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子悪魔シリーズ17

銀河さんとかに看病ネタを書けと言われた気がしたので。
ネギでウフフ。


霖之助 パチュリー 小悪魔









 布団をかぶり、口に体温計。
 さらに頭に氷嚢を乗っけている。

 完璧な病床スタイルだった。

 ただひとつ、これ見よがしにテーブルの上で寝ていることを除いては。


「パチュリー、借りていた本だが……」
「ちょっとお父様、無視はあんまりじゃないですか!?」


 ガバッと起き上がり、小悪魔が霖之助に食ってかかる。

 図書館に入るなりそんな姿を見せられては、誰でも無視したくなると思うのだが。


「病床に伏せっている愛娘に、もっとかける言葉とかあるでしょう?
 こんなに弱ってて死にそうなのに、熱くぶっかけるものがあるでしょう!?」
「……元気じゃないか」


 霖之助の言葉に、しかし彼女は胸を張った。


「そりゃ元気にもなりますよ。お父様にツッコミを入れるためなら。
 突っ込むために元気になるのはお父様ですけどネッ☆」


 キラッと目を輝かせる小悪魔。
 霖之助は彼女から視線を外し……彼女の主に向かってため息を吐く。


「パチュリー、どうしてこんなになるまで放っておいたんだい?」
「読書の邪魔にならなかったからよ」


 返ってきたのはシンプルな答えだった。
 確かに寝てるだけなら邪魔にはならないだろうが。


「それにしても最近の私の扱いがひどいと思うんですが」
「……ひどい、とは?」
「言葉通りですよ!」


 小悪魔はテーブルの上で駄々を捏ねた。
 そんな事はどうでもいいから、いい加減降りて欲しいと思う。


「縛られたりタライが落ちてきたり落とし穴に落ちるくらいはともかく、
 感電させられたり石になったり毒を受けるのはいささかやりすぎじゃないでしょーか!?
 それが愛娘に向ける愛のかたちとはとても思えませんね」
「前半は構わないのか……。
 でも実際、どれも平気なんだろう?
 現にこうやって元気なわけだし」
「それはそれ、これはこれですよ」


 きっぱりと断言する小悪魔。
 呆気に取られる霖之助をよそに、言葉を続ける。


「ということで、そろそろ看病イベントとか起こる時期かなと思いまして」
「看病ねぇ」


 霖之助が言葉を紡ぐより早く。
 皆まで言うなと言わんばかりに、小悪魔は頷いた。


「別に私は練習台でいいんです。
 本命はお母様なのはわかってますから。もちろん邪魔したりなんかしませんよ」
「といっても、僕が看病する機会があるとはあんまり思えないがね」
「え? でもほら、持病の喘息とかあるじゃないですか」
「喘息か……しかし、最近は調子がいいみたいだし」
「それにいい薬も手に入るようになったから。
 心配には及ばないわ」


 霖之助の言葉を受け、パチュリーが口を開いた。

 竹林の薬師の作る薬は副作用がない程度によく効くと評判だ。
 もちろん、パチュリーの喘息にも。


「えー、それじゃあふたりで困難を乗り越える的なイベントが起こらないじゃないですか」
「必要なのかい、それ」
「あったほうが楽しいでしょ?」
「楽しいか楽しくないかで人を困難に落とさないで頂戴」


 パチュリーはそう言うと……思い出すように、霖之助に視線を向ける。


「でも確かに、昔は看病してもらっていた気がするわ」
「そういえばそうだね」
「あ、私が来る前はお父様がお母様の面倒をみてたんでしたっけ」
「いや、面倒をみるというか魔法を教えてもらったり……弟子みたいなものだったんだよ」
「ふむふむ。お母様が最近になって丈夫になったということは……」


