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2代目は魔法使い

すごく珍しく魔理霖を書いてみたくなったので。
たまには王道もいいよね。


霖之助 魔理沙








 山の上の神社にまつわる騒動も一段落した頃。
 香霖堂にひとりの常連が増えた。


「こんにちは、香霖堂さん。やってますか?」
「ああ、開いてるよ。
 いらっしゃい、早苗」


 早苗は玄関のドアをくぐり、店内へと歩を進める。

 外の世界からやって来たという彼女は香霖堂の商品にいたく興味を示したようで、たびたび店に訪れていた。
 外に戻る気はないと言うが、それはそれ、これはこれなのだろう。


「なにか変わりはないですか?」
「ああ。と言ってもこんな場所だ。
 参拝客もいないがね……」
「それはその、そのうち増やしてみます」


 霖之助のため息に、早苗は視線を逸らした。
 香霖堂の近くに守矢神社の分社を置いたのはしばらく前のこと。

 信仰を集めるためにいろいろやらかした早苗たちだったが、ひとまず地道にやることにしたらしい。
 分社を置いたのもその一環だ。


「ほどほどに期待しておくよ」
「ええ、是非そうしてください」


 力強く言い切ると、早苗は店内の物色を開始した。
 霖之助は苦笑を浮かべ、手元の新聞に目を落とす。

 外の世界からやって来た彼女に道具の使い方を聞くのは簡単だが
店に並べてあるのは霖之助が売ってもいいと判断したものだ。
 一度手放していいと判断したものに対してあれこれ聞くのは気が引けた。

 なので早苗が商品を買う際、まとめて聞くことにしている。
 逆に言えば、早苗が買うということは幻想郷でも使える道具だと言うことなのだし。


「ああ、先日教えてもらったカセットテーププレイヤーだが、なかなか興味深いね。
 電池の消耗が激しいのが難点だが……」
「そうですか、よかったです。
 古い曲ばかりですけどそれは仕方ないですよね」


 早苗の話によると、外の世界ではもっと別の道具で音楽を聴くらしい。
 しかしそう言うものは幻想郷では動力の確保が難しいという話だった。

 そう言えば、昔紫に持って行かれた音楽プレイヤーがあったことを思い出した。


「あ、懐かしい」


 商品を見ていた早苗が声を上げる。
 霖之助が顔を上げると、彼女は店に置いてあった人形を手に取っていた。

 人形と言っても魔法使いのアリスが使うようなものではなく、
プラスチックなどで作られた玩具に近いものだ。

 カラフルな配色が目立つそれらを、早苗は懐かしそうに見つめている。


「これ、子供の頃にテレビでやってました」
「ほう? テレビというと、映像を映すというあれかい?」
「ええ、そうです。毎週日曜日に見てた記憶があるんですよ。懐かしいなぁ」
「ふむ……。
 外の世界にはこういった人種がいる……というわけではなさそうだが」
「えっと、これは特撮と言ってですね……」
「特撮?」
「そうなんですよ。ええと……」


 早苗の説明は要領を得ないものだったが、お芝居のようなものということは理解できた。

 一通り説明すると、人形を商品棚に戻す。
 買う気はなかったのだろう。


「あ、これで思い出しました」


 ぽん、と手を叩く早苗。
 そして目を輝かせ、霖之助に向き直る。


「幻想郷にヒーローっていたんですね。
 私、感動しちゃいました」
「ヒーロー? 英雄のことかい?」


 その言葉に、阿求の書籍が思い浮かんだ。
 霖之助の脳裏に、苦い思い出が蘇る。


「いえ、ヒーローはヒーローですよ。
 弱気を助け強きを挫く人間の味方です」
「……そんなもの、初めて聞いたが」
「そうですか? だって魔理沙さんが言ってましたよ。麓のヒーローだって」
「魔理沙が?」


