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猫と青年

少女が霖之助と一緒に外の世界に行くとしたら、どんな生活になるだろう。


紫が原因で起こしてしまった異変を、ひょんなことから解決してしまった霖之助。
彼女から報酬にと、霖之助が望んでいた外の世界へ行く権利を与えられる。

ただし、1年間という期限付き。
旅をするのもよし、一つ所に留まるもよし。
支度金と場所は紫が用意してくれるらしい。
必要なら仕事も紹介してくれる、と紫は言った。


それから1ヶ月間、霖之助は外の世界について勉強する。
そして……。


~ここまでテンプレ~


BGMは『青空になる』。
かくして行く先々で猫使いとの異名を取ることになる銀髪の青年の伝説は、
こうやって幕を開けたのでした。嘘。


霖之助 お燐







「ハンカチ持った? 着替えも大丈夫?」
「ああ、抜かりないよ」


 紫の言葉に、霖之助は大きく頷いた。

 計画も睡眠もばっちりである。
 何も心配することはない。


「他に忘れ物ない? 財布ちゃんと入れてる? お金は分けて持つのよ。
 取られることは……ないでしょうけど、つい全部使っちゃったりしたら」
「子供じゃないんだから……」


 なのに紫は心配そうな表情で、切々と語り続けた。
 肩を竦め、首を振る。


「トイレは済ませた? 神様にお祈りは?」
「……不安にさせることを言うね、君は」


 尚も言いつのる彼女に、霖之助はため息。


「確実、なんてことはないんだから」
「それはそうだがね」


 だからこそ行くのだ。
 何が起こるかわからない。
 それはむしろ、歓迎すべきことではないか。

 ……こんな気分になったのは、いつ以来だろう。


「本当は行って欲しくないんだけど……」
「けど契約は契約だ。
 何、すぐ戻ってくるよ。1年なんてあっという間だからね」


 そう。
 これから霖之助は、外の世界に旅立つ。

 1年間という短い間だが、紫の力でそれが可能になっていた。


「でも……」
「大丈夫、そのために今まで君に教えて貰っていたんだから。外の世界のことを」
「そうなんだけど……」


 紫の表情は晴れない。
 彼女にとっても1年など微々たるもののはずなのに。


「紫がこんなに心配性だとは知らなかったよ」
「いいでしょう?
 心配なのよ。ほんとに」


 彼女の言葉に、霖之助は苦笑を浮かべた。
 ……決心が鈍る前に、行かなければならない。


「いよいよ危なくなったら、君を呼ぶから。
 そのためにくれたんだろう?」
「絶対よ?」


 霖之助は首から提げたお守りに手を触れた。
 もちろん、よほどのことがない限り使うつもりはない。

 ……あるいは……。
 考えて、首を振る。


「ちゃんと荷物、確認した方がいいと思うけど」
「昨日確認済みさ。準備は万端だよ」


 紫はため息を吐いた。
 長い長い、そのあとに。

 ふたり、見つめ合う。


「そう……じゃあね、霖之助さん。
 また会いましょう」
「ああ。また会おう」


 その言葉を最後に、霖之助の意識は闇に落ちた。









 気が付くと、古い神社の前にいた。
 ここはどこなのか。

 広い意味で言えば、既にその答えを知っている。
 ……つまり、外の世界だ。


「……ここが……か」


 意外と……すぐには感想が出てこないものだ。

 この一月の間、ずっと学んでいたせいだろうか。
 既に自分にとって、外の世界は特別なものではなくなっていたのかもしれない。

 ……いや、と思い直す。

 旅をするなら、そのほうがいい。
 一年間は根無し草だ。
 新しいものは、自分で見つけるに限るのだから。


「さて……と」


 霖之助は近くにある人工物を探した。
 紫の話だと、標識などに地名が書いてあるらしい。
 まずは今どこにいるか、詳細なことを知りたかった。

 地理については一通り学んできたし、最初に行く場所は決めていた。
 神の集まる場所……出雲だ。

 歩きだけだと結構かかるだろうが、気ままな旅だ。
 それでも構わないだろう。


「……これかな?」


 地名らしき文字を発見し、早速持ってきた地図と照らし合わせようとしたところで……。


「……ん?」


 突然、霖之助の鞄がゴトゴトと動き始めた。
 もちろんそんな細工をした覚えはない。
 心当たりもない。

 考えられるとすれば……。

 霖之助が動く前に、耐えきれなくなったのか鞄の蓋が勢いよく開いた。
 飛び出してきた黒い影は、霖之助を見るなりにゃあ、と一声。


「……お燐?」
「ぷはっ、苦しかった」


 次の瞬間には……彼女は人の姿を取っていた。
 チリリン、と彼女のつけた鈴が音を立てる。

 向こうを出るとき、選別としてあげたもの。
 ……そのはずだったのに。


「暗いのも狭いのも嫌いじゃないけど、息苦しいのは辛かったよ~」


