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胡蝶の夢を

アリ霖は通い妻、と十四朗さんが言っていたので。
新年一発目だが大丈夫だ、問題無い。


霖之助 アリス









 一口に人形と言っても様々なものがある。
 子供の玩具から美術品に至るまで長い歴史を持つそれは、人の歴史と共にあったと言っても過言ではないかもしれない。

 そもそも人形とは読んで字の如く人の形を模したものだ。
 だが広義には動物や架空の生物……あるいは無機物すら含む。

 しかし一般的に、可愛らしく……そして無機質なものというイメージがあるだろう。

 お人形のような、と言えば褒め言葉になるし、
人形めいた、と言えばいいイメージには取られない。


「そう言えば、ひとつ聞いてもいいかな?」


 霖之助は人形制作の手を止め、ふと声を上げた。
 ちょうどスミ入れも一段落したし、塗装をどうしようか考えなければならないのだが。


「何かしら、霖之助さん」


 宝石のように透き通る瞳が、ゆっくりと振り向いた。
 名匠が魂を込めて制作した人形のような、そんな少女……アリス。

 彼女は何となく楽しそうに外の世界の人形雑誌を読んでいることろだった。

 アリスは週に数度、香霖堂を訪れる。

 ほとんど毎日なので何も買わないことも多いし、何となく一緒にいるだけで
あまり話をせずに一日が終わることすらあるが、不思議と気まずい空気になることはない。

 今ではすっかり彼女と昼食を取ることが日課になっていた。
 ……むしろ彼女が来ないと調子が狂う、とさえ思えるようになっていたりもするのだが。


「いや、君が胡蝶夢丸を服用しているという噂を耳にしてね。
 ちょっと確かめたくなったんだが……」
「あら、誰がそんな事を言っていたの?」
「ある新聞記者からね。
 その記者は竹林の薬師から聞いたと言っていたけれど……」


 やや聞きづらそうに、霖之助は口ごもる。
 薬事情は個人の領域なので、どうも聞きづらい。


「プライバシーもなにもあったものじゃないわね。
 別に構わないけど」


 アリスは首を振り……言葉を続けた。


「使ってるのは本当よ」
「そうか……」


 彼女の答えに、霖之助は肩を竦めた。
 そして首を傾げる。


「……何か、悩み事でもあるのかい?」
「あら、心配してくれてるのかしら」
「知り合いが困っているのなら、何か道具の出番じゃないかと期待していたのさ。古道具屋の主人としてはね」
「それだけ?」


 不満そうに、アリスは唇を尖らせた。
 ……根負けしたかのように、霖之助はついっと視線を逸らす。


「……君が困っていたらと、心配だったんだよ。友人としてはね」
「友人、ね。
 まあいいわ」


 何故だか不機嫌そうに呟くアリスだったが、やがて気を取り直したかのように頷いた。


「捨食の魔法って知ってるわよね」
「ああ。生活に必要なものを魔力で補えるようにする魔法だね」


 具体的には食事が要らなくなったりするものだ。
 人間と妖怪のハーフたる霖之助は、もともと食事があまり必要無いのだが。


「私の場合は食事も睡眠も必要無いんだけど、でもどっちも取ることにしてるのよ。
 なんとなく、だけどね」


 そう言ってアリスは持ってきたバスケットに手を置いた。
 この中には彼女お手製のミートパイが入っている。
 前に作って持ってきたら彼が気に入った様子だったので、今ではアリス一番の得意料理になっていた。


「だけど元々必要無いからかしら、夢を見ないのよね。私。
 だから、たまに見たくなるのよ」
「夢、ねぇ」


 そこまで聞いて、霖之助は頷いた。
 胡蝶夢丸と繋がった気がする。

 つまり。


「なるほど、それで胡蝶夢丸か」
「そういうこと。
 たまにはナイトメアタイプも飲むんだけど」
「ほう?
 悪夢にうなされるというやつかい?」
「ええ」


 アリスはそう言うと、ポーチの中から薬の袋を取りだした。

 これがその胡蝶夢丸だろう。
 ……見たまま怪しいが、霖之助の目にも確かにそう映っている。

 胡蝶夢丸。
 用途は楽しい夢を見ること。


「胡蝶夢丸は楽しい夢を見て不幸な気分になって、
 ナイトメアタイプは悪夢を見て幸せな気分になるのよ」
「……ん?」


 彼女の言葉に、霖之助は首を捻った。


「普通逆なんじゃないかい?」
「あら、どうして?」


 アリスが笑う。
 まるで戸惑う霖之助を、楽しむかのように。


「だって胡蝶夢丸はいい夢を見るんだろう?」
「そうだけど、所詮夢は夢なのよね。
 楽しかったことが現実じゃないと気付けば不幸な気分になるし、
 苦しかったことが夢だってわかれば幸せな気分になるの」


