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子悪魔シリーズ24

魔界神さんはあまりカリスマのないお方のようです。
この話に登場はしませんが。


霖之助 パチュリー 小悪魔







「私とアリスさんが姉妹というのは、もやは常識だと思うんですけど」


 発端は小悪魔の発した一言だった。
 その言葉を聞き、霖之助とパチュリーは顔を見合わせる。

 珍しく、少し慌てたような表情で。


「大丈夫かい? そんなことを言って、もし本人に知られたら……」
「訴えられたら不利ね。いえ、確実に負けると言っても過言じゃないわ」
「謝罪だけならともかく、賠償となると見当も付かないね」
「立ち直れる傷ならまだマシな方かも」
「いっそ大人しく謝ったら許してくれるだろうか」
「どうでしょう、ショックで寝込まないといいけど」
「ちょっとちょっと、おふたりとも!」


 小悪魔の静止の声が、地下図書館に響き渡った。
 それから唇を尖らせ、怒ったように腕を組む。


「黙って聞いてれば、まるで私が恥ずかしいイキモノみたいじゃないですか!」
「だって、なあ」
「名誉毀損くらいならまだいいほうでしょう?」
「でしょう? じゃないですよ! どういう意味ですか!」
「どういう意味って……」
「……ねぇ」


 パチュリーと顔を見合わせ、霖之助はため息を吐いた。
 まるでじゃなくてまさに、なのだが。

 また話がややこしくなりそうなので、言わないでおく。


「少なくともレミィや咲夜に、貴方の言動を注意される時はとても恥ずかしいわ」
「そんな! むしろ誇っていいところですよそこ!」
「いや、無理だから」
「うん、無理だね」
「えー?」


 首を傾げる小悪魔。
 どうやら心の底から不思議に思っているらしい。

 ……なんだか頭が痛くなってきた。

 霖之助は気分を切り替えるように、苦笑混じりに口を開く。


「そういえば、確かに前も言っていたね。魔界出身だからとか……?」
「そうですそうです。魔界の住人はすべて魔界神様が創造されましたからね。
 つまり皆兄弟姉妹ってやつなんですよ。人類と一緒ですね」
「それはちょっと違う気がするけど。なるほど、魔界神が親というわけだね」
「そうですね。でもこちらの世界ではお父様とお母様が親なのですけど……お父様を初めて見た時、私運命を感じたんですよね」


 そう言って、小悪魔はじっと霖之助を見つめた。
 ただ視線は少しだけ上だったが。


「それはどういう意味かしら?」


 その理由がわからず、パチュリーは少し間を置き、彼女に疑問を投げかける。


「それはもう。魔界神様に勝るとも劣らない立派なアホ毛が。
 これはもう運命以外の何者でもないと思いましたよ!」
「そんなもので運命を感じてたら、レミィが泣くわよ」
「さすがの彼女も、そんな運命を操りたくはないだろうな」


 小悪魔の熱い視線を避けるように、霖之助は頭を振った。
 しかしその拍子にクセっ毛もぴょこぴょこと揺れたようで、彼女を喜ばせるだけの結果になったようだ。

 行き場のない悔しさを感じながら、霖之助は言葉を続けた。


「しかし、魔界全員が兄弟か……すると他にもたくさんいるんだろうね」
「ええ、それはもう。興味あります?」
「ないといえば嘘になるかな」
「そうね。いったいどんな環境でこんなのが生まれるのかしら」
「それって褒めてます? 褒めてませんよね!?」


 小悪魔の言葉を、涼しい顔で受け流すパチュリー。
 霖之助はああなりたいものだ、と思いつつ、小悪魔の用意した紅茶を啜る。

 だが実際、魔法に携わる者としては魔界は生地とも言える場所だ。
 それに前小悪魔に持ってきてもらった魔界の道具は、どれも興味深いものばかりだった。

 機会があったら、一度覗いてみたいものである。
 ……まあ、新婚旅行にどうですかと誘われてはいるのだが。


「他に魔界の住人は、どんな人がいるんだい?」
「そうですねえ、やっぱりメイドさんでしょうか」
「メイド……?」
「ええ、魔界神様より強く作られたみたいで、そりゃもう圧倒的なんですよ、いろいろと」
「どこの世界もメイドが強いのかしら」
「いや、場所によると思うよ」


