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水のような、蜜のような

ムラサ霖とするべきかムラ霖とするべきか。水霖? でもムラサはムラサですよね。
姫街道さんが『村紗が香霖堂ボトルシップを沈没させる』というネタを仰ったので。
ヤモト=サンからネタをもらいつつ。
感謝感謝。


霖之助 水蜜








「生きてる証ってやつが欲しいんだけど。いわゆる生き甲斐ってやつ」
「幽霊のセリフじゃないね」
「じゃあ妖怪ならいいんでしょ」
「……舟幽霊はどっちだったかな」


 ムラサの質問に、霖之助は首を傾げた。
 舟幽霊と言うからには幽霊だろうが……恐怖を受けて変化したのなら妖怪という可能性もあるわけで。

 少なくとも幽霊の名が付き水気を操る彼女がいれば涼しく過ごせるのは間違いないようだ。
 おかげで夏の暑さを気にすることなく、作業に集中できる。


「寺の仕事はいいのかい? 最近よく来るみたいだけど」
「うん、聖がねー、少し休んでいいって。私には仕事くらいしかやることないのに」


 働かせすぎるのもイメージが悪くなるということだろうか。
 彼女の場合は単なる優しさのような気もするが。

 外の森では蝉の大合唱が巻き起こっていた。
 数年前の奇跡の蝉ほどではないが、やはり五月蠅いことに変わりはない。


「聖の手伝いをすることが生き甲斐だって言ってたじゃないか」
「それはもちろん。だけどそれだけじゃ時間と身体をもてあましちゃうのよ」
「スポーツでもすればいい」
「甲板のモップ掛けなら大得意よ」
「せめて廊下掃除と言って欲しかった」


 最初に会った時はもっと真面目な子だと思ったのに。
 会う度に気が抜けていってる気がする。

 まあそれだけ信頼してくれてるんだろうと思えば悪い気はしないのだが。


「白蓮としては、君にいてくれるだけで嬉しいと思うんだがね」
「って聖にも言われた。でもそれだけじゃ私がダメなの」


 ムラサは改心し、白蓮に救われた舟幽霊だ。

 彼女は舟幽霊であるにも関わらず、底の抜けた柄杓を持っている。
 それこそ呪われた海から解放された証であり、彼女が白蓮の側に存在してるだけで、妖怪との融和を示す寺にとっては意味があるのだろう。

 だがそれだけでは不満のようだ。

 まあ、弾幕ごっこをする時はその柄杓で水を汲んでいるが。


「どうしてダメなんだい? 必要十分だと思うが」
「そういうセリフはねぇ、お寺の信者さんに自己紹介した時、舟幽霊ですって言って首を傾げられたことがないから言えるのよ」
「大丈夫、服装はそれっぽいよ」
「じゃあ巫女服着たら巫女ですって言えるかしら」
「うん、失言だったね」


 巫女服を着た頭が春の巫女が幻想郷の巫女である。
 山の上に出来た神社の風祝といい、巫女服と巫女の関係について考え直さなければいけない時期かもしれない。

 そんな事を考えいていると、ムラサはぐてりとテーブルに上体を倒した。


「このままだと存在意義を失って新しい妖怪になりそうな気がする。
 ……そうだ、頼みを聞いてくれなかったお店の隅ですすり泣く妖怪とかどうかしら」
「迷惑だからやめてくれ。あと僕に相談しないでくれ」
「あなた何でも屋でしょう?」
「道具屋だ。間違えないでもらおうか」
「じゃあ道具屋でいいわ。売ってちょうだい。私の生き甲斐」
「そういうものは自分で見つけないと意味がないよ」
「そういうものに引き合わせるのも道具屋の役目だって言ってたじゃない」
「……まあ、ね」


 道具は真に使うべき人間のところに導かれるというのが霖之助の持論である。
 真に使うべき人間がなかなか見つからないため、仕方なく非売品という形で保存してあるだけで。


