タイプと湯飲み
ブログの設定を放っておいたら勝手に広告が表示されて困る。
レイアウトおかしくなったし……仕方ないのでデザインを変えてみた。
まあそんなことはともかく、リンクを貼った十四朗さんの紫SSを読んでたら僕も書いてみたくなった。
……僕が書くと紫じゃなくてゆかりんになってしまうんですけどね。
あの小さい方の。
霖之助の好きなタイプは? と尋ねる紫。
霖之助 ゆかりん
「霖之助さんの好みって、どんなタイプかしら?」
唐突な質問に顔を上げると、すぐ近くで紫がスキマから上半身を乗り出していた。
入ってくるなら扉から、といつも言っているのに聞いてくれない。
もっとも、霖之助の忠告を聞いてくれる来客などほとんどいないのだから期待する方が無駄だということだろうか。
「そうだね……」
霖之助はひとつ頷くと、紫をじっと見つめた。
答えが返ってくるとは思ってなかったのだろうか。
彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべると、期待に満ちた瞳で見返してくる。
「まずは知的で」
「ええ」
「外の道具に興味があって」
「ええ、ええ」
「頻繁に店に来てくれて」
「それって……」
だんだんと紫の相槌を打つトーンが上がってくる。
霖之助はそこで言葉を切り、視線を店内に向けた。
相変わらず客がいない店。
「たくさん買い物してくれる人かな」
「…………」
紫が肩を落としたのが見てなくてもわかる。
すると霖之助の眼前にスキマが開き、ジト目の紫が移動してきた。
「私が聞いたのは好きな客ではないわよ」
「しかし好きなタイプ、と聞かれたのでね」
しれっと答える霖之助。
「それにこの店はこの上なくこの森近霖之助という人物を体現している。
つまりこの店の客こそ僕の好きなタイプと言っても過言ではないのではないか」
「だからそんなことは聞いてないの」
紫はどん、と机を叩いた。
霖之助の湯飲みが揺れ、倒れそうになった瞬間……スキマが現れ、紫の手に移動する。
「女性として……例えば伴侶にするならどんな娘がいいか、を聞いてるのよ。
例えば髪が長かったり、金髪だったり、背が低かったり、スキマが使えたりとかいろいろあるでしょう?」
「難しい質問だね。
ああ、そうだ。君の言うことはいつも難しい」
霖之助は彼女の言葉に大仰に頷いた。
無言のまま指先でトントンと机を叩く。
考えをまとめているのだろう。
紫は彼の言葉を待ちつつ、手にした湯飲みを一口。
「そもそも長い間添い遂げようとするなら見た目より中身を重視すべきだろう。
言うまでもないが、僕は人間と妖怪のハーフだ。
妖怪というものは肉体より精神が大事で――。
……と、その例を出すまでもなく、もし結婚したとしても一緒にいて気疲れするようなタイプと上手くいくとは思えない」
「なるほど、一理あるわね」
「まあ、外見も良いに越した事はないけどね」
「…………。
じゃあそれでもいいわ。教えて頂戴」
紫はため息をひとつ吐くと、諦めたように湯飲みをテーブルに置いた。
空いた手で扇子を取り出し、スキマに頬杖を突く。
「好きなタイプね……」
霖之助は再び紫をじっと見つめた。
紫の脳裏に、嫌な予感がよぎる。
「まず、最低限の礼儀を弁えていて」
「貴方の読書の邪魔をしない様に、静かに店内へ入るわ。スキマで」
「ちゃんとお金を払ってくれて」
「対価に灯油を渡してるわね。釣り合ってるかはともかく」
「僕の話を聞いて理解してくれて」
「ええ、貴方の素敵な声を途中で遮るなんてとんでもないことよ」
「それでいて鵜呑みにせず、きちんと自分の意見で反論してくれたりする」
「間違えている所を指摘した時の表情の変化がたまらないわよね」
「最後に、必要以上に自分に干渉しない」
「呼ばれない限り隙間からそっと覗いてるわ。
邪魔なんてしてないもの」
じっと見つめる。見つめ合う。
「……冗談よ」
「冗談だ」
顔を見合わせ、乾いた笑いを浮かべるふたり。
霖之助は乾燥した唇をお茶で湿らし、紫から視線を逸らす。
「……なんだか疲れたわ」
「僕もだよ」
苦笑を浮かべる霖之助。
すると再び紫がスキマごと彼の目の前に現れる。
「霖之助さんたらちっとも本当のことを言わないんだもの」
紫は恨みがましい目で霖之助を見つめてきた。
仕方ないので、霖之助は肩を竦めて答える。
「そうだね、僕の好みは紫みたいな少女のことだよ」
「はいはい、私も貴方みたいな人好きよ。じゃあね」
ひらひらと手を振りながら、紫の姿がスキマに消える。
霖之助はしばらくそのままの体勢で周囲を観察していたが、やがて彼女が居なくなったことを確認するとようやく姿勢を崩した。
「やれやれ」
――冗談は言ったが嘘は言ってない。
面と向かって言えるようなことでもないわけだし……。
「紫様」
「なぁに?」
「……なにやら嬉しそうですね、何かありましたか?」
「うふふ」
紫は藍に微笑みだけで答えた。
足取りは軽い。
心も軽い。
春、とはこういうときのことを言うのだろう。
――嬉しいこともあったし……。
紫はそっと唇を指で押さえた。
