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嘘か真か

リクエストの映霖。
カップリングにはならなかった不思議。

映姫様の身長については諸説ありますが低いと俺得。


霖之助 映姫









「直りますか?」


 彼女の言葉に、霖之助はじっと目を凝らした。

 手の中にある帽子の損傷具合を詳しくチェックする。
 破けているのは布の部分だけのようだ。
 金属の装飾は無傷である。
 ここが傷ついていたら、一週間はかかっただろう。


「……ああ、大丈夫。これなら1時間もあれば直せるよ」
「そうですか。助かりました。
 ではすみませんが、修復をお願いします」


 そう言って、映姫は安心したようにため息を漏らす。

 信仰の数が単純に力となるなら、この幻想郷でも彼女に勝てる者はいないだろう。

 文字通り、彼女のことなど子供でも知っている。
 もっとも、厳密には幻想郷の者ではないという話だが。

 ただし、弾幕ごっこというルール上ならたまに妖精にも負けることがあるらしい。
 ……今日のように。


「それにしても、意外だな」
「何がです?」


 霖之助の言葉に、首を傾げる映姫。
 閻魔の帽子を被っていない彼女は随分と幼く見えた。

 その仕草が妙に似合っていて、思わず口元をほころばせる。


「いや……閻魔も弾幕ごっこに参加するとは思わなくてね」
「仕事は仕事、オフはオフです。
 私だってたまには身体を動かしてみたくなるんですよ。
 ……今回は負けましたけど。油断するものじゃないですね」


 その言葉に嘘はないのだろう。
 元より閻魔が嘘を吐くとは思っていない。


「しかし随分大事にしているんだな、この帽子」
「ええ、閻魔の象徴みたいなものですから」


 あちら側の材質だろうか。
 あまり見たことのない布と金属だった。

 まあ、材質がわからなくても修理する手段はある。
 コストも高く付くが、彼女相手なら無縁の心配だろう。

 ……地獄の財務状況はあまりよくないとは聞くが。


「ただ、大事なものには違いありませんが、閻魔の制服ですからね。
 申請すれば代わりは貰えます」
「……うん?」


 その言葉に、霖之助は動きを止めた。


「じゃあ、帰って新調したほうがいいんじゃないのかい?」
「そう言うわけにもいきません。
 ボロボロの格好で帰ったら……その……」


 口ごもる彼女に、思い当たったように頷く霖之助。
 確かに、そんな姿を見られたら彼女の部下は心配するだろう。

 ……ひょっとしたら、笑うかもしれない。


「わかった。
 とりあえず僕に任せてくれ。
 お代は頂くけどね」
「はい。それはわかってます」


 彼が作業に取りかかったのを見て、映姫は店内を物色し始めた。

 ここには人間の道具も冥界の道具も妖怪の道具も、外の世界の道具だってある。
 欲しいものがあるかは、また別問題だが。


「しかし、随分物が増えましたね」
「ああ、努力の結果だよ」


 努力、つまり商品の仕入れである。


「その割には、前回来たときから減った商品が見たらないようですが」
「……まるですべてを覚えてるみたいな発言だね」
「覚えてますよ」


 事も無げに言う映姫に、霖之助は絶句した。

 前回彼女が店に来たのは一月ほど前。
 確かにその辺りの商品は売れた覚えがない。

 香霖堂で小町がサボっているのを発見してからというもの、映姫はたまに香霖堂を見回りに来るようになった。
 来る頻度はわずかだが、だいたい何か買っていってくれるお得意様である。
 部下の死神とはいろいろと正反対だ。


「店主、貴方はもう少し真面目に商売に取り組んだ方がいい。
 そもそもですね、商売というのは……」
「……その説教は、閻魔の業務ではないのかい」
「いいえ、先ほども言ったように今はオフですから。
 つまり趣味です」
「仕事と趣味は別にしたほうがだね」


