銀髪同盟~咲夜編~
なんとなく銀髪の波が来ているので。
この咲夜さんはきっとローティーンくらい。
霖之助 咲夜
「咲夜、何か悩み事でもあるのかい?」
何かを見つめたままじっと動かないメイドに、霖之助は首を傾げた。
ずいぶん真剣に悩んでいるようだったので、思わず気になったのだ。
声を掛けられた彼女は、ゆっくりと振り向く。
手に持っているのは、香霖堂にある商品のひとつ。
「私の髪の色って珍しいのでしょうか?」
その言葉を聞いて、霖之助は事のあらましをだいたい理解した。
だが推測で物を言うわけにもいかないので、確かめるために質問を投げかける。
「何かあったのか、聞いてもいいのかな」
「はい。えっとですね、先程お嬢様のお使いで人里まで行ってきたのですよ。
そしたらなんと言いますか、里の人々が私を見ているような気がしまして」
「ん~……」
曖昧な相槌を打ちつつ、頭を捻る霖之助。
彼女の返答は、だいたいの予想通りだ。
疑問点はひとつ。
どうして今更なのか。
「それは急にそうなったのかい?」
「どうでしょう。今まで気にしたこと無かったですし。
ただ今日はあちこち見てたせいか、そんな事に気がついたのです」
「あちこち?」
「ええ。新しい店が出来たという噂を聞いて、それを探してたら……」
「なるほど、それで注目を集めるのはその髪の色のせいじゃないかと思ったわけだね」
「はい、そうなのですよ」
霖之助は得心が行ったかのように頷いた。
彼女が幻想郷に来てどれくらいの時間が経つだろう。
……まあ、余裕が出て来たからだと受け取っておく事にした。
大部分の原因としては、咲夜の天然度合いによるものだろうが。
「まったく、君にはいつも驚かされるね」
「はい?」
「いや、こっちの話だよ」
彼女が手に取っているのは外の世界の染髪料。要するに白髪染めだ。
妖怪少女には無用の長物だろうが、人里で根強い人気のある商品のひとつである。
女性にとっていくつになっても髪は大事な物らしい。
もっとも昔なじみである寺子屋の教師がまとめ買いして再配布しているので、利用者が香霖堂に来る事もないし、誰が使っているのかを彼が知ることもないのだが。
霖之助は情報を整理すると、咳払いをしつつ語り出す。
「君の銀の髪だが、幻想郷で珍しいかと問われれば答えはノーだろう。
現に僕も銀色の髪だし、うちに来る客にも何人か銀髪がいるよ」
「確かにそうですね。異変で知り合った人にも銀髪がいました」
「それに妖怪の山の白狼天狗なんかは、文字通り白い髪をしているな。
まあ、白と銀の違いはともかく……彼女たちは種族としてあの髪の色だからね」
そこまで言って、白狼天狗の中に彼女が混ざっている光景を想像してみた。
咲夜も同じ想像をしたのだろう。ふたりして、顔を見合わせる。
「なるほど、全く珍しい気がしません」
「だろう?」
安堵した様子の彼女に、しかし、と続ける。
「ただ、人間の中で目立つかと言われれば、答えはイエスだろう」
「そうなんですか?」
「最近では人間の髪の色も多様だけど、基本はやはり黒髪だからね」
幻想郷は当然日本にある。
異変解決に乗り出すような特殊な人種を別にすると、一般の人間には黒髪が多く見られる。
そんな中に銀髪の人間が混じっていたら、どうなるかは明白だ。
「銀というのはやはり非日常の色と取られるだろう。特にそれが人里なら尚更さ」
「そういうものですか」
「仕方のないことかな。僕も少し前に経験したからよくわかるよ」
言いながら、霖之助は霧雨店で修行した日々の事を思い出した。
あの頃の自分が人に交じって働けたのは、やはり霧雨の親父さんの力による物が大きいと思う。
とはいえ。
「ただ、君が注目を浴びる理由はそれだけではないとは思うんだが」
「そうなんですか? 他にどんな理由があるのでしょう」
「どうしても知りたいというなら教えてもいいんだが……本当かどうかは確証が持てないよ」
「ええ、構いません」
こう言うときの咲夜は実に真面目である。
それは彼女の美点でもあるし、融通が利かない点でもある。
本当はひとりで気づいて欲しいのだが。
……言う方も恥ずかしいので。
「まずひとつめに、そのメイド服だよ」
「これですか? 可愛いですよ?」
「それについては同意してもいいんだが、だからこそ目立つというかなんというか」
「ほえ?」
首を傾げている咲夜に、霖之助はため息を吐いた。
本当にわかっていない様子だ。
「紅魔館ではメイド服が制服だろうけど、人里の人間は基本的に和服だろう?
