設定とか6
8月も終わりなので、ウェブはくしゅのお礼画面1-5を更新しました。
もうすぐ秋。つまりここで秋姉妹を……。
というわけで昔上げてた奴のまとめ。
『1.成長した魔理沙が嫁に行ったので屋台で愚痴る霖之助の図』
(ミスティアは眼鏡フェチ。異議は認める)
「別にいいんだよ。あいつももういい歳だ。むしろそうなるべきなんだよ」
「よかったですねぇ」
「いいんだよ、いいんだが一向にツケを返しに来る気配がないというのはどういう事だ?」
「来て欲しいんですか?」
「いや、あいつはもう新しい生活がある。わざわざここに立ち寄る必要はない」
「じゃあいいじゃないですか」
「だがやはり借りたものはだな……」
「はい、お待ちどお。霖之助さん、その話、もう53回目ですよ」
ミスティアは霖之助の前に夏野菜の串焼きセットを並べる。
霖之助はその中からカボチャを手に取ると、口の中に放り込む。
……甘い。
「いいや、54回目だよ」
「……どっちでもいいです」
ひとつため息を吐くと、ミスティアは包丁を取り出した。
もう彼女が店を出すようになってどれくらいになるだろう。
その中でも霖之助は一番の古株で、一番の常連だった。
「でも嬉しいんですよね?」
「ああそうさ。だけどな……」
55回目の愚痴が始まった。
適当に聞き流しつつ、料理を出していく。
冷奴に、セロリときゅうりのスティックサラダ。
「待て」
「はい?」
「僕は八目鰻の蒲焼きを注文したはずだが、いつになったら出てくるんだい」
「もう食べたじゃないですか」
「まだひとつだけだよ。鳥目になったら困るじゃないか」
「別に困らないですよ」
そう言ってミスティアは視線を移動させた。
すぐ近くにあるのは香霖堂の軒先。
いつからか、だんだんと開店場所が移動してきた気がする。
元々移動店舗なのでそれは構わないのだが……。
しかし最近ここから動いた記憶もない。不思議なことだ。
「そもそも食べすぎです。食べ過ぎは身体に毒ですよ」
「八目鰻は目にいいのだろう。毒も何もあるものか」
「いいえ、とんでもない」
ミスティアは首を振ると、霖之助の顔に手を伸ばした。
彼から眼鏡を奪い、かけてみる。
……昔より度が弱くなっている気がする。
「眼鏡をしなくなったら困るでしょう」
「便利でいいじゃないか」
霖之助の言葉に、ミスティアは不満そうに首を振った。
「私が困るんです」
『2.魔理沙に嫉妬して自分の恋心を自覚した幽香の話』
――夕方。
紅い夕陽を受けて黄金色に輝く向日葵の中で、幽香は微笑んでいた。
「で、何?」
「…………」
対峙する魔理沙は何も答えない。
彼女がやってきたのはつい先ほど。
霖之助に適当に誤魔化されて仕返しにでも来たのだろうか。
彼女のような脆弱な人間でも大妖怪と対等に戦える弾幕ごっこで。
……しかし今は、その気分ではない。
「今日は最高に気分がいいの。見逃してあげるからどこか行きなさい」
理解することは気持ちがいい。
例えその対象が自分でも、だ。
理解は解決に繋がる。
その時点で既に問題の8割は解決していると言っていい。
あとは行動に移すだけだ。
さて、どうしよう。
……焦ることはない。自分と相手には長い時間があるのだから……。
「香霖に聞いた」
「そう」
考え事をしていたせいで、魔理沙が来ていることを忘れていた。
言葉の内容も予想通り。
面白みがない。華がない。
「幽香が、その……香霖と、そう言う関係だったって」
否。
事態はやや、予想外の展開へ進展しているようだ。
「彼がそう言ったの?」
彼、と言う言葉に含みを持たせてみた。
面白いように、魔理沙は表情を変える。
「ああ。香霖は……ちゃんと話してくれた」
その言葉に、再び幽香の心がざわついた。
あの店主がちゃんと話すとは。
魔理沙と霖之助に見え隠れする、ふたりの間の信頼。
「それで?」
「ああ……勝負だ、幽香」
脆弱な人間が、大妖怪と対等に戦える舞台がもうひとつあった。
――面白い。
「……訂正するわ。認めましょう、貴女を強敵だと」
――手強い恋敵だと。
「今日は最高に気分がいいの。きっとこの先ずっと、あの人が死ぬまで。だから……」
もしかすれば……自分が死ぬまで。
だから。
「本気で潰すわ、人間」
「望むところだ、妖怪」
『3.もし香霖堂で油揚げを取ったのが橙だったら』
トントン、と香霖堂の玄関がノックされた。
時間をおいて、再びノックの音。
「開いてるよ」
そう呼びかけてみるが、反応がない。
考えてみれば、わざわざ扉を叩くような殊勝な心がけの客がこの幻想郷にいただろうか。
少なくとも霖之助の知り合いにはいない。
いるとするならよっぽど礼儀正しく教育されたか……。
