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バレンタインSS12

今更な話ですがすべての話は繋がってません。
それはそれ、これはこれということで。

小傘はフリーダム。きっとそんな気がする。


霖之助 小傘









「今日も売れ残っちゃった」
「というか、肝心の客が来なかったんだがね」


 ため息を吐きながら、霖之助は読んでいた本を閉じる。
 香霖堂に客が来ない日も珍しくはないので、今更そんなことくらいで一喜一憂していられない。

 しかし、そんなことより。


「そもそも君をうちの商品として置いた覚えはないよ、小傘」
「えー、いいじゃない、店主さん。
 私、道具だよ?」


 首を傾げる小傘に、首を振る霖之助。
 古道具屋ということが気に入ったのか、彼女はたびたびここに来るようになっていた。

 小傘は一日中、自分を買ってくれる客を香霖堂で待ち……そしていつも、売れ残る。


「それに今日は雨だし、傘が必要な人はきっといると思うの」
「確かに雨の日は傘が必要だがね」


 彼女の言うとおり、香霖堂に永遠亭の兎が傘を買いに来たこともある。
 もちろん雨が急に降り出した時であり……今日は朝から降り続いていた。

 こんな日に、わざわざ香霖堂に傘を買いに来る者などいないだろう。
 彼女は気付いていないようだが。


「だれか私を買ってくれないかなぁ……」


 小傘はため息を吐きながら、空を見上げた。
 本来ならば傘が活躍できるはずの、雨空を。


「この雨だしね、こっちの商品も売れ残ってしまったよ。
 バレンタインも終わりだから、もう売れないかな」


 霖之助は肩を竦めながら、カウンター横の商品に視線を送る。
 専用に設けられたそれには、チョコレートが並べられていた。

 昨日までにいくつかは売れたのだが、さすがに当日になって慌てて買いに来る客はいないらしい。

 こっちは小傘ほど落胆してはいない。
 ある意味予想通りなのだし。


「バレンタイン? なにそれ」
「知らなかったのかい?
 バレンタインとはつまり……」


 霖之助は小傘に、早苗から聞いたバレンタインというものを伝える。
 ……自己解釈をたっぷりと含みながら。


「早苗は製菓会社の陰謀だと言っていたけどね、僕はむしろ……」
「ほへー」


 小傘は霖之助の話を黙って聞いていた。
 ややあって、口を開く。


「つまりちょこれーとってのを配って回るお祭りなの?」
「だいぶ語弊がある気がするが、今のバレンタインはそういうものらしいな。
 というか、やっぱり理解していないね」
「ちょこれーとってなに?」
「……まずはそこからだったのか」


 霖之助は苦笑を漏らすと、商品棚から小さなパッケージを取り出した。


「この間無縁塚に行った時に拾った物だが……食べてみるかい?」
「いいの?」
「ああ、君に似合うと思うしね」


 小傘に渡したのは、閉じた傘を模したチョコレート。


「名称はパラソルチョコ、用途は嗜好品だ」
「へー」
「パラソルとは傘のことで、見ての通り……」
「あむ」


 霖之助が喋っている間に、小傘はチョコに齧り付く。


「んー、あまーい」
「……気に入ったようだね」
「こんなおいしいの、初めて食べた」


 小傘は喜びながら、チョコレートを頬張った。
 包み紙まで食べてしまわないかと心配だったが、さすがに大丈夫なようだ。


「そうだ! 私もこのお菓子みたいにチョコレートで覆ったら、売れるんじゃないかな!?」


 小傘はそう言うと、身につけている服に手をかけた。
 思い切りのいい性格もあってか、見る見るうちに肌が晒されていく。


「ちなみにそのチョコレートは売れ残りなんだがね」
「う……」


 霖之助の言葉で……小傘の動きが止まった。
 このチョコレートみたいに……と言うことは、やっぱり売れ残るということだ。

 彼女は目に涙を浮かべながら、霖之助に詰め寄る。


「どうすればいいの、店主さん」
「僕に聞かれても困るな」


 言って霖之助は、商品棚からチョコレートを取り出した。
 先ほど小傘に渡したのと同じ、パラソルチョコだ。

 包み紙を外し、口に入れると……。


「あー、店主さんがわちきを食べたー!」
「……滅多なことを言うんじゃないよ」


 危うく吹きそうになってしまった。
 ……誰かに聞かれたら誤解じゃすまないだろう。


「傘と言えばわちき、わちきと言えば傘。
 この店にある傘はわちきのものよ!」
「いや、この店にある傘は僕のだろう」
「えっ……」


 霖之助の言葉に、何故か小傘は頬を染める。


「……というか、チョコが欲しいなら素直にそう言いなさい」
「はーい」


 小傘は照れたような笑みを浮かべ、舌を出す。
 ……丁度その時、香霖堂のカウベルが音を立てた。


「香霖、何かすごい声が聞こえたんだ……が……」


 店にやってきた魔理沙は、口を開いたまま固まってしまった。

 改めて、現状を把握する。
 服を脱ぎかけた小傘。
 目に涙の跡のある小傘。
 霖之助に詰め寄る小傘。


「やぁ、いらっしゃい魔理沙。
 こんな雨の中、来るとは思わなかったよ」
「ビックリさせようと思ったんだぜ……。
 ビックリは、したみたいだけどな」


 魔理沙は笑っていた。
 ミニ八卦炉を、構えながら。

 ……やはり、考えていた通りだった。
 誤解では済みそうにない。

「え? 驚いた?」


 剣呑な雰囲気が支配する中。
 ただひとり、小傘だけが喜んでいた。

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No title

この小傘はいくらでうってますか
ぜひとも、俺が買います

いや、俺が買います
つ 35600円(今年の年玉)
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