妖怪は洋服を着ていることも多いが、どちらにしろ目立つことには違いないね」
「なるほど、それは盲点でした」
自分の服は視界に入らないので、盲点なのは違いないかもしれない。
だが毎日着ている服をどうして失念するのか。
今日も彼女の持ち前の天然っぷりを存分に発揮しているらしい。
「なるほど、霖之助さんの言いたいことがわかりました」
「わかってくれたか」
「つまり人里でメイド服を流行らせればいいわけですね」
「……どうしてそうなるんだ」
「え? そういう話じゃなかったんですか?」
「全く違うよ」
どうして幻想郷の少女というのはすべて自分が中心なのだろうか。
まあ彼女の場合はレミリアが中心のようだが。
だからと言って人里がメイド服だらけになるのは実に勘弁して貰いたい。
「まあそれは後々の課題として……」
とりあえず、霖之助は答えを先延ばしにする事にした。
下手に刺激すると実行しそうなので、きっと正しい選択肢だと思う。
「あとは君自身の問題かな」
「私のですか?」
「もちろん。人間でありながら紅魔館のメイド長をしている君は、いろいろと有名人なんだ。
異変解決にも乗り出すほどだし、幻想郷縁起にも載せられている。
……あれについての真偽はともかくね」
「はー、そんな事になってたんですねぇ」
感心したように咲夜が頷いた
その辺の情報には疎いらしい。
霖之助としてもあまり読んで欲しくない本なので、そのまま忘れて貰いたいと思う。
「そんな有名人が里を歩けば知らず視線を集めてしまうのは、まあ仕方のないことだろう。有名税と思って諦めるといい」
「そうだ、幻想郷縁起と言えば霖之助さんも載ってましたね」
「いや、その話は勘弁してくれないか。あの本にはいろいろ言いたいことが山ほどあるんだ」
小悪魔のような笑みを浮かべた筆者を思い浮かべ、霖之助はため息を吐いた。
その様子を察してくれたのか、咲夜は苦笑を浮かべて首を振る。
そしてこの話題は終わりとばかりに、霖之助は次に行く事にした。
「最後に、君が美人という点かな」
「はい?」
その言葉に、しかし咲夜は首を傾げる。
「からかってます?」
「いいや、至極本気だよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって、見たままの素直な感想なんだが」
疑問で返されても困る。
一体他にどう言えというのか。
「まあ美人というよりは美少女といった方が適切かな。
そんな君が歩けば人目を惹く。実にわかりやすい理屈だろう」
「そうですか」
彼女は自分の事に頓着しないのだろう。
先程の服の話からもそれを窺える。
しばらく彼女はなにやら考え込んでいたようだが……。
やがてぽん、と音を立てるかのように、顔を赤らめた。
「……照れますね」
「そうかい」
「はい。そんな事を言われたのは初めてです」
「そうだね、僕もこんな事を言ったのは初めてだよ」
嘘偽りない真実である。
彼女の質問でもない限り、面と向かって言う場面などあるわけが無いではないか。
もしあるとすれば……口説いている時、だろうか。
「はぅ」
彼女は力が抜けたように、ふらりとよろめいた。
だが座り込むような事はせず、顔を赤らめて霖之助を真っ直ぐに見つめる。
「初めてを奪われてしまいました……」
「それは済まなかった。犬に噛まれたと思って忘れるといい」
「いいえ、霖之助さんで良かったです」
「……そうか」
他に答えるべき言葉が見つからない。
霖之助は恥ずかしさを堪えつつ、ただ頷きだけを返した。
「でも、お嬢様だってパチュリー様だって美鈴だってすごく綺麗で可愛らしいですし。
