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日曜夜はうどんげラジオ

タイトル通りである。
たぶん永霖? たぶん。


霖之助 永琳 鈴仙









「大きさも問わないし、壊れてても構わないわ。
 とにかく、あるだけ全部譲って欲しいのよ」
「全部、ね」


 永琳の要望に、霖之助は少し驚いた表情を浮かべた。

 店にある全てのラジオを売ってくれ。
 珍しく店まで来たかと思えば、この申し出である。

 この竹林の薬師とはもう結構な付き合いになるが、たまに突拍子も無いことを言い出すことがあった。
 宇宙人的思考、というやつだろうか。


「随分と豪気な話だね
 それにしても、そんなに大量のラジオをどうするんだい?」
「ラジオといったらラジオをするに決まってるじゃないの」
「君たちで、かい?」
「ええ、もちろん」


 頷く彼女に、霖之助は首を傾げた。


「このラジオという道具、僕も一度調べてみたことはあるけどね。
 電波が受信できないみたいで雑音しか聞こえなかったよ」


 名称、ラジオ。
 用途は情報を得ること。

 動力は乾電池で済むため動くものも多いのだが、外の世界の大部分で受信できるはずのそれは、
結界のせいか幻想郷で利用することは出来ないでいた。

 しかし永琳は大したことではないと言わんばかりに首を振る。


「大丈夫よ。そこはウドンゲの能力で、ね」
「なるほど、波長を操作するわけか」
「ええ。と言っても音波と電波は違うから変換しないといけないんだけど」


 技術的なことに興味があったが、長くなりそうなので後回しにすることにした。
 どうせ今聞いたところで教えてはくれないだろう。


「しかしながらその放送は普通のラジオで受信できるのかい?
 動力も必要だと思うんだが」
「それも話は着いてるわ。
 河童に協力してもらって、改造しようと思ってるのよ」
「なるほど。さすが、用意周到だね」
「当然よ」


 最初に壊れててもいいと言ったのは、どうせ改造するためか。

 一から作るよりは改造したほうが早いのだろう。
 つまりそれほど難しい作業でもないということだ。

 機会があれば、作業風景と装置を見せてもらいたいものだ。
 そんな事を考えながら、頭の中で在庫を確認する。


「しかし全部となると、用意するのにしばらくかかるが……」
「構わないわよ。
 そうね。明後日あたりに取りに来させたらいいかしら」
「了解、それまでに準備しておこう。だが量も重さもかなりのものになると思うんだが」
「構わないわ。兎達に任せてくれれば、何とかなるから」


 兎達。
 その言葉を聞いて、荷台を引っ張る鈴仙が思い浮かんだ。
 ひとりで、半泣きで。

 ……まあ、手伝ってやってもいいだろう。


「しかしラジオか……」
「あら、興味ありそうな顔ね」
「ない、と言ったら嘘になるかな」


 待ってましたと言わんばかりの永琳に、霖之助は苦笑を浮かべる。
 彼女も霖之助が食いつかないはずがないと思っていたのだろう。
 そうでなければ、わざわざ本人が出向かないはずだ。


「どんなラジオをやるつもりなんだい?」
「薬の説明とか、あと家庭でよくあるケースとかの対処法とかを説明しようと思って」


 そう言って、彼女は肩を竦める。


「永遠亭に来る患者からね、ウドンゲの説明がわかりにくいって相談が多いのよ」
「ああ……無理もない、かな」


 香霖堂にも置き薬があるが、その薬を置きに来る鈴仙の説明は、なんというかよくわからないのだ。
 本人はわかっている説明でも早口にまくして当てられれば理解できないし……。

 そもそも本人にもわかっているかどうか怪しい。


「気になるなら、見学に来てみたらどうかしら」
「いいのかい?」
「ええ。今度の日曜に永遠亭でやるから。
 迎えは必要かしら」
「いや、その時になったらお邪魔させてもらうよ」