「舟幽霊から船をとったら何が残るのよー」
「幽霊が残るじゃないか」


 そう言えばムラサの体温は冷たいのだろうか。
 ふとそんな事を考えた。

 幽霊ならば冷たく、妖怪ならば体温があるだろう。
 彼女の肌に触れたことはないのでわからなかったが。


「あ、今何か不埒な事考えたわね」
「気のせいだ」
「きっと私の身体に興味津々だったんだわ。気をつけるようみんなに言っておかないと」
「勝手な妄想で変なレッテルを貼らないように」
「エエその通り。言っておくけど幽霊は半分が被害妄想で出来てるわ」
「迷惑すぎるよねそれ。帰ってくれ」
「そんなつれない一言に、私の碇がフルスイング」
「物が壊れる、やめてくれ」
「碇と怒りをかけてみました」


 上手いこと言ったつもりのようだ。
 顔が自信に満ち溢れている。

 霖之助はあえてスルーして、手元の作業に戻った。
 無視された彼女は不機嫌そうに唇を尖らせていたが、やがて霖之助の手元に顔を近づけ、口を開く。


「てっきり私にくれる物と思ってたんだけど」
「何の話だい?」
「だってそれ、船でしょ? この前から作ってたやつ」
「そうだね」
「ずいぶん進んでるわね。お客が来なかったからかしら」
「……ノーコメントだ」


 霖之助が作っているのは帆船模型というものだった。
 先日無縁塚で組み立てキットを拾ってきたのだが、つい熱中してしまっていた。

 海に思いを馳せながら船を造る。
 充実した夏の過ごし方だと思っている。


「でも一度組み上げてた気がするけど、なんでバラしてるの?」
「ボトルシップだからだよ」
「沈めて良いの?」
「沈没船を最初から造らせる気か……いや、それはそれで趣深いかもね。途中のパーツを抜けば簡単にできるし」
「えー。そんなのダメよ」


 水を入れてジオラマのようにするのも悪くない。
 そう思ったのだが、なにやらムラサは不満のようだ。


「沈めるための船なんて沈めてもちっとも楽しくないわ。
 舟幽霊たるもの、もっと高みを目指さないと」
「舟幽霊業は廃業したんじゃなかったのかい?
 まあそれなら仕方がないね。しかし沈没船はいいアイデアだから、自分で沈めることにするよ」
「あーでも待って、待って」


 首を振る霖之助に、しかしムラサの静止の声。


「どーしてもって言うならー、沈めてあげてもいいけどー」


 その顔は一見苦渋に満ちていた。
 だがその奥にある感情を、霖之助が見抜けないはずもなく。


「沈めたいのかい?」
「そんな事はないわ! でもどうしてもって言うなら! 仕方なく!」
「君がまさにどうしてもって言ってるような気がするんだが」
「気のせいよ」


 どうやら素直になる気はないらしい。
 霖之助はひとつ頷くと、分解した帆船模型に目を落とす。

 これから再び瓶の中で組み上げていくのだ。


「どうせなら、水流があった方がいいかな。そんな沈め方が出来るなら頼みたいんだけど」
「余裕余裕! 腕が鳴るわー。で、いつ完成するの?」
「それは僕の仕事次第だね。ボトルシップには時間がかかるんだ」
「えー、いつもの器用さでなんとかしてよ」
「そんなにすぐ完成してしまってはつまらないだろう? こういうのは課程も大事だからね」
「むう。約束だからね!」


 今日の作業はここまでとばかりに部品と道具を片付けていく霖之助。
 頬を膨らませるムラサに微笑みつつ、ふと思いついたように彼女に向き直った。


「礼と言っては何だが、ひとつ新しい仕事をしてみないかい? 生き甲斐になるかはわからないけどね」
「舟幽霊にもできること?」
「むしろ舟幽霊じゃないと出来ないことかな」
「ほんと? やるやる!」
「まだ説明もしてないんだが……」


 霖之助は苦笑を浮かべながら、麦茶を注ぎ足す。
 自分の分と、ムラサの分。

 先日チルノに作ってもらった氷を入れて、完成である。


「舟幽霊というのは水難事故の代名詞だ。それは海のない幻想郷でもちゃんと名前が売れてるほどに」
「そうねー。そのせいで変な目で見られるんだけど。陸に上がった舟幽霊。ああ、有名人って辛いわ……。
 宝船計画が軌道に乗ればよかったのに」


