいねぇ」


 霖之助と小町は首を傾げた。
 当初の予定ではぱっと行ってぱっと帰ってくるだけだったはずなのに。


「おかしいねぇ……じゃありません! なにをサボってるんですか」
「いや、あたいのせいってわけじゃ……」
「僕のせいでもないよ」


 閻魔の視線に、ふたりは首を振る。


「だがそれも今日までだ。3度目の正直という言葉があってね」
「2度あることは3度あるとも言うけどね」


 小町の茶々に、霖之助は言葉を詰まらせた。
 否定できない自分が悲しい。
 そんなふたりに映姫はため息を吐く。


「その必要はありません」
「必要無い?どういうことだ?」
「今日の月を知ってますね」
「今日はなんだい?」
「あたいは知らないけど」


 小町に尋ねてみるが、答えは返ってこなかった。
 再び映姫のため息。


「……コホン。今日は満月なのです。
 つまり貴方が身体に戻る日でもあります」
「もう復活なのか?」
「いいえ。肉体に生気を入れておくために、たまに戻る必要があり……。と、細かい事情はともかく。
 今日の夜、満月が出ている間は肉体に戻ってもらいます」
「そうか……しかし、どうやって? 僕の身体は……」
「そのあたりは抜かりありません。妖怪の賢者に頼んでありますから」


 なるほど、彼女も十分関係者らしい。


「わかった。夜だな」
「ええ、その間何をしようと自由です。しかし朝になればまた魂の状態に戻るので忘れないように」






 背景:三途の川・昼


「よかったじゃないか、旦那。身体に戻れて」
「まだ3日だけどね。だがこの3日でよくわかったよ」
「なにがだい?」
「霊体の不便さが、さ」
「ま、生きようとするならね」


 そう言って小町は遠くを見つめた。
 三途の川の渡したる彼女も、いろいろ見てきたのだろう。


「しかしなにをしてもいいと言うことは……」
「うん、そうだと思うよ。むしろ……」
「この機会にちゃんと話してこいって事かな」


 ふたりで苦笑する。


「さて、夜までどうする?」
「ああ、実はもう予定が決まっていてね……」









→霊夢(自動分岐)
 背景:神社・外・昼


「なんだ、用事って霊夢のところかい」
「ああ」
「どうせ夜会うんだろ? 放っておいても大丈夫だと思うけどね」
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない」


 霊夢が何かをやろうとしている事は気づいていた。
 そしてそれが霖之助に関することであり、あまり幻想郷のためではないことも。


「はぁ……今の状態のあの娘のところに行ってもろくなところにならない気がするんだけどねぇ」


 小町はそう言って、霖之助に気づかれないようこっそりとため息を吐いた。





 背景:神社・室内・昼


「誰?」


 部屋に足を踏み入れると、霊夢は真っ直ぐに視線を向けてきた。
 今までのように曖昧な焦点ではなく、はっきりと。


「霖之助さん!」
「れ……」
「おっと。ダメだよ旦那」


 口を開きかけた霖之助を、小町が制した。
 遮るように霊夢の前に立ち、ニヤリと笑う。


「驚いた。こんな短期間でそこまで行くとはね。今のアンタなら、きっと旦那の声も聞けるだろうさ」
「だから何? どいてよ。私は霖之助さんと話したいの」
「稗田のから説明があっただろう? 今の旦那は口をきいちゃいけないことになってるんだ。破ったらそれはもうこわーいお仕置きが待っているのさ」
「それで? アンタはいいの? ずっと霖之助さんと一緒にいたくせに」
「……あたいは旦那のサポート。旦那を守るためならなんだって出来る」
「……邪魔しないでよ、死神!」
「邪魔してるのは霊夢の方さ!」


