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ヤバドゥ! ヤバドゥ!
yamotoさんの慧霖(?)SS『慧音と僕の関係が気まずい理由』を読んで、よし僕も書くかと思いついたネタを。
いや喋ってて思いついただけなんですが、はい。


霖之助 慧音









「霖之助」


 夕暮れの寺子屋で、慧音が声を上げた。
 咎めるような響きを含んだそれに、霖之助はバツが悪そうな表情を浮かべる。

 慧音は湯飲みをぐいと傾けると、ジト目で霖之助を睨んだ。


「人にものを頼む時くらい、単刀直入に言ったらどうだ」
「あ、ああ……」


 だが霖之助から出てくるのは歯切れの悪い返事ばかり。
 業を煮やした慧音は、大きくため息を吐いた。

 昔から頼み方が下手だな、と呟きながら。


「つまりお前はこう言いたいんだろう。
 金を貸してくれ、と」
「……その通り、だ」


 ズバリと言い当てられ、霖之助は鼻白んだ。
 予想を当てた慧音とは言うと、面白くなさそうに肩を竦める。


「まったく、珍しくお前の方から来たと思ったらそんな用件とはな」
「すまない」
「そう思うならもっと顔を出せ」
「無沙汰をして悪いとは思っているよ」


 霖之助は姿勢を正し、ここが踏ん張りどころとばかりに攻勢をかける。
 攻勢と言っても、頭を下げるだけなのだが。


「必ず返すから、少しだけでも頼めないかな」
「金を借りる時は誰だってそう言うんだ。
 霖之助、今のお前は誰がどう見てもダメ人間だぞ?
 霧雨の親父さんやあいつらが見たらどう思うかな」
「う、む……。できれば誰にも内緒にしてほしいんだが……」
「やれやれ。子供達を先に帰して正解だったな」
「胸が痛いよ」


 照れたような霖之助の笑みに、慧音は少し表情を和らげた。


「まあ、理由は聞いたからな。考えてやらんこともない」
「本当かい? 是非お願いしたいね」


 ここ幻想郷では物々交換でも売買が成立するわけで、必ずしも通貨が必要というわけではない。
 にもかかわらずこうして霖之助が借金の申し立てに来ているのには理由があった。


 霧雨の親父さんの店では魔法の道具を扱わないが、魔法の道具を持ち込む客がいたり、そういうものを拾ったりすることもある。

 基本的にそんな道具は親父さんが八雲さんに売るのだが、その前に霖之助が買い取ることも出来た。
 出来た、というのはもちろん毎回買えるというわけではないからだ。

 客から捨て値で買い取っているにも関わらず、親父さんはきちんと適正価格で霖之助に売りつけてくる。
 魔法の道具なので無駄に高いし、ヒヒイロカネの適正価格なんて考えたくもない。


 もちろんそういった道具はそのままでは使えないから、霖之助が商品に加工したり自分の研究用に使ったりする。

 たいていは倉庫で眠ることになるが、たまに売れたりすることがある。
 幽香の傘がいい例だ。
 そうなればリターンも大きいのだが、そんなものはほとんどないのが実情だ。

 趣味だからそれはそれで構わない。
 しかしそんなことをやっていると霖之助の貯蓄は減っていくばかりなわけで。


 ……という話を長々としたら怒られ、今に至る。


「いくつか聞きたいことがある」
「ああ、何でも聞いてくれ」


 開き直りにも似た心境で、霖之助は胸を張った。
 今更ジタバタしても仕方がない。


「何故私なんだ?」
「何故って……慧音が最初に思い浮かんだからだよ」


 金の無心をしようと決めた時、確かに選択肢はいくつかあった。

 だがそれを大口の顧客から選ぶのは気が引ける。
 金を持っているのは間違いなく紅魔館だろう。
 しかしそうなると普段の取引が不満だと言っているようで選ぶことが出来なかった。

 したがって霖之助が最初に選んだのが、昔から付き合いのある彼女になったということだ。


「ふむ、最初か。うむ」


 最初と聞いて、なんだか喜んでいるようだ。
 間違ったことは言っていないので、あえてそれ以上は触れないことにする。


「しかし霧雨の親父さんなら、ツケにしてもらうことは出来なかったのか?」
「親父さんは魔法の道具に厳しい人でね。ツケで払うくらいなら八雲さんとこに渡すよ、あの人は」
「そうか。お前も大変だな……」


