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特注の日々

アデニンさんの絵にSSをつけさせていただきました。
感謝感謝。ウフフ。


霖之助 レミリア 咲夜







おちゃ


「熱っ」


 小さな悲鳴に、霖之助は顔を上げる。
 本人は聞こえないようにしたつもりだろうが、カウンターの対面に座る霖之助には丸聞こえだった。


「まだ熱かったかい? 少し冷ましたつもりだったんだが」
「別に平気よ、これくらい」


 涙目になりながら、レミリアは湯飲みに口を付ける。
 おっかなびっくりといったその仕草に、霖之助は苦笑を浮かべた。

 火に焼かれたくらいでは怪我も負いそうにない彼女だが、熱いものは苦手らしい。


「玉露は煎茶より温度は低いんだがね」
「まだまだですわね、霖之助さん」


 茶缶を仕舞う彼に、咲夜は笑いながら言葉を投げた。
 両手で持ったカップから確かめるようにして味わうと、再び口を開く。


「美味しく入れる温度と美味しく飲める温度は違うのですわ」
「それはわかっているつもりだよ。
 レミリアの好みの温度まではわかってなかったのは事実だけど……」
「だから平気だって言ってるでしょ!」


 翼を広げて威嚇してくる彼女の目の端には、やはり涙が浮かんでいた。


「それに、熱いだけが原因じゃないようですし」
「んん?」
「……何ジロジロ見てるのよ」
「ふふっ」


 咲夜の笑いに合わせ、犬耳のような彼女のくせっ毛がぴょこぴょこと揺れる。
 霖之助と同じような銀髪だが、彼女の方が少し明るい。


「ひょっとして、苦かったかな」
「違うわよ! 咲夜も笑わない!」
「それは済みませんでした、お嬢様」
「なるほどね」


 ひとつため息を吐くと、霖之助はレミリアに視線を向ける。

 玉露は煎茶と比べて甘みがある。
 だがそれもこれも入れ方ひとつで変わるものだ。
 今回の入れ方は、レミリアの好みに合わなかったらしい。

 いや、紅茶などは元々砂糖などを入れて飲むようになっている。
 となると、何も入れない緑茶を飲み慣れていないだけかもしれない。

 とはいえ神社に遊びに行った時など普通の緑茶も飲んでいるはずではあるが。


「別に残しても構わないよ。何なら紅茶を用意するけど……」
「店主が入れたものだもの、全部飲むわよ」


 レミリアは首を振り、ゆらゆらとカップを揺らす。
 そのあたりの礼儀はさすがお嬢様と言ったところか。


「うちで一番高いお茶だったんだがね」
「値段はひとつの尺度ですけど、それが全てではありませんわ」
「違いない」
「減点1ですね、霖之助さん」
「仕方ないな」


 咲夜に言われ、首を振る霖之助。
 高価なものならいいというわけではないのだ。

 ……ところで。


「で、これは何の試験なんだったかな」
「あら、言いませんでしたっけ?」


 お茶を飲んでいるレミリアを見守りながら、咲夜は首を傾げた。


「私は店主さんを高く買ってるんですよ」
「それはありがたい話だが……」


 それを聞いたのは今日2回目だ。
 最初は1時間ほど前、彼女たちが香霖堂にやって来た時。


 ――店主さんを高く買っていいですか?


 その次がこの試験である。
 全く訳がわからない。


「レミリア、これを一緒に食べるといいよ」
「……ありがと」
「あら、これはプラスポイントですね」
「それはどうも」


 3人分のお茶菓子を用意し、霖之助もひとつ手に取った。
 もなかと羊羹である。
 取っておいても霊夢に持って行かれるだけなので、食べてしまおうと思ったのだ。


「おいし……」


 顔を綻ばせる彼女に、霖之助も笑みを零した。
 吸血鬼に和菓子というのもなかなかミスマッチな光景だが、なかなかどうして悪くない。

 そんなことを考えていると、メイドがなにやら笑っていた。


「それで、明日の夜から始めようと思うんですけど」
「そりゃまた急だね。で、何をするんだい?」
「フラン様が外に興味を持ち始めたご様子ですので、食事会などを」
「ふむ、それはいいことじゃないか」