「いらっしゃい……?」
よっぽど臆病か、のどちらかだろう。
「……ごめんなさい」
様子を見にドアを開けた霖之助の前にいたのは、うなだれるように耳と尻尾を縮こまらせた猫又の少女だった。
「おいしそうだったんです……。だから藍しゃまに、うぅ~……」
「店先で泣かれるといらぬ風評が立つかもしれないから、中に入るかそのまま帰りなさい」
「帰れません! ちゃんとごめんなさいするまで帰れないんです!」
「……わかった。話を聞こう」
霖之助は肩を竦め……猫又の少女を椅子に座らせた。
「それで?」
「ですからあ、油揚げが藍しゃまで返してこいと美味しそうで……」
「……さっぱりわからないな。まずは落ち着くといい」
読書のお供に用意していたお茶を少女の前に注ぐ。
すっかり冷えていたが……相手は猫だ。ちょうどいいだろう。
「うみゅ……ありがとうございます」
「さて、油揚げとは昼間無くなった油揚げのことかい?」
「そうなんです。そうなんですよ。藍しゃまの好物だったから、お土産にしようと思って……でも怒られちゃって……」
「……なるほど、だいたいわかった」
察するに、その藍しゃまという人物はこの少女の主人なのだろう。
油揚げが好物、ということは件の賢者の式神かもしれない……と考えたが、そううまい話が落ちているとは考えにくい。従って保留。
しかしこの子が盗みを働いたことに対して怒ったというのなら、かなり高位の妖怪であることに間違いはない。
それならばやはり、賢者と知り合いでもおかしくはないのではないか。
「つまり君は油揚げを返しに来たんだね?」
「です~……」
すっかりしおれてしまった耳を見ていると、こちらが悪いことをしているかのように感じるから不思議だ。
もちろんそんな気分は幻想であり自分に何の非もない以上毅然として望むことに何の問題もない。
「今更干からびてしまった油揚げを返してもこちらとしては困るな」
「やっぱり私が盗ったから……」
「ああ、その通り。だから……まあ、味噌汁にでも入れてその辺の野良猫にやるとしよう」
へ? と顔を上げる猫又の少女に、霖之助は苦笑を返す。
「それよりきちんと謝りに来た君に渡すものがある」
そう言って霖之助は台所に引っ込んだ。
張り切って作りすぎたそれはまだまだ余っていたりする。
「……はい」
「にゃんですか、これ」
「君の主人に渡すといい。今度は怒られないはずだよ」
『4.妖艶に迫る文、と言うお題』
「どうですか霖之助さん、今回の文々。新聞は」
「まだ読んでる途中だよ。それより少し離れてくれないかい」
「えー、いいじゃないですか。これくらい魔理沙もやってることでしょ?」
「確かにそうだが……」
文の言うとおり、ベタベタと触られるのは魔理沙たちのせいで慣れてはいる。
しかし文の触り方は明らかに彼女たちと一線を画していた。
ベタベタと言うより……明確な意図を持った触り方、だろうか。
「霖之助さん。ひとつお願いがあるんですけど」
「……今度はなんだい?」
「取材に付き合って欲しいんですよ。趣味と実益を兼ねた記事を書こうと思いまして」
「またどこかに連れて行かれるんじゃないだろうね」
「いえいえ。この香霖堂で済むような取材ですから」
「……なら、構わないけど」
そう言って、霖之助は再び新聞に目を落とした。
「では早速」
「……待て」
思わず声を上げてしまった。
上げざるを得なかったとも言う。
「君は一体何をやってるんだい?」
「あれ? さっき言ったじゃないですか。取材ですよ、取材」
言いながら文はブラウスのボタンをひとつひとつ外し始める。
「年下の男の子の落とし方、と言う記事を書こうと思いましてね。
やはり体験談があった方がいいでしょう?」
文はボタンを半分ほど外し終わると、胸の谷間を見せつけるように霖之助にすり寄ってくる。
「あ、読み続けてくれて構いませんよ。
霖之助さんが我慢出来なくなったら成功ですから」
文は艶めかしく手を這わせながら、霖之助の耳元にそっと囁いた。
「……もちろん。そのあとのアフターケアも万全ですよ」
『5.夏兎の続きみたいになってしまった話』
「こんにちわー。霖之助さん、新聞ですよー……あれ、兎の人。いたんですか?」
「いますよ」
この時間にいることはわかってるはずなのに。
白々しく笑う文に、鈴仙は眉をひそめた。
「ああ、君か。前回のはなかなか興味深かったよ」
「面白いとは言ってくれないんですね……」
「それは内容次第だな」
この人もこの人だ。
さっきまで自分と話していたはずなのに、もう別のことに気を取られている。
「じゃあ近いうちにでも」
この女に、気を盗られている……!
