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古都と少女と

少女が霖之助と一緒に外の世界に行くとしたら、どんな生活になるだろう。


紫が原因で起こしてしまった異変を、ひょんなことから解決してしまった霖之助。
彼女から報酬にと、霖之助が望んでいた外の世界へ行く権利を与えられる。

ただし、1年間という期限付き。
旅をするのもよし、一つ所に留まるもよし。
支度金と場所は紫が用意してくれるらしい。
必要なら仕事も紹介してくれる、と紫は言った。


それから1ヶ月間、霖之助は外の世界について勉強する。
そして……。


~ここまでテンプレ~


霖之助 慧音





 霖之助が望んだのは、各都市の名所巡りだった。
 綿密な計画を立て、乗り物を駆使し、またある時は臨機応変に対応しながら歴史ある建造物を巡る。

 まるで修学旅行ね、と紫は笑っていた。
 それも当然だろう。
 霖之助は、学ぶために来たのだから。


「……京都、か」


 とある旅館の一室で、霖之助は感慨深げに呟いた。

 幻想郷が博麗大結界で覆われる前、霖之助はこの地を訪れたことがある。
 新しいものの中に古いものが融和する都市。

 昔来た時の記憶を辿り、現在との差異を見いだす。
 もしどんなに変わってても、それを否定する気にはならなかった。


 それが、都市の歴史というものだから。


 霖之助が最初にこの地を選んだのは、そんな理由からだった。
 まあ、あといくつか理由はあるが……。


「それにしても……久し振りだな。
 こうして外に来るのも」


 旅館の窓から見える光景に、しみじみと頷く。

 外の世界は何もかもが刺激的だった。
 百聞は一見にしかず。
 使い方のわからなかった道具が、そこかしこで動いているのだ。

 だが、そんな事で焦る霖之助ではない。
 そのために、この1ヶ月間紫から教育を受けてきたのだし。


 現に今も、夕方前には旅館に到着し、早めの温泉を楽しんできたところだ。
 本格的な探索は明日からとなる。

 時間はたっぷりあるのだ。
 焦る必要もない。


「ん?」


 廊下から響いてきた足音が、部屋の前で止まった。

 静かな旅館の、人のいない時間帯だ。
 周りに音が無ければ、こんな小さな音でも耳に届く。


 しかし止まった足音は、部屋の前から動こうとしない。
 宿の従業員かと思ったが、違うようだ。


「……慧音?」


 霖之助は同行者の名を呼んだ。

 幻想郷から外の世界へ。
 同じ道を歩き出した、唯一の同行者。


「よ、呼んだか?」


 恐る恐る、といった様子で慧音が部屋に入ってきた。

 今まで温泉に行っていた彼女は浴衣姿で、髪も湿っている。
 外の世界でこの髪の色は目立つかもしれないが……。
 霖之助も人のことが言える立場ではない。


「どうしたんだい? 部屋を忘れてしまったのかな?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
「ふむ?」


 迷子になった……というわけではないのだろう。

 慧音は言葉を濁しながら、吐息を漏らした。
 上気した頬は赤く、熱を帯びている。

 そして彼女のため息もまた、熱を帯びていた。


「それにしてもいいお湯だった。
 外の世界の温泉というのもいいものだな」


 言いながら慧音は霖之助の向かい側、畳の上に腰掛けた。
 言葉とは裏腹に、どこかそわそわと落ち着かない様子で。

 霖之助は彼女にお茶を注ぎつつ……首を傾げる。


「大丈夫かい? 落ち着かない様子だが。
 やはり外の世界に来たのは……」
「ああいや、そうじゃない。
 そうじゃないんだ」


 慧音はぶんぶんと首を振った。
 そして観念したように、言葉を漏らす。


「ついてきたのは私の意志だ。後悔などしていない。
 ……だが、まさか霖之助と一緒に泊まることになるとは思ってなかったからな。
 その、夫婦として……」
「ああ、なんだそんなことか」
「そんなこととはなんだ!」


