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名前で呼んで 04

霖之助は霧雨道具店での修行中でもやはり霖之助だと思います。
そして巫女は巫女で、幽香は幽香。


霖之助 先代巫女 幽香









 昼前から夕方まで。
 霖之助が店番をする時間だ。

 食事がそれほど必要無いというのもあるし……。
 人間と妖怪のハーフである霖之助を、夕方以降の店に出すのを渋ったせいもある。

 夜は本来、妖怪の時間なのだから。

 ……もっとも、霖之助本人がどう変わるわけではないのだが。
 客がどう思うかは、また別問題である。


「霖君、変なことしてる」
「そうね、珍しいわ」


 そして巫女と幽香が来るのも、だいたいこの時間だった。
 来るのは構わない。が、どうせ来るなら時間をまとめろ、との親父さんからのお達しが来たせいだ。

 人里での顔役でもある霧雨の親父さんは、あまり店にいることがない。
 今日もどこかの会合に呼ばれているはずだ。

 毎回酔っぱらって帰ってくるのは……。
 それだけ平和ということだろう。


「変とは失礼な。
 どう見ても仕事中だろう?」
「仕事中、ねぇ」


 巫女は肩を竦めながら、店内を見渡した。
 他に客はいない。
 だいたいこの時間にはいつもいない。


「……そうだ、仕事中だよ」
「他に人、いないけど」
「いつもいない気がするわね」
「誰のせいだと思ってる……」
「道具屋の仕事って客の相手をすることだと思うのだけど」
「あ、それじゃあわたしの相手をすれば仕事中になるね」
「そんなわけないじゃない」
「そう言うあなただって……」


 なにやら言い合いを始めるふたりに、霖之助はため息を吐いた。

 里の人間も慣れたもので、幽香と巫女がやってくる時間は客足がぱったりと途絶えていた。
 まあ、どこにいても目立つふたりだ。
 ふたりが店にいることなどすぐに伝わるのだろう。

 ……当事者である彼女たちは知らないことだが、幽香と巫女がいると人里周辺の妖怪や妖精の被害が止むと、もっぱらの評判になっていた。
 危険関知というかなんというか。
 誰もとばっちりを受けたくないと言うことだろうか。

 まさか霖之助も他の客が来ない道具屋の店番をして、里人に感謝されることになるとは思わなかった。
 親父さんはここまで見越して時間を指定したのだろうか。

 ……人によっては、あえてふたりがいる時間にやってくる者もいるのだが。

 そのせいかどうかはわからないが、総合的な霧雨道具店の売り上げは上がっているのが、なんとも理不尽な話である。


「どうも君たちは僕の仕事に疑問があるようだね。
 何か言いたいことがあるなら聞こうか。
 なに、遠慮する必要はない」
「えっ、だって……」
「そうね……」


 幽香と巫女は顔を見合わせ、苦笑を漏らした。

 一見仲良さげなその光景に、何故だか目頭が熱くなる。
 悪い意味で。


「霖君はその仕事中に何をしてるのかな?」


 そんな霖之助の心中を察しだのだろうか。
 巫女が慌てて尋ねてきた。

 なんだか引っかかるが、小さなことにこだわっても仕方がない。


「新製品を考えているのさ。
 新たな顧客を呼び込めそうな、ね」
「あなたが? なんで?」
「なんでって……売るためだよ」
「ノートに落書きしてるだけかと思った」


 ……ふたりは何か自分に恨みでもあるのだろうか。
 たまに、そんな事を思う。


「僕が人里で修行している理由のひとつは、人間の相場を知ることだからね。
 自分で作った道具がいくらで売れるのか、適正価格はいくらなのか。
 通貨とは基準あってものもだ。つまり……」
「そうだったんだ」