 霊夢の札と小町の鎌がぶつかった。
 弾幕ではなく、直接攻撃。

 霊夢は連日の徹夜で体力が無く、小町は霊夢を手にかけるわけにはいかない。
 だからこそ、短期決着を望んだのだろう。


「ねえ、霖之助さん」
「……紫?」


 その隙間を縫うように、横から紫に呼ばれる。


「ちょっと、こちらへ」


 背景:神社・外・昼


「霊夢、もう限界みたいよ」
「だろうな」


 そんな事は見ればわかる。
 なんだかんだで長い付き合いだ。
 だからこそ、こうして様子を見に来たというのだから。


「どうするの?」
「世話の焼ける娘だからね。今回も世話を焼くだけさ」
「そう」


 苦笑する紫。
 すると神社の方から小町がやってきた。


「旦那ー、勝ったよー」
「勝ってどうするんだ……」
「いや、つい熱が入っちまって」


 小町は霊夢をおぶっている。

 ……気を失っているようだ。
 きっとここ数日の疲れが出たのだろう。


「すまないが紫、霊夢を香霖堂に運んでくれるかな」
「はいはい」









 背景:稗田家・室内・夜


「霖之助さんの身体、本人に返してきたわ」
「ありがとうございます……お手数かけますね」
「構わないわよ」


 紫に礼を言って、阿求は空を見上げた。
 綺麗な満月。
 今頃彼は、どうしているだろう。


「いいのですか?」
「あなたこそ」


 ふたり、顔を見合わせ……笑う。


「別に私は、まだまだ先がありますから。例え私でなくても」
「奇遇ね。私もよ」









 背景:香霖堂・室内・夜


「どうだい旦那、久し振りの身体は」
「まだ3日だよ。懐かしいことには変わりないけどね」
「それはよかった。手伝ったかいがあるってもんさ」
「……どこに行くんだい?」
「今は旦那に付いておく必要がないからね、酒でも飲んでくるよ。幸い、一緒に飲めそうな知り合いもいることだし」
「そうか」


 小町はひらひらと手を振ると、出口に向かって歩き出した。
 その背中に、霖之助は声をかける。


「小町」
「なんだい?」
「ありがとう」
「どういたしまして」


 ひとりになった霖之助は、裁縫道具を取り出した。
 黙々と作業に取りかかる。
 どれくらい時間が経っただろうか。


「ん……」
「起きたかい、霊夢」
「……ああ、霖之助さん……。ようやく、私……」
「何を言ってるかわからないが、残念ながら違うよ」
「え?」


 霊夢は驚き、起き上がろうとして……失敗。
 身体に力が入らないのだろう。

 霖之助は苦笑すると、霊夢のおでこに手を置いた。
 その感触に、霊夢が目を丸くする。


「まさか……本当に?」
「ああ、今日だけだけどね」


 ひとつ笑うと、霖之助は霊夢から視線を戻した。
 作業を続けながら、霊夢に声をかける。


「覚えているかい? 昼間のこと」
「……ええ、死神に負けたわ。もう、思いっきりやってくれちゃって……あら」


 霊夢はいつもと違う服を着ている自分に気が付いた。
 いつもの巫女服は……霖之助の手元。


「ああ。服が破れてたんでね。直させてもらってる。……着替えさせたのは小町だ。勘違いしないでくれよ」
「別に気にしないわよ、そんなこと」
「ああ……ちょうど出来上がったところだ。立てるかい? 神社まで送っていこう」
「……ちょっと、無理そうね」
「そうか……仕方がないな」



 背景:森


「僕が飛べたらもっと楽なんだろうけどね」
「……霖之助さんはそのままでいいのよ」
「そうかい?」
「そうよ。異変は私に……私たちに任せていればいいの。だから霖之助さんは……いつもあそこにいて頂戴。いなくなったりしないで」
「善処するよ」


 霖之助は短く答えると、霊夢を背負い直した。


「ひょっとして、重い?」
「そんなことはないよ」


 無縁塚の道具に比べればなんてことはない重量なのだが、どうしても不安定なためずり落ちかけるのは致し方がない。
 むしろ霊夢は軽い部類に入るだろう。

 そんな身体だというのに。


「……君はすぐに無理をする」
「普段はしないわ」
「ああ……知ってるよ」


 たいていの事に動じない霊夢をこれだけ慌てさせたのだ。
 保護者冥利に尽きるといったところだろうか。


「……なんか今、よからぬ事を考えたでしょ」
「どんな根拠があって……」
「勘よ」


 よく当たるんだからね、と言って霊夢は笑った。
 それからしばらく、無言で歩みを進める。


「霊夢」
「……なに?」
「疲れてるんなら、寝ててもいいんだよ」
「嫌よ……もったいないもの」
「何か言ったかい?」
「なんにも」


 霊夢が強く抱きついてきたことに、苦笑する霖之助。
 こうして触れ合っていると、離れていたのはほんの数日間だけなのに、ひどく懐かしい感じがする。


「霊夢」
「なに?」
「もう少しだけ、待っててくれるかい?」


 霖之助の言葉を聞いて。
 霊夢は応える代わりに、きゅっと抱きつく腕に力をこめた。











→復活するまでの間のとある一日


「あら? もう修行はやめたのかしら?」
「ええ。もう無理はしないことにしたの」
「まあ、精進する事が無理だなんて……どこかの悪い大人に影響されたのかしら?」


(ひどいやつもいるものだな)
(ああ、まったくだね)


「……貴方が言いますか」


 紫が霖之助に話しかけるが、もう霊夢に霖之助の姿を見る事は出来なくなっていた。
 ……だが、それでもかまわない。


「紫、あの時の質問だけど」
「なにかしら?」


 惚けたように首を傾げる紫。
 しかし霊夢は構わず続けた。


「霖之助さんは私の……」

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霊夢と紫だけ絵の存在感がハンパなかった記憶があります。
…今、公開したという事は、続きのお話の完成が間近というフラグなのですか!?
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