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子悪魔シリーズ18

最終話より前の話です。
何話まで続くかは未定ですが。


霖之助 パチュリー 小悪魔









「どうですか、お父様」


 紅魔館の地下図書館で、小悪魔は自信たっぷりに胸を張った。
 それが偽りでないことを証明するかのように、霖之助は感嘆のため息を漏らす。


「……いや、大したものだね」
「でしょう? 今回のは結構自信あるんですよ」


 霖之助が読んでいるのは、小悪魔が制作した魔導書だ。
 パチュリーの助手を務めているだけあって、魔法の実力もかなりのものらしい。

 門前の小僧習わぬ経を読む、のほうかもしれないが。


「でもまだ未完成なんですよね」
「そうなのかい?」
「ええ」


 魔導書の内容は、簡易読心術とでも言おうか。
 覚妖怪ほどはっきりとわかるものではないが、完成すればなかなか有用そうな魔法だった。

 小悪魔はパラパラと魔導書をめくり、該当部分を指さす。


「このあたりの術式がちょっと上手くいってないんですよ。
 要検討ってやつですね」
「ふむ……数値化に関する箇所か」
「リアルタイムで変化する人の精神を数値化する変数がまだ確定できないんですよねー」
「なるほどね」


 術式とはつまり事象の数値化である。

 暦、座標、気温、湿度はもちろんこと。
 予想結果、周囲の状況、果ては自分の精神力まで盛り込んでこそこの世の理から外れた力が行使できるのだ。

 もちろん大きな魔法になればなるほどそれらすべてを魔導書だけで賄うのは不可能なので、
魔方陣や儀式を執り行ったり、ロケットを打ち上げる際にやったように運を補ったりするのである。


「なので今研究中なんですよ」


 ニヤリと小悪魔が笑みを浮かべた。
 何度も見た顔。嫌な予感がする。


「お父様攻略に、好感度がどれくらい必要なのかを見る魔法を試しつつですけど!」
「…………」


 霖之助はため息を吐いた。
 それを疑問と感じたのか、小悪魔が言葉を続ける。


「あ、もちろん今も実験中ですよ」
「僕に無断でかい」
「言ったら許可くれました?」
「もちろん断るよ」
「ですよねー」


 大きく彼女は同意をする。

 が、それだけだ。
 止める気は毛頭無いらしい。


「まあ、お父様からパチュリー様への好感度はとっくにカウンターストップしてるってわかってますけど。
 そろそろ私への好感度もMAXになるんじゃないかって思ってるんですよね」
「どこからその自信が来るのか知りたいところだよ」
「え? だってあんなフラグやこんなフラグを立てたじゃないですか」
「そんな覚えはない」
「フラグは回収されないと意味がないわよ」
「えっ……ああ、そうかもしれません」


 パチュリーの突っ込みに、ポンと手を合わせる小悪魔。


「さすが数多のフラグブレイクを乗り越えお父様を攻略した人の言葉は違いますね!」
「そんなに折られてはないわ」
「そもそも折った覚えがないよ」
「ま、そうですね。お父様はただ朴念仁なだけですから。
 あ、お母様からお父様への好感度は教えませんよ。
 測ったらカウンターが壊れちゃいますからね」


 言って、彼女は怪しげな笑い声を発する。

 どこまで本気なのだろうか。
 ……見てる限り、全部本気に見えるから怖い。


「でも実際、お母様への好感度はすごく高いですよね?」
「……そりゃあね。世話になってるし……」


 ちらり、とパチュリーを見る。
 何も反応はない。


「お嬢様や咲夜さんも、お父様のことを気に入ってると思うんですけど」


 小悪魔の言葉に、ぴくりとパチュリーが動いた気がした。

 霖之助は肩を竦めながら、小悪魔に向き直る。


「彼女たちの場合は、僕がパチュリーの客だから大目に見てくれてるのさ」
「そうですか? でも……」
「小悪魔」


 そこで言葉を切り、ゆっくりと首を振る。


「それでいいんだよ」
「……そうですね」


 頷く彼女を見て、霖之助はひとつ頷いた。
 本に視線を戻そうとして……再び顔を上げる


「そうだ、好感度で思い出したが」
「なんですか? 祝い忘れてた記念日でも思い出しました?」
「いや……」


 首を振りかけ、動きを止めた。


「……あるのかい?」
「あれ? てっきりお父様が初手料理記念日を思い出したかと思ったんですが」
「小悪魔、それは先週よ」
「じゃあ初タッチ記念日ですか?」
「それは先月」
「それなら初デート記念日とか」
「それは昨日だったわね」
「ちょっと待ってくれ」


 慌てて割って入る霖之助。

 背筋を冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。


「どれも初耳なんだが。
 というか、そんなもので記念日を作ること自体が初めて聞いたよ」
「あれま。お父様、前も言ったじゃないですか。
 女の子にとって記念日は大事だって」