 彼女の言葉に、首を傾げる霖之助。
 しかしそれと同時に、玄関のカウベルが音を立てた。


「何だ、今日は客がふたりもいるじゃないか」


 噂をすれば何とやら。
 普通の魔法使いが楽しげに顔を覗かせる。


「あいにくだが、客はひとりしか見当たらないね」
「今来店しただろう」
「ということは買い物をする気があると言うことかな、魔理沙」
「お茶を飲みに来ただけだぜ」


 魔理沙はそう言うと、いつもの定位置……壺の上へと腰掛けた。
 無言でお茶を要求してくるので、霖之助は仕方なく準備を始める。


「こんにちは、魔理沙さん」
「よう、早苗じゃないか。こんな店に何の用だ?」
「彼女はうちのお得意様だよ。それにこんな店に用があるのは君も同じだろうに」
「私は店に用があるんじゃないからな」


 言い返そうとした霖之助だったが、先に早苗が口を開いた。


「そう言えばおふたりって幼なじみなんですよね」
「いや、幼なじみという言葉は少し違うな。
 僕は魔理沙が小さい頃から知っているが、その時僕は既に幼くなかったからね。
 幼なじみとは幼い者同士の関係を……」


 霖之助の言葉を聞き流しながら、魔理沙はお茶を啜る。
 そして早苗に向けて笑みを浮かべた。


「……とまあ、こんな感じのやつだぜ、香霖は」
「なるほど、わかってましたけどよくわかりました」
「なんだか失礼なことを言われた気がするが」
「そのままの意味だぜ」


 魔理沙は不満そうな霖之助を笑い飛ばすと、首を傾げた。


「それで、何の話をしてたんだ?」
「……さて、何だったかな」


 肩を竦め、視線を逸らす霖之助。
 しかしその様子に気付かず、早苗が口を開く。


「ヒーローの話ですよ。幻想郷の」
「そんなの聞いたこと無いぜ」
「魔理沙さんが言ったんじゃないですか」
「ああ、そう言えばそんな事も言った気がするぜ」


 言われて思い出したようだ。
 その様子を見て、早苗は魔理沙に詰め寄った。


「やっぱり幻想郷にはご当地的なヒーローがいるんでしょうか。
 そう考えると霊夢さんとか近いかも……」
「ご当地かどうかはわからないが、他にもヒーローはいるぜ。
 なんたって私は2代目だし」
「ということは先代のヒーローもいたんですね!
 なんだかロマンを感じます」


 目を輝かせ、ひとりはしゃぐ早苗。
 そんな彼女をよそに、魔理沙は霖之助に視線を送る。


「な、香霖」
「あ、ああ……」


 霖之助は苦い表情を浮かべるが、魔理沙は気にした様子がない。


「やっぱり変身したりするんですか?
 こう、ベルトとかカードとかブレスレットとか眼鏡とか……」
「私はいつでも普通の魔法使いだからそういうのはないぜ。
 でも私のヒーローを呼び出す道具ならあるな」


 そう言って彼女は胸に下げた鎖を取り出した。
 その先に付けられてたのは、スイッチの付いた小さな箱のような物体。


「……随分古いですね」
「そりゃもう10年以上前のものだからな」
「見せてもらってもいいですか?」
「構わないぜ」


 魔理沙は鎖を外し、箱を早苗に渡す。
 しばらく調べていた早苗だったが……やがてため息を吐き出した。


「押しても何の反応もありませんね」
「だろうな」


 彼女の言葉に、しかし当然のように頷く魔理沙。
 その様子に、早苗は疑問の表情を浮かべる。


「えっとこれが……なんでしたっけ」
「先代のヒーローを呼び出すスイッチさ。
 ただしそれには条件があるんだぜ」


 そう言って、魔理沙は指を一本立てた。
 生徒に言い聞かせる先生のように、自信たっぷりに胸を張る。


「私の力じゃどうしようもない状況にぶつかったとき……。
 一度だけ、私を助けてくれるんだ」
「ということは、今まで魔理沙さんは自分の力でなんとかしてきたんですね」
「まぁな。……霊夢もいたけど」
「友情は即ち自分の力だよ。
 誇っていいことだ」
「ふん、香霖が言うならそうなんだぜ」