 言いかけて、口をつぐむ。


「なんです?」
「長続きするらしいが、きっと気のせいだな」
「そうでしょうね。この店もどう見ても趣味でしょう?」
「それでもそこそこ長続きしているからね」


 咄嗟に口をついて出た言葉だったが、霖之助自身信じているわけではない。
 好きこそ物の上手なれである。

 そもそも、嫌いなことを何十年と続けられるなどとても思えない。


「それに、何も売れてないわけじゃないよ。
 小物とかはそこそこ売れているさ」
「あら、そうなんですか?」
「そこまで驚かなくてもいいだろうに……」


 目を丸くした映姫に、霖之助は肩を落とした。


「すみません、つい」


 閻魔は正直だ。
 だからこそつらい。


「お詫びに何か買っていきますよ」
「そうしてくれると助かるね」


 再び彼女が物色を開始したのを見て、霖之助も作業に戻る。

 それにしても、この世のものではない、とはこういうもののことを言うのだろうか。
 実に美しい品だ。
 だからこそ、修復にも気合いが入る。

 修復とは、修復の跡を消してこそ修復たり得るのだから。





「よし」


 霖之助はひとつ頷いた。

 どれくらい時間が経っただろうか。
 集中していたせいでよくわからないが、予告通り一時間ほどだろう。

 遠目からでは破けていたことはおろか縫い直したこともわからないはずだ。
 これなら百年は使えるだろう。

 ……また破いたりしない限り。


「出来たよ……なにを見ているんだい?」
「あ、出来ましたか。
 いえ、ちょっと気になる道具がありまして」


 呼ばれて映姫は振り向いた。
 見ていたのは……外の世界の道具だろうか。


「これなんですけど」
「ああ」


 彼女が持ってきた道具を見て、疑問が解けた。


「嘘発見器、と書いてあるように見えるんですが」
「見えるも何も、実際そう書いてあるからね」
「外の技術はそんなに進んでいるのですか?」
「いや……」


 霖之助は口を開きかけ……首を振った。


「試してみたほうが早いかな。
 ちょっと手を出してくれるかい」
「はい」


 映姫の小さな手を取り、指に嘘発見器を取り付ける。

 乾電池で動くらしい。
 幸い在庫もあったため、可動品だった。


「これから言う言葉に対して、すべていいえで答えてくれるかい?」
「はい。……あ、いいえ?」
「いや、これはいいんだ。
 そうだな……」


 霖之助は一瞬考え……カウンターの横に置いていたぬいぐるみを掴み上げた。
 外の世界の手芸の本を参考に作ったものだ。
 ついつい針が進んでしまい、巨大な大きさになってしまったものである。
 完成したはいいが、置き場所にも困る有様だった。


「君はこのぬいぐるみを欲しいと思っている」
「いいえ」


 映姫の言葉とともに、指にはめた嘘発見器からブザーが鳴り響いた。


「な……まさか」


 狼狽する映姫。
 ……珍しい顔を見たかもしれない。


「こんなはずありません。だって閻魔が嘘を吐くなど……」
「わかっているよ。
 君はただ質問にいいえと答えただけだからね」


 慌てる彼女に、霖之助は苦笑で返す。


「名称は嘘発見器。
 用途は罠にはめる……というと大げさだな。
 元からこうなのか単に壊れているのか、何を言ってもブザーが鳴るのさ。
 嘘発見器自体が嘘というやつだね」
「なるほど、そうでしたか」


 もともと外の世界のおもちゃなのだろう。
 霖之助のコレクションにするには少々趣が違う気がする。


「浄瑠璃の鏡にに比べるべくもないね」
「でも、面白いですね。
 これ、売って貰っていいですか?」
「本当かい?
 いや別に構わないが……」


 さっきから映姫が何か言うたびにブザー音が鳴っている。
 それが珍しいのか、彼女も笑顔だった。


「まるで嘘つきみたいなじゃないですか、私」
「まあ、知らない人が見たらそう見えるかも……」
「小町にも使ってみるのもいいかもしれません」
「……ああ、それならまるで本物みたいな働きをするだろうね」


 やり方は簡単だ。
 サボっていなかったか聞けばいい。


「貴方にも使ってみるのも面白そうですね」
「やめてくれ。
 僕は自分に正直に生きているんだ」
「正直すぎるのも考え物ですね……」


 ため息を吐く映姫。
 自分に正直という点では、小町もなかなかだと思う。


「では帽子のこと、ありがとうございました」
「ああ。おやすいご用だよ。
 それと」
「はい?」


 帽子を受け取り、帰ろうとする彼女を呼び止める。


「このぬいぐるみは、結局欲しいのかな?」
「えっと、その……。
 あのですね」


 口ごもる彼女と鳴り響くブザーに、霖之助は苦笑を漏らした。

 ひょっとしたらあの嘘発見器は壊れてなどいなかったのかもしれない、と思いながら。

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