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味噌汁の対価

佐世保にパールシーリゾートという場所があるんですが、その名を聞く度にドキッとするね。
橋姫的な意味で。

少し前の絵チャでパル霖を書くと言ったので。
『地上の橋姫』の続きかもしれない。


霖之助 パルスィ








 まだ正月だというのに、香霖堂は営業を行っていた。
 と言っても、営業日かそうでないかなど霖之助が店にいるかどうかの差でしかない。
 そして霖之助が香霖堂にいない時などほとんど無いわけで。

 もっとも紅魔館のメイド長に言わせれば、例え霖之助がいなくても商品は買えるらしいのだが。


「すまないね、正月早々」
「正月だから呼んだんでしょう?
 人間も妖怪もどこかに集まってるしね。平和なものだわ。
 ここはいつも通りみたいだけど」
「安穏無事。
 何事も起こらないのが一番じゃないか」
「客もいないけどね。
 ……ところで」


 パルスィは手に持った手紙をひらひらと振った。
 つい先日、パルスィの家に届けられたものだ。
 元旦に届けられたところを見ると、年賀状のつもりだろう。

 持ってきた少女は……やはりいつの間にかいなくなっていたが。
 無意識で動く彼女のことはまあ、いつものことだ。


「地上では年賀状と招待状を一緒にするものなのかしら」
「ふむ、その方が手間が省けると思ったんだがね。
 別々に送ったほうがお好みだったかな」
「別に、どっちでもいいけど」


 パルスィが手にしたはがきには、今年の干支とメッセージが綴られていた。
 曰く、近いうちに香霖堂に来て欲しい、と。


「もうちょっとこう、書き様ってものがあるんじゃないかしら」
「ふむ。次回までに考えておくよ。
 とにかく、よく来てくれた。
 しばらく待っていてくれ。お茶を入れてこよう」


 霖之助はそう言うと、立ち上がる。


「ついでに何か甘いものもお願いするわ」
「和菓子でいいなら貰い物があったはずだ……持ってこよう」


 その背中を見送り……パルスィは適当に商品を物色することにした。

 相変わらず用途のわからないものばかりだ。
 しかし何となく居心地がいいので、何度か来たことがある。

 この店は外の世界との架け橋だからだろう、と霖之助は言っていたが……。
 果たしてそうなのだろうか。
 パルスィにはよくわからない。

 どちらにしろ、些細なことだ。


「あら、これはいい色ね……」


 ふと、商品の一角に目が止まる。
 このあたりには用途のはっきりした物が纏められていた。

 つまり……幻想郷でもよくある日用品や家具だ。


「待たせたね。あると思っていた和菓子がいつの間にか……。
 おや、何を見ているんだい?」
「え? ええ、ちょっとこの絨毯が気になって……。
 でも高いわね」
「ほう、お目が高い。
 それは外の世界の波斯国という……」


 霖之助の舌が、滑らかに回り始めた。
 パルスィは苦笑を漏らすと、彼の手にあるお盆の上から勝手にお茶とお茶菓子を貰い受ける。

 いろいろと蘊蓄が続いているが、この店先に並んでいるということは特別な謂れはないのだろう。
 と言うことは、やはりそれなりにいい商品だからそれなりの値段がするということか。

