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作戦456

咲夜さんはかなり天ry
改め、無自覚両思いシリーズ(十四朗さん命名)。


霖之助 咲夜









「これ、いくらですか?
 ……霖之助さん?」


 店内に響く少女の声。
 しかし、反応はない。


「霖之助さん、聞いてます?」
「……ん? ああ、すまない」


 再度の呼びかけで、ようやく霖之助は顔を上げた。
 驚いたような、気まずそうな表情。本当に気付いてなかったのだろう。


「せっかくのお客に無反応なんて。
 そんなことだから売れない道具屋なんて言われるのよ」
「いつの間にか現れるのは早苗くらいのものだからね。
 店の扉が開くというのはこちらの心構えをするということもあるんだよ。
 それが認識出来なかったということはつまり……」
「はぁ」


 彼に言葉に、少女は首を傾げる。
 扉が開くのと早苗に、なんの関係があるのだろうか。

 まさか、と考える。


「ところで、何を読んでいるのかしら?
 随分熱中していたみたいだけど」


 彼の手元を覗き込む。
 分厚い本に、びっしりと文字が書き込んであった。


「……なんだか数字ばかり並んでるわね。
 あまり面白そうには見えないわ」
「早苗は計算は嫌いかい?
 これは外の世界の物理学の教科書というものでね」


 ……もしかしたら。
 その思いは確信に変わった。

 じっと霖之助を見つめる。

 自分から言うべきだろうか。
 気付くのを待つべきだろうか。


「この本はつい先日、早苗から譲って……。
 ……ん?」


 そこでようやく、霖之助は気が付いた。
 今までの発言を振り返り……頭を下げる。


「失礼した。
 無意識だったから気付かなかったよ。すまなかったね、咲夜」
「ようやく気付いたのね。
 まあいいけど」
「少し待っていてくれ」


 霖之助は本を閉じ、席を立った。

 用意してきたのは、ふたり分のお茶。
 いつもと比べ、香りが少し違う。高級品のようだ。
 彼なりの謝罪だろうか。


「勉強もいいけど、もうちょっと周りに気を配ったほうがいいわね」
「いやまったく、返す言葉もない。
 お詫びと言ってはなんだが、値段の方も勉強させてもらうよ」
「あら、そうですか?
 ちょっとは得した気分かも」


 呟きながら、咲夜はカウンターに置いた商品を指でつついた。


 ……言いたいことも、聞きたいこともいろいろある。
 だけど言えることはそんなに無い。

 正直に言えば、心が狭いと思われるだろうか。
 他の女性との関係を聞いたら、どう取られるだろうか。

 考えるのも一瞬。
 心の整理も一瞬だ。
 時間を止めてしまえばいいのだから。


 だから、あくまで咲夜は笑顔を浮かべていた。


「貰えるものは貰っておけとお嬢様からも言われてますし。
 名前を間違えられたことなんて、別に私は気にしてませんけど」
「そうかい?
 そう言ってくれると助かるが……」


 困ったように、霖之助は苦笑する。


「霧雨の親父さんも女性の名前を間違えてひどい目にあったらしいからね。
 ……あれは寝言でだったかな?
 とにかく、気をつけていたつもりだったんだが……いや、すまなかった」
「大丈夫ですよ。
 気にしてませんから、本当に……」


 彼の申し訳なさそうな顔に、咲夜はため息を吐いた。
 反省しているなら、許してあげよう。

 なんとか、そう思い込もうとして……。







「本当に、なんだと思ってるんですか!」


 やっぱり無理だった。
 それはそれ、これはこれ。

 どん、とテーブルを叩く。
 その衝撃で、カップに入った紅茶がゆらゆらと揺れた。

 だからと言って、零すような真似はしない。
 メイドの嗜みである。


「2回もですよ、2回も!
 だいたいなんで早苗なんですか!
 まったく似てませんよね、まったく。
 共通点と言えば近くにロ……」
「落ち着きなさい、咲夜。
 そういう文句は本人の目の前で言わないと意味ないわ」
「そうなんですけど……そうなんですけど……」
「放っておきなさいよ、パチェ。
 結局あの男の話を聞いて貰いたいだけなんだから」
「あら、だから面白いんじゃない」
「……まあいいけど」