 霖之助の言葉に、魔理沙は帽子を深く被り直した。
 そのせいか、表情を確認することは出来ない。


「ところで先代のヒーローさんってどこにいるんですか?」
「さぁ、その辺にいるんじゃないか?
 何たって……」


 ニヤリと魔理沙は笑った。
 帽子の縁から、霖之助を真っ直ぐ見ながら。


「この願いを叶えるまでは傍にいるって約束だからな」
「……ああ……」
「私だけの、ヒーローとの……」


 最後の呟きは、誰に届くこともなかった。

 早苗はなにやら喜びながら、満面の笑みを浮かべる。


「へぇ~。
 いいですね、やっぱり星雲からやって来たりしたんでしょうか」


 そう言って、早苗はくるりと魔理沙に向き直った。


「魔理沙さんが2代目ということは、妖怪から人間を助けて回るんですか?」
「とんでもない。私は私の味方だからな。
 霧雨魔法店に依頼が来たらそうするぜ」
「えー、ヒーローなら人間の味方でしょう。
 ですよね、香霖堂さん」
「さて、あいにく僕は人間でも妖怪でもないんでね」


 首を振る霖之助。

 その顔には苦笑が浮かんでいた。
 ……今日の来店者は、ふたりともお客じゃなかったようだ、と思いながら。


「それより君たち、何か買う気はないのかい?」









 ひとりになった店内で、霖之助はゆっくりお茶を啜る。
 魔理沙と早苗が帰ったあとの香霖堂は、なんだか妙に寂しく見えた。


「……まだ憶えてたとはね」


 誰に向けたわけでもない呟き。


「あら、貴方もしっかり憶えてたんでしょう?」


 しかしその呟きに答える影があった。


「紫、来るときは玄関から入ってくれと言ったはずだがね」
「最近ちっとも驚いてくれなくて寂しいわ、私」


 霖之助はため息を吐きながら振り返る。
 胡散臭い大妖怪の姿を確認すると、改めてため息を吐く。


「本当に危ない時は助けに行くつもりなんでしょう?」
「まさか。僕が彼女の戦いに割って入っても足手まといになるだけだよ」


 スペルカードルールと言えど……お互い覚悟の上とは言えど、命の危険はつきまとう。

 だが魔理沙は良くも悪くも有名な人間だ。
 彼女の身に何かあれば、妖怪との関係も危うくなるだろう。

 現在の幻想郷を壊さないために、いざとなれば紫が何かしてくれるのではないか。
 何かしらそんな期待はあった。
 例えそれが幻想だとしても。

 もっとも、そんな事態になれば霖之助も黙って見ているわけには行かないだろうが……。


「まあ、ヒーローなのに情けないわね」
「魔理沙が勝手に呼んでるだけさ」


 そう言って、苦笑を浮かべる。

 遙か昔、魔理沙が家を飛び出してきた頃に交わした約束。
 ……魔理沙が憶えているとは少し意外だった。


「じゃあ、霖之助さんとしてはそうなったらどうするつもりかしら」
「そうだね……」


 彼女が本当に苦しいとき。
 霖之助は何をしてやれるだろう。

 ……考えてみたが、あまり思い浮かばなかった。
 そもそも、そんな状態というのがまずイメージしにくい。
 霧雨魔理沙とはそう言う少女なのだから。

 だから。


「傍にいてやることしかできないかな」
「あらまあ」


 紫は驚いた表情を浮かべた。
 そして笑う。
 ……少しだけ、羨ましそうに。


「それじゃまさに……本物のヒーローね」






私だけのヒーロー
はいろさんに挿絵を書いていただきました。
感謝感謝。

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No title

おお、王道とは道草さんにしては珍しいですね
いやしかし、魔理×霖はほろ甘くていいね、にやけてしまいそうだ

No title

ニ ヤ ニ ヤ が と ま ら な く な っ た
どうしてくれるwww

No title

悪人と戦うよりも、人を助けるよりも、世界を救うよりも
ただ傍にいる事が何よりも助けになる。
そういうことですね!

HEROになるとき、それは今
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道草

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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
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