山嵐
yamotoさんの同人誌『嘘吐き』を読んでて思いついたネタを。
口の悪い……いや、しょうじきものの阿求さん。
そんな縁で挿絵を描いていただきました。
感謝感謝。
霖之助 阿求
「いや確かに、叩いて直す道具もあるにはあるがね。
聞いた話によると斜め45°でやるのがコツらしいんだが」
霖之助は首を振り、置いてある道具をコンコンと叩いた。
テレビジョンと呼ばれるそれは映像を映し出すことが出来る道具で……。
しかし、映ったためしがない、
「それは結局配線の接触不良が一時的に緩和されるだけで、時間が経てば戻ってしまう。
根本的な解決にはなってないんだよ」
この知識も外の世界の本から仕入れたものだ。
だが直ると言うからには正常な状態があるはずで……。
この幻想郷ではテレビジョンは映らないのが正常な姿なのではないかと、そう考えることもある。
「そもそも叩き直すという言葉は鍛冶から来たものだ。
叩いて真っ直ぐにする。曲がっていたものを鍛えなおす。
曲がっているものに対して使う言葉であってだね」
「あら、じゃあぴったりじゃないですか」
彼女は頬に手をあて、ほぅとため息を吐いた。
「貴方の歪んだ性格。ヒネた根性。
しっかり熱を入れて、真っ直ぐに叩き直さないと行けませんよね。
……この嘘吐き」
切り揃えた髪を揺らしながら、これ見よがしに肩を竦める。
袴の裾を道具に引っかけないように注意しながら、彼女は霖之助に詰め寄ってきた。
「……そもそも、なんでここに君がいるんだい、阿求」
「なんでって、貴方が言いますか。
霖之助さんが2ヶ月もうちに来ないから、こうして来てやってるんですが」
阿求は半眼でじっと霖之助を見つめた。
その口元には、冷たい笑み。
「霧雨さんも心配してましたよ。
……この2ヶ月、道具は売れましたか?」
「…………。
ノーコメントだ」
ノーコメント。
その言葉が、何より雄弁に事実を物語っていた。
それがわかっているのか、阿求はますます笑みを深める。
「それで、いつになったら道具を持ってくるんですか?
言いましたよね。何か面白い品が見つかったら見せに来てくれるって」
「ああ、そんな話しもしてた……気がするね」
「私を誰だと思ってるんですか?
忘れるはずがありませんよ」
そこまで言って……彼女はふと首を傾げた。
ジト目のまま、霖之助の顔を覗き込むように見上げてくる。
「それとも、何も面白い品を入荷していないんでしょうか?
それでしたら、貴方の店主としての資質を疑問に思わざるを得ませんけどね」
「いや、そんなことはない」
「では、わざと来なかったと?」
「…………」
「……嘘吐き。
来るって言ったのに……」
なにやら阿求は、消え入るような声で呟いた。
……確かに、その話をしたのは覚えている。
嘘だった、と言うわけではないが……。
「君に道具を見せる分には構わないんだが……」
気が向かなかったのだ。
人付き合いは苦手だし、それに……。
「稗田家はもう僕が行く場所ではない気がしてね」
「何故ですか?」
阿求の目には、怯えと焦りが浮かんでいた。
霖之助は首を振り、言葉を続ける。
「人里では、いや、どこにいても目立つらしいからね。僕は。
里の人の視線が……」
「……なんだ、そんなことですか」
阿求の目はすぐにいつもの色に戻り、ため息と一緒に流れ出す。
「貴方の脳内は何年前の光景なんでしょうね。
既に里にも妖怪の姿が珍しくなくなってずいぶん経ちます。
いまらさ銀髪長身ひねくれ店主を見たところでどうと思うはずがありません」
「……そう思われる時点で、十分問題だと思うんだが」
首を捻る霖之助に構わず、阿求はカウンターの対面に腰掛けた。
陣取った、とも言う。
「で、出してもらいましょうか」
トントンと机を叩き、催促。
何を、と聞く前に、彼女は口を開く。
「商品とお茶ですよ。
一番高いやつでお願いしますね」
「一番高い、ね……」
霖之助はため息を吐き、立ち上がる。
どうやら彼女の相手をしないと今日は終わりそうにないらしい。
お茶とお茶請けもしっかり請求しようと。
そう、思いながら。
カウンターに商品が山と積まれていた。
その大半はかつて使い方がわからなかったもので……。
今はもう、わかっているものばかりだった。
「名称は知恵の輪。