 さっきの様子はどこへやら。
 一転して不機嫌となった慧音に、霖之助は肩を竦める。


「仕方ないじゃないか、紫が用意してくれた住所と身分証がひとり分しかなかったんだから。
 それに、そのほうが安いんでね。
 費用は出来る限り節約するべきだろう」
「む、そういうことなら、まあ。
 仕方ない……が……」


 渋い顔で考える慧音。

 霖之助は本来ひとりで旅に出る予定だった。
 しかし出かける間際……。
 外の世界へと続くスキマをくぐろうと言うとき、慧音がやってきたのだ。

 一緒に行く、と。

 思えば、紫が資金を多めにくれたのはこれを見越していたのかもしれない。
 ざっと計算してみたところ、ふたり分だとギリギリ足りる金額だ。

 ならばやはり、浮かせられるところは浮かしていくしかない。


「でも、君が来てくれてよかったと思うよ」
「そ、そうか?」


 霖之助の言葉に、慧音は嬉しそうな顔を浮かべる。


「ああ。歴史に詳しい君がいてくれればこの旅も有意義なものになること間違いないからね」
「そうか……」


 何故か肩を落とす彼女を、霖之助は不思議そうに見つめる。
 ……考えても仕方ないので、霖之助は今まで見ていた物に目を移した。


「ところで慧音。
 明日の予定だが……」


 机の上に広げられた地図を指さす。
 慧音の視線が指先に向いたことを確認し、霖之助は口を開く。


「一条のほうから見て回ろうと思うんだ。
 こう、順番にね」
「うむ。それはいい案だな」


 地図を見るまでもなく、京都は広い。
 見て回るだけで数日……いや、それ以上かかるだろう。


「まず僕が行ってみたいのは……ここだ」
「うん?」


 霖之助の指が止まった地点を見て、慧音は首を傾げた。
 何となく、なじみのあった場所だったからだ。ある意味で。


「一条戻橋、か」
「うん。パルスィから話を聞いていてね。
 それで興味が湧いたというわけさ」
「そ、そうか」
「ああそうそう、戻橋と言えばかの十二神将と縁の深い場所でね。
 その話を聞いて藍が……」


 解説、と言うより思い出話を語る霖之助に、慧音はため息を吐いた。

 手元の手帳に一条戻橋、と書き込む慧音。
 ついでにパルスィ、と。


「霖之助、それはいいから次はどこに行くんだ?」
「ん? ああ、一条の次と言えば……」


 言葉を遮られた霖之助は大して気にした素振りもなく、次の地点を指さす。


「二条城か」
「ああ。このあたりにぬえが行ったことあると聞いてね。
 思い出話を聞かせて貰ったよ。
 それで興味を持ったというわけだ。
 まあ、聞いてなくても行っていたとは思うがね」
「……そう……か……」


 慧音は手帳に二条城、と書き込んだ。
 ついでにぬえ、と。


「そうそう、ちょっと京都と言えば京の三閣。
 これを見逃す手はないだろう」
「ああ、そうだな。
 歴史的にも重要な建造物だ。
 きっと霖之助の旅にも……」
「それに輝夜から金閣寺の天井を見てきてくれと言われているんだが、
 よく考えてみれば中に入ることは出来ないような気がする。
 やれやれ、これも難題のひとつなのかな」
「…………」