 彼女たちを取り巻く環境はここ数年で大きく変わってきた。
 その中でも巫女と魔法使いの存在が大きいらしい。

 そしてそのふたりの保護者のような存在である霖之助にレミリアが興味を持ったのは、もしかすると必然だったのかもしれない。


「たぶんこれから家具を買いに来ることが多くなると思うので、その時はよろしくお願いします」
「ああ、それはこっちとしてもありがたいね」


 彼女たちがよく買っていくのはアンティークのティーカップなどだ。
 それなりに値が張る物が多く、上客たる理由のひとつでもある。

 ただ同時にそれは、壊れることが多くなるとの宣言でもありちょっと複雑だった。
 極力咲夜がなんとかはするだろうが……。


「で、霖之助さんはレミリアお嬢様の着替えを手伝ってもらってですね」
「ちょっと待て、何故そうなるんだい?」
「へ?」


 思わず聞き返し、逆に聞き返された。
 首を傾げられても、さっぱり意味がわからない。


「だってそう言う契約じゃないですか」


 何を言っているのだろうか。
 しかしながら天然な咲夜はよく思考が飛ぶことはあれど、頭の回転が速い少女でもある。
 考えてわからないこともないはずだと、霖之助は思考を巡らせる。

 そしてふと、ひとつの可能性に思い当たった。


「もしかして、さっきの高く買うって……」
「最初からそう申し上げておりますのに」


 さも当然といった様子で、咲夜はため息を吐いた。
 いや、あの言葉だけでどうやって理解しろと言うのだろうか。


「いろいろと言葉が足りてなさ過ぎるのは、この際置いておこう」


 これもいつものことだ。
 困ったことに。


「僕の手が足りないほど、ということかな」
「そうよ」


 返事をしたのは、お茶菓子を食べ終わったレミリアだった。
 すっかり冷めたお茶がちょっと残っているが、やはり苦かったのかもしれない。


「フランに地上の部屋を与えようかと思ってるのだけど。
 どうしてもその間、フランの面倒をみなくちゃいけないわ。
 あの子、まだ何するかわからないから」
「ふむ」


 ずっと地下で生活していたフランドールのことだ。
 やはりいろいろと経験が足りないということか。

 慣れるまでサポートが必要なのは頷ける。


「で、その役目を咲夜に頼もうかと思ってるのだけど」
「まあ、適任だろうね」
「その時お嬢様の世話をする人が必要なんですよね」


 だいたい事情が読めてきた。
 ……最初から説明してくれればよかったのに。


「それで是非、霖之助さんにと」
「もっといろいろ選択肢もあったろう」


 咲夜の言葉に苦笑で返した。
 するとレミリアは霖之助を見上げ、呟く。


「……イヤなの?」
「イヤってわけではないがね」


 レミリアはワガママなお嬢様であるが、話が通じる少女でもある。
 いかにも妖怪らしいその態度は、霖之助にとって好ましいものに思えた。

 それに間違いなく、退屈はしないだろうし。


「大丈夫よ、あなたなら」
「そう言ってくれると助かるが……ふむ」


 霖之助に対し、レミリアはワガママをよく言う。
 だがそれはどれもやればできる範囲内だった。

 だから、今回のこれも可能なのだろう。
 霖之助がやりさえすれば。


「いいだろう。しかしいくつか条件がある」
「ほんと? ……で、何かしら」


 パッと顔を輝かせ……慌ててレミリアは取り繕う。
 この大人ぶった態度が、かえって子供らしく見せていることを本人は気付いてないらしい。


「まあ、あまり連続勤務じゃなくしてくれるとありがたいね。
 僕としても、あまり店を空けるわけにもいかないんだ」


 霊夢や魔理沙にしばらく留守番を頼んでもいいのだが、何を持って行かれるかわかったものではない。
 頼んで聞いてくれるかはまた別問題だし。


「次に休憩時間……というか、労働時間なんだが、24時間は無理だよ」
「あら、そうなんですか?」
「驚かれても困るんだが」
「だって霖之助さんは、24時間道具屋さんをやってましたでしょう?」
「過去形にしないでくれ。それはそれ、これはこれだよ」