用途は見ての通り……」
「解けましたよ」
チャリン、と軽い金属音を立て、ふたつに分かれた輪っかがカウンターに置かれた。
「知恵、と言うには簡単すぎますね。
面白い道具であるにはあるんですが……。
一度解いたら終わりじゃないですか、これ」
「それは人によると思うが」
「それに解けない人はほんとにやってて楽しいんですかね。
私にはその気持ちはわかりませんけど」
膨大な知識、それに記憶力から来る阿求の判断、推察力はかなりのもので、
霖之助だけではわからなかった道具も次々に使用方法を見つけ出していた、
もちろん、動力を必要としない物ばかりであるが。
とはいえ、特別な動力が必要とわかるだけでも収穫である、
「う~ん、これくらい、ですかね。
相場を考慮しても……」
「……いささか安すぎるんじゃないかな。
これじゃあ……」
「二束三文なのは貴方の目利きの結果です。
実際、売れるだけ良い方だと思うんですけど」
実際、阿求に見せた道具のほとんどは何ヶ月も店から動いてない道具ばかりだ。
買い取ってくれるならそれに越したことはない。ないのだが……。
「不満があるなら成果を出す。
霧雨さんならそう言うでしょう。
報告します?」
「いや、その必要はない」
霖之助は首を振り、立ち上がる。
「……次は、この道具を見て貰いたいね」
商品棚に向かう彼の背中を、阿求は笑顔で見つめた、
とても、楽しそうな笑顔で。
だけど口調は、いつも通りに。
「負けず嫌いなのは結構ですが、それなりの物を見せてくださいよ」
「ああ、わかっている。
これはドライヤーと言ってね、用途は乾かすものらしいんだが……」
霖之助は商品棚から机の上に道具を置き、阿求に渡す、
「なるほど。
ふ~ん、こうなってるんですね。
えっと、今までこれに似てたやつは……」
道具を調べる阿求を見ながら……ふと、霖之助は口を開く。
「……ひとつ確認したいが、君は僕のことが嫌いなのかな」
「あら、どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって……。
いや、そう思われてそうだからね」
今までの言動。
そして求聞史紀。
普通の人間が見たらそう思うだろう。
……普通は。
「……貴方も、そう思いますか?
私が、貴方を嫌いだと」
「…………」
「……嫌いな男の店に、わざわざ来ませんよ」
ふぅ、とため息。
それから恐る恐る……阿求は霖之助に視線を向けた。
「それで……貴方はどうなんですか?」
「ん?」
とぼけるように、霖之助は聞き返す。
「だってさっき……」
「ああ」
ひとつ頷き……。
そこで言葉を切った。
口に出すのは、別のこと。
「出会った頃は、素直な良い子だと思ったんだけどね」
「素直な良い子でしょう? 今も、昔も」
腰に手を当て、胸を張る阿求。
……張ってもたいして変わらない胸だが。今も、昔も。
そんな彼女に苦笑を浮かべながら、霖之助はぽんと阿求の頭に手を置いた、
「君は内弁慶だからね。
親しくなった相手ほど、言葉がきつくなる。
自覚は……あるだろうけど」
「なんのことでしょう」
そっぽを向き、阿求は答える。
「そんな性格を知ってるからね。
……嫌いな相手なら、本にあんなことを書かれた時にどうにかしているよ」
まあ、霖之助も求聞史紀の英雄の欄に載せられたときは自分の目を疑ったものだが……。
中身を読んで、もう一度目を疑うことになるとは思わなかった。
阿求の性格を知らなかったら、どう思ったものか。
つまり。
阿求は求聞史紀で、自分と霖之助が仲が良いと言うことを公言しているようなものであり……。
「お……」
「ん?」
そこまで頭が回っていなかったのだろう。
ようやく気づいたのか……阿求は顔を真っ赤にしていた。
「お、覚えましたからね!」
「ん? なにをだい?」
「さっきの言葉ですよ」
「ああ……」
霖之助は阿求の頭を、もう一度撫でる。
……嫌いな人間に、そもそもこういうことをするはずがないわけで。
「ずっと、覚えておきますからね!」
口の悪い……いや、しょうじきものの阿求さん。
そんな縁で挿絵を描いていただきました。
感謝感謝。
霖之助 阿求
「いや確かに、叩いて直す道具もあるにはあるがね。
聞いた話によると斜め45°でやるのがコツらしいんだが」