 永遠亭まで、もう何度も通った道のりだ。
 と言っても、霖之助が病気で通ったというわけではないのだが。


「竹林あたりで寄り道しちゃダメよ」
「しないよ。……たぶん、迷わないと思うし」
「ならいいけど」


 竹林にいる誰かのところに寄り道をするな。
 暗にそう言っているのだろう。


「迷ったらちゃんと迎えを出すわよ。
 姫様あたりをね」
「余計時間を食いそうだから止めてくれ。いろいろな意味で」


 永琳の笑顔に、霖之助は疲れた様子で返すのだった。









「……で、どうしてこんなことになったのかな」
「あ、入っちゃってますよ、霖之助さん」
「いいのよ、ウドンゲ。そんなかしこまった放送でもないんだし」


 つまり今のやりとりも幻想郷中に放送されてしまったということだ。

 霖之助は痛む頭を押さえながら、この事態の原因……対面に座る永琳に視線を送る。
 しかし彼女は素知らぬ顔で進行を始めた。


「というわけでお伝えしていた通り、永遠亭のラジオを始めます。
 メイン進行役の永琳です」
「鈴仙です。師匠の弟子をしてます」
「……霖之助だ。道具屋をやっているよ。
 ちなみに永遠亭とはまったく関係ないがね」


 視線で促され、仕方なく口を開く。

 机の中央にマイクがひとつ乗っかっていた。
 おそらくこれで波長を集め、変換しているのだろう。


「あら、少し愛想が悪いんじゃないかしら」
「仕方ないだろう、気の効いたセリフなんて用意してないんだから」
「まあ、いいじゃないですか霖之助さん。店の宣伝だと思えば……」
「……まあ、ね」


 渡された進行用の台本には、しっかり霖之助の名前も載ってるから困ったものだ。
 つまり、最初から出演させるつもりで呼んだのだろう。

 ……もう少し考えておくべきだったかもしれない。


「さて、要望のあったとおり、皆様の手元にある薬箱の解説をしたいと思います。
 ……うちのウドンゲの説明がわかりにくかったようで」
「うう……」


 見る見るうちに、隣に座る鈴仙の耳がしおれていった。
 ……言っていることは事実のためフォローすることも出来ないのだが。


「では、薬箱を開けてください。
 まず上段ですが……」


 薬箱の説明を開始した永琳に、霖之助は少し肩の力を抜いた。
 知らず知らずのうちに緊張していたらしい。

 邪魔しては悪いし……どのみちしばらく出番はなさそうだ。


 ――ところで君の能力は現在発動中なのかい?

 ――はい。マイクで拾った音を対象にしてますので、取捨選択は出来ないんですよ。


 鈴仙にメモを渡し、会話を行う。筆談というやつだ。
 これなら放送の邪魔にはならないだろう。


 ――幻想郷全域だと、疲れたりしないのかい?

 ――いえ、そこまでは。心配してくれてありがとうございます。


 彼女の時は几帳面らしく、しっかりとしていた。
 少し丸まっているところが可愛らしい。


 ――ところでこの装置の仕組みは……。


「ところでそこの道具屋さん? あと弟子。
 楽しそうなところ悪いのだけど、ひとつ質問をいいかしら」
「……なんだい」
「な、なんでしょう」


 いつの間にか解説は終わっていたらしい。
 何となく、永琳が不機嫌そうに見えるのは……気のせいだろうか。


「森の中を歩いていたら、連れの人間が突然毒蛇に噛まれてしまいました。
 どういう応急処置をしますか?」
「……そうだな、傷口から毒を吸い出す、とか?」
「あの、おしっこを……その……」
「ふむふむ、なるほど」


 ふたりの返答を聞き……。
 永琳はにっこり笑って、首を振った。


「はい、このふたつはやってはいけないパターンです。
 傷口を吸うとかえって傷口が汚れたりあるいは口の中から毒が回ってしまう可能性もあるので避けましょう。
 おしっこをかけるというのは尿の中にあるアンモニアで中和するというところから来ているようですが、
 そもそもアンモニアに中和作用はありません。
 ですからこの場合は血管を包帯などで縛り……」