私が美人だなんて恐れ多いというかなんというか」
「ふむ?」
確かに美の基準は人それぞれだとは思う。
美少女揃いという噂の紅魔館を基準に考えれば、咲夜は並……と言っていいのだろうか。
それを言うなら輝夜の住まう永遠亭なんてどう判断するべきだという話になるわけで。
霖之助は頭を悩ませつつ、やがて答えを絞り出した。
「確かに、紅魔館の皆はそれぞれ魅力的だと思うよ」
「む」
苦笑混じりに言った言葉。
しかしどうやら彼女のお気に召さなかったらしい。
「……どうかしたかい?」
「いえ、お嬢様を褒められて嬉しいはずなんですけど……なにか胸がちくちくします」
彼女はそんな自分に戸惑ってるようだ。
そして素直な疑問を、改めてぶつけてくる。
「どうしてでしょう?」
「さてね。わからないなら考えなくていいと思うよ」
それは霖之助の処世術だ。
下手な事に首を突っ込まない方が良い。
「だから咲夜、早まったことはしないでくれないか」
「はい?」
ひとつ息を吐き出し、霖之助は肩を竦めた。
それから彼女の髪へと、視線を移す。
「君の銀髪は綺麗だからね。人目を惹くのは仕方ない。
だからってその髪を染めてしまうと、僕自身も否定されたようで少し寂しく思えてしまってね。これは僕のエゴだとわかっているが……」
「いいえ、そんな事はしませんよ」
「そうかい?」
「はい」
ゆっくりと頷く彼女は、思い出したように染髪料を商品棚へとしまう。
見られている事に気づいているのか、少しだけ照れた様子で髪をいじりつつ。
「これがきっかけで思い出しただけですから、染めようと思ってたわけではありませんし。
ただ里の人がどうして見てくるのか疑問に思っただけで、今まで通りなら何も変わりがないじゃないですか」
「そうか。そうだね」
「……それに、今、綺麗だって……」
「何か言ったかい?」
「いえ、なんでも」
付け加えるように口にした彼女の言葉は、霖之助には届かなかった。
彼女はまるで何かを隠すように、ぶんぶんと手を振る。
「私と霖之助さんは銀髪仲間ですから、大事にしていきましょう」
それから彼女は瀟洒な笑顔で、霖之助の前へと歩み寄る。
すっかりいつもの咲夜だ。
何となく安心してしまう。
「そうだ、銀髪同盟を作るのとかどうですか?」
「同盟を作って、何をするんだい?」
「そうですね、お互いの髪を愛でるとか」
「それは僕にどうしろと言うのかな」
「えーと、えーと」
どうやら必死に頭を回転させているらしい。
「撫でてもいいですよ?」
やがて出て来た答えは、予想外の斜め上を行く物だった。
しかし首を傾げる彼女が子犬のようで、思わず撫でたくなる事実に……霖之助は苦笑で返す事しかできなかった。
この咲夜さんはきっとローティーンくらい。
霖之助 咲夜
「咲夜、何か悩み事でもあるのかい?」
何かを見つめたままじっと動かないメイドに、霖之助は首を傾げた。
ずいぶん真剣に悩んでいるようだったので、思わず気になったのだ。
声を掛けられた彼女は、ゆっくりと振り向く。
手に持っているのは、香霖堂にある商品のひとつ。
「私の髪の色って珍しいのでしょうか?」
その言葉を聞いて、霖之助は事のあらましをだいたい理解した。
だが推測で物を言うわけにもいかないので、確かめるために質問を投げかける。
「何かあったのか、聞いてもいいのかな」
「はい。えっとですね、先程お嬢様のお使いで人里まで行ってきたのですよ。
そしたらなんと言いますか、里の人々が私を見ているような気がしまして」
「ん~……」
曖昧な相槌を打ちつつ、頭を捻る霖之助。
