2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

笑顔の価値

いつもの咲霖とはちょっと違う関係。
咲霖であることには変わりないですが。

レミリアを書いてみたかったとも言う。


霖之助 咲夜








「スマイル0円?」


 霖之助は思わず聞き返した。
 あまり褒められたことではないが、仕方がない。

 混乱気味の霖之助に、瀟洒なメイドは悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「ええ。いつだったか、話していたでしょう?
 扱ってないのかしら、スマイル」
「……ここは道具屋だよ。
 ファストフードの店じゃない」


 確か、咲夜に外の世界の店について話したことがある。
 だがそれはあくまで食べ物屋の話だ。


「あら、だからってそれでいいとも限らないんじゃないかしら」
「……どういうことだい?」


 しかし咲夜は首を振る。


「表情ひとつにしても、それが雰囲気に与える影響は大きいものよ。
 例えば、暗い顔をしている人より明るい顔の人のほうが話しかけやすいでしょう?
 お店も一緒だと思うわ。商品について聞きたいのに聞けない、とか。
 ひいては、店に入りにくい、とか」
「ふむ……?」


 彼女の言葉に、霖之助は呻き声を漏らした。

 確かに、ないとは言えない……かもしれない。
 前に客が来たのは、いつのことだっただろうか。


「別に無闇に愛想を振りまけ、と言う訳じゃないわ。
 でも、場合にあった表情があると思のだけど」
「なるほどね、確かに一理あるのかもしれない。
 それも含めて完璧な笑顔、か」


 感心したように、ため息。


「……僕には到底出来そうもないがね」


 そして霖之助は自嘲気味に笑う。
 その表情を見て、咲夜は首を振った。


「……その笑い方はあまり好きではないわね」
「そうかい?」


 少しだけ、彼は驚いた表情を浮かべた。


「……じゃあ、気をつけないとな」


 それから、困ったように頭をかく。


「君に嫌われたら、大変だからね」
「えっ……」


 そう言って照れたように微笑む霖之助の表情に、咲夜は思わず目を奪われていた。
 だが、それも一瞬のこと。


「……どうかしたかな?」」
「あ、いえ。
 なんでもありません」


 すぐに元……いつもの表情に戻る彼に、咲夜は安堵と……少しだけ、残念そうなため息を漏らす。
 そんな彼女に、霖之助は首を傾げた。


「ところで今日はわざわざそんな事を言いに来たのかい?」
「あら、いけませんか?」
「……ここは道具屋だよ。
 お客なら冷やかしも歓迎だが……」
「遠回しに何か買え、と言っているのかしら」
「いいや、別にそうは言ってない」


 言ってはいないが、言外に十分含ませてはいる。
 ……いつものことだが。

 とはいえお得意様相手だからこその態度だろう。
 咲夜もそれがわかっているのか、苦笑いを浮かべた。


「安心してください、今日の目的もちゃんと買い物ですから」
「そうか、それはなにより。
 ではお客さん、今日は何をお探しで?」


 がらりと態度を変える霖之助に、現金なんだから、と咲夜は唇を尖らせる。


「実は、調理器具を探していまして」
「調理器具というと、フライパンとかかい?
 それとも包丁とか?
 どちらにしろ、それくらいなら人里でも売ってあるだろうに……」
「いいえ、そうではないのよ」


 霖之助の言葉を遮り、咲夜は首を振った。
 しばらく言葉を選び……ややあって、口を開く。


「霖之助さん、紅魔館が里の人間からどう思われているか知ってるかしら?」
「ん? ああ……」


 咲夜に言われ、阿求の書物を記憶から呼び起こす。

 幻想郷縁起。
 人間と妖怪の関係を記した本だ。
 その中に、紅魔館についての記載があった。


「意外と親切だけど騒がしい館、だったかな?」


 いろいろ意見はあったのだろうが、あえてその意見を取り入れたことに
なんだか阿求の意図を感じざるをえない。


「あと、食べるものがないと書いてあったが……。
 やはり吸血鬼のメイドには、人間用の食事は用意できないとか?」
「そういうわけではないのだけれど」


 咲夜は困ったように肩を竦めた。


「来訪者の担当はすべて妖精メイドに任せているのよ。
 と言っても食事の世話くらいだけど」
「……なるほどね。
 咲夜は作らないのかい?」
「他の人間がいるからこそ、お嬢様の傍を離れるわけにはいきませんわ」


 つまり構っている暇はないということだろう。
 彼女のメイドとしての仕事はあくまでレミリアに仕えることである、と。


「……妖精メイドは料理できないのかい?」
「できないわけじゃない、くらいかしら。
 でも自分たちの分を作るだけで精一杯みたいね。
 屋敷をあげてのパーティとかなら、ちゃんとやるみたいだけど。
 あとは遊んでるわね」


 そういえば、紅魔館で行われるパーティの時は妖精メイドたちはちゃんと働いていた気がする。
 つまり、場の雰囲気に流されやすいと言うことだろう。


「水は低きに流れるもの、か」


 もしくはイタズラ好きな妖精たちのことだ。
 料理を作っても、何か細工をしてしまうのか。


「……なるほど、話はだいたいわかったよ」
「わかっていただけましたか」


 そう言って、咲夜は疲れたようにため息を吐いた。
 ……無理もないのかもしれない。


「つまり遊びながら料理が出来るような、そんな道具を探しているわけだね」
「ええ、そうなのよ。
 外の道具にならあるかしらと思って来たのだけれど」
「無いことはないが……」


