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彼と彼女と2DK

少女が霖之助と一緒に外の世界に行くとしたら、どんな生活になるだろう。


紫が原因で起こしてしまった異変を、ひょんなことから解決してしまった霖之助。
彼女から報酬にと、霖之助が望んでいた外の世界へ行く権利を与えられる。

ただし、1年間という期限付き。
旅をするのもよし、一つ所に留まるもよし。
支度金と場所は紫が用意してくれるらしい。
必要なら仕事も紹介してくれる、と紫は言った。


それから1ヶ月間、霖之助は外の世界について勉強する。
そして……。


~ここまでテンプレ~


霖之助 アリス







 霖之助は薄暗い部屋の中で、じっと巻物とにらめっこしていた。
 感覚を研ぎ澄まし、慎重に墨の気配を追っていく。

 普通の人間にはわからないだろうが、自分にはわかる。
 わかることができる。
 その能力も、技術も持っている。


 やがてひとつ頷き、確信とともに筆を走らせようとしたところで……。
 ようやく、手元が暗いことに気付いた。


「ん? もうこんな時間か」


 立ち上がり、部屋の電気をつける。

 ……そう、電気だ。

 人間から夜を忘れさせた人口の光。
 霖之助はその下で、再び机に向かった。





 住宅街からほど近い場所にある2DK。その一室。

 外の世界の建物といえど、慣れてしまえば大したことはない。
 要は住の目的さえ果たせればいいのだ。

 しかし住食足りて礼節を知る。
 重要であることに変わりはない。


「……ふむ。
 これで間違いはないはず……だな」


 外の世界にやってきた霖之助に紫から紹介された仕事は、道具の補修作業だった。
 近くにある大学の資料室にある道具たち。
 時が経ちすぎ、原型すら失いかけたそれらを補修していくのだ。


 なるほど、紫らしいと霖之助は思う。

 これらはすべて、まだ外の世界で失うわけにはいかない……つまり、必要とされている道具なのだ。
 例えそれが資料用だとしても。

 温故知新。
 素晴らしいことである。

 本来の用途を果たせなくなった道具でも、まだ違う価値を見いだせる。
 霖之助ができるのは、できるだけ本来の価値を引き出せるようにすることだった。


「ただいま」


 ガサガサと袋の擦れ合う音で、霖之助は現実に引き戻された。

 集中しすぎていたのだろうか。
 少し、目が疲れていた。


「やあ、お帰り」


 自室から顔を出し、霖之助は同居人を出迎えた。
 同棲だ、と勤め先の大学生にはやし立てられるのが困りものだ。

 ……一緒に住む、という点では同じことだが、意味は全く違うのだし。


「今日は結構忙しかったわ。
 はい、新メニューの焼きうどんバーガー」
「……またチャレンジしたメニューだね」
「そうなのよ。
 見事に売れなかったけどね」


 そう言って、彼女は笑う。
 売れなかったのを持ってきたと言うことは、味もそれなりなのだろう。

 霖之助は居間で夕食の準備を整えつつ、ふと首を傾げた。


「しかしこうもジャンクフードばかりだと、身体に悪そうだな」
「あら、私たちには関係ないでしょう?」
「……違いない」


 言って、ふたり……霖之助とアリスは笑い合う。
 どちらも食事をあまり必要としない身だ。

 ……この外の世界では、その限りでもないのだが。


「それにせっかく外の世界に来たんだもの。
 ここでしか食べられないものがいいでしょ?」
「それはそうだが」


 彼女の言葉に、霖之助は苦笑を浮かべた。

 外の世界に来て、いろいろと知ったことがある。
 もちろんいろいろと幻滅したこともあるが……。

 それでも霖之助は、この世界を楽しんでいた。


「栄養の面では心配ないみたいよ。調整されてるらしいし。
 それにちゃんとした食事がしたければ、いくらでも作ってあげるわよ。
 幻想郷に帰ってからね」
「ああ、その時は頼むよ」


 霖之助は頷きながら、バーガーを取り出した。
 昨日はステーキだった。ただし、合成肉の。

 これも修行、なのだろう。
 予想していたのとは、ちょっと違うが。


「それにしても、まさか君がついてくるとは思わなかったよ」
「あら? 気付いてなかったの?」
「……恥ずかしながら、さっぱりね」
「はぁ……そうじゃないかとは思ってたんだけど」


 彼女の話によると、随分最初の段階から計画していたらしい。
 紫も何も言わなかったので、霖之助はてっきりひとりで出発するものと思っていた。


「ちゃんと一緒に勉強してたじゃない、外の世界のこと」
「単に様子を見に来ているだけかと思ってたよ」
「それだけであんなに通い詰めるほど、暇じゃないわよ」


 今考えれば至極もっともな話だ。
 ……気付いていなかったのは霖之助だけ、ということか。

 さあ出発、という時になってアリスが慌ててやってくるものだから、
見送りに来たものとばかり思っていたが……彼女はそのままついてきたのだった。


「でもいいのかい?
 幻想郷に残したきたものも多いんじゃないか?」
「人形は待つことを苦とは思わないわ。
 一応、結界は張ってきたし……それに1年間だけだもの。
 大した時間じゃないわよ」