 紫から貰った鞄は、いざというとき救命道具になるほど気密性の高いものだ。
 あえなく壊れてしまった今となっては、その役目も果たせないだろうが。

 ……よっぽど中で暴れたに違いない。


「なんでだい?」
「なんでって……決まってるじゃない」


 霖之助の言葉に、お燐は胸を張って答えた。


「お兄さんの死体はあたいが貰うって言ったでしょ!」


 顔が真っ赤だったのは……この際、言わないことにしておこう。
 ……自分がそうじゃないという確信は、持てなかったから。


「一年間くらい、待てるだろう?」
「それでも、なの!」


 尻尾を逆立てて、お燐は霖之助を睨み付ける。

 紫の言葉が脳裏に蘇った。
 それであれほど念を押していたに違いない。

 何も言わなかったのは……見逃してくれた、ということだろうか。


「やれやれ、仕方ないな」


 根負けしたかのように、霖之助は苦笑を浮かべた。
 予想外の事態だが、こう言うのもいいだろう。
 旅は道連れ、世は……。

 ……そこでふと、思い返す。


「……というか、ここに入れていた僕の荷物はどうしたんだい?」
「ん? 邪魔だったから置いてきたよ」
「…………」


 霖之助は大きなため息を吐いた。
 早速アクシデント発生というやつだ。

 確認してみたところ、着替えがない。地図もない。
 財布……は身につけていた分は無事だったが、分けていたものがない。

 代わりに入っていたのは、古ぼけたタオルケット。
 ……彼女の寝床だろう。

 お燐もまた、身ひとつでやって来たのだ。
 条件は一緒。
 ならば……一緒に歩いていくしかない。


「ねーねー、この猫何か面白いこと言ってるよ」


 原因となった少女は、嬉々としてはしゃぎ回っていた。
 やはり彼女にとっても初めての外の世界なのだろう。

 もう友達が出来たのか、なにやら彼女は野良猫と話し込んでいるようだった。


「……地図はないけど、道案内には困らないかもしれないな」


 しかし先立つものが少ないのも事実だ。

 自分の分だけではなく、お燐の分もいろいろと用立てなければならないだろう。
 ひょっとしたら、旅先で働く必要もあるかもしれない。


「あっちに街があるって。
 魚が美味しいらしいよ。
 海の魚ってどんなのかな~?」


 それもいいかもしれないな、と思う。
 ……彼女の笑顔と一緒なら。


「お燐、とりあえず、耳と尻尾を隠しなさい。
 そうでないなら猫になりなさい。
 外の世界には君みたいな猫はいないんだからね」
「はーい」


 お燐はくるりと振り返ると、見る見るうちに猫の姿へと変化を遂げた。

 彼女も能力の大半を封じられているはずだ。
 ……だが、特に問題はないだろう。

 この世界で、怨霊を操る必要があるとも思えない。


「……しかし、少々目立つかな?」


 黒猫連れた銀髪青年。
 目立って仕方ないかもしれないと、今更ながらにして思う。


「にゃあ」


 たしたし、と肉球で足を叩かれた。
 そして尻尾を絡めてくる彼女に、霖之助は苦笑いを向ける。


「ああ、わかっているよ」


 まずは近くにあるという街に行ってみよう。
 それから……少しだけ、そこに居てみるのも悪くないかもしれない。



 すでに最初の目的地は、最後の目的地に変わろうとしていた。
 ……それでも1年もあれば、たどり着けるだろう。
 たぶん。



 人妖の旅に、猫一匹。
 賑やかな旅になりそうだった。

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はじめまして、いつも読ませていただいてます。
マイペース(?)な感じのお燐が可愛いですね、紫が心配性というのも意外でしたww

リクエストとかって受け付けているのでしょうか?
もし受け付けているのであればルナサ霖というのも見てみたいです。
受け付けてなければ申し訳ございません。
では突然失礼しました。

No title

ええい、前回のアリスといい、今回のお燐といい、どうして続きがとんでもなく気になるものばかり!!!
すいません、お初なのに。
ほんのちょっと!続きが見たい!今回は特に続くでしょう!
猫のみで結成されたブレーメン宜しく猫と戯れ助け助けられの旅がさぞかし続くんでしょう、そしてある種の
都市伝説へ~そっちの方が東方っぽくて面白そう。
アリスとはこれから・・・いかんあぶないあぶない///

全然関係ないのですが、以前のカラオケシリーズでうたわれるもの好きには深い深い印象を残して下さった
お礼をここで申し上げます。ありがとうございました。ああいう時にこそうたわれるべき歌です。ジーンと来ました。
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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