 そう言って霖之助は立ち上がり、商品棚を探り始めた。
 取り出したのは、一抱えもありそうな箱の数々。

 それぞれの箱には子供の写真が印刷されている。


「これらは子供向けの玩具……いわゆるクッキングトイと言われるものでね。
 簡単に料理を楽しめるもの……なんだが」


 そう言って、霖之助は言葉を濁した。

 幸運なことに、箱ごと入手できれば説明書も入っていることが多い。
 だが使い方がわかっても使えない、ということは往々にしてあるものだ。


「あら、何か問題でも?」
「これら外の道具は外の世界の文明に合わせたものだからね。
 これ単体では調理器具としては完成しない場合が多いんだよ。
 簡単に言うと、子供向けの道具なために加熱する機械がないのさ。
 どうやら電子レンジなどが必要なようだが……つまりは親御さんと一緒に遊んでください、ということらしい」
「電子レンジって、なんだか温める機械、だったかしら」
「そうらしいね。
 動いているところは見たことないが」


 電子レンジ自体は香霖堂にもある。
 だがあいにくながら、動力がないのだ。


「ああ、アイス製造器とかなら単体でも使えないことはないよ」
「人間ってアイスを主食にするのかしら」
「……そうだね」


 咲夜の言葉に、霖之助は肩を竦める。


「あとはパスタ製造器……。
 それに蕎麦。
 これらは茹でないといけないが、使えないことはないだろう」
「ちょっとは主食らしいわね」
「使ったことはないから、味はわからないけどね。
 パンやケーキなら、オーブンがあれば使えるな。
 あとはプリンとか……」


 カウンターの上には次々と箱が積み上げられていった。
 よくもまあ、これだけため込んでいたものだ……と咲夜は思わず感心してしまう。


「じゃあ、まとめていただこうかしら」
「いいのかい?
 君の要望のものと違うものもあるし、使えるかわからないものもあるけど」
「物は試しと言いますし。
 それに温めればいいのでしょう?
 パチュリー様に頼んでみるわ」
「ふむ。
 ……もし使えたら教えてくれよ」


 あの魔女なら近いことが出来るかもしれない。
 どのみち霖之助が持っても仕方ないものだ。

 ……酒に合うとは思えないし。


「でも、さすがに多いわね。
 紅魔館まで運んでくれるかしら?」
「構わないよ。
 お得意様の頼みだからね」


 なんでもない霖之助の返答。
 しかし咲夜は少しだけ、落胆の表情を覗かせる。


「……それだけ?」
「ん? なにがだい?」
「い、いえ。
 なんでも……」


 首を傾げる霖之助に、咲夜はため息を吐くのだった。









「咲夜、キッチンに置いてあるものなんだけど」
「あら、お嬢様。
 おはようございます」


 主に声をかけられ、咲夜は深々と頭を下げる。
 慇懃なその態度に、レミリアはしかし首を振った。


「今は夜中よ。おはようではないわ」
「お嬢様にとっては朝かと思ったのですが」
「朝は朝。夜は夜ね。覚えておきなさい」
「はい、ではそうしますわ」


 瀟洒な笑顔を浮かべる咲夜に、レミリアは疲れた表情を浮かべる。
 天然なところのあるこのメイドは、ちゃんと聞いているのか怪しいところだ。


「買ってきたのですわ。
 誰にでも使える調理道具、とのことでしたので」
「なるほど、あの店ね」


 あの店、という言葉にどきりと咲夜の心臓が跳ねる。
 しかし何事もなかったかのように、笑顔で主の言葉を待つ。


「でも、材料が無くなったわよ。
 あれでは誰も使うことが出来ないわ」
「あら、そうですか?」


 レミリアの言葉に、咲夜は首を傾げた。


「妖精メイドたちには、人間を保護した時だけ使うように言ってあるのですけど」
「そ、そうなの」
「はい。
 元々そのために買ってきましたので」


 残念ながら人間を保護すること自体が稀なため、未だ活躍したことはないが。


「それなら買ってこなければいけませんね。
 同じ材料があるといいのですけど」
「ふん、嬉しそうな顔して。
 あの店に用事が出来たのがそんなに嬉しいのかしら」
「そ、そんな事……」


 顔を赤らめる咲夜に、レミリアはため息を吐いた。
 ……まあ、今更突っ込んでも仕方がない。


「ま、いいわ。
 紅魔館にある道具だもの。
 不備がないようにね」
「はい、わかりました。お嬢様」


 再び頭を下げる咲夜に、レミリアは満足そうに踵を返す。


「あ、そうそう」


 そんなレミリアの背中に、咲夜は言葉を投げかけた。


「使ったプリンの食器は、テーブルの上に置いておいてくださいね。
 妹様のも、一緒に」


 驚いたようにピンとレミリアの翼が伸びた。
 咲夜は完璧な笑顔で、ゆっくりと尋ねる。


「美味しかったですか?」
「……まあまあね」
「そうですか。それはなによりです」


 主の命に従って、咲夜は出かける準備を始めた。
 レミリアと、そしてフランの笑顔を想いながら。

 この話をしたら、あの店主も笑顔になるだろうか。
 そんな事を、思いながら。

コメントの投稿

非公開コメント

ん?料理の材料を求めて香霖堂へ?置いてあるのか?

そして地味にこのシリーズでフラン初登場(名前だけ)。

No title

これはレミ霖フラグだと言い張ってみる。
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
リンクはフリーですが、ご一報いただけたら喜びます。

バナーはこちら。

<wasre☆hotmail.co.jp>
メールです。ご用のある方は☆を@に変えてご利用ください。

スカイプID<michi_kusa>

ついったー。

相方の代理でアップしてます。

同人誌情報
最新コメント
カテゴリ
リンク