「あれでばれてないと思ってるのかしら。ほんと、可愛いんだから」
レイアウトおかしくなったし……仕方ないのでデザインを変えてみた。
まあそんなことはともかく、リンクを貼った十四朗さんの紫SSを読んでたら僕も書いてみたくなった。
……僕が書くと紫じゃなくてゆかりんになってしまうんですけどね。
あの小さい方の。
霖之助の好きなタイプは? と尋ねる紫。
霖之助 ゆかりん
「霖之助さんの好みって、どんなタイプかしら?」
唐突な質問に顔を上げると、すぐ近くで紫がスキマから上半身を乗り出していた。
入ってくるなら扉から、といつも言っているのに聞いてくれない。
もっとも、霖之助の忠告を聞いてくれる来客などほとんどいないのだから期待する方が無駄だということだろうか。
「そうだね……」
霖之助はひとつ頷くと、紫をじっと見つめた。
答えが返ってくるとは思ってなかったのだろうか。
彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべると、期待に満ちた瞳で見返してくる。
「まずは知的で」
「ええ」
「外の道具に興味があって」
「ええ、ええ」
「頻繁に店に来てくれて」
「それって……」
だんだんと紫の相槌を打つトーンが上がってくる。
霖之助はそこで言葉を切り、視線を店内に向けた。
相変わらず客がいない店。
「たくさん買い物してくれる人かな」
「…………」
紫が肩を落としたのが見てなくてもわかる。
すると霖之助の眼前にスキマが開き、ジト目の紫が移動してきた。
「私が聞いたのは好きな客ではないわよ」
「しかし好きなタイプ、と聞かれたのでね」
しれっと答える霖之助。
「それにこの店はこの上なくこの森近霖之助という人物を体現している。
つまりこの店の客こそ僕の好きなタイプと言っても過言ではないのではないか」
「だからそんなことは聞いてないの」
紫はどん、と机を叩いた。
霖之助の湯飲みが揺れ、倒れそうになった瞬間……スキマが現れ、紫の手に移動する。
「女性として……例えば伴侶にするならどんな娘がいいか、を聞いてるのよ。
例えば髪が長かったり、金髪だったり、背が低かったり、スキマが使えたりとかいろいろあるでしょう?」
「難しい質問だね。
ああ、そうだ。君の言うことはいつも難しい」
霖之助は彼女の言葉に大仰に頷いた。
無言のまま指先でトントンと机を叩く。
考えをまとめているのだろう。
紫は彼の言葉を待ちつつ、手にした湯飲みを一口。
「そもそも長い間添い遂げようとするなら見た目より中身を重視すべきだろう。
言うまでもないが、僕は人間と妖怪のハーフだ。
妖怪というものは肉体より精神が大事で――。
……と、その例を出すまでもなく、もし結婚したとしても一緒にいて気疲れするようなタイプと上手くいくとは思えない」
「なるほど、一理あるわね」
「まあ、外見も良いに越した事はないけどね」
「…………。
じゃあそれでもいいわ。教えて頂戴」
紫はため息をひとつ吐くと、諦めたように湯飲みをテーブルに置いた。
空いた手で扇子を取り出し、スキマに頬杖を突く。
「好きなタイプね……」
霖之助は再び紫をじっと見つめた。
紫の脳裏に、嫌な予感がよぎる。
「まず、最低限の礼儀を弁えていて」
「貴方の読書の邪魔をしない様に、静かに店内へ入るわ。スキマで」
「ちゃんとお金を払ってくれて」
「対価に灯油を渡してるわね。釣り合ってるかはともかく」
「僕の話を聞いて理解してくれて」
「ええ、貴方の素敵な声を途中で遮るなんてとんでもないことよ」
「それでいて鵜呑みにせず、きちんと自分の意見で反論してくれたりする」
「間違えている所を指摘した時の表情の変化がたまらないわよね」
「最後に、必要以上に自分に干渉しない」
「呼ばれない限り隙間からそっと覗いてるわ。
邪魔なんてしてないもの」
じっと見つめる。見つめ合う。
「……冗談よ」
「冗談だ」
顔を見合わせ、乾いた笑いを浮かべるふたり。
霖之助は乾燥した唇をお茶で湿らし、紫から視線を逸らす。
「……なんだか疲れたわ」
「僕もだよ」
苦笑を浮かべる霖之助。
すると再び紫がスキマごと彼の目の前に現れる。
「霖之助さんたらちっとも本当のことを言わないんだもの」
紫は恨みがましい目で霖之助を見つめてきた。
仕方ないので、霖之助は肩を竦めて答える。
「そうだね、僕の好みは紫みたいな少女のことだよ」
「はいはい、私も貴方みたいな人好きよ。じゃあね」
ひらひらと手を振りながら、紫の姿がスキマに消える。
霖之助はしばらくそのままの体勢で周囲を観察していたが、やがて彼女が居なくなったことを確認するとようやく姿勢を崩した。
「やれやれ」
――冗談は言ったが嘘は言ってない。
面と向かって言えるようなことでもないわけだし……。
「紫様」
「なぁに?」
「……なにやら嬉しそうですね、何かありましたか?」
「うふふ」
紫は藍に微笑みだけで答えた。
足取りは軽い。
心も軽い。
春、とはこういうときのことを言うのだろう。
――嬉しいこともあったし……。
紫はそっと唇を指で押さえた。
「あれでばれてないと思ってるのかしら。ほんと、可愛いんだから」