彼女の返答は、だいたいの予想通りだ。
疑問点はひとつ。
どうして今更なのか。
「それは急にそうなったのかい?」
「どうでしょう。今まで気にしたこと無かったですし。
ただ今日はあちこち見てたせいか、そんな事に気がついたのです」
「あちこち?」
「ええ。新しい店が出来たという噂を聞いて、それを探してたら……」
「なるほど、それで注目を集めるのはその髪の色のせいじゃないかと思ったわけだね」
「はい、そうなのですよ」
霖之助は得心が行ったかのように頷いた。
彼女が幻想郷に来てどれくらいの時間が経つだろう。
……まあ、余裕が出て来たからだと受け取っておく事にした。
大部分の原因としては、咲夜の天然度合いによるものだろうが。
「まったく、君にはいつも驚かされるね」
「はい?」
「いや、こっちの話だよ」
彼女が手に取っているのは外の世界の染髪料。要するに白髪染めだ。
妖怪少女には無用の長物だろうが、人里で根強い人気のある商品のひとつである。
女性にとっていくつになっても髪は大事な物らしい。
もっとも昔なじみである寺子屋の教師がまとめ買いして再配布しているので、利用者が香霖堂に来る事もないし、誰が使っているのかを彼が知ることもないのだが。
霖之助は情報を整理すると、咳払いをしつつ語り出す。
「君の銀の髪だが、幻想郷で珍しいかと問われれば答えはノーだろう。
現に僕も銀色の髪だし、うちに来る客にも何人か銀髪がいるよ」
「確かにそうですね。異変で知り合った人にも銀髪がいました」
「それに妖怪の山の白狼天狗なんかは、文字通り白い髪をしているな。
まあ、白と銀の違いはともかく……彼女たちは種族としてあの髪の色だからね」
そこまで言って、白狼天狗の中に彼女が混ざっている光景を想像してみた。
咲夜も同じ想像をしたのだろう。ふたりして、顔を見合わせる。
「なるほど、全く珍しい気がしません」
「だろう?」
安堵した様子の彼女に、しかし、と続ける。
「ただ、人間の中で目立つかと言われれば、答えはイエスだろう」
「そうなんですか?」
「最近では人間の髪の色も多様だけど、基本はやはり黒髪だからね」
幻想郷は当然日本にある。
異変解決に乗り出すような特殊な人種を別にすると、一般の人間には黒髪が多く見られる。
そんな中に銀髪の人間が混じっていたら、どうなるかは明白だ。
「銀というのはやはり非日常の色と取られるだろう。特にそれが人里なら尚更さ」
「そういうものですか」
「仕方のないことかな。僕も少し前に経験したからよくわかるよ」
言いながら、霖之助は霧雨店で修行した日々の事を思い出した。
あの頃の自分が人に交じって働けたのは、やはり霧雨の親父さんの力による物が大きいと思う。
とはいえ。
「ただ、君が注目を浴びる理由はそれだけではないとは思うんだが」
「そうなんですか? 他にどんな理由があるのでしょう」
「どうしても知りたいというなら教えてもいいんだが……本当かどうかは確証が持てないよ」
「ええ、構いません」
こう言うときの咲夜は実に真面目である。
それは彼女の美点でもあるし、融通が利かない点でもある。
本当はひとりで気づいて欲しいのだが。
……言う方も恥ずかしいので。
「まずひとつめに、そのメイド服だよ」
「これですか? 可愛いですよ?」
「それについては同意してもいいんだが、だからこそ目立つというかなんというか」
「ほえ?」
首を傾げている咲夜に、霖之助はため息を吐いた。
本当にわかっていない様子だ。
「紅魔館ではメイド服が制服だろうけど、人里の人間は基本的に和服だろう?
