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子悪魔シリーズ12

アリスは魔界人。
そう考えれば小悪魔とアリスは姉妹と言えるのではないだろうか。

本編には全く関係ありませんが。


霖之助 パチュリー 小悪魔









「ただいま帰りましたー」


 小悪魔の明るい声が地下図書館へ木霊した。

 その声と同時、ガサゴソという音。
 そして何となく慌てたような雰囲気で、ふたりが顔を出す。


「あら、もう帰ってきたの」
「あ、ああ。お帰り、小悪魔」
「おふたりとも……」


 一見、霖之助とパチュリーの様子はいつもと変わらない。
 しかし小悪魔はジト目でふたりに詰め寄った。


「こんな時間から、ナニをしてたんですか?」


 3日間で帰る、とはあらかじめ言っていたことだ。
 しかし時間までは決めていなかった。
 こんな早い時間に帰ってくるとは思っていなかったのだろう。


「別に、大したことじゃないよ」
「……ふん」


 首を振る霖之助。
 パチュリーは少し不機嫌そうな表情だった。

 その様子を見て、小悪魔はある確信を胸に抱く。


「本当ですかぁ~?」


 鼻の触れ合いそうな距離まで顔を寄せる小悪魔。

 そしてそのまま、彼女はぺろりと霖之助の頬を舐めた。


「……この味は、えっちなことをしていた味です」
「なにをするんだ……」


 驚いた表情で霖之助は目を見開く。
 しかしそれに構わず、小悪魔は大きくため息を吐いた。


「もう、ふたりきりになるとすぐネッチョネッチョと……。
 少しは自重する気はないんですか、もう。
 この部屋の掃除を咲夜さんに丸投げされたときの私の気持ちがわかりますか?」


 芝居がかった動きで、ヨヨヨと泣き崩れる振りをする小悪魔。
 ……まあ実際、彼女にとってはいつものことすぎてどうでもいいのだが。


「しかしだね……」


 霖之助が反論しようと口を開きかけた矢先、小悪魔は先手を取ってたたみかける。


「自分より年下の女の子にえっちの後片付けさせるなんてどんなプレイですか!
 ある意味セクハラですよ!」
「いや、パチュリーが後片付けはやらなくていいと言ったんだが……」


 むしろ霖之助は手伝おうとしたのである。
 しかし小悪魔は全く聞く耳を持たないようで……。


「小悪魔」
「はいなんでしょう」


 パチュリーの言葉に、ぱたりと動きを止めた。


「そんな事はどうでもいいから、お茶入れてきて頂戴」
「えええ」


 小悪魔の羽根が、へにゃりとしおれかかる。


「あの、私今帰ってきたばかりなんですけど」
「帰ってきたといっても休暇からでしょう」
「それはそうですけど」


 話題が逸れたことに安心したのか、霖之助が安堵のため息を吐いた。
 それから思い出したような声を上げる。


「しかしよく魔界まで行ってこられたね」
「いえ、そこまで難しくはありませんよ」


 先日、新しく出来た寺の住職についての話題をしてからしばらくして。
 小悪魔が一度実家に帰ってみたいと言いだした。
 実家、つまり魔界である。


「いろいろと方法はあるんです。
 蛇の道は蛇というやつですね」


 そう言って、彼女は背中の羽根をパタパタと動かす。


「あああ!」


 しかしいきなり大声を上げると、羽をピンと伸ばして目を見開いた。


「どうしたんだい?」
「どうせ帰るなら契約解除して帰って、再契約の時に名を付けてもらったら
 エンディングフラグだったんじゃ……ああっ、私の馬鹿!」
「……君は何を言っているんだい」


 やれやれ、と霖之助はため息を吐く。
 なにやら期待するような視線で見てくるが、全て無視。

 そんなやりとりを一通り楽しんだかのか、横からパチュリーが口を挟んだ。


「魔界はどうだったかしら」
「たかが数十年じゃ全然変わりませんね。
 あ、でも何人かはこっちに来てるから、むしろちょっと人が減ったかも……」


 人間とは違う時間を生きている悪魔だからこその感覚だろうか。
 今まで気にしたことはなかったが、ひょっとしたら霖之助やパチュリーよりも遙かに長く生きているのかもしれない。
 ふとそんな事を考える。