 さらに面倒なのは、霧雨の親父さんはこの取引に関して通貨しか受け取らないことだ。
 物々交換が可能ならまだいくらでもやりようはあるのだが。

 やはり魔理沙の魔法の一件が尾を引いているのかもしれない。


「で、結局いくら貸して欲しいんだ?」
「それなんだが……」


 恐る恐ると言った様子で、霖之助はノートにペンを走らせた。
 その金額を見て、慧音は目を丸くする。

 普通の人間なら数年は遊んで暮らせる額だ。
 これでもどうしても買いたい品ばかり選んだにも関わらず、だ。


「もちろん全部とは言わない。慧音が貸せる範囲で構わないんだ」


 慌てて付け加える霖之助に、慧音はうなり声を上げた。
 ややあって、少しだけ不安そうに口を開く。


「もし私がこの一部を貸したら、お前はどうするつもりなんだ?」
「まあ、残りを誰かに借りに行くだろうね。
 稗田……は、面白可笑しく親父さんに伝えそうで嫌だし。
 地底の主は……通貨が違うかもしれないんだよなぁ。聞いたことないけど」


 候補になるのは稗田だろうか。
 紅魔館とどちらが最終手段か迷うところだが。


「つまり他のオンナのところに行くのか……」
「何か言ったかい?」
「何でもない」


 慧音は首を振ると、意を決したように顔を上げた。
 霖之助の目をまっすぐに見つめ、宣言する。


「わかった、貸してやる」
「本当かい?」


 思わず胸を撫で下ろした。
 正直、半分くらい無理だと思っていた。


「早速こういうことを聞くのもなんだが、どれくらい可能なのかな」


 彼女の顔色を窺いながら、尋ねる。


「全部だ」
「……え?」


 返ってきた言葉に、思わず耳を疑った。


「だから全部だと言っている」


 どうやら間違いではないようだ。
 ついでに夢でもないらしい。


「慧音、そんなに貯め込んでいたのかい?」
「別にいいだろう! 勝手に貯まるんだから!」


 少しだけ恥ずかしそうに、慧音は早口でまくし立てる。

 本人も倹約する性格であるし、保護者からいろいろ貰うため生活費もかからない。
 それに歴史の編纂で八雲さんや稗田家から報酬を貰っていたりするようで。


「なるほどね。よくわかった。でもそれにしたって……」


 これで慧音の貯金が全部というわけでもないだろうし。
 いったいどれほど貯め込んでいるというのだろうか。


「あった方がいろいろといいだろう!
 その、支度金とか……」
「そりゃ、ないよりはいいだろうけどね」


 旅行の支度でもするのだろうかと思いつつ、霖之助は肩を竦めた。


「金は天下の回りものって言葉がなんだか虚しく聞こえてきたよ」
「私だって回す努力をしているんだ」
「例えば?」


 彼の問いに、慧音はそっと目を逸らす。


「……週末、ちょっと気取った店で食事をしてみたりとか」
「もうちょっとあるだろう、いろいろと」
「そう思うならお前が連れて行け!」


 驚いた様子の霖之助に、思わず慧音は言い返し……。
 ハッと気がついたかと思うと、コホンと咳払い。


「とにかく、貸すのはいいがいくつか条件がある。
 まず最初に、約束通り必ず返すんだろうな?」
「ああ、もちろんさ。ちゃんとアテもあるんだ」


 貸し借りは正式な契約の元で行われなければならない。
 ましてや金額が金額だけに、虚偽は許されない。

 そう、許されないのだ。


「……9割は、だけど」
「何?」


 霖之助が正直に言うと、慧音は眉根を吊り上げた。


「残り1割は、商品が売れ次第と言うことになるね、うん」
「……呆れた。そんな皮算用で借金しようと思っていたのか」
「いや、ちゃんと目標金額までの在庫はあるんだ。あとはあれが売れれば……」
「その売る気がないのが問題なんだろう」
「僕の経営に不満でも?」
「そう思うなら、もうちょっと接客態度を改めたらどうだ」
「痛いところを突くね」