 館のメイドと館の主を思い出して、思わず笑みを漏らした。
 こちらの場合は戦闘能力ではなく、管理や運営能力の差が歴然としていた。


「あとはやっぱり、魔法使いの方が多いですね。白かったり黒かったり」
「白黒じゃなくて?」
「はい、白黒ではなくて」
「やはり魔界は魔法使いの本場だねぇ」
「お寺の大魔法使いさんも、前は魔界にいらっしゃいましたからね」
「まあ、望んで行ったわけではないでしょうけど……」


 同じ魔法使いとして、パチュリーも彼女には一目置いているらしい。
 かく言う霖之助も、彼女のことは尊敬していた。

 少し前に一度挨拶回りで紅魔館に来たことがあったのだが。
 小悪魔の暴走をすべて笑顔でスルーしたのは、彼女くらいのものだ。


「でも、お父様はご兄弟とかいらっしゃらないんですか?」
「さて、あいにく昔の記憶はないものでね」
「そうなんですか?」
「子供の頃と言ったらずいぶん昔の話だろう? そして忘れたのかはわからないけど、そのせいか親の顔も覚えてなくてね」
「ふーん。初めて聞いたわ」
「そうだったかな?」
「そうよ。何だったら、魔法で貴方のルーツを探ってみてもいいけど……」
「機会があればね。今は君たちがいるから騒がしさには事欠かないよ」


 それに巫女や白黒の魔法使いもいる。
 長年ひとりで暮らしているが、寂しいと思ったことがないのは……やはり周りの環境が恵まれているからかもしれない。
 その点は、素直に感謝である。

 ……最近になって、そう思えるようになった。
 彼女たちのおかげだろうか。


「いたらいいなと思ったことはないんですか?」
「願ったところで増えるものではないけどね」
「それはそうですが、人に言えない話も兄弟にならできたりしますよー?」
「そんなものかい?」
「私にはそんな経験ありませんけど」
「貴方、だいたい全部好き勝手に喋るでしょう」
「そんなことありませんよ?」


 ため息を吐くパチュリーに、小悪魔はすすすとすり寄った。


「お母様はいらっしゃらないんですか? ご兄弟とか」
「さて、どうだったかしら」
「お父様だって知りたがってますよ? お母様に姉妹がいるかを」
「そうなの?」
「ええ、なんたって姉妹丼は男の夢だって言ってましたからね!
 あ、親子丼ならいつでも準備万端なんですが」


 小悪魔の言葉を遮るように、パチュリーは指を鳴らした。

 するとどこからともなく包帯が延びてきて、彼女を雁字搦めに縛り付ける。
 ミイラのような姿になった小悪魔はなにやら唸りながら身悶えしていたが、飛来する包帯は容赦なく締め付けを強めていった。

 やがて小悪魔だったものがボール位の大きさになった頃、ようやく事態は収束した。
 その白い玉はゴム鞠のように撥ねながら、どこかへと去っていく。

 その姿を見送り……霖之助はパチュリーに顔を向けた。


「誤解だから、そんな目で見ないでくれないか」
「別に、何とも思ってないわよ。……まったく、分身じゃ不満なのかしら」
「まだ何も言ってないだろう」
「私も何も言ってないわよ?」
「目は口ほどにものを言いますからねぇ」


 いつの間に用意したのか、何食わぬ顔で小悪魔は自分の紅茶を飲んでいた。
 復活が早いのはいつものことなのでいいとして、どうして霖之助の隣に座っているのだろう。
 そして何故霖之助は気づかなかったのだろう。

 ……謎は尽きない。


「ところで話は戻りますが、お母様に姉妹はいらっしゃらないんですか?」
「それをどうして僕に聞くんだい?」
「だってお父様に覚えがないとわからないでしょう?」
「ん?」
「え?」