霖之助は首を振り、置いてある道具をコンコンと叩いた。
テレビジョンと呼ばれるそれは映像を映し出すことが出来る道具で……。
しかし、映ったためしがない、
「それは結局配線の接触不良が一時的に緩和されるだけで、時間が経てば戻ってしまう。
根本的な解決にはなってないんだよ」
この知識も外の世界の本から仕入れたものだ。
だが直ると言うからには正常な状態があるはずで……。
この幻想郷ではテレビジョンは映らないのが正常な姿なのではないかと、そう考えることもある。
「そもそも叩き直すという言葉は鍛冶から来たものだ。
叩いて真っ直ぐにする。曲がっていたものを鍛えなおす。
曲がっているものに対して使う言葉であってだね」
「あら、じゃあぴったりじゃないですか」
彼女は頬に手をあて、ほぅとため息を吐いた。
「貴方の歪んだ性格。ヒネた根性。
しっかり熱を入れて、真っ直ぐに叩き直さないと行けませんよね。
……この嘘吐き」
切り揃えた髪を揺らしながら、これ見よがしに肩を竦める。
袴の裾を道具に引っかけないように注意しながら、彼女は霖之助に詰め寄ってきた。
「……そもそも、なんでここに君がいるんだい、阿求」
「なんでって、貴方が言いますか。
霖之助さんが2ヶ月もうちに来ないから、こうして来てやってるんですが」
阿求は半眼でじっと霖之助を見つめた。
その口元には、冷たい笑み。
「霧雨さんも心配してましたよ。
……この2ヶ月、道具は売れましたか?」
「…………。
ノーコメントだ」
ノーコメント。
その言葉が、何より雄弁に事実を物語っていた。
それがわかっているのか、阿求はますます笑みを深める。
「それで、いつになったら道具を持ってくるんですか?
言いましたよね。何か面白い品が見つかったら見せに来てくれるって」
「ああ、そんな話しもしてた……気がするね」
「私を誰だと思ってるんですか?
忘れるはずがありませんよ」
そこまで言って……彼女はふと首を傾げた。
ジト目のまま、霖之助の顔を覗き込むように見上げてくる。
「それとも、何も面白い品を入荷していないんでしょうか?
それでしたら、貴方の店主としての資質を疑問に思わざるを得ませんけどね」
「いや、そんなことはない」
「では、わざと来なかったと?」
「…………」
「……嘘吐き。
来るって言ったのに……」
なにやら阿求は、消え入るような声で呟いた。
……確かに、その話をしたのは覚えている。
嘘だった、と言うわけではないが……。
「君に道具を見せる分には構わないんだが……」
気が向かなかったのだ。
人付き合いは苦手だし、それに……。
「稗田家はもう僕が行く場所ではない気がしてね」
「何故ですか?」
阿求の目には、怯えと焦りが浮かんでいた。
霖之助は首を振り、言葉を続ける。
「人里では、いや、どこにいても目立つらしいからね。僕は。
里の人の視線が……」
「……なんだ、そんなことですか」
阿求の目はすぐにいつもの色に戻り、ため息と一緒に流れ出す。
「貴方の脳内は何年前の光景なんでしょうね。
既に里にも妖怪の姿が珍しくなくなってずいぶん経ちます。
いまらさ銀髪長身ひねくれ店主を見たところでどうと思うはずがありません」
「……そう思われる時点で、十分問題だと思うんだが」
首を捻る霖之助に構わず、阿求はカウンターの対面に腰掛けた。
陣取った、とも言う。
「で、出してもらいましょうか」
トントンと机を叩き、催促。
何を、と聞く前に、彼女は口を開く。
「商品とお茶ですよ。
一番高いやつでお願いしますね」
「一番高い、ね……」
霖之助はため息を吐き、立ち上がる。
どうやら彼女の相手をしないと今日は終わりそうにないらしい。
お茶とお茶請けもしっかり請求しようと。
そう、思いながら。
カウンターに商品が山と積まれていた。
その大半はかつて使い方がわからなかったもので……。
今はもう、わかっているものばかりだった。
「名称は知恵の輪。
用途は見ての通り……」
「解けましたよ」
チャリン、と軽い金属音を立て、ふたつに分かれた輪っかがカウンターに置かれた。
「知恵、と言うには簡単すぎますね。
面白い道具であるにはあるんですが……。
一度解いたら終わりじゃないですか、これ」
「それは人によると思うが」
