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子悪魔シリーズ06

愛と知っていたのに。春はやってくるのに。
夢は今も夢のままで……。

いや、もちろん深い意味はありません。
発売日が延びたことには関係ありません。たぶん。

ゆうまさんから絵を描いていただきました。
感謝感謝。


霖之助 パチュリー 小悪魔








「一回休みです!」


 きっぱりとそう言い放つ小悪魔だったが、しかしすぐに首を傾げる。


「あれ、二回休みでしたっけ?」
「なんの話かわからないんだが」


 霖之助はため息を吐きながら、図書館の椅子に腰掛けた。
 すっかり自分の居場所という感じがする。

 とはいえ広い図書館だ。
 自分の席、というのがあるわけではない。

 それに加え、停止している雰囲気のある図書館だが……細部は来るたびに変わっているようにも思える。
 空間を操るメイドのせいか、泥棒避けのためか、はたまた別の要因か。

 詳細は、よくわからなかったが。


「いえ、どうやらこの寒さで春の妖精が凍死してたみたいで。
 あれは一回か二回は休みだなーと。
 復活するまで少々春が来るのが遅れそうですね」
「ふむ……それは残念だね」


 ようやく理解できた。
 妖精に死の概念はない。
 そのうち復活するということだろう。

 そして再度、ため息。


「冬は出費が多いわりに客足が鈍いからね。
 道具屋にとってはあまり歓迎できない季節さ」
「冬の道具を売ればいいじゃないですか」
「そうだね。余ってればね」
「……ああ、そういう……」


 予備は確保するべきだ。当然だろう。
 ……小悪魔の呆れ顔が、何となく気になった。


「なんにせよ、早く春が来て欲しいものだよ」
「またまた!
 お父様はお母様と年がら年中ラブラブチュッチュで常春じゃないですか!」
「君ほど春ではないつもりだがね」


 言って、霖之助は首を振る。
 ニヤケ顔の小悪魔を無視することに決め、持ってきた袋から数冊の本を取り出した。


「あ、本の返却ですか?」
「いや、実はまだ読み切れてなくてね。
 もう少しなんだが、読んでから返すことにするよ」
「はい、わかりました。
 じゃあ私、お茶を入れてきますね」


 図書館の管理だけでなく、お茶汲みも彼女の仕事である。

 よくできたメイドが居るとは言え地下のお茶までは手が回らないし、
そもそもパチュリーはそのために小悪魔を召喚した。

 それに彼女自身、そういうことをするのは好きなようだ。
 誰を見習ったのか、たまにお茶に変なものを混ぜるのは勘弁願いたいが。

 と、そんなことを考えながら霖之助は本を読み進めた。
 ひとりで、黙々と。

 ……やがて、持ってきた本を間もなく読み終わろうかという頃。


「お待たせしました。
 はい、お茶ですよー」
「……持ってくるのに随分かかったね」
「ええ、ちょっと野暮用がありまして」
「ふむ。
 ……まあいいか」


 そう言って、彼女はつかみ所のない笑顔を浮かべる。

 ……気にならないわけではないが、きっと突っ込んでもロクなことにはならない。
 なんだかそんな気がする。

 これが誘い受け、というやつだろうか。
 まあ、それより。


「ところでパチュリーはどこにいるんだい?」


 霖之助は先ほどから気になっていた疑問を口に出した。
 彼女の居ない図書館というのはなんと言うか……広すぎる気がする。


「えーっと、今ちょっと取り込み中なんですよ」
「ふむ、珍しいな」


 小悪魔が言った野暮用と関係があるのだろうか。


「気になります?」
「いや、そういうわけでもないが」


 首を振る霖之助。
 パチュリーが何をやっているのかは知らないが、危険なことではないはずだ。
 ひょっとしたら魔法の研究かもしれない。

 しかし小悪魔はずずずいっと顔を寄せてきた。


「気にならないんですか?
 お母様が今何をしてるか。
 ひょっとしたらお父様にも言えないことかもしれないのに」
「まずそんな心配はないと思うが。
 ……その場合、君が嬉々として喋りそうだし」
「そんなことするわけないじゃないですか」


 小悪魔は大仰に天を仰ぐ。
 天と言っても図書館の天井しか見えないのだが。


「……で、気になりますよね?」
「そこまで言われたら、少しはね」
「気になるんですね!」


 霖之助の言葉に、小悪魔が笑みを浮かべた。
 ……あまりよくない笑みだ。
 まるで何かを企んでいるかのような。


「そんなにどうしてもと言われたら、私もお父様をお連れするしかありません。
 本当はダメなんですが、そこまでどうしてもと言われたら……」
「どうしてもなんて一言も言ってないが……。
 というか引っ張るんじゃないよ」
「さささ、こちらですよ」