 手帳に書くのは金閣寺。
 ついでに輝……。


「妹紅からは御所の様子を見てきてくれと言われたし。
 なんだか思うところがあるらしいね。
 詳しくは聞かなかったけど」
「妹紅まで……」


 慧音はなんだか疲れた様子でため息を吐いた。
 そんな彼女に、霖之助は……気付いた様子がない。


「それに京都に行くならと、萃香と藍から土産話を期待されたよ。
 何でも昔……」
「なぁ、霖之助」
「ん?」


 慧音の呟きに、霖之助は言葉を切った。
 俯く彼女が、なんだか真剣な顔をしていたせいだろう。


「私は余計だったのかな」
「何を言ってるんだい?」
「だって……」


 慧音は言葉を選びつつ……。
 怖々と、霖之助の顔を見る。

 真実を知るのが怖い、と言わんばかりに。


「知識はもう十分だろう?」
「……知識は、ね」


 その言葉に、霖之助は首を振った。
 やれやれ、と苦笑しながら。


「僕が知りたいのは歴史だからね。
 記憶を元に、それがどう変わったかを知るのはとても重要なことだが、
 やはり歴史とは客観的な視点あってのことだと思うよ」


 歴史とは編纂されて初めて歴史となる。
 もちろん歴史が語るのが真実ばかりとは限らないが……。

 だがそれでも、それだからこそ。
 歴史に触れるのは、新鮮だった。

 幻想郷とは違い。
 今回の霖之助は、見る側として。


「そ、そうか。ならいいんだ、うん」


 安心したように、慧音は頷く。
 そんな彼女に、霖之助は肩を竦めた。


「それによく言うじゃないか」
「ん? なにをだ?」
「旅は道連れ、世は情けとね。
 ひとりよりふたりのほうが旅は楽しいだろうし」


 慧音が付いてくることに反対しなかったのは、そういう考えもあってのことだ。

 もちろんひとりでじっくりと考察するのも悪くない。
 最初はそのつもりだったのだし。

 しかし他人と感じたことを語り合うのも……悪くないと思うのだった。
 しかも慧音は専門家で、先生をやっているのだ。今回の旅にはまさにうってつけである。


「……ふむ、いつの間にかいい時間になっているな」


 備え付けの時計を見て、霖之助は呟いた。

 少し早いが、構わないだろう。
 地図をしまい、立ち上がる。


「じゃあ、食事に行こうか。
 ここの魚料理はかなり美味だと……」


 紫が言っていた、という言葉を飲み込む。
 学ぶために来た旅だ。
 これくらいのことは学習しないと困る。


「どうかしたか、霖之助?」
「いや、なんでもないよ」


 首を振りながら……霖之助は旅館の部屋をあとにした。

 慧音とふたり、並んで歩きながら。









「見事に騙されたよ……」
「でも美味しかったからいいだろう? 霖之助」
「それはそうだが……」


 部屋へ続く廊下を歩きながら、霖之助は吐息を漏らす。


「まさか肉や魚のすべてがもどき料理だとはね」
「精進料理のフルコースとはな。私も驚いたよ」


 紫が紹介するだけのことはある。
 見た目に騙されないように、と言う彼女の言葉が聞こえてきそうだ。


「霖之助の能力でもわからなかったのか?」
「肉料理として作られたものは肉料理と出るんだよ。
 例え材料がなんであれ、ね。
 ……おっとっと」


 霖之助は慧音の背中にぶつかりそうになり、慌てて身を引いた。

 前を歩いていた彼女がドアを開け、部屋に入ろうとしたところでいきなり動きを止めたのだ。


「……慧音? どうかしたかい?」


 すっかり固まってしまった彼女に声をかける。

 すると慧音はくるりと振り返った。
 なにやら、動転した表情で。


「り、りりり……霖之助、なんだこれは!」
「なんだこれはと言われても……」


 慧音が邪魔で部屋の中が見えない。
 仕方なく、彼女の横から覗き込む。

 見ると、すっかり部屋の中は整理されていた。
 ……それと、もうひとつ。


「ああ、仲居さんがやってくれたんだろう。
 荒らされたりしてるわけじゃないから安心して……」
「いや、そうじゃなくてだな」


 慧音は力強く断言すると、部屋の中央に敷かれたものを指さす。


「なんで布団が並んでいるか、と言うことを聞いてるんだ!