「……ねぇ……霖之助さん……」
「なんだい……?」
鈴仙は振り返った霖之助に唇を重ねた。
驚きに目を見開く霖之助と文。
「ちゅっ……ぷはっ」
「んぐ……鈴仙、何を……」
「いいじゃないですか。私たちはそういう関係なんですから」
鈴仙はスカートをたくし上げながら、霖之助の膝にすり寄り露わになった秘所をすり付けた。
下着は最初から着けていない。
むせかえるような甘い匂いが周囲に立ち籠める。
「なっ……人前で……」
「人前で、なんです? 記事にしたければどうぞ。私は困りませんから」
言葉を詰まらせる文に、勝ち誇ったような笑みを向ける鈴仙。
「待ってくれ、鈴仙」
「いやです。だって霖之助さんのここ、こんなに……」
「……もう! また来ます!」
文は吐き捨てるように言うと、風のように消えた。
ふたりになって落ち着くかと思ったのも束の間、鈴仙の身体はさらに艶めかしく霖之助にすり寄ってくる。
「一体何故いきなり、こんな事を」
「決まってるでしょう。マーキングですよ」
立ち籠める甘い匂い。
脳髄まで届く、女の匂い。
「ここは……私の縄張りです……」
狂気じみた独占欲を宿した瞳が、霖之助を捉えて離さなかった。
「他の女になんて……渡しません……!」
もうすぐ秋。つまりここで秋姉妹を……。
というわけで昔上げてた奴のまとめ。
『1.成長した魔理沙が嫁に行ったので屋台で愚痴る霖之助の図』
(ミスティアは眼鏡フェチ。異議は認める)
「別にいいんだよ。あいつももういい歳だ。むしろそうなるべきなんだよ」
「よかったですねぇ」
「いいんだよ、いいんだが一向にツケを返しに来る気配がないというのはどういう事だ?」
「来て欲しいんですか?」
「いや、あいつはもう新しい生活がある。わざわざここに立ち寄る必要はない」
「じゃあいいじゃないですか」
「だがやはり借りたものはだな……」
「はい、お待ちどお。霖之助さん、その話、もう53回目ですよ」
ミスティアは霖之助の前に夏野菜の串焼きセットを並べる。
霖之助はその中からカボチャを手に取ると、口の中に放り込む。
……甘い。
「いいや、54回目だよ」
「……どっちでもいいです」
ひとつため息を吐くと、ミスティアは包丁を取り出した。
もう彼女が店を出すようになってどれくらいになるだろう。
その中でも霖之助は一番の古株で、一番の常連だった。
「でも嬉しいんですよね?」
「ああそうさ。だけどな……」
55回目の愚痴が始まった。
適当に聞き流しつつ、料理を出していく。
冷奴に、セロリときゅうりのスティックサラダ。
「待て」
「はい?」
「僕は八目鰻の蒲焼きを注文したはずだが、いつになったら出てくるんだい」
「もう食べたじゃないですか」
「まだひとつだけだよ。鳥目になったら困るじゃないか」
「別に困らないですよ」
そう言ってミスティアは視線を移動させた。
すぐ近くにあるのは香霖堂の軒先。
いつからか、だんだんと開店場所が移動してきた気がする。
元々移動店舗なのでそれは構わないのだが……。
しかし最近ここから動いた記憶もない。不思議なことだ。
「そもそも食べすぎです。食べ過ぎは身体に毒ですよ」
「八目鰻は目にいいのだろう。毒も何もあるものか」
「いいえ、とんでもない」
ミスティアは首を振ると、霖之助の顔に手を伸ばした。
彼から眼鏡を奪い、かけてみる。
……昔より度が弱くなっている気がする。
「眼鏡をしなくなったら困るでしょう」
「便利でいいじゃないか」
霖之助の言葉に、ミスティアは不満そうに首を振った。
「私が困るんです」
『2.魔理沙に嫉妬して自分の恋心を自覚した幽香の話』
――夕方。
紅い夕陽を受けて黄金色に輝く向日葵の中で、幽香は微笑んでいた。
「で、何?」
「…………」
対峙する魔理沙は何も答えない。
彼女がやってきたのはつい先ほど。
霖之助に適当に誤魔化されて仕返しにでも来たのだろうか。