 質問の意図をよく読み取ることが出来ない。
 どうせロクでもないことだろうから、深く考える気もない。

 そんな霖之助の心境を知ってか知らずか、小悪魔はポンと手を打ち、口を開く。


「ああ、最初に言っておきますがお父様に兄弟はいませんよ。
 お母様が身体を許したのはお父様だけですからね!」
「それって……」


 やっぱりロクでもなかったらしい。
 そんなところに話を戻さなくてもいいのにと思いつつ、話題を変えようとして……。

 霖之助より先に、パチュリーが口を開いた。


「まあ、何人かいるわよね」
「……いや、パチュリー?」
「別にいいのよ、気にしてないから。そういうコミュニケーションは人それぞれだし、魔女にだってそういう宴はあるわ。私はやってないってだけで」
「……そうだね」


 手元の本に視線を落とし、顔を上ぬまま、淡々と。
 目は口ほどに、と言ったばかりだが、目が見えないのもそれはそれで怖い。とても怖い。

 霖之助としても、あくまでそう言うことがコミュニケーションの相手とだけ行っているに過ぎない。
 商売の基本は相手の要望に合わせることだ。

 ちゃんとパチュリーにも話した事があるし、そもそもずっと昔の話である。

 ……なのに、どうしてお見通しなのだろう。


「別にいいのよ、気にしてないから。
 ああ、今度文と会ったら例の本見つかったか聞いておいてくれるかしら」


 ……本当に、どうしてお見通しなのだろう。

 戦々恐々とする霖之助に、小悪魔は驚いた表情を浮かべた。
 まだ気づいてなかったのか、と言わんばかりの表情を。


「そりゃ、お父様から他の女の匂いがすれば気づきますよね、普通」
「冗談……だよな?」
「あれあれ信じてないんですか? ちなみにお母様と会ってから他の女の匂いが何回カウントされたかというと」
「いや、よくわかったからそれ以上は言わなくていいよ」


 まさか知ってて黙ってのだろうか。
 言う機会を窺っていたとは思いたくはないが。

 そんなことを考えていると、パチュリーと目が合った。


「別に、いいのよ?」
「……ちょうど上げようと思ってたプレゼントがあってね。今度持ってくるよ」
「おっ、困った時はプレゼントで挽回ですね! お父様もわかってきたじゃないですか!」
「少し黙っててくれないか」
「お断りします」


 にっこりとした顔で真っ向否定である。

 まあどのみち先日いい万年筆を入荷したので、パチュリーにあげようと思っていた。
 何か機能を混ぜ込もうと思い、まだ調整中なのだが。

 あと天狗の羽根で羽根ペンも作ってみたものの……今は出さない方がいいだろう。


「でもお母様ったらプレゼントと聞いてちょっとテンションあがったみたいですよ。
 ほら、いつもより髪の毛がふわふわに」
「いや、そう言われてもわからないんだが」
「自分でも知らないんだけど」
「そうですか?」


 パチュリーは自分の髪に手を置き、目を瞬かせていた。
 初めて言われたのだろう。

 よく見ているものだと感心する。
 本当かどうかもわからないし、情熱のかけ場所を間違っている気もするけれど。


「で、アリスがどうかしたのかい?」
「そうそう、そうでした。実はですね、先日ちょっとアリスさんとお茶してたんですよ」
「意外だね、君にそんな交友関係があったなんて」
「そうですか? だってほら、姉妹ですし」
「いや、強調しなくていいけど」


 当のアリスはどんな気分なのだろうか。
 聞いてみたくもあるし、聞くのが怖くもある。


「それで、お父様がうちにいろいろと本を持ち込んでいることにアリスさんが興味を持たれたようで。
 今度一度見に来たいと仰ってたわけですが」
「まあ、いいんじゃないの。知らない仲でもないし、勝手に持ってったりしないでしょうし」
「……何か言いたそうだね」
「別に」