 ……だからどうしたということもないが。


「お母様……魔界の方のお母様ですけど。
 お寺の方に渡しておいてって頼まれたお茶があるんですよ。
 多めに頂いたんで、ちょっと入れてきますね」


 そう言って、彼女は嬉しそうにお茶を入れに行った。
 先ほどは渋っていたはずなのだが、なんだかんだで世話をすることが楽しいのだろう。


「やれやれ、騒がしいことだ」
「まったくだわ。
 図書館はもっと静かであるべきなのに」


 ふたり同じタイミングで肩を竦める霖之助とパチュリー。
 しかし。


「……そう言う割には、随分楽しそうじゃないか」
「あら? あなたがそれを言うのかしら」


 顔を見せ合い、笑う。
 たった3日だったが、ひょっとしたら少しだけ寂しかったのかもしれない。


「続きはあとで……ね」
「え? ああ……」


 ぽつりとパチュリーが呟いた。

 普段の体力はあまり無いのにどうしてあっちの体力はこんなに強いのか。
 そんな事を考えていると……。


「えっちなこと考えてます?」


 いつの間にか小悪魔が目の前に立っていた。
 ニヤニヤとした表情で霖之助を見つめてくる。


「……君は僕のことをどう思ってるんだい?」
「えっ、どうって……」


 一瞬、驚いた顔を浮かべる小悪魔。
 そして、顔を赤らめる。

 ……それだけで全てがわかったような気がした。


「はい、お茶入りました。
 魔界のお茶です。おいしいですよ」
「僕が飲んでも大丈夫なのかい?」
「大丈夫よ」


 答えたのはパチュリーだった。
 魔女たる者、魔界の植物についても詳しいのだろう。


「……なるほど、美味いな」
「でしょう」


 パチュリーが満足げに頷く。
 ひょっとしたら、飲むのは初めてじゃないのかもしれない。


「そうそう。私がいない間、何か変わった事ありましたか?」
「特に何もないね」
「ええ、平穏そのものだったわ」


 首を振るふたり。
 しかし小悪魔は不満そうな表情を浮かべる。


「えー、こういう時こそいなくなって初めてわかる私のありがたさとかあるとおもうんですけど」
「自分で言うかねそれを」


 肩を竦める霖之助。
 その様子を見て、パチュリーが思い出したように呟いた。


「そうね。お茶を入れるのが面倒だったわ」
「そう言えば、私がいない間お茶とかどうしてたんですか?
 やっぱり咲夜さんとかが……」
「パチュリーだよ」
「え」


 一瞬、小悪魔の動きが止まる。


「なによその顔は」
「いや、だって……」


 彼女はそのまま霖之助へと視線を移した。

 ……そのニンマリとした笑顔はやめて欲しいと思う。
 本気で。


「つまりお父様はお母様に上げ膳据え膳だったわけですね、いろんな意味で」
「……まあ……否定はしないがね」


 一応行っておくと、自分でやろうとしたのだが断られたのだ。
 パチュリーがやるからと言って茶器に触らせてもらえもしなかった。

 楽ではあったのだが……。


「てっきり家事が壊滅的だと思ってました」
「失礼ね……お茶くらい入れられるようになったわよ」


 聞いたところに寄ると、お茶の入れ方を咲夜に習っていたらしい。
 メイドがこっそり教えてくれた。

 まさに練習の成果だろう。


「えっ、それはあれですか、いわゆる花嫁修業的な」
「そんなわけ無いじゃない」


 しかし彼女は首を振る。


「もしそうなっても、お茶を入れるのは小悪魔の仕事だもの」


 パチュリーの言った言葉。
 その意味をしっかりと理解し、小悪魔は嬉しそうな笑みを浮かべた。


「はい、お任せください!
 お母様の世話からお父様の世話までこの私が全て……もちろん、あの世話もお任せですよ!」
「それはいい」
「それはいいわ」


 同時に首を振るふたり。
 ……すぐ調子に乗るのは、どうにかならないものか。

 それでこそ、と言う気もするが。


「あ、新妻で思い出しました」


 小悪魔はポンと手を叩くと、胸元から一枚の紙を取り出した。

 ……何故そこにしまっているのかは考えないことにする。
 そもそも誰も新妻とは言っていないのだが。


「帰ったとき、魔界ツアーとか勧められたんですよ。
 新婚旅行にどうですか?」
「どうですかと言われてもな……」


 言いかけ……霖之助は動きを止めた。


「…………」


 パチュリーがじっとこちらを見ている。

 試されている、と感じた。
 彼女はどんな言葉を望んでいるのか。
 それを考える。


 やがて霖之助は肩を竦め、笑みを浮かべた。
 ある意味観念したような、そんな笑顔。


「近いうちに、ね」

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非公開コメント

No title

キタキタ! KITA!

No title

おお、ちゃんと進展してるw

これで一週間は元気に過ごせる

No title

www今回もいいパチュ霖ですね~www
なにやら結婚フラグも建ってますしw
小悪魔GJ!!
かいがいしく世話をするパチュリーと、そういった世話を不慣れとわかってながらも見守る霖之助www
これでしばらくは頑張れます!
これからも応援してます。頑張ってください。

No title

一歩一歩結婚的なのに近づいていくのがたまりません

No title

はい、言質とった!霖之助はもう後には引けない。
近いうちに新婚旅行するって事は、近々結婚する予定という事でよろしいか!?
まあ、この人達の近いうちって10年後くらいの可能性もありますよね。
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