 時間を操る事の出来る咲夜と比べられても困る。
 それに霖之助はあくまで道具屋なのだ。


「いいわ。それくらいおやすいご用よ」
「その分は妖精メイドで我慢してくださいね、お嬢様」
「仕方ないわね」
「妖精メイドでも代役は効くのかい?」
「ずっとじゃなければね。細かいところはとてもだけど」
「霖之助さんはその細かいところをお願いしますね」
「わかったよ」


 細かいところ。
 つまりはレミリアのワガママ担当と言う事だろう。

 何を言われるのか、少し気になる。


「あと、屋敷で過ごしてみてあった方がいいと思う道具があったら遠慮無くセールスさせてもらうが、構わないかな」
「いいですよ。こちらとしてもプラスになりそうですし」
「ダメな道具はもちろん買わないけどね」
「そこを納得させるのは僕の目利きさ」


 自信たっぷりに霖之助は頷いた。
 これも長期的な営業活動と考えれば悪くないだろう。

 それにたまに立ち位置を変えてみるというのも面白いかもしれない。


「じゃあ、しばらくの間協力してもいいよ。道具屋としてね」
「そう、じゃあよろしく頼むわ、店主」
「わからないことがあったら何でも聞いて下さいね」


 言いながら、咲夜は傘を差し出してきた。
 レミリアが外出の時にいつも使っている、特注の日傘。


「……ん?」
「どうぞどうぞ」
「今からかい? しかし明日と言ってなかったかな」
「いきなり行って仕事が出来るとお思いですか?
 それはちょっと使用人を舐めてるとしか思えませんね?」


 にっこりと笑う咲夜の表情には、なんとも言えない迫力があった。
 先輩の意見は聞くべきだろう。


「では私は先に行って準備をしてますね」
「あ、咲夜……」


 言うが早いが、咲夜の姿がかき消える。
 能力を使ったのだろう。

 全くよくできたメイドだと思う。


「咲夜はせっかちね」
「やれやれ」


 ふたり残され、顔を見合わせる。


「じゃあ行きましょうか」
「了解。とはいえ傘のさし方なんてよく知らないんだが」
「覚えればいいじゃない」
「君を日に当ててしまうかもしれないよ」
「そうならないように努力してくれればいいわ」


 霖之助は傘を開き、先に香霖堂を出た。
 彼女の小さな身体は、傘の影にすっかり収まるほど小さく。

 光を反射しない銀の髪は、太陽の下では儚げで。


「レミリア」
「……ええ」


 だから霖之助は、彼女の手を取った。
 一瞬、視線がぶつかる。


「ゆっくりで構わないわよ」
「そうだね」


 そして寄り添うように、歩き出した。

 これからの生活に、期待を抱きながら。

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No title

後の執事霖之助、誕生の瞬間である。(マテ

それはともかく、最後の二文、明らかに結婚EDか何かの締めに見えるんですけどwww

アデニンさんの絵も相まってすごい和みですた^q^ウマー

No title

アデニンさんの絵経由で久しぶりに来てみましたー。
霖之助メイドさん化フラグキタコレwこれからが楽しみですー

痩せ我慢するお嬢様可愛い。
しかも、それがこの先日常の風景になるわけですね。

No title

レミ霖きてるなぁ。これからは執事としt・・・

あれ、いつのまに結婚したん?
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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