 紫との契約で、身体的、魔法的な能力の大半が封じられていた。
 特に攻撃関係の能力は全滅である。
 それが最大限の譲歩らしい。

 いざとなれば使える程度の封印なのだが、その直後に強制送還になる。
 ご丁寧なことだ。

 そのほかの能力にも、軒並み制限がかかっている。

 ……だからこそ、紫は霖之助にこの仕事を与えたのだろう。
 通常では復旧は不可能に近い。
 だが魔法の力を使ってしまっては不自然さが残る。
 何より、見る者が疑問に思う。

 確かな技術と、少しの魔法。
 今の霖之助にはうってつけの仕事だった。


「それで、ノルマはこなせそうなの?」
「いや……ちょっと予定が遅れててね。
 今日も徹夜かな」


 バーガーのかけらを口に押し込み、霖之助は首を振る。
 ごちそうさま、と頭を下げて……アリスに視線を向けた。


「君の方は順調みたいだね」
「ええ、おかげさまでね」


 こちらで稼いだ金で買ったものは、幻想郷に持ち帰っていいことになっていた。
 霖之助の仕事は歩合制のため、仕事が進まないことには収入もない。
 対してアリスは時給制だ。

 聞くところによると、ファストフード店で働く彼女の仕事ぶりは評判がよく時給も上がったらしい。
 それに……。


「営業スマイルはお店の中だけでやって貰いたいものだね。他人行儀みたいで何だか嫌だ」
「あら、結構評判なのよ。お客さんも増えたってオーナーさんも喜んでたわ」
「だろうね。これで人気が出ない訳がない」
「……もう」


 肩を竦める霖之助に、アリスは照れたような笑みを浮かべる。

 彼女本来の笑顔。
 ……この顔だけは、外で見せて欲しくないものだ。

 そんな風に思う。


「あなたもこういう笑顔ができれば香霖堂も少しは繁盛したかもしれないのに」
「帰ったら君に店番をやってもらえばいいさ」
「いいの?」
「……ああ……」


 そう言ったアリスの表情に、霖之助は驚いていた。
 驚きと喜びが同居しているような、そんな表情。


「……仕事に戻るよ」


 なんだか気恥ずかしくなって、霖之助は自室へと戻ることにした。


 アリスは魔法使いだ。
 魔法が使えないことは、彼女にとって不便でしかないだろう。
 それでも、アリスは霖之助についてきてくれた。

 ……それだけで、言葉に出来ないくらい……。


「ねぇ、霖之助さん」
「うん?」


 後ろから声をかけられ……霖之助は振り返らないまま、返事をする。


「幻想郷にいた頃とは違うんだから。
 ちゃんと休んで、ちゃんと寝てね?」
「ああ……わかってる」
「わかってないわね」


 霖之助が言葉を返す前に、状態が何かに引っ張られた。

 アリスの膝に乗っている、と気付いたのは彼女の顔が見えたせいだ。
 頬を柔らかな手で撫でられると、なんとも言えない心地よさが漂ってくる。


「なんだか昔を思い出すわ」
「人間だった頃かい?
 それとも……」


 霖之助の言葉に、彼女はゆっくりを首を振る。


「ふふっ、どうかしらね?」


 そう言って微笑むアリスの瞳には、柔らかな母性が宿っていた。









「そう言えば」


 ぴくり、とアリスの声が硬質なものへと変わる。

 外の世界に来てから初めて知ったものがいろいろある。
 このアリスの声もそのひとつだ。

 普段本気を出すことのないアリスが、本気で怒る直前の声。


「お客に聞いたんだけど」
「お客って……あのふたりかい?」
「そう、あのふたりよ。
 今日のお昼に、一緒にご飯を食べたそうじゃない」
「ああ……まあ、ね」


 アリスは霖之助をじっと見ていた。
 頬に手が当たっているせいで視線を逸らすことも出来ない。


「一応職員扱いだから、学生と仲良くしておくに越したことはないだろう?」
「いいえ、別にそれはいいのよ。それはね」


 トントン、とアリスの指がリズムを刻む。
 不機嫌なときのサインだ。

 これも初めて知った情報である。
 ……あまり知りたくはなかったが。


「それで、私のことなんて紹介したの?」
「紹介……? いや、紹介と言っても顔見知りだからね。
 ちょっと説明しただけで」
「そう、その説明よ。なんてしたの?」


 霖之助の働く大学に通う女生徒ふたりは、アリスの働く店にもよく寄っているらしい。
 たぶんその時に話したのだろうが……。


「いや、大したことじゃないよ。
 ええと、確か……」
「ルームシェアしてる同居人、だったかしら」
「……よく聞いてるね。その通り」


 頷く霖之助に……アリスはため息を吐いた。

 やがておずおずと、口を開く。
 少しだけ、顔を赤らめて。


「ねぇ、霖之助さんは……買って帰るもの決めた?」
「いや、買ってまで持っていきたいものはそんなにないからね。
 僕が欲しいのは見聞を広めることだし……」
「そう。じゃあ……ひとつ欲しいものがあるんだけど。
 買ってくれるかしら」
「ああ……」


 と言っても、いつ給料が入るかはわからないのだが。
 それでもいい、と彼女は頷き……。


「給料の3ヶ月分。
 期待してるからね」



彼と彼女と
しゅまさんからイメージ画像を描いていただきました。
感謝感謝。

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No title

結婚指輪なの!?
焦らさないで教えてよおおおおおおおおおおおおおお

No title

流石道草さん!俺達に出来ないフラグ建設を簡単にやってのける!其処に痺れる憧れるぅ!
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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