 言わずもがな、魔理沙のことだろう。

 確かに霖之助は秘蔵の本だったものも紅魔館に持ち込むようになっていた。
 こっちにいる時間が増えたこともあるし、彼女に読んでもらいたいという理由もある。

 それになにより、保管場所としてはこれ以上ない環境なのだ。
 大事な本だからこそ、持ってきたわけである。


「そうですか、よかったです」


 そこまで聞いて、小悪魔はほっと胸を撫で下ろした。


「ちょっとうっかりしてお父様の来る日と被っちゃったりしましたけど」
「…………」


 瞬間、空気が凍り付く音が聞こえてきた。
 パチュリーの視線が小悪魔を向き、それから霖之助を刺してくる。

 その時ようやく、小悪魔が何故霖之助の隣に座ったかを理解した。


「小悪魔、急にパチュリーの機嫌が悪くなった気がするんだが」
「ええ、そうですねぇ。ついうっかり私がおふたりの時間を邪魔しちゃったからでしょうか」


 わかっているなら最初からやらないで欲しい。
 だが霖之助がそう言う前に、彼女は先手を打つように耳打ちしてきた。


「これはお父様がなんとかするしかありませんね!」
「僕がかい?」
「それはもちろん」
「何がもちろんなのか説明してほしいんだが」
「えっ、だってこの事態を収拾できるのなんてお父様を置いて他にいないでしょう?」
「自分で蒔いた種は自分で処理するのが筋じゃないかな」
「でもお父様が蒔いた種はお母様が育てるんですよね」


 文句を言うだけ無駄だとわかった。
 霖之助は頬を掻き、しばし考える。

 つまりまあ、答えはひとつなのだが。


「あー……パチュリー?」
「何かしら」


 彼女の不機嫌そうな声は、何度聞いても慣れるものではない。
 霖之助は彼女の瞳を覗き込むようにして、言葉を紡ぐ。


「今度アリスが来るそうだけど」
「そのようね」
「さっき言ったプレゼントを渡したくてね。
 アリスがいると恥ずかしいから……その次の日も、来てもいいかな?」
「…………」


 一瞬、彼女の瞳が揺れた。

 それからコクンと頷き、顔を伏せる。
 頬が紅くなっているように見えるのは、気のせいではないと思いたい。


「というわけで、危機は去ったのでありました」
「誰のせいだと思ってる」
「えー、少なくともお父様のせいじゃないですねぇ」


 反省している様子はないらしい。
 小悪魔と、そして満足そうなパチュリーを見比べ、霖之助はピンと閃いた。


「わかった。ひょっとして君ら、僕が来る日を増やそうとしているだろう」
「え? 今更何を言ってるんですか?」
「意外そうな顔をされても僕が困るんだが」
「だってどっちもお得でしょう? うぃんうぃんの関係ってやつですよね」


 言葉の意味はよくわからないが、なんだかすごい自信だった。


「別に、それだけが理由じゃないわよ」


 霖之助が二の句を継げずにいると、パチュリーは笑みを浮かべる。

 本を閉じ、懐から鍵を取り出した。
 霖之助、とネームが切ってある。

 ……名称はルームキー。用途は扉を開けること。


「一言で言うと慣れかしら」
「……慣れ?」
「そう。貴方がいつ紅魔館に住むことになっても、困らないようにね」

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非公開コメント

No title

アリスと小悪魔が姉妹・・・
ということはアリスにも「お父様」と読んでもらえるのだろうか?

・・・1日会える日が増えるだけで機嫌が直るパチュリーさんに2828

すかいはい

誤字です。期限→機嫌


つまり、アリスは神崎と霖之助の娘だったわけだね!

なるほどこの霖之助さんの種から生まれたから子悪魔がこうなのか

No title

驚愕の新事実!!

衝撃的すぎて何回も読み直しちゃった。

No title

(魔)女って怖いですね。
それに子(悪魔)も親のことよく見てますねぇ。
3人の会話や反応はもちろんですが子悪魔シリーズで一番楽しみなのは子悪魔の(強制)退場シーンだったりします。

No title

やべぇ!訴えられたら確実に負けるよ!(待
それはさて置き、小悪魔がマジ策士。侮れないな!
でも、もし霖之助さんから魔理沙の匂いがしたらその時は許してもらえないかも……
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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