 普通に買う分には、その方が都合がいい。


「絨毯についてはともかく、私をここまで呼んだ理由はなんなのかしら。
 やることなくて暇だけど、手短にお願いね」
「やれやれ、せっかちだね」


 蘊蓄を途中で切られ……しかし大して気にした様子もなく、霖之助は肩を竦めた。
 自分の分のお茶を啜る。


「パルスィ、君は年末年始どうしていたんだい?」
「手短にと言わなかったかしら、私」
「いやいや、必要なことなのさ」


 彼の言葉に、パルスィは仕方なく記憶を辿った。
 と言ってもほんの数日前だ。そうそう忘れるものではない。


「別にいつも通りよ。適当に寝て、起きて、嫉妬してたわ。
 元旦だけは、地霊殿に顔を出したけど」


 それからは、宴会が始まったので適当に退散してきた。
 放っておいたら一ヶ月くらい続くのだ、あの宴会は。

 というか、年末にも師走の間中騒いでいた気がする。忘年会とか言って。
 まあ、集まって騒げれば何でもいいのだろう。


「なるほど、僕も同じようなものだよ。
 初詣くらいは神社に行ったけどね」


 そう言って、霖之助は疲れた表情を浮かべた。
 彼の場合、適当に寝て、起きて、読書だろうか。

 地上の宴会も、よほど騒がしかったに違いない。


「つまり君も宴会料理と正月料理ばかりだったわけだね」
「まあ、そうとも言うけど」
「結構だ」
「……で、それがなんの関係があるの?」


 彼女の言葉に、霖之助はひとつ頷いた。


「さて、結論から言うと君に料理を作ってもらいたい」
「ふ~ん」


 パルスィはお茶を飲み、ひとつ深呼吸。
 オウム返しに聞き返すのは簡単だ。
 しかしそれはきっとこの男の思う壺だろう。

 この男としばらく話してみてわかったことがある。
 ……どのみち蘊蓄を聞くことになるのだ。

 なるならなるで、せめて短くしたい。
 それには、出来るだけ答えに近いところから会話を始めることだ。


「それは私が橋姫だから、かしら」
「ああ。その通り」


 パルスィの言葉に、霖之助は満足げに頷いた。


「橋とは箸と読める。
 箸とは、口に食物を送る橋だ。
 つまり橋姫たる君は、料理も司ることが出来るんじゃないかと僕は考えるわけだ」
「別に料理は嫌いじゃないけどね」


 自慢できるほど得意、というわけでもない。
 しかしそんなパルスィの言葉にも、霖之助はお構いなしだった。


「それにある地方では正月に栗の木で箸を作り、神に供えるという。
 これはつまり箸自体に意味が……」


 どれくらい続いただろうか。
 もう少し待つつもりだったが、疲れてきた。
 そろそろいいだろう。


「で、言いたいことはわかったけど」


 パルスィはお茶受けに出された最後の羊羹のひとかけらを口に放り込み、お茶を啜った。
 甘い羊羹とお茶の渋みがいい塩梅だ。
 甘いものを食べると次はしょっぱいものが食べたくなると思うのは、仕方のないことだろう。
 我ながら、欲が尽きないものだ、とは思うが。


「結局、正月料理に飽きたってことかしら。
 だから、たまには別なものを食べたいってことでしょう。
 宴会に行っても酒に合うような塩辛いものばかりだものね」
「……まあ、そうとも言うね」
「私が何回あなたの気まぐれに付き合ったと思ってるの?
 地霊での主じゃなくても、いい加減読めてくるわ」
「付き合ってくれる君も大したものだと思うがね」
「わかってるなら毎回手紙で呼び出す以外の方法を考えて頂戴」
「まあ、善処してみるよ」


 食べなくても平気な体質とは言え、やはり楽しむために食べたくなるものだ。
 単に、ひとりの食事は味気ないからとらないと言うだけの話である。

 まぁ、パルスィも似たようなものかもしれないが。


「それで、どうだろう。
 頼まれてくれるかい?」
「嫌よ。めんどくさいもの」
「ふむ、そうか」


 パルスィの返事に、霖之助はただそう答えた。

 最初から期待していなかったかのような返答に、思わずパルスィの心がざわめく。
 もっと……残念そうな顔をしてもいいのに。


「……まあ、いいわ。作ってあげる」
「本当かい?」


 それなのにパルスィがこう言うと、うって変わって嬉しそうな表情を浮かべるのだ。この男は。
 正直、反則だと思う。


「その代わり、報酬はその絨毯ね。
 ちょうどよかったわ、この前汚しちゃって新調したかったのよね」
「む? いやしかし、その絨毯の値段はだね」
「なにかしら?
 それとも、私の料理にはそれくらいの価値がないとでも?」
「いや、それは……ううむ」


 霖之助はなにやら悩んでいたが、答えは決まっていた。
 何より彼が言いだしたことなのだ。
 少しくらい足元を見ても大目に見てくれるだろう。


「わかったよ、それでいい。
 来て貰ったのはこっちだからね」
「そう? 商談成立ね」


 言って、パルスィは台所へと向かった。
 素材について何も言わなかったところを見ると、すべてお任せらしい。

 しかし、香霖堂にある食材自体が限られたものだった。
 米と味噌、そしていくつかの野菜。

 これでは普通の食事しか作れそうにない。


「……ま、いいわよね。普通で」


 高価な材料が無ければ美味しい料理が作れないというわけではない。
 ……だからといって、腕によりをかけてまで美味しくする必要もない。

 結局、パルスィが用意したのはいつも彼女が作っているような食事だった。
 いつも通りに調理し、いつも通りに盛りつける。


「出来たわよ」
「ああ、早かったね」
「そりゃあね」


 お盆を霖之助の前へ、そして自分の分を置く。
 こうやって誰かと向かい合って食べるのはいつ以来のことだろうか。


「……ふむ、美味いな」
「そう?」


 霖之助が味噌汁を飲み、そう呟いた。
 飾り気のない、素直な言葉。


「ああ。
 これなら毎日飲みたいくらいだよ。
 もっとも、高く付きそうだけどね」
「べ、別に味噌汁くらいいつでも……」


 正月料理に飽きたから。
 普通の食事が恋しかったのだ。


 きっとただ、それだけ。
 それだけでこんなに食事は美味しいものだと。

 一緒に食事をするのが楽しいのだと、改めて、そう思った。

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No title

これはとても良いパル霖ですね!

No title

前の絵チャの発言から密かに期待していたパル霖!
良いもの見させていただきました

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味噌汁を毎日飲みたい…だと
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