彼女のような脆弱な人間でも大妖怪と対等に戦える弾幕ごっこで。
……しかし今は、その気分ではない。
「今日は最高に気分がいいの。見逃してあげるからどこか行きなさい」
理解することは気持ちがいい。
例えその対象が自分でも、だ。
理解は解決に繋がる。
その時点で既に問題の8割は解決していると言っていい。
あとは行動に移すだけだ。
さて、どうしよう。
……焦ることはない。自分と相手には長い時間があるのだから……。
「香霖に聞いた」
「そう」
考え事をしていたせいで、魔理沙が来ていることを忘れていた。
言葉の内容も予想通り。
面白みがない。華がない。
「幽香が、その……香霖と、そう言う関係だったって」
否。
事態はやや、予想外の展開へ進展しているようだ。
「彼がそう言ったの?」
彼、と言う言葉に含みを持たせてみた。
面白いように、魔理沙は表情を変える。
「ああ。香霖は……ちゃんと話してくれた」
その言葉に、再び幽香の心がざわついた。
あの店主がちゃんと話すとは。
魔理沙と霖之助に見え隠れする、ふたりの間の信頼。
「それで?」
「ああ……勝負だ、幽香」
脆弱な人間が、大妖怪と対等に戦える舞台がもうひとつあった。
――面白い。
「……訂正するわ。認めましょう、貴女を強敵だと」
――手強い恋敵だと。
「今日は最高に気分がいいの。きっとこの先ずっと、あの人が死ぬまで。だから……」
もしかすれば……自分が死ぬまで。
だから。
「本気で潰すわ、人間」
「望むところだ、妖怪」
『3.もし香霖堂で油揚げを取ったのが橙だったら』
トントン、と香霖堂の玄関がノックされた。
時間をおいて、再びノックの音。
「開いてるよ」
そう呼びかけてみるが、反応がない。
考えてみれば、わざわざ扉を叩くような殊勝な心がけの客がこの幻想郷にいただろうか。
少なくとも霖之助の知り合いにはいない。
いるとするならよっぽど礼儀正しく教育されたか……。
「いらっしゃい……?」
よっぽど臆病か、のどちらかだろう。
「……ごめんなさい」
様子を見にドアを開けた霖之助の前にいたのは、うなだれるように耳と尻尾を縮こまらせた猫又の少女だった。
「おいしそうだったんです……。だから藍しゃまに、うぅ~……」
「店先で泣かれるといらぬ風評が立つかもしれないから、中に入るかそのまま帰りなさい」
「帰れません! ちゃんとごめんなさいするまで帰れないんです!」
「……わかった。話を聞こう」
霖之助は肩を竦め……猫又の少女を椅子に座らせた。
「それで?」
「ですからあ、油揚げが藍しゃまで返してこいと美味しそうで……」
「……さっぱりわからないな。まずは落ち着くといい」
読書のお供に用意していたお茶を少女の前に注ぐ。
すっかり冷えていたが……相手は猫だ。ちょうどいいだろう。
「うみゅ……ありがとうございます」
「さて、油揚げとは昼間無くなった油揚げのことかい?」
「そうなんです。そうなんですよ。藍しゃまの好物だったから、お土産にしようと思って……でも怒られちゃって……」
「……なるほど、だいたいわかった」
察するに、その藍しゃまという人物はこの少女の主人なのだろう。
油揚げが好物、ということは件の賢者の式神かもしれない……と考えたが、そううまい話が落ちているとは考えにくい。従って保留。
しかしこの子が盗みを働いたことに対して怒ったというのなら、かなり高位の妖怪であることに間違いはない。
それならばやはり、賢者と知り合いでもおかしくはないのではないか。
「つまり君は油揚げを返しに来たんだね?」
「です~……」
すっかりしおれてしまった耳を見ていると、こちらが悪いことをしているかのように感じるから不思議だ。
もちろんそんな気分は幻想であり自分に何の非もない以上毅然として望むことに何の問題もない。
「今更干からびてしまった油揚げを返してもこちらとしては困るな」
「やっぱり私が盗ったから……」