妖怪は洋服を着ていることも多いが、どちらにしろ目立つことには違いないね」
「なるほど、それは盲点でした」
自分の服は視界に入らないので、盲点なのは違いないかもしれない。
だが毎日着ている服をどうして失念するのか。
今日も彼女の持ち前の天然っぷりを存分に発揮しているらしい。
「なるほど、霖之助さんの言いたいことがわかりました」
「わかってくれたか」
「つまり人里でメイド服を流行らせればいいわけですね」
「……どうしてそうなるんだ」
「え? そういう話じゃなかったんですか?」
「全く違うよ」
どうして幻想郷の少女というのはすべて自分が中心なのだろうか。
まあ彼女の場合はレミリアが中心のようだが。
だからと言って人里がメイド服だらけになるのは実に勘弁して貰いたい。
「まあそれは後々の課題として……」
とりあえず、霖之助は答えを先延ばしにする事にした。
下手に刺激すると実行しそうなので、きっと正しい選択肢だと思う。
「あとは君自身の問題かな」
「私のですか?」
「もちろん。人間でありながら紅魔館のメイド長をしている君は、いろいろと有名人なんだ。
異変解決にも乗り出すほどだし、幻想郷縁起にも載せられている。
……あれについての真偽はともかくね」
「はー、そんな事になってたんですねぇ」
感心したように咲夜が頷いた
その辺の情報には疎いらしい。
霖之助としてもあまり読んで欲しくない本なので、そのまま忘れて貰いたいと思う。
「そんな有名人が里を歩けば知らず視線を集めてしまうのは、まあ仕方のないことだろう。有名税と思って諦めるといい」
「そうだ、幻想郷縁起と言えば霖之助さんも載ってましたね」
「いや、その話は勘弁してくれないか。あの本にはいろいろ言いたいことが山ほどあるんだ」
小悪魔のような笑みを浮かべた筆者を思い浮かべ、霖之助はため息を吐いた。
その様子を察してくれたのか、咲夜は苦笑を浮かべて首を振る。
そしてこの話題は終わりとばかりに、霖之助は次に行く事にした。
「最後に、君が美人という点かな」
「はい?」
その言葉に、しかし咲夜は首を傾げる。
「からかってます?」
「いいや、至極本気だよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって、見たままの素直な感想なんだが」
疑問で返されても困る。
一体他にどう言えというのか。
「まあ美人というよりは美少女といった方が適切かな。
そんな君が歩けば人目を惹く。実にわかりやすい理屈だろう」
「そうですか」
彼女は自分の事に頓着しないのだろう。
先程の服の話からもそれを窺える。
しばらく彼女はなにやら考え込んでいたようだが……。
やがてぽん、と音を立てるかのように、顔を赤らめた。
「……照れますね」
「そうかい」
「はい。そんな事を言われたのは初めてです」
「そうだね、僕もこんな事を言ったのは初めてだよ」
嘘偽りない真実である。
彼女の質問でもない限り、面と向かって言う場面などあるわけが無いではないか。
もしあるとすれば……口説いている時、だろうか。
「はぅ」
彼女は力が抜けたように、ふらりとよろめいた。
だが座り込むような事はせず、顔を赤らめて霖之助を真っ直ぐに見つめる。
「初めてを奪われてしまいました……」
「それは済まなかった。犬に噛まれたと思って忘れるといい」
「いいえ、霖之助さんで良かったです」
「……そうか」
他に答えるべき言葉が見つからない。
霖之助は恥ずかしさを堪えつつ、ただ頷きだけを返した。
「でも、お嬢様だってパチュリー様だって美鈴だってすごく綺麗で可愛らしいですし。
私が美人だなんて恐れ多いというかなんというか」
「ふむ?」
確かに美の基準は人それぞれだとは思う。
美少女揃いという噂の紅魔館を基準に考えれば、咲夜は並……と言っていいのだろうか。
それを言うなら輝夜の住まう永遠亭なんてどう判断するべきだという話になるわけで。
霖之助は頭を悩ませつつ、やがて答えを絞り出した。
「確かに、紅魔館の皆はそれぞれ魅力的だと思うよ」
「む」
苦笑混じりに言った言葉。
しかしどうやら彼女のお気に召さなかったらしい。
「……どうかしたかい?」
「いえ、お嬢様を褒められて嬉しいはずなんですけど……なにか胸がちくちくします」
