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バレンタインSS17

『俺天狗』より。
時系列的にはこれより前の話ですが。
オリキャラ注意。


霖之助 俺天狗









「おっす霖之助、調子はどうだ?」
「……なんだ、君か」


 あいつは店に入ってきた俺を見るなり、盛大にため息を吐いた。
 ……相変わらず失礼なやつだ。


「なんだとはなんだ。
 せっかくのバレンタインなのに辛気くさい野郎だな」
「……調子がどうかと聞いたね。
 おかげさまで、絶好調と言えるだろう。
 君たち天狗のおかげでね」
「俺のおかげか。感謝しろよ」
「……はぁ……」


 今度は特大のため息と来たもんだ。
 何がこいつをそうさせるんだろう。
 俺にはとんとわからない。


「バレンタイン、か。
 広めるのはいいが、限度というものがあるだろう」
「ちゃんとお膳立てまで全部こっちでやってやったんだ。
 同じ阿保なら踊らにゃ損だろ?」
「問題はその阿呆が多すぎた、ってことだよ」


 霖之助は肩を竦めながら、なにやら大きな籠を取り出した。
 入っているのは色とりどりの箱。箱。箱。

 ……なんだか見覚えのあるものが多い。


「それ、全部チョコか」
「ああ、その通り」
「それにしても、随分集めたもんだな。
 よっ、この色男!」
「ほとんど義理だよ。
 そういうイベントだと広めたからね。君たち天狗が。
 しかもタダみたいな値段でチョコレートを配って……。
 妖精まで面白がって渡しに来た結果が、これさ」
「へぇ、俺たちの仕掛けはバッチリだったってことだな。
 ……ん? ほとんど、ってことは」
「…………。
 とにかく、来月のことを考えると頭が痛いよ……」


 肝心な所は、こいつは答えない。
 いつものことだ。
 だから……。

 ……なんか、イラつく。


「おい、霖之助」
「なんだい?
 ホワイトデーの時にも何かお膳立てしてくれるのかい?」
「違ぇよ。そこは何とかするのが男の甲斐性ってもんだろ。
 それより俺からのバレンタインがまだだぜ」


 言いながら、俺は持ってきた酒樽をドンとカウンターの上に置いた。
 俺の言葉に……しかしこいつは首を傾げる。


「……バレンタインはチョコレートをプレゼントするイベントなんだろう?
 そう天狗が言っていたが」
「そう、天狗が言ってるんだよ。俺という天狗がな。
 俺からのバレンタインは酒を渡してもいい日だって」


 胸を張る俺に、しかし霖之助は訝しむような顔。


「そもそも、バレンタインは女性が男性に贈る日だと聞いたんだが……。
 いや、天狗が言っているならいいのか……?」
「……何を言ってるんだ?
 俺がバレンタインに参加するのはそんなに変かよ」
「いや、しかしだね……」


 はて、その条件は何も問題ないはずなんだが。
 ……なんだか勘違いしている気がするけど、まあ細かいことはどうでもいい。


「とにかく、とっておきの上等なやつだぜ。
 どうだ、チョコレートにも飽きてきたところだろ?」
「ああ……いただこう」


 霖之助はニヤリと笑うと、俺と杯を交わし始めた。









「酒には辛いものが合うというのは昔から言われてきたことだが、すべてがそうとは限らない。
 実際貴醸酒という酒は、チョコレートをつまみにして呑むと格別な味わいが……」
「俺は呑めれば何でもいいけどな」


 今日もこいつの舌は絶好調だ。
 店の売り上げとは対照的に。


「……ふむ、しかしなかなか美味いな、この酒は」
「だろう? 何たってとっておきだからな」


 そう、とっておきなんだ。
 なんてったって、こいつと一緒に呑むために用意してた酒なんだから。


「そもそもウイスキーボンボンというものがあるように、
 チョコレートと酒はだね……おや?」


 おかわりをしようと霖之助は酒樽に手を伸ばした。
 しかしその手は空を切る。

 ……俺が酒樽を移動させたからだ。
 霖之助の手の届かないところに。


「……おや、もう終わりかい?」
「まあ待てよ。
 酒のおかわりの前にやるべきことがあるだろう?」
「うん?」


 その言葉で、ようやくこいつは気付いたようだ。
 俺が手を出している事に。


「この手がどうかしたかい?」


 ……あろう事かこいつは俺の手の上に手を重ねて来やがった。
 意外と大きな手。

 ……なんだか暑くなってきた。
 きっとストーブが強いか……珍しく酔ってしまったんだろう。うん。


「バカ、お手じゃねぇよ」
「じゃあなんなんだい」


 わからない、と言った様子で霖之助は首を傾げた。
 俺は首を振り、やつの顔を覗き込む。


「お前もチョコを出せ。
 ああ、勿論お前の手作りな」


 これくらいの役得はあっていいだろう。

 ……なんだって俺は、この店の常連だからな。

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