 言って、アリスはため息と共に肩を竦める。


「なるほど、そういうことか。
 ……こういうことを聞いてもいいのかわからないが……」


 霖之助は少し迷い……口を開いた。


「どんな夢を見てるんだい?
 ああ、薬の効果を聞きたいだけで、君のプライバシーに関わることなら……」
「別に構わないけど。
 そうね、いろいろよ」


 特に隠すことでもないのだろう。
 アリスはたいした問題でもない、とばかりに微笑む。


「やはり胡蝶夢丸と言うだけあって、蝶になるのかな?」
「ええ、たまに。ふわふわってね。
 でもそれは特に楽しい夢ってわけじゃないわ」
「まあ、確かにそうだろうね」


 空を飛べる彼女にとっては、魅力がないに違いない。
 普段出来ないことが叶ってこその夢なのだから。


「あなたの夢とか見るわよ」
「それはいい夢かい? それとも悪夢なのかな?」
「どっちだと思う?」


 アリスは悪戯っぽく笑うと、霖之助を見上げる。


「いい夢だと嬉しいんだがね」
「残念、どっちでも登場するわ」
「どっちも、ね」


 それはよかったのか悪かったのか。
 ……気にしないことにする。


「そうね。今日見た夢は……私が霖之助さんと一緒に店番をしてたわね」
「ふむ?」
「朝起きて、店の準備して、来ないお客さん待ちながら、ずっとお喋りして一日が終わる。
 ……そんな夢」


 アリスは上海人形を撫でながら、呟いた。
 深い碧色の瞳が、微かに揺れる。


「ちなみに、その時飲んだのは胡蝶夢丸かい? それともナイトメアタイプかな?」
「どっちだと思う?」


 再び彼女は霖之助を見上げてきた。
 そしてそれには答えないまま、言葉を続ける。


「霖之助さんも飲んでみたらわかるわよ」
「僕かい?」


 言われて、霖之助は首を振った。


「遠慮しておくよ。
 夢見に困ってるわけじゃないからね」
「そう。まあ、あなたが悪夢にうなされる姿なんて想像できないけど」
「永琳にも同じことを言われたよ」
「あら、やっぱり?」


 アリスの笑顔に、苦笑を浮かべる霖之助。


「それに商人は現実主義だからね。
 夢は売る物なのさ」
「現実主義が聞いて呆れるわ」


 店内を見渡し、アリスはため息を吐いた。

 どこを向いても現実的な商品とは思えない。
 実際売れていないわけだし。


「夢を売るってのは間違ってないみたいだけど。
 いろんな意味で」
「やれやれ。手厳しいね」


 言われて霖之助は肩を竦めた。
 そして……安堵したように微笑む。


「なんにせよ、安心したよ。
 胡蝶夢丸を使いすぎると夢から帰ってこられなくなる……なんて話を聞いたものでね」
「心配してくれてありがと。
 でも大丈夫よ。そんなことにはならないわ」


 上海人形は近くにあった雑誌を持ち上げた。
 アリスが読んでいた雑誌の次の号だろう。


「魔法使いはリアリストなんだから」
「リアリスト、ねぇ」


 魔法使いという単語と相反する言葉に、霖之助は思わず吹き出してしまった。


「ちなみに、君の場合はどのあたりがリアリストなのかな」
「そうね。夢を夢と把握できるくらいには、かしら」
「なるほど、確かに」


 そうしているうちに、アリスは時計に視線を移す。


「あら、もうそろそろいい時間ね。
 じゃあ、お昼の準備をしましょうか」
「毎度すまないね」
「いいのよ。
 私が好きでやってるんだから」


 彼女はバスケットを手に、台所へ向かった。
 お茶の準備も彼女の仕事。

 もう随分慣れたものだ。
 ……彼と過ごす、当たり前の時間。


「だってこんな夢のような時間なんだもの。
 手放すはずないじゃない」


 そう、だって。
 アリスが好きで……霖之助のために、やっているのだから。

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非公開コメント

No title

そしてコレがユメデシタって落ちかとおもった
すでにユメト現実のクベツガつかなくなtっていて
もう病イン入りしてたとかっか

No title

あけましておめでとうございます。
彼女にとって今は夢の延長という事になるんでしょうか? だといいなぁ
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