「それに解けない人はほんとにやってて楽しいんですかね。
私にはその気持ちはわかりませんけど」
膨大な知識、それに記憶力から来る阿求の判断、推察力はかなりのもので、
霖之助だけではわからなかった道具も次々に使用方法を見つけ出していた、
もちろん、動力を必要としない物ばかりであるが。
とはいえ、特別な動力が必要とわかるだけでも収穫である、
「う~ん、これくらい、ですかね。
相場を考慮しても……」
「……いささか安すぎるんじゃないかな。
これじゃあ……」
「二束三文なのは貴方の目利きの結果です。
実際、売れるだけ良い方だと思うんですけど」
実際、阿求に見せた道具のほとんどは何ヶ月も店から動いてない道具ばかりだ。
買い取ってくれるならそれに越したことはない。ないのだが……。
「不満があるなら成果を出す。
霧雨さんならそう言うでしょう。
報告します?」
「いや、その必要はない」
霖之助は首を振り、立ち上がる。
「……次は、この道具を見て貰いたいね」
商品棚に向かう彼の背中を、阿求は笑顔で見つめた、
とても、楽しそうな笑顔で。
だけど口調は、いつも通りに。
「負けず嫌いなのは結構ですが、それなりの物を見せてくださいよ」
「ああ、わかっている。
これはドライヤーと言ってね、用途は乾かすものらしいんだが……」
霖之助は商品棚から机の上に道具を置き、阿求に渡す、
「なるほど。
ふ~ん、こうなってるんですね。
えっと、今までこれに似てたやつは……」
道具を調べる阿求を見ながら……ふと、霖之助は口を開く。
「……ひとつ確認したいが、君は僕のことが嫌いなのかな」
「あら、どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって……。
いや、そう思われてそうだからね」
今までの言動。
そして求聞史紀。
普通の人間が見たらそう思うだろう。
……普通は。
「……貴方も、そう思いますか?
私が、貴方を嫌いだと」
「…………」
「……嫌いな男の店に、わざわざ来ませんよ」
ふぅ、とため息。
それから恐る恐る……阿求は霖之助に視線を向けた。
「それで……貴方はどうなんですか?」
「ん?」
とぼけるように、霖之助は聞き返す。
「だってさっき……」
「ああ」
ひとつ頷き……。
そこで言葉を切った。
口に出すのは、別のこと。
「出会った頃は、素直な良い子だと思ったんだけどね」
「素直な良い子でしょう? 今も、昔も」
腰に手を当て、胸を張る阿求。
……張ってもたいして変わらない胸だが。今も、昔も。
そんな彼女に苦笑を浮かべながら、霖之助はぽんと阿求の頭に手を置いた、
「君は内弁慶だからね。
親しくなった相手ほど、言葉がきつくなる。
自覚は……あるだろうけど」
「なんのことでしょう」
そっぽを向き、阿求は答える。
「そんな性格を知ってるからね。
……嫌いな相手なら、本にあんなことを書かれた時にどうにかしているよ」
まあ、霖之助も求聞史紀の英雄の欄に載せられたときは自分の目を疑ったものだが……。
中身を読んで、もう一度目を疑うことになるとは思わなかった。
阿求の性格を知らなかったら、どう思ったものか。
つまり。
阿求は求聞史紀で、自分と霖之助が仲が良いと言うことを公言しているようなものであり……。
「お……」
「ん?」
そこまで頭が回っていなかったのだろう。
ようやく気づいたのか……阿求は顔を真っ赤にしていた。
「お、覚えましたからね!」
「ん? なにをだい?」
「さっきの言葉ですよ」
「ああ……」
霖之助は阿求の頭を、もう一度撫でる。
……嫌いな人間に、そもそもこういうことをするはずがないわけで。
「ずっと、覚えておきますからね!」
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なるほど
阿求の決め台詞が俺の中で定着されました
阿求の決め台詞が俺の中で定着されました
No title
成る程、矢本堂さんの阿求でしたか。
しかし道草さんが書くとさらに可愛く・・・・・・
イラストの方だと行間に含まれてたっぽい感じの話もありましたし、面白かったです。
しかし道草さんが書くとさらに可愛く・・・・・・
イラストの方だと行間に含まれてたっぽい感じの話もありましたし、面白かったです。