 宝船計画というのは、命蓮寺を宝船の形にして幻想郷を遊覧飛行するというものだった。
 命蓮寺が出来た当初、計画はあったらしいのだが……。

 忙しかったのか、いつの間にか消えてしまったらしい。
 彼女の無念さたるや、推して知るべしだろう。


「話を戻していいかな?」
「どうぞどうぞ、好きにスルーしちゃって」
「そこまで卑屈にならなくても……。まあ例えば、舟幽霊が逆に水難事故除けのお守りなんて作ったらいいかなと思ったんだよ」
「お守り? 誰に売るの?」
「そりゃ釣り人とか……船頭とか……」
「湖に船浮かべてるのってほとんど飛べる人間とかじゃん。
 普通の人間なんて逃げ場のない水上になんて滅多に行かないし。
 それに船頭は連れてかれそうになるからヤダ」
「贅沢だね」
「妥協はしない主義なの」


 あれやこれや、注文の多い客である。

 しかしムラサはしばし考え込むと、やがてポンと手を打った。


「んー、水難事故かあ。星がうっかりお鍋吹きこぼすとかもなくなるのかな。
 ……私のおかげで! そう考えると悪くないかも」
「まあ、それが水難事故かはともかく。僕が言いたいのはそんな事だよ」


 どちらかというと祟り神を祀るのに近いだろう。
 ムラサが神というと、やはり首を傾げてしまうけれども。


「でももうちょっとこう、自分のためになるやつとかあるといいかも。
 お寺って自己鍛錬も兼ねてたりするから」
「ふーむ、鍛錬ねぇ……ああ、うってつけのものがひとつあった」


 霖之助は椅子から立ち上がると、近くの道具箱へと手を伸ばした。
 商品ではなく非売品が収められているその箱から、やがて彼は手のひらに収まるくらいの黒いものを取り出す。


「なにこれ」
「見ての通り、碇だよ」
「それは見てわかるけど」
「正確に言うなら碇型の時計だね。ちょっと前、河童に作ってもらったんだ」


 無論外の世界の時計を動かすには電池が必要だ。
 だが時計のような単純な動作をする位の動力ならば、別のものでも賄える。

 例えばそう、妖力を含んだ水とか。
 ……にとりがそういう腕時計をしていたので知ったのだが。


「時間をセットしてやると、こうやって音が鳴る」
「うん、うるさいから壊していい?」
「それは駄目だ」


 けたたましい電子音をあげる時計を睨みつつ、ムラサが首を傾げた。
 霖之助は肩を竦め、アラームをオフにする。


「で、これが水難事故とどう繋がるの?」
「わからないかな? 人妖問わず悩ませる水害がどこの家にもあるだろう? うちにはないけど」
「ここにない水害……ねぇ。運んでる時何かにつまずいてお茶をひっくり返す……ようなのはいないだろうし」
「いや違う。子供がいる家に多いかな」
「……まさか」


 どうやら思い当たったらしい。
 霖之助は笑みを浮かべると、自信たっぷりに言い切った。


「人間も妖怪も、成長の過程で地図を描くものさ」
「誇り高い舟幽霊に子守をしろって言うの?」
「嫌なら別に構わないよ。ただそういう案もあると言っただけで」
「ちなみにアナタの最後の経験は?」
「忘れたよ」


 子供の水害。
 それは布団に世界地図を描いてしまうことである。

 まあ、ボトルシップを見て思いついたのだが。

 魔理沙のそれにも昔散々手を焼いた記憶がある。
 霊夢は……開き直っていた。


「うーん、確かにそういう悩みを持ってくる人もたまにいるのよねー」
「そうかい? じゃあ需要はありそうだね」
「うん、ぬえにも効果がありそうだし」
「……そうか」


 あえてその先は聞かなかった。
 布団を干しつつ涙を浮かべている彼女の姿が目に浮かぶ。


「でもこれ、そんな機能ついてるの? おもらし感知みたいな」
「いいや。それはこれから考えるのさ。君の力で水気を感知できればと思ったんだけど。
 それに寺で充電するようにすれば、参拝の人も増えて貢献できるかなと」
「なかなかいいアイデアじゃない。さすが何でも屋!」
「だから道具屋だって」