 苦笑する霖之助に、慧音はため息。
 呆れてものが言えないのだろう。

 胸中が察せるだけに、心が痛い。


「それに今回の仕入れで道具を作れば、元を軽く取れるだけの価値が」
「売れれば、だろう」


 ざっくりと一刀両断された。
 二の句が継げなくなっている霖之助に、慧音はやや視線を強める。


「ちゃんと通貨で返すんだろうな、霖之助」
「ああ、もちろんさ」


 物々交換は便利だが、人によって価値観というものは違う。
 つまりそれは、いくら高価な道具だとしても慧音にとって価値がなければ返済にはなり得ないということだ。

 そんなものにそんな金額を出すなんて、というのは禁句である。


「じゃあ利息もしっかり計算に入れていいんだな」
「……あ、ああ」


 少しの利息と言っても元が元だ。
 借金で首が回らなくなるのは本望ではない。

 地獄の沙汰を待つような面持ちの霖之助に、慧音は少し笑みを浮かべる。


「そんな顔をするな。何も利息を金で取るとは言ってないだろう?」
「うん?」
「霖之助が返しきるまで、私はお前の時間を少し貰うぞ」
「時間を? まるでメイドみたいだね」
「なんだ、不満か?」
「不満も何も、どういう事か説明してくれないか」


 当然と言えば当然の疑問だろう。

 だが慧音はなにやら言いにくそうに視線を彷徨わせた。
 頬をかき、照れたように口ごもる。


「だからだな、その……毎日顔を出せと言うことだ!」


 しばらくの時間が空き、ようやく彼女が提示した条件に、霖之助は首を傾げる。


「……それだけでいいのかい?」
「それだけって……私がこれを言うのにどれだけ……」


 慧音はわなわなと震えていた。
 どうやら怒らせてしまったらしい。


「なら、毎日最低一時間はいてもらおうか。
 商売の邪魔にならぬよう、時間は好きな時でいいが、昼間だったら寺子屋の手伝いをしてもらうぞ。
 夜だったら……そうだな、晩酌にでも付き合ってもらう。
 あ、でも夕食を一緒に食べた方が……」
「慧音、慧音」


 藪をつついてなんとやら。
 次々と増えていく条件に、霖之助は苦笑を浮かべた。


「わかったから、あまり焦らないでくれ。
 細かいことはおいおい決めていけばいいだろう?」
「そ、そうか」


 ようやっと彼女は納得しかけたようだが……。
 やがて上目遣いに、ひとつの疑問を投げかけた。


「……金の切れ目が縁の切れ目、なんてことはないよな?」
「君は何を言ってるんだ」


 借りる側だというのに、霖之助はため息を吐いてしまった。
 そんな風に思われるのはいささか心外である。

 その気持ちが通じたのか、彼女はぱっと表情を輝かせた。


「じゃあ、早速明日から頼むぞ。待ってるからな! 忘れるなよ! 約束だぞ!」
「念を押さなくてもわかっているよ」


 大金を貸したと言うのに、ずいぶん嬉しそうだ。
 霖之助としても、この表情を壊すことはしたくない。


「でも、他の人には秘密にしてくれよ?
 僕が慧音から借金してることなんて……」
「見栄っ張りめ。だがしっかりと任せておけ」


 慧音は呆れたように笑うと、自信たっぷりに頷く。


「あくまでも自主的に、霖之助が来たくて私に会いに来てるんだと伝えておくからな!」
「……うん」


 それでいい。

 それでいいはずなのだが、何か取り返しの付かないことをしてしまった気分になっていた。

 だがその原因に気づくことなく、霖之助は契約書にサインした。





 数年後に別の書類にサインすることになるとは、思いもせずに。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

お金を借りられてさらに慧音さんに毎日会えるなんて霖之助さん裏山!慧霖はよきものですウフフ

婚約書なら仕方ない。
けど、一瞬自己破産申請書かと思ってしまったww

そういえば全キャラ分の話って書いてるんだっけ?霖之助とのカップリング

No title

霖之助さんがお金を返せず、慧音先生のペットにされちゃわないかなー!

もしかしてこの話の後に「森近先生」につながるんだろうか・・・
やっぱり慧霖はいいですなぁ

自主的に霖之助さんが会いに行くということで

人里に慧音と霖之助が交際してると思わせるんですね流石、慧音先生賢い

この話の続きを期待しても良いですか?
主に書類にサインの所のを

No title

あの店主を自主的に会いにこさせるなんて…慧音先生さすがです。

自主的に会いに来させる→周りで噂が広まる→しばらくすると事実婚だと認識される→ご結婚おめでとうございます

No title

金がないのって絶対紅白と白黒のせいだよな・・・・・w と思った今日この頃

墓穴を掘ったな!お前たちが支払いさえしていれば、けーね先生に盗られくぁwせdrtgyふじこ(ピチューン

まぁそこまで影響は無かったかもですがww
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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