 チッチッチ、と指を振る小悪魔。
 それに呼応するかのように、パチュリーが口を開く。


「魔法というのはこの世の理を自分の理に書き換えること。
 無から有を作り出すことと言っても過言ではないわ」
「まあ、そうだね」
「だからなんでもない日でも何かしらの楔を打っておくこと。
 それも魔法の研究のひとつだと、教えたはずなんだけど」
「……そう、だったかな」


 後ろから感じる、冷たい視線。
 怖くて振り向くことが出来ない。

 ページをめくる音が止んでいた。

 じっとこっちを見ている姿が容易に想像できる。


「でも記念日じゃなければ、何を思い出したんですか?
 私はまたてっきり……」
「いや、言おうとしたら話が逸れたんじゃないか」


 小悪魔の呆れ顔に、霖之助は肩を竦めた。
 気を取り直して口を開こうとした矢先。


「ああ、思い出しました」
「……なにをだい?」


 再び小悪魔に邪魔される。

 霖之助は諦めの境地で、彼女の言葉を聞くことにした。


「そういうイベントをすっぽかされたお母様が面白……いえ。
 そんなおふたりを観察するためにこういう魔法を研究し始めたんだなー、って」
「好奇心は猫をも殺すって言葉、知ってるかしら」


 パチュリーのジト目に、しかし小悪魔は素知らぬ顔。
 聞こえなかったことにしたらしい。


「ダメですよー、お父様。
 好感度が高い状態で放っておくと爆弾が爆発するらしいですから」
「爆弾かい?」
「ええ。爆発すると女の子の間に悪い噂が立つらしいです。怖いですねー」


 おお怖い怖い、と小悪魔は首を振る。
 ……なんというか、かなり挑発的である。


「解除法はデートをするといいらしいんですよ。
 そんな時、私の研究中の魔法が役に立つわけですね!」
「遠慮しておくよ」
「あれー?」


 当てが外れた、とばかりに彼女は肩を落とした。


「朴念仁なお父様にはぴったりだと思ったんですけどねぇ。
 今ならカレンダー付きですよ。リアルタイムでお母様記念日が追加されていく優れものです」
「い、いや……」


 その機能にかなり心が揺らいだが……。
 意を決して、霖之助は首を振る。


「そんな魔法に頼らなくても、パチュリーは爆発なんてしないよ」
「そーですかぁ?」
「そうだとも。
 正確にはさせない、かな」


 言って、霖之助は深呼吸ひとつ。

 例えどんなに仲が良かろうと。
 やはりこういう瞬間は緊張するものだ。


「パチュリー」
「何かしら」


 いつも通りの調子で、彼女は応える。
 先ほどの冷たさはない。大丈夫だろう、きっと。


「今度プラネタリウムを作ろう、と言ったこと、覚えてるかな」
「そういえばそんな話をしてたわね」


 少し視線を上げ、思い出すようにパチュリーは呟いた。


「本で調べるのもいいが、やはり一度見ておくべきだと思ってね」


 霖之助はそう言うと、机の上に置いてあるカレンダーを見る。


「明日の夜は新月だろう? だから」


 月齢が書き込まれたそれを、霖之助は指さした。
 そしてパチュリーを真っ直ぐに見つめ、一言。


「一緒に星を見に行かないかい?」


 その誘いを受け、パチュリーが息を飲む。

 少し間が空いたのは、驚きのせいか。
 やがて彼女は僅かに微笑むと、読んでいた本を閉じた。


「……晴れになるよう、魔法をかけておくわね」


 それは彼女なりの了承の証。
 そして小悪魔になにやら指示を出す。

 きっと天候操作の魔導書を取りに行かせたのだろう。


 この言葉ひとつ発するのに、随分回り道をした気がする。
 デートですね! と囃し立てる小悪魔の声も、あまり気にならない。

 だから、そう。


 ――明日はいい日になりますように。









「ところでお父様。
 今日は怒られなかったせいか、私なんだか物足りないんですけど」
「知らないよ、そんなことは」


 なにやら困り顔の小悪魔を、霖之助はとりあえず無視しておくことにした。

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非公開コメント

No title

やっぱりこのシリーズは大好きだぁぁぁぁ!!
今回は小悪魔がおとなしく(?)終わりましたね~
霖之助の男前っプリも、パチュリーの乙女らしさも堪能できてほくほくですww
これからも続編期待しています。頑張ってください。

No title

このシリーズ大好きです!
最終話まで行かなけれb(ゲフンゲフン

ナチュラルにラブラブなパチュ霖となぜか今回大人しかった小悪魔がおもしろかったですwww

次回も楽しみにしてます(´∀`)

No title

>「明日の夜は新月だろう? だから」

>「一緒に星を見に行かないかい?」

>「……晴れになるよう、魔法をかけておくわね」

ば、馬鹿な・・・・・弾幕に隙間がない、だと・・・・・アッー!!(あまりの甘甘会話にピチュりました

やっぱりパチュ霖は良いものだ・・・・・あとドM小悪魔は頼むから自重しようなw

この魔法が進歩すると、ゲーム中のHP表示になるんですね(笑)。
相変わらずラブラブなお二人といたずら娘さん、ごちそうさまでした。
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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