 図書館の近くにある、パチュリーの私室。
 その中のひとつ。

 ドアを開け、部屋の中に足を踏み入れる。
 ……パチュリーの部屋のいくつかは入ったことがあるが、ここは初めてだった。

 甘い匂いが、鼻孔をくすぐる。


「お待たせしました、パチュリー様」


 霖之助に続いて、小悪魔が部屋に入る。
 何故か、気配を消したままで。


「随分遅かったわね」
「ええ、ちょっと野暮用がありまして」


 入り口に背を向け、パチュリーは本を読んでいた。
 気配を消したまま、小悪魔は器用に受け答えする。

 霖之助が口を開こうとしたところを、小悪魔に止められた。
 人差し指を口元で立てる。


「ふ~ん。
 ……まあいいけど」


 何故だか小悪魔は笑っていた。
 霖之助だけに、似たもの夫婦ですよね、と声をかけてくる。


「じゃあ、続きをお願いね」
「はい、お任せあれ」


 言って……小悪魔は霖之助の背中を押した。
 パチュリーの背後までやってくると、櫛が手渡される。

 そして何事かのジェスチャー。
 ……見るまでもなく、やることはひとつしかない。


「それにしても、パチュリー様の髪って長いですよね」
「髪は重要なものよ。魔術的にもね」


 霖之助は思わず相槌を打とうとして、小悪魔に口を塞がれた。
 ……仕方なく、肩を落とす。

 長い髪に、櫛を入れていく。
 パチュリーの髪は日光に当たらないせいか、痛みがほとんど無く柔らかい手触りだった。


「でもその割には珍しいですね。
 パチュリー様が髪の手入れをして欲しい、なんて言うのは」
「別に、たまたまよ」


 紫色のさらさらした髪を、丁寧に梳いていく。
 女の命とも称されるそれは、薄暗い明かりの中で輝いて見えた。


「たまたまですか」
「そうよ」


 小悪魔の問いに答えるパチュリー。
 部屋の中に、気配はふたつ。

 霖之助が居ることに、彼女は……気付いてはいないようだ。


「私はてっきり、この前の出来事が原因かと思ってました」
「…………」


 答えの代わりに、パチュリーがぱらりとページをめくる。


「ほら、どんな髪型が魅力的か、とか。
 どんな髪型が好きか、とか。
 何でかは忘れましたけど、そういう話になりましたよね。霖之助さんと。
 あれからずっと、パチュリー様は髪を気にしてたような気が」
「気のせいじゃない?」


 即答だった。


「気のせいですか」
「そうよ」


 彼女の読んでいる本が、霖之助の目に止まった。
 ……外の世界の情報誌、だろうか。


「ふと思ったんですけど、パチュリー様が即答される時って、大抵慌ててる時ですよね。
 頭の回転が速いから普段3周くらいしてるのを1周で済ませちゃう見たいな」
「…………」


 背中から小悪魔に突かれた。
 振り向くと、ニヤニヤとした表情を浮かべている。


「私はてっきり、霖之助さんの好みの髪型にして誘惑してしまうおつもりかと」
「考え過ぎよ」


 言って、パチュリーが軽く首を振った。
 絹糸のような髪が、霖之助の手の中でゆらゆらと揺れる。


「でも残念ですね、私も霖之助さんの好みは知らないんですよ。
 あ、咲夜さんなら知ってるかも……」
「私が知らないんだから、知らないと思う……けど……」


 だんだんと、パチュリーの声が小さくなっていった。
 そんな彼女に、小悪魔はポンと手を叩く。


「ですから、本人に聞かれたらいかがでしょう。
 ね、お父様?」


 ピクン、とパチュリーの身体が震えたのがわかった。
 ゆっくりと振り向く彼女……と、しっかり目が合う。


「……まあ、なんだ」


 こういう時、何を言ったらいいのだろう。
 どんな顔をしたらいいのだろう。

 100年以上生きてても、残念ながらその答えは知らなかった。


「全部、聞いていたの」
「……ああ」


 声が震えていた。
 顔が赤い。


「…………」


 小悪魔に唆されたとは言え、不法侵入と言えなくもない。
 攻撃魔法の一発でも食らう覚悟をしていたのだが……。

 しかしいくら待っても、その時はやってこなかった。


「お母様、照れちゃってますね」
「……照れてる、のかい?」


 てっきり怒っていると思っていた。
 ……いや、そのうち怒られることに違いはないのだろうが。


「お父様、ここはひとつ気の効いたセリフを言う時ですよ!」
「ああ……そうだね」


 いつもなら、首を振っただろう。
 しかし今回は何となく、小悪魔の口車に乗るのも悪くないと思っていた。

 彼女の珍しい顔を見られたからだろうか。
 それとも、この部屋に漂う雰囲気のせいだろうか。


「僕の好み、と聞いたが」


 霖之助はパチュリーの髪を撫でながら、彼女の耳元に口を寄せた。


「君はこのままで、十分だと思うよ」



子悪魔

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非公開コメント

No title

貴方のパチュ霖は心躍りますね~ww

No title

この三人でご飯三杯、いや五杯はイケますよw

No title

(・∀・)ニヤニヤ  相変わらずこのシリーズにはニヤニヤさせられますね

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No title

あまぁぁぁああぁぁぁあああいいぃいい!
い、いけない!
口から砂糖が漏れ出てしまう!

No title

こあくま、にくいぜ!

No title

なんでか知らんが最後の絵で思わず吹いた自分がいるwww
そして本文のせいでニヤニヤが止まらねぇwww
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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