 ――すっかりダメな見本にされてしまったじゃないか……。

 ――うう、師匠も人が悪いです。


 顔を見合わせる霖之助と鈴仙。
 しかしすぐさま第2の質問が飛んできた。


「じゃあフグの毒に当たったら、どうするかしら?」
「確か首まで埋めて……」


 永琳が再び笑みを浮かべる。
 その時点で不正解だとわかってしまうところが、なんだか悲しい。


「その前に、フグ食べることってあるんでしょうか」
「なるほど、食べないことが予防ということね。
 なかなか深い答えじゃない」
「いえ……そんなつもりは……」


 褒められたのに、鈴仙は納得のいかない顔をしていた。
 本気かそうでないのか判断が付きにくいから困る。


「ではもっと身近に、風邪を引いたとしたら?」
「ん? 風邪かい?」
「風邪ですか?」


 顔を見合わせ、考える。
 身近な病気だけに、答えはいくつも考えられた。


「寝てれば治るんじゃないかな」
「確かネギを……」
「はい、不正解」


 3連続で、彼女は首を振った。


「風邪は引き初めが肝心。しっかり治すために、すぐに永遠亭に来て下さいね」


 ――結局宣伝じゃないか。

 ――まあ、そう言うラジオですから……。


 結局、引き立て役に使われてしまったらしい。
 ……これも彼女の予定の内なのかもしれない。


「じゃあ、これから風邪の診断テストを、実際にやってみましょう」
「ん?」


 そう言いながら、永琳は上体を乗りだし、霖之助の頬に両手を添えた。
 そして文字通り、鼻先がぶつかる距離に顔を寄せる。


「まず熱を測ります。
 手頃なのは額を合わせることでしょうか。これは相対的なものであり、感覚に左右されるので……」
「ちょ、ちょっと師匠、師匠」
「あら、どうしたのウドンゲ。
 お茶の間に筒抜けよ」
「そ、そうですけど」


 平熱ね、と言い残し、彼女は霖之助から顔を離した。
 言葉通り、額で熱を測っただけなのだろう。

 ……鈴仙はすっかり固まっていたが。


「仕方ないわねぇ」


 永琳はため息を吐くと、鈴仙の背後に回り込んだ。
 そして背中を押すようにして、霖之助と鈴仙の額を合わせる。

 ……目の前の鈴仙の顔が、真っ赤になった。


「……熱いな」
「まあ、ある意味病気だけど、心配ないわよ」


 言いながら、永琳は肩を竦める。


「あぅあぅ……」
「あら、オーバーヒートしたかしら。
 放送事故ね、これ」
「冷静だな」
「私を誰だと思ってるの。
 ちょっと待ってね。一発で気が付く薬を用意するから」


 永琳は嬉々として自分用の薬箱を漁り始めた。


「ほどほどのやつで頼むよ」
「ええ、任せて」


 霖之助に答えながら、彼女はぽつりと呟く。


「ある意味病気、か。
 ……まあ、私も人のことは言えないけど。
 顔に出すようじゃ、まだまだね」


 でもお仕置きもかねて、少し強めのやつにしてみよう。
 永琳は注射器を用意すると、満面の笑みで振り返ったのだった。

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師弟揃って、病んじゃうのかと←
病みうどんげかわいいよ

No title

病み師弟も悪くはないけど純情師弟もいいと思います!ノシ

あと永琳、自分でやっといてあんた鬼かwww

No title

月をも落とす勢いとはこのことか。 しかし河童は便利屋だなぁ…

さっき気が付いたんだけど、このラジオを聞いている幻想卿の少女たちがパルパルし始めて、えーりんにせがみ、仕方ないからゲストとして少女たちを呼んだりry
あれ?これじゃこーりんラジオに…

No title

この組み合わせだと病み病み展開しか浮かばない自分って・・・・・

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