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100年越しの、恋心

スレで拾ったネタを。
『100年後の恋心』の続きかもしれない。

妖夢の半霊を抱き枕にする霖之助を書きたかったので。
妖霖を増やそうってイガ丸さんと約束したんですよ。


霖之助 妖夢








「最大の親不孝というものがなんだか知っているかい?」


 空になった盃を置き、霖之助は口を開いた。


「親よりも先に逝くことだよ。
 その意味では、彼女たちは親不孝だ。
 これ以上ないくらいに、ね」


 酒瓶を手に取り、盃になみなみと酒を注ぐ。
 少女のもの言いたげな視線もどこ吹く風だ。


「霊夢も魔理沙も、霖之助さんの娘ではありませんが」


 目の前の少女……妖夢は、ため息を吐きながら首を振った。
 首の動きに合わせ、長い髪が左右に揺れる。

 ――この数十年で随分伸びたものだ。
 霖之助はそんな事を考えながら、肩を竦める。


「同じようなものさ。
 僕は彼女たちがずっと小さい頃から見てきたんだ……。
 腐れ縁だった、とも言うがね」


 言葉とともに、盃を空にする。
 これで何杯目だろうか。
 ……いちいち数えてはいないが。


「まったく、霊夢も魔理沙も独身のまま死んで行って……。
 ちっとも僕の心遣いに応えてくれなかった」
「心がわかってないのは霖之助さんだと思いますけど」


 妖夢の呟きは、霖之助に届かず消えた。

 殺しても死にそうのない人間とは言え、寿命は訪れる。
 霊夢も魔理沙も、ごく当たり前のように死んでいった。
 最期まで、笑いながら。

 もう何十年も前の話である。


「何か言ったかい?」
「なんでもありません」


 首を振る妖夢に、霖之助は苦笑を浮かべた。
 そして……視線を遠くに移す。
 遙か彼方、彼岸まで届くように。


「それにしても、とうとう転生か……」
「ええ」


 妖夢の話によると、ふたりとも冥界にいたらしい。
 初めて聞いたときは驚いたものだ。


「てっきり地獄に行かされるものかと思ってたよ」
「地獄の鬼神長が泣いて嫌がったって話ですよ。
 どこまで本当かはわかりませんけど」


 そう言って、妖夢は笑みを浮かべた。
 どうやら閻魔から聞いた話らしいが……。

 あのふたりの武勇伝はどこまで伝わっているのだろうか。


「結局冥界に来てくれませんでしたね。
 怒ってましたよ、ふたりとも」
「残念ながら、幽霊の見分けを付けることも、声を聴くことも出来なくてね。
 ……例えそれが旧知であってもだ。
 会ってもがっかりさせるだけだよ」