 レミリアは相変わらずの友人の変わった趣味に肩を竦めた。
 気を取り直して、目の前のケーキにフォークを突き刺す。

 それにしても美味しいケーキだ。
 今まで食べた中でも間違いなく上位に入る。

 このメイドが憤慨しながら帰ってきたときは何事かと思ったが……。
 持ち帰ってきたケーキを食べられたので、よしとする。

 ひとつ疑問なのは、もしこれが香霖堂への差し入れだったとして、だ。
 本来のレミリアのおやつは、なんだったのだろうか。

 ……もちろん、これ以上のケーキを用意していたはず。
 きっとそうに違いない。たぶん。

 だとしたらなぜそれが出されないのかなど、考えてはいけないのだ。


「聞いてます? お嬢様」
「えーっと、消えたケーキの謎だったかしら」
「全然違いますよ!
 もう、お嬢様まで上の空なんて……」
「ん~?」


 ヨヨヨと泣き崩れる従者を、レミリアはしばらく観察することにした。


「私が咲夜の話を聞いてないのはいつものことでしょう」
「それもそうですね」


 泣き真似に飽きたのか、あっさりと復活する咲夜。
 これくらい見通せなければ彼女の主人はやってられない。


「……それで?
 結局咲夜は何をしたいのかしら」
「何を、と言いますと?」
「自分の目の前で他の女の名前を呼ばれて悔しかったんでしょう?」
「なんだか随分違う気はしますが……」


 レミリアの言葉に、咲夜は首を傾げる。
 言いきられるとそうだったような気もするが、やっぱり違う気もする。


「そうよレミィ。
 咲夜が心配してるのは、彼の頭の中がその女で一杯なんじゃないかってことよ」
「うぐっ」


 パチュリーのセリフで、咲夜は思わず仰け反った。
 まるで強烈なボディブローを食らったかのように。


「ましてや自分の知らないところで会ってたりしたらどうしようとか。
 会うだけならまだしももう既にあんな関係だったりこんなコトしてたりとか」
「ううう」
「まあ、それもそうよね。
 あの男って確かパチェより年上のはずだし。可能性はあるわね。
 ……でもパチェからそういう話って聞いたことあったかしら」
「まあ、冗談はこれくらいにして」


 レミリアの視線を華麗にかわして、パチュリーは肩を竦めた。


「冗談だったんですか……?」


 息も絶え絶え、といった様子で咲夜が顔を上げる。


「もちろんよ。
 もし本当にその人のことで頭がいっぱいなら、名前を間違えるはず無いでしょう。
 無意識に名前を呼んだのは、本人じゃなくてその関連で頭がいっぱいだった……。
 今回の場合は、その物理の本ね。
 それに誘発されて、名前が出てきたのだと思うわよ」
「な、なるほど……」
「でももしかしたら、頭がいっぱいで無意識に口を出ることはあるかもしれないけど」
「……どう違うんですか?
 よくわからないんですけど」
「口で説明するのは難しいわね……」


 パチュリーは頭を悩ませた。
 人の心理を説明すること自体、難しいというのに。


「早い話、あいつを咲夜で頭がいっぱいにすればいいんでしょう?
 じゃあ簡単よ。目には目を、歯には歯を。
 咲夜が別の男の名を呼んでみるとか」
「別の、ですか。
 う~ん……」