「ああ、その通り。だから……まあ、味噌汁にでも入れてその辺の野良猫にやるとしよう」
へ? と顔を上げる猫又の少女に、霖之助は苦笑を返す。
「それよりきちんと謝りに来た君に渡すものがある」
そう言って霖之助は台所に引っ込んだ。
張り切って作りすぎたそれはまだまだ余っていたりする。
「……はい」
「にゃんですか、これ」
「君の主人に渡すといい。今度は怒られないはずだよ」
『4.妖艶に迫る文、と言うお題』
「どうですか霖之助さん、今回の文々。新聞は」
「まだ読んでる途中だよ。それより少し離れてくれないかい」
「えー、いいじゃないですか。これくらい魔理沙もやってることでしょ?」
「確かにそうだが……」
文の言うとおり、ベタベタと触られるのは魔理沙たちのせいで慣れてはいる。
しかし文の触り方は明らかに彼女たちと一線を画していた。
ベタベタと言うより……明確な意図を持った触り方、だろうか。
「霖之助さん。ひとつお願いがあるんですけど」
「……今度はなんだい?」
「取材に付き合って欲しいんですよ。趣味と実益を兼ねた記事を書こうと思いまして」
「またどこかに連れて行かれるんじゃないだろうね」
「いえいえ。この香霖堂で済むような取材ですから」
「……なら、構わないけど」
そう言って、霖之助は再び新聞に目を落とした。
「では早速」
「……待て」
思わず声を上げてしまった。
上げざるを得なかったとも言う。
「君は一体何をやってるんだい?」
「あれ? さっき言ったじゃないですか。取材ですよ、取材」
言いながら文はブラウスのボタンをひとつひとつ外し始める。
「年下の男の子の落とし方、と言う記事を書こうと思いましてね。
やはり体験談があった方がいいでしょう?」
文はボタンを半分ほど外し終わると、胸の谷間を見せつけるように霖之助にすり寄ってくる。
「あ、読み続けてくれて構いませんよ。
霖之助さんが我慢出来なくなったら成功ですから」
文は艶めかしく手を這わせながら、霖之助の耳元にそっと囁いた。
「……もちろん。そのあとのアフターケアも万全ですよ」
『5.夏兎の続きみたいになってしまった話』
「こんにちわー。霖之助さん、新聞ですよー……あれ、兎の人。いたんですか?」
「いますよ」
この時間にいることはわかってるはずなのに。
白々しく笑う文に、鈴仙は眉をひそめた。
「ああ、君か。前回のはなかなか興味深かったよ」
「面白いとは言ってくれないんですね……」
「それは内容次第だな」
この人もこの人だ。
さっきまで自分と話していたはずなのに、もう別のことに気を取られている。
「じゃあ近いうちにでも」
この女に、気を盗られている……!
「……ねぇ……霖之助さん……」
「なんだい……?」
鈴仙は振り返った霖之助に唇を重ねた。
驚きに目を見開く霖之助と文。
「ちゅっ……ぷはっ」
「んぐ……鈴仙、何を……」
「いいじゃないですか。私たちはそういう関係なんですから」
鈴仙はスカートをたくし上げながら、霖之助の膝にすり寄り露わになった秘所をすり付けた。
下着は最初から着けていない。
むせかえるような甘い匂いが周囲に立ち籠める。
「なっ……人前で……」
「人前で、なんです? 記事にしたければどうぞ。私は困りませんから」
言葉を詰まらせる文に、勝ち誇ったような笑みを向ける鈴仙。
「待ってくれ、鈴仙」
「いやです。だって霖之助さんのここ、こんなに……」
「……もう! また来ます!」
文は吐き捨てるように言うと、風のように消えた。
ふたりになって落ち着くかと思ったのも束の間、鈴仙の身体はさらに艶めかしく霖之助にすり寄ってくる。
「一体何故いきなり、こんな事を」
「決まってるでしょう。マーキングですよ」
立ち籠める甘い匂い。
脳髄まで届く、女の匂い。
「ここは……私の縄張りです……」
狂気じみた独占欲を宿した瞳が、霖之助を捉えて離さなかった。
「他の女になんて……渡しません……!」