 この数十年間、たびたび妖夢はふたりの様子を伝えに香霖堂を訪れていた。
 その度に冥界へ誘うのだが、霖之助が首を縦に振ったことはない。


「それに、冥界はそう簡単に生者が足を踏み入れる場所じゃないだろう」
「私は別に構いませんけど……」


 ため息を吐く妖夢。
 そして恨みがましい視線を彼に向ける。


「私が何度も花見に誘ったのに。
 結局一度も来てくれませんでしたね」
「同じ理由だよ。
 騒がしいのが苦手というのもあるがね」


 今の冥界は、さぞ賑やかなことだろう。
 ……まるで、かつての幻想郷のように。


「きっと転生して会いに来ますよ、ふたりとも。
 ……その時には、自分が誰かなんて憶えてないでしょうけど」
「ああ……それでいいんだ。それで……」


 人は死ぬ。
 それが全てだ。
 何も、問題はない。


「本当は彼女たちの子孫を相手に商売するつもりだったんだけどね」
「代わりの……今代の巫女とかいるじゃないですか」
「……それでも、さ……」


 霖之助は大きくため息を吐いた。
 酒をたっぷり含んだそれに、妖夢が困ったような表情を浮かべる。


「妖夢……君はちゃんと旦那さんを見つけるんだぞ……」
「いえ……そういう相手もいませんし……」


 だんだんと霖之助の呑むペースが早くなってきた。
 そして、口調も。

 それでも呂律が回っているのはさすがと言うべきか。


「すぐに見つかるさ。
 君は随分と綺麗になったし、物腰も落ち着く女性になった……。
 昔と比べて」
「そんな事……。って、昔と比べては余計です!」


 妖夢の言葉に、霖之助は笑みを浮かべる。
 そしてまた酒。


「あの、霖之助さん……?」


 異常とも言えるそのペースに、妖夢は首を傾げた。
 しかし彼が気にした様子はない、


「霊夢や魔理沙にも同じ事言ったのに、あいつらと来たら全然そんな気を起こそうとしなかった。まったく……」
「それは……」


 その言葉の先を、妖夢が言うことはできなかった。
 本人が言わなければ意味がない。

 そして今となっては……もう遅い。


「呑みすぎですよぉ……もう止めた方が……」
「僕を安心させてくれ、妖夢……」
「もう! だったら霖之助さんが貰って下さいよ!」


 言って、思わず妖夢は息を飲む。
 霖之助の返答を待つ時間が、妙に長く感じられた。


「……そんなのは百……いや……十年早い……。
 そうだ……妖夢が遠くに行くのは……まだ……すぅ……」
「むぅ~、十年前も同じ返答だったじゃないですかぁ~」


 言うだけ言って寝息を立てる霖之助に、妖夢は不満と……安堵のため息を漏らすのだった。









 気が付くと、手の中にやわらかいものがあった。
 白くふよふよしたそれは、心地のいい温度で火照った身体を包み込んでくれる。


「……ああ」


 霖之助はそれだけで、状況を把握した。
 つまり……酔いつぶれて、寝てしまったらしい。

 妖夢の半霊を抱き枕にして。


「あ、起きましたか?」


 気配を感じてか、それとも半霊を通じてか。
 妖夢が部屋の外から顔を出した。

 エプロン姿なのを見ると、どうやら炊事をしていたらしい。


「おはよう妖……痛っ」
「無理しないでください。
 昨日、あんなに呑んでたんだから……」


 自業自得ですよ、と言わんばかりに妖夢が唇を尖らせる。
 霖之助は上体を起こした格好で、彼女に向き直った。


「もう、呑みすぎですよ」
「君に介抱されるとはね」


 そう言って、霖之助は肩を竦める。
 かつてはよく鬼や天狗に潰された妖夢の介抱をしていたものだが。


「……忘れてください」


 顔を赤らめ、妖夢が言った。
 やがて気を取り直すと、霖之助にお盆に乗せたコップと水差しを差し出してくる。


「冷たいお水です。
 どうぞ」
「ああ、ありがとう」


 1杯目は、一息に呷る。
 ぼやけていた頭が少し晴れた気がした。
 ……いまだ酒が残っていることに違いないが。


「もうしばらくしたら朝ご飯出来ますから。
 少しくらいお腹に入れておいたほうがいいですよ。
 と言っても、お味噌汁くらいですけど」
「……ああ」


 水のおかわりをしつつ、霖之助は頷く。
 妖夢の気遣いがありがたい。


「それにしても、君の料理、か」
「なんですか?」
「いや……」


 昔……試しに料理を作ってもらったことがあった。
 普段お屋敷では料理担当の幽霊がいるらしく、彼女はほとんど料理をしたことがなかったらしい。

 結果は散々。
 目も当てられないほどだったのだが。


「しっかりしてきたな、と思ってさ」
「私だって成長してるんですよ」


 そう言って、妖夢は胸を張る。
 確かに成長しているらしい。


「そうか……そうだな」


 霖之助の笑みに、妖夢は肩を竦めた。

 どんな表情をしていたのだろうか。
 自分では、わからなかったが。


「……もう少し、寝ててください。
 ご飯できたら起こしますから」