 ムラサは上機嫌そうに碇型のアラームをつついた。
 それからなにやら思いついたように、霖之助の顔へと視線を移す。


「ねえ。これ作るのにどれくらいかかる?」
「どれくらい、と言われても難しいね。簡単なものならそれこそすぐに出来るけど、効果まではわからないよ。
 アラームの音色とか最適音量とか、振動機能を付けるかとか考えることは山積みだし。
 それに水気感知を付けた状態でのバッテリーの持ちも……」
「じゃあさ、じゃあさ。実際作って確かめようよ。何でも協力するからさ」
「そうかい?」
「うん、だってそのほうが早いでしょ? 幸いいい標的もいることだし」


 標的というのはぬえのことだろうか。
 ……かわいそうにと思いつつ、止めはしないが。


「わかった、やってみよう。でも言っておくがこれは商売だからね」
「もちろんわかってるって。完成したらお寺に置かせてもらうよ、それでいいでしょ?」
「ああ。とはいえ、まずは完成してからの話だけど」


 完成したら、河童に量産を頼まなければいけない、
 どれくらい需要があるかわからないものの、小さな道具といえど霖之助ひとりでは生産が追いつかないだろう。

 その場合の売値と霖之助の取り分を頭の中で計算していると、彼女が早速立ち上がった。
 先ほどとはうって変わり、元気のいい瞳で。


「とりあえず人体の水を察知する札でも作ってみるわね」
「ああ、それを組み込めばとりあえずは動くはずだ。あとは動力の減り方を確認すれば。
 まだまだ売れるような状態ではないがね」
「身内で使うものだからそれで十分よ」
「わかった。それなら今日には使えるようにしておこうか」


 霖之助は満足げに頷くと、別の道具箱から工具を取り出す。
 やはりというかなんというか。
 少女は目的を持っているほうが微笑ましいと思う。


「じゃあ明日、結果を聞かせてくれるかな」
「何言ってるの? アナタもお寺に来るのよ」


 当然のように首を傾げるムラサに、霖之助は言葉を詰まらせた。
 さらに彼女は、当然のように話を進めていく。


「ぬえにばれちゃダメだから……こっそり私の部屋に泊まる?
 布団ひとつしかないけど」


 言葉の意味がわかっているのだろうか。
 子供とも少女ともつかない、海のような深い瞳。


「でも、生き甲斐が見つかりそうで助かったわ」
「……それは何より」


 その瞳を笑みで輝かせ、彼女は言った。



 その生き甲斐が何かは……。
 今はまだ、知らないでおいた。

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非公開コメント

No title

自信満々な感じの村紗さんが可愛いすぎて・・・これから毎日楽しくなりますね!

妖怪でもおもら……げふんげふん。
聖が「あらあら」いいながら、ぬえをあやすのかなあ。

No title

海の無い幻想郷で新たな生き甲斐が見つかって良かったですね、水蜜さん

>「人間も妖怪も、成長の過程で地図を描くものさ」
これは間違いなく真理……(遠い目
だからぬえちゃんも恥じることなく、立派な世界地図を完成させてくれればいいんじゃないかな?

No title

水難事故とおねしょを結び付けるなんてさっすが霖之助、あたっまいいー。
一枚の布団で寝泊りか・・・寺で・・・。
聖に見つかるフラグがビンビンなのは自分の気のせいですね!

No title

ぬえ「ち、ちがうんだからね!これは・・・そう!お茶をこぼしちゃっただけなんだからね!」
水蜜「こ・・・これは実験のためであるからして、断じて聖が考えてるようなことがあったわけじゃないですから!」
白蓮「あらあらまあまあ」ニコニコ
店主「?」
こんな場面があると思うとトキメキを感じる。
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