彼女はそんな自分に戸惑ってるようだ。
そして素直な疑問を、改めてぶつけてくる。
「どうしてでしょう?」
「さてね。わからないなら考えなくていいと思うよ」
それは霖之助の処世術だ。
下手な事に首を突っ込まない方が良い。
「だから咲夜、早まったことはしないでくれないか」
「はい?」
ひとつ息を吐き出し、霖之助は肩を竦めた。
それから彼女の髪へと、視線を移す。
「君の銀髪は綺麗だからね。人目を惹くのは仕方ない。
だからってその髪を染めてしまうと、僕自身も否定されたようで少し寂しく思えてしまってね。これは僕のエゴだとわかっているが……」
「いいえ、そんな事はしませんよ」
「そうかい?」
「はい」
ゆっくりと頷く彼女は、思い出したように染髪料を商品棚へとしまう。
見られている事に気づいているのか、少しだけ照れた様子で髪をいじりつつ。
「これがきっかけで思い出しただけですから、染めようと思ってたわけではありませんし。
ただ里の人がどうして見てくるのか疑問に思っただけで、今まで通りなら何も変わりがないじゃないですか」
「そうか。そうだね」
「……それに、今、綺麗だって……」
「何か言ったかい?」
「いえ、なんでも」
付け加えるように口にした彼女の言葉は、霖之助には届かなかった。
彼女はまるで何かを隠すように、ぶんぶんと手を振る。
「私と霖之助さんは銀髪仲間ですから、大事にしていきましょう」
それから彼女は瀟洒な笑顔で、霖之助の前へと歩み寄る。
すっかりいつもの咲夜だ。
何となく安心してしまう。
「そうだ、銀髪同盟を作るのとかどうですか?」
「同盟を作って、何をするんだい?」
「そうですね、お互いの髪を愛でるとか」
「それは僕にどうしろと言うのかな」
「えーと、えーと」
どうやら必死に頭を回転させているらしい。
「撫でてもいいですよ?」
やがて出て来た答えは、予想外の斜め上を行く物だった。
しかし首を傾げる彼女が子犬のようで、思わず撫でたくなる事実に……霖之助は苦笑で返す事しかできなかった。
コメントの投稿
それこそ色々な色の髪がいる幻想郷で、髪についての話というのは珍しいですね。紅魔館全員を褒められたことに嫉妬しつつ、自分でそこに気付かないところがまた咲夜さんらしい天然っぷりでした。
それはそうと、「ほえ?」に骨抜きにされました。可愛すぎです。
それはそうと、「ほえ?」に骨抜きにされました。可愛すぎです。
No title
初めてを奪われてしまった咲夜ちゃん。霖之助で良かったなんて言ってるけど、
この男は色んな少女の色んな初めてをさらっと奪っていきそうだからなぁ・・・
紅魔館メンバーのこともナチュラルに褒めているし、気がついた時には女の子
の一番大事な"初めて"も奪われているんだろうから、気をつけないといけませんねwww
・・・銀髪同盟結成によって、銀色の染髪料の売上が急増するんだろうな(笑)
この男は色んな少女の色んな初めてをさらっと奪っていきそうだからなぁ・・・
紅魔館メンバーのこともナチュラルに褒めているし、気がついた時には女の子
の一番大事な"初めて"も奪われているんだろうから、気をつけないといけませんねwww
・・・銀髪同盟結成によって、銀色の染髪料の売上が急増するんだろうな(笑)
No title
銀髪同盟か……半人前庭師も入るのかな?
しかしこの咲夜さん可愛すぎである
しかしこの咲夜さん可愛すぎである
うぉぉぉ、TRPGのキャンペーン作って4日ほど明け暮れてたら、いつの間にか二話も話ができてたでござる。
ていうか、なんですか、この咲夜さん可愛すぎます。特に「ほえ?」って何これかわいい!
しかし、この咲夜さんが求聞史記を読んだらどうなるでしょうね?
「実は強いんですか?」とか、純粋に尋ねて霖之助さんを困らせそうですw
あと、銀髪同盟が最終的には霖之助を奪い合う様が幻視されました・・・もうみんな貰っちゃいなよwww
ていうか、なんですか、この咲夜さん可愛すぎます。特に「ほえ?」って何これかわいい!
しかし、この咲夜さんが求聞史記を読んだらどうなるでしょうね?
「実は強いんですか?」とか、純粋に尋ねて霖之助さんを困らせそうですw
あと、銀髪同盟が最終的には霖之助を奪い合う様が幻視されました・・・もうみんな貰っちゃいなよwww