 ポン、と小悪魔は手を叩いた。
 輝く瞳に、嫌な予感がよぎる。


「やっぱり毎晩毎夜、霖之助さんと運動してるからですね!
 栄養たっぷりで健康維持してるわけですか!
 代わりに咳き込むほど別のものを飲」


 すっと伸ばしたパチュリーの指先から、輝く電光が迸った。
 瞬間、小悪魔は動かなくなる。感電したのだろうか。

 霖之助はその技に見覚えがあった。
 確か、竜宮の使いが使用していた技だ。
 魔術で模倣してみたらしい。


「毎晩じゃないわよ。来てくれないんだもの。
 捏造しないでくれるかしら」
「いや、そんな恨みがましい目で見られてもだね」


 霖之助は気圧されるように視線を逸らした。
 すると横から別の声が聞こえてくる。


「お母様としてはやはり毎日シテほしい、と」
「やはり君の看病の必要があるとは思えないな」


 ふたりに向き直り、ため息。
 だんだんと小悪魔の復活速度が上がっている気がするのだが。


「いえいえとんでもない。悪魔合体で魔法反射とか覚えればいいんですが。
 ほら見てくださいよ、こんなに弱ってるじゃないですか」


 わざとらしく咳き込んでみせる彼女を、あえて無視。


「というわけで、さあ!」


 霖之助に押しつけるように、小悪魔は布団の中から何かを取りだしてきた。
 緑色と白のツートンカラー。

 ずっと布団の中に入れていたのだろうか。
 妙に生暖かい。


「……なんだい?」
「知らないんですか? これはネギと言ってですね」
「いや、ネギは知ってるけどね」
「そうですか、なら話は早いですね。
 何とこのネギを使えばすぐに治るという情報を入手しまして、実践をと」


 そう言って、小悪魔は少し腰を持ち上げた。

 ……どうしてそこで尻を霖之助に向けるのか。


「私……お父様になら……。
 でも優しくしてくださいね?」


 ポッと頬を染める小悪魔。
 実に……似合わない。


「貸して頂戴」
「あ、ああ」


 いつの間にか近寄っていたパチュリーに、ネギを奪われた。
 一歩踏み出し、ネギを突き出す。


「え? お母様なにを……むぐ」


 ネギを首に巻いたりするのも効くという話は効いたことがある。
 ……口に入れても効くのだろうか。

 そもそもネギが効くというのは風邪なのだから、関係ない話だ。


「ちょ、どうせお口にねじ込むならお父様の」
「そんなにネギが好きなら、ネギの国にでも行ってくるといいわ」
「お、お母様!?
 ちょっと布団の中から何か呼んでるんですけど!
 ああっ、布団に! 布団に!」


 無数の手が、小悪魔にまとわりついていた。
 そのまま布団の中に引きずり込んでいく。

 しばらく暴れていたようだが……やがて静かになった。
 残されたのはただ、平たくなった布団だけ。


「お疲れ、パチュリー」
「やっぱり読書の邪魔になったわ」
「転送魔法かい?」
「企業秘密よ」


 そう言って、彼女は微笑む。
 魔女らしい、不思議な笑い。

 当ててみろ、と言う挑戦だろう。

 霖之助は考えながら……ふと、疑問を口にした。


「……それにしても、パチュリーの看病をやるのは小悪魔の仕事じゃないのかな」
「いいえ、ちゃんと小悪魔は仕事をしてるわよ」
「ほう?」


 予想外の答えに、思わず聞き返していた。
 彼女はいつも通りの口調で、ぽつりと漏らす。


「もしそうなったら、私はあなたに面倒をみてもらいたいもの」
「……なるほど」


 つまり小悪魔は霖之助を呼ぶという仕事をこなしているわけだ。
 それなら確かに……仕事は果たしている。


「ならいつそうなってもいいように、傍にいないといけないね。
 もちろん、ならないに越したことはないんだが」


 とはいえ、彼女は魔女だ。
 よほどのことがない限り、緊急を要すことはないと思うのだが……。


「いいえ、そのうち頼むかもしれないわ」


 しかし、彼女は首を振る。
 何か病気でも、と驚く霖之助に、パチュリーは少し微笑んだ。


「子供が出来た時にでも」


 可愛らしい、少女の笑顔で。

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非公開コメント

No title


ああ、混沌な神々と悪魔合体したんですね、わかります。(

…二人の子供を触手な何かであやす小悪魔が見えた私はちょっと吊って来るべき。

ありがとうございます!!

 書けとは言っていない!!書けとは絶対に言っていませんよ!!
 まあそんなことはどうでもいいとして、名前まで出してもらってありがとうございます!
 子悪魔の・・・病気。うん、病気か。病気っぷりが遺憾なく発揮されていて最高でした!この3人の息の合いっぷりがいいですね!
 素晴らしい作品、堪能させていただきました。あらためて、ありがとうございます!

No title

こあの病気は絶対に治らないんですねわかりますwww

しかし最近パッチェさんデレまくりだな!甘いよ ^q^ウマウマ

No title

最近思うんだ
小悪魔は俺なんじゃないかと
お母様はお父様にほとばしる熱いパトス的なものぶっかけらればいいと思うよ!!

No title

パチュリーかわいいイイイイイイイイィィーーーー!!!!!!!
もうかわいいの言葉しか出てこないw
見れるもんならこの問答を目の前で見てみたいぐらいですよ!
是非このシリーズはまだまだ続けて欲しいです!!お願いします。

運動してると確かに健康になるね!
俺も混ぜてくr…あぁっ、窓に!窓に!
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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