 妖夢の言葉とともに霖之助の肩が掴まれ、ゆっくりと床に倒される。
 いつの間にか、半霊が妖夢の姿を形取り、霖之助は膝枕をされた格好になる。

 半霊は何も言わず、ただ柔らかな眼差しで霖之助を見つめていた。


「おやすみなさい、霖之助さん」


 妖夢の声を聴きながら。
 霖之助の意識は、次第に闇の中へと落ちていった。









「……ん?」


 どれくらい時間が経っただろうか。
 目を開けると、妖夢と目が合った。

 頭痛が消えていると言うことは、随分休んだはずなのだが。


「妖夢?」


 目の前の彼女に声をかけるが、返事はない。

 台所から包丁の音が聞こえてきた。
 まだ料理中と言うことは、それほど時間は経っていないのかもしれない。


「…………」


 妖夢は何も言わない。
 ただ慈しむような瞳で、じっと見つめてくる。


「……はぁ……」


 霖之助は大きくため息を吐いた。
 酒が抜け、素面の頭に、昨日の醜態が浮かんでくる。


「…………」


 霖之助は何も言わず、ゆっくりと妖夢の頬に手を添えた。

 かすかに昔の面影が残る……。
 だが見違えるほどに成長した少女。


「十年早いと言ったのは取り消そう
 君は……」


 霖之助の言葉に、目の前の妖夢は首を傾げた。
 かつてプレゼントしたかんざしがよく似合っている。

 立派な女性になったものだ。
 もちろん……彼女の努力のたまものである。

 その努力を、霖之助はよく知っていた。


「君は……魅力的な女性だよ。
 ……僕にとっても」


 妖夢が誰かと結婚するのは十年早いと思っていた。
 だが……それはもしかしたら、霖之助のわがままだったのかもしれない。


「今更、言えそうにはないがね」


 それだけ言って、霖之助は再び目を閉じる。


「妖夢……僕を……安心……」


 妖夢は何も言わず、ただ霖之助を見つめていた。
 彼が眠ってしまうまで。

 ただ、じっと。









 霖之助が再び眠ってしまったことを確認すると、彼女は半身を台所から呼び寄せた。
 妖夢の姿をしたそれは包丁を所定の位置にしまうと、ふたりのいる居間へと姿を現す。
 本来の……半霊の姿で。


「……安心してください。
 私は……どこにも行きませんから」


 料理はあと火を入れるだけで止めていた。
 半霊がやっていたのは、ただの演技である。

 霖之助が再び眠ってしまうことは予想できていたから。
 長い付き合いだ。それくらいわかる。

 最初に霖之助が寝てから……ずっと妖夢は膝枕をしていたのだった。


「……私が、安心させてあげますから」


 霊夢や魔理沙に言われ、ふたりの近況を霖之助に報告してきた。
 だが今にして思えば、ふたりが霖之助に会う口実を作ってくれていたのかもしれない。
 もうふたりはいない。

 次からは、自分の意志で。


「今更、なんてないんですよ、霖之助さん」


 妖夢は霖之助の額に手を置き……そっと呟く。


 年が明けたら、100年目の冬が来る。
 初めて会ったあの冬の日が来たら……全て伝えよう。

 100年越しの、この想いを。

コメントの投稿

非公開コメント

なんかありがとう!

どうして道草さんは、こんなに切なく暖かい文章が書けるのでしょうか・・・
霊夢と魔理沙が死んでも普段と変わりなく見えた霖之助は、心の中ではかなりのショックを受けていたんですね。
我が子に先立たれるのがどれほど辛いかは、子供の僕には計り知れませんが、半ば自暴自棄になってしまうくらい、辛いことなのでしょう。
何度も泣きそうになっては、百年経ってもあまり変わらない妖夢に和まされて、何とか泣かずに済みました(汗)

道草さんがお話を構想して、文章として纏める時、何か気をつけている事などはありますか?
僕もちょっとしたお話に挑戦したりするのですが、どうも上手く纏まりません。
どうかご教授賜りたい!

No title

俺得。年が明けて、思いを伝えて、姫はじめですね、わかりま(ry

ワタワタしてるみょんもいいけど、こういう綺麗な妖夢もすごくいい。

( ´∀`)b

No title

おれの語彙では言い表せないほど素晴らしい話でした。
転生する霊夢と魔理沙、霖之助に出会えたらいいね!とも言いたい。
GJ(God Jobの略である)!!

No title

妖霖と聞いてホイホ(ry
ズキュゥゥゥゥンと心を打ち抜かれる素晴らしさ、私も見習わなければ。
この作品で補充した気力で何とか時間を作りたいですねぇ……

No title

妖霖の醍醐味はこれですよね

妖夢の成長と残された霖之助との徐々に組み上げられる関係というかなんというか…
自分の妄想をまるで見ているように、緻密に書きあげられる道草さんマジぱねぇ
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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