 首を傾げる。
 こういう場合、ただ呼べばいいというものでもないだろう。
 その知り合いで、なおかつ霖之助も知っている相手となると……。


「……思い浮かびません」
「それに同じことを返しても、仕返しと思われたら美しくないでしょう」
「実際仕返しなんだけどね。だったら……」


 ふむ、とレミリアは頭を捻る。
 まさに今、カリスマの見せ所ではないだろうか。


「そうね……じゃあこんなのはどうかしら」







 霖之助は冷や汗を垂らしていた。
 目の前の光景が理解出来ない。
 いや、したくない。


「……咲夜?」
「あら、何かしら。霖之助さん」


 彼の声に、妖艶な笑みを浮かべている(つもりの)咲夜。
 ややあって、扇子で口元を隠す。

 ……まるでどこかの妖怪賢者を彷彿とさせた。


「こう言っていいのかはわからないが……」
「なに?」


 いつものメイド姿ではなく、ゆったりとした服。
 ……まるでパチュリーの服のスペアのような。

 いつのもカチューシャではなく、やや大きな帽子。
 ……まるでレミリアの帽子のスペアのような。


「何か変なものでも食べたのかい?
 その、あまり似合っていないというか……胡散臭いというか……」







 咲夜はがっくりと膝をついた。
 その様子を、レミリアとパチュリーは困ったように見守っている。


「ダメでした、お嬢様……」
「というか、貴女の中にあるミステリアスなイメージがそれしかないことに驚きだわ。
 あれはミステリアスと言うより……」
「そうよ。ミステリアスないい女ならここにいるでしょう。
 なんで私を参考にしないのよ、咲夜」
「胡散臭いって言われました。
 彼の中で最低の評価ですよ」
「そこまで悪いかしら。
 ……可能性はあるけど」
「ええ、そうに決まってます。
 でもそれっぽい服がおふたりのしかなかったんです。
 ああ、洗って返しましたからご安心を」
「……私の話、聞いてないわね」
「聞いてる。
 ミステリアスな言動で翻弄するって発想は良かったけど、役者がダメだったわね」


 肩を竦めるパチュリー。
 まったく悪びれの無い表情で、淡々と続ける。


「慣れないことはするものじゃないってことよ。
 わかってたことだけど」
「我が友人ながら、恐ろしいわね……」
「ううう……」


 この世の終わりを一度に体感している咲夜に、レミリアもふと疑問を浮かべた。


「そもそもどうなったら咲夜の勝ちなのかしら。
 咲夜のことで頭がいっぱいになったって、どうやって確認するの?」
「さぁ」
「さぁって……」


 魔女は怖い種族である。
 レミリアは心の一ページにそう刻みつけた。


「ただ今帰りましたー」
「あら、小悪魔じゃない。
 どこ行ってたの?」
「どこって、香霖堂ですよ。
 言ってたじゃないですか」


 その言葉に、ぴくりと咲夜は反応する。

 テーブルの上に小悪魔は荷物を下ろした。
 重い音がする。


「パチュリー様のお使いですよ。
 香霖堂さんに本のレンタルの。
 というか、咲夜さんが行ってたからてっきりやってくれるものと思ってたんですけど」
「そう言えばすっかり忘れてたわね。
 咲夜はそれどころでもなかったようだし」
「ひどいですよ、もう。
 はいこれ、返却の本と借りてきた本です」


 何十冊もの本を、彼女は軽々と抱え上げる。
 さすがは悪魔といったところだろうか。


「あ、そうそう聞いて下さいよ」


 手早く本の仕分けを始めながら、小悪魔は口を開いた。


「香霖堂さんったら、私が後ろから声をかけるとだいたい間違うんですよね。
 そんなに似てますかね、声」
「間違う? どんな風に?」
「んー、大したことじゃないんですけど」


 今日も間違われたらしい。
 別にいいんですけどねと苦笑して、彼女は続けた。


「咲夜かい? って。
 それが面白くてちょっと声真似してみたりもするんですけど」
「……ああ、これだわ」


 ぽん、とパチュリーが手を合わせた。


「何がよ、パチェ」
「無意識に口から出る名前のほうよ。
 だからつまり……」


 どうやら解答はこんなに近くにあったらしい。
 つまり、彼もとうに咲夜のことで頭がいっぱいだったのだと……。


「……面倒だから説明するのはやめるわ。
 だからもっと楽しみましょう。
 そうと決まれば次の作戦よ、咲夜」
「そうね、パチェ。私もたくさん考えてみるわ」

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