 目を丸くする巫女に、霖之助は思わず言葉を詰まらせた。


「……待て、なんで巫女が驚くんだい。
 長い付き合いだろうに」
「え、だって……初耳だよ」
「ふぅん」


 長い付き合い、のところで何故か幽香が不満そうなに唇を尖らせた。


「で、結局何を書いてるの?」
「見てわからないかい」
「ん~……?」
「……奇怪な形の皿が並んでいるように見えるわ。
 あら、これは花瓶かしら」


 ノートを覗き込むふたり。
 ……彼女たちの髪が、柔らかく霖之助をくすぐる。


「今度、里で市が開催されるのは知ってるね」
「うん。警護を依頼されてるし」
「今度の日曜よね」
「ああ、その通りだ。
 しかし幽香、よく知っているね。驚いたよ」
「あら、そう?」


 霖之助はゆっくりと頷いた。
 妖怪である幽香まで知っていたのは意外だったが……。


「そこで僕も出店することにしたんだよ。
 霧雨道具店2号店としてね。
 その日によく売れた物を店にも置こうと、そう思っているのさ」
「それで新製品を考えてるんだー」
「なるほど、実験場にするわけね」
「いや……間違っては……いないのか……?」


 幽香が言うとなんだか危険なものに感じてしまうから不思議だ。

 とにかく。


「つまりこれも立派な仕事、というわけだよ。
 わかったかな」
「うん、わかったけど……」
「どれもこれも、あんまり売れそうにないわね」
「……君は言いにくいことをあっさり言うね」


 彼女の言葉に、苦笑いを浮かべ……。


「ゴメン、わたしもそう思ったよ」


 巫女にまでそう言われ、霖之助は肩を落とした。


「だってこの茶碗にしたって、余計なのがゴテゴテ付いてて使いにくそうだし……」
「そうね。もっとシンプルでいいと思うわ。
 例えばこんな……」
「あ、じゃあわたしはこんなのが」


 ペン片手に霖之助のノートに落書する幽香と巫女。
 ふたりの言葉に、霖之助はふむと考え込む。


「なるほど、機能美という言葉もあるね」
「う~ん、まあ、売れるかどうかの実験って意味ならその通りになると思うけど……」
「あ、実験で思い出したわ」


 ポン、と幽香が手を打った。
 彼女はごそごそとなにやら荷物を探っている。


「はいこれ。
 霧雨の奥さんに渡しておいてね」
「……なんだい、これは」


 幽香から渡されたのは、小さな袋だった。
 中に硬い粒が入っているようだが。

 名称は……そのまま、小物入れ。

 そもそも、どうして実験という単語でこれを思い出すのだろう。


「何って、種よ。
 頼まれたの」
「頼まれ……?
 まさか、お袋さんにかい?」
「そうよ。
 さっき言ったじゃない。渡しといて、って。
 あとこっちが向かいの花屋さんで、こっちが……」


 聞くところによると、幽香と知り合った数人から花の種をお願いされたらしい。
 花が増えるなら、と快く幽香は引き受けたらしいのだが。

 ……いつの間にか人里に馴染んでいるようだ。
 驚くべきことに。

 なるほど、祭りの日にちを知っていたのはそのせいか。


「……妖怪なのに……」


 巫女はそれが気に入らないのか、なにやら難しい顔をしていた。


「わかった。渡しておくよ。
 それにしても……」


 ため息ひとつ。


「……相変わらず、何を考えてるかわからないね、君は」
「そうかしら?」


 幽香はとぼけた笑みを浮かべる。


「まあ、そんなわけで。
 週末は店に来てもいないよ」
「うん、わかった」
「それもそうね」


 頷く巫女と幽香。


「で、霖君の店ってどこ?」
「お茶くらいは出るんでしょうね?」


 来訪を告げるふたりの笑顔に……。

 何故だか、とても嫌な予感しかしないのだった。






幽香をしゅまさんに描いていただきました。
感謝感謝。
幽香ファッションショー
幽香ファッションショーその3。
七分袖が似合う、というのはシュマさんの談。
僕もそう思います。

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非公開コメント

No title

さぁて、当日どうなることやらw

No title

二人が店の前にいたら客が来るはずがないんj(ry
ともあれ三人とも何だかんだで仲がいいですね。

しかし、しゅまさんはゆうかりん大好きですねぃ。
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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