 しかもこんなにぴったりと……」
「なんでって……そんなに変かい?
 一緒に寝ることが」


 夫婦で登録しているのだから不思議なことではないだろう。
 仲居さんもそのつもりで用意したのだろうし。

 しかし慧音は霖之助の言葉を勘違いしたようで、顔を真っ赤に染める。


「な、なにを言ってるんだ、霖之助!
 だいたい、一緒の部屋で寝ること自体がだな。
 そもそも私たちはまだ……その……」


 なにやらもごもごと言いにくそうにする慧音に、霖之助は肩を竦める。


「そんなに言うなら布団を離せばいいじゃないか。
 なんだったら僕が遠くで……」
「いやいや」


 仕方なく布団を引っ張ろうとした霖之助だったが、慧音に止められた。
 意外と強い力で。
 と言うか、痛い。


「誰もそこまでやれとは言ってないぞ、うん。
 ほら、旅の恥はかき捨てと言うだろう?」
「慧音、言ってることがちぐはぐだ」
「うぅ……」


 尻尾があったらしゅんと垂れているだろう。
 そんな事を思わせるほど、慧音はうなだれていた。

 霖之助は苦笑しながら、脇に避けられているテーブルを示す。


「それにまだ寝るのはまだ早いよ。
 明日の予定だって決めてないし、本だって読んでない。
 それに、この部屋の道具だってまだ十分には調べてないんだから」
「そ、そうだな」


 その言葉に、慧音も元気を取り戻したようだ。

 もう長い付き合いになるが……。
 ころころと変わる彼女の感情を見るのは、何となく楽しい。
 これだけでも、ふたりで旅に出た甲斐はあるのかもしれない。


「とりあえず、僕はもう一度風呂に行ってこようと思うんだが。
 慧音はどうする?」
「わ、私は……」


 慧音はなにやら迷っているようだった。
 紫の教育を受けていないため、外の世界については割合不勉強なのだろう。
 ハンドブックは貰ってきたのだが、まだ十分読めていないはずだ。

 しかし……。

 慧音は霖之助と布団とを、交互に見比べる。
 きっちりと隣同士、並べられた布団を。

 そして、彼女は決断した。


「私も、風呂に入ってくる」


 風呂に入る前だというのに、顔を赤らめながら。




古都と少女と
しゅまさんからイメージ画像を描いていただきました。
感謝感謝。

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No title

ヾ( ゜∀゜)o彡゜慧音キターーーーーーーー!

勝ったどーーーーーー!

No title

びっくりするほど婚前旅行w ニヨニヨします。

大浴場に向かう二人。「男湯」「女湯」の暖簾の横にある「家族風呂」というものに興味を示した霖之助は、慧音に・・・ムフフ。

No title

果たしてネチョるまでにどれだけかかるんだかww
あっさり霖之助がその日に「一緒に寝ようか(性的な意味で)」とかいいそうでもあるna

No title

見事な慧霖…お見事っ!…お見事にござりまするっ!

No title

うおぉぉー、かわええぇぇぇぇ!
慧音がんばれー!
もし旅をすることがあったら、その土地の歴史に触れてみたいです!

No title

こんな 慧霖を 俺は 待っていた!!

あと、絵について一言。

覗くなよゆかりんw

No title

京都って東方の世界にとって結構馴染み深いんですね
いろいろつながりがあると思うと感慨深いなあ・・・

No title

道草慧音がきてるじゃないですか
にやにやが止まらないですおぽぽぽぽぽww

No title

道草慧音がきてるじゃないですか
にやにやが止まらないですww

No title

西京都幻想もおもしろいけれど、
こっちの続きも読みたいです道草先生!!
慧音かわええぇぇぇ!!

No title

彗音がもう小動物にしか見えないmeは末期のけ一りん中毒者
すいません…森近の旦那の名前が打てないんです\(^o^)/オワタ
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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