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三茶三様

咲霖強化月間って感じで行こう。
そう思ったはずなんですが不思議と文咲霖。
……問題はない、はず。


霖之助 咲夜 文









 香霖堂において、お茶というのは誰にでも出しているわけではない。

 第一に、客であること。
 お茶というものはタダではない。
 利益にならない相手に出しても損しか生まないから、当然だろう。

 次に商談が長くなりそうな時。
 これは買い物をする商品の値段が高い相手が多い。
 紅魔館のメイドや稗田の当主が主な相手だ。
 しかし電池一本だけ買って帰ろうとする客を引き留めておくのは逆効果である。

 逆に、長く居て貰いたい客にもお茶を出すことはある。
 もしくは逃したくない客と言うべきかか。
 何を買おうか悩んでいるような、一見の客などがそれだ。無論支払い能力の有無を見抜く必要があるが。
 魔法の森の人形遣いなどには次の制作目標を聞いておくことで、相手がほしがっている商品の予測も立てやすくなる。
 いわゆる次回への布石というものだろう。


 布石と言えば、買い物をしないからといってお茶を出さないわけではない。
 常連に当たる相手がそれだ。
 こっちは世話になっているからという意味合いが強い。
 主な相手としては文や小町あたりか。


 霊夢や魔理沙は勝手にお茶を入れたりお茶をたかってきたりするものの、それは香霖堂の客ではない。
 世話になっているという面では確かにそうだが……むしろ世話になっているからこそツケで済ませているのである。





「さて、どうするか……」


 霖之助は改めて、大きくため息をついた。
 香霖堂の奥にある台所。目の前にはコーヒー豆と紅茶の葉が入った容器。

 それぞれを見比べ、頭を捻る。


 今、香霖堂には文と咲夜が客として来ていた。
 どちらも常連なのでお茶でも出そうと思っているのだが。

 問題はどちらを出すか、である。

 いつもは文にはコーヒー、咲夜には紅茶を出していた。
 どちらかが先に来ていた場合、出していた飲み物をもうひとり分入れるだけで済んだのだが。

 今回はふたりが同時に来たのだ。
 ではコーヒーと紅茶のどちらを出せばいいのか。
 その問題が今、霖之助の頭を悩ませていた。


「霖之助さん、何かありましたか?」
「……文か」


 後ろから飛んできた声に、一瞬霖之助は動きを止める。
 お茶を入れてくると言って中座してから10分ほどだろうか。
 さすがに時間をかけすぎたのかも知れない。

 霖之助はゆっくりと文に振り返り、いつもの調子で口を開いた。


「あんまり遅いので、何か問題でもあったのかと思ったのですが」
「いや、なんでもないよ。美味しい入れ方を思い出していただけさ」
「そうなんですか」


 何を、とは言わないでおく。
 まさか迷ってましたなどと言えるはずもない。


「それにしても美味しい入れ方ですか。
 霖之助さんのコーヒーって結構濃い割に後味がスッキリしてて美味しいですよね」
「あ、ああ……。元々は君のために入れ始めたようなものだったからね」


 思えば徹夜続きのまま取材に来た文にコーヒーを出したのが最初だった気がする。
 それまでは霖之助もあまりコーヒーを飲まなかったのだが、それから研究を重ね、今ではすっかり入れるのが得意になってしまった。
 深夜の読書のお供に選ぶほどに。


「あの味を出すのに、何か秘訣があるんですか?」
「もちろんだよ。だけどそれは前も言った通り……」
「はいはい、秘密なんですよね。でも私は新聞記者ですから、いつか取材してみせますよ!」
「ああ、自分の舌でわかったら教えてあげるよ」
「それじゃ、それまで通い続けなければなりませんね」
「期待してるよ。その時はうちの宣伝もよろしく頼む」
「わかってますって」


 そう言って文は笑う。
 霖之助は肩を竦め、笑みを浮かべた。


「すぐに行くから、店で待っててくれ」
「はい、では後ほど」


 文は一礼すると、くるりと背を見せる。
 彼女が店へと戻っていったのを確認して、霖之助は安堵のため息を漏らした。

 もうあまり時間的猶予はないらしい。
 そう思いながら調理台を見ると……。

 いつの間にか、コーヒー豆の入った瓶が取り出しやすい位置に置いてあることに気づいた。
 ご丁寧に蓋まで開けてある。無意識のうちにコーヒーを選ぼうとしたとでもいうのだろうか。


「コーヒーにするか……いや」


 コーヒーカップに手を伸ばし、霖之助は動きを止める。

 もしコーヒーを出したと仮定しよう。
 その場合上客である紅魔館のメイドはどう感じるだろうか。

 霖之助としても上客の心象はよくしておきたいわけで。
 だからといって古い友人である文をないがしろにしていいはずはないわけで。

 もちろんどっちを優先させるという意図があるわけではない。
 だが意図というのは図らずしも受け手側の印象によるものが大きく、そこをコントロールできるかというと難しい問題だ。
 だからこそ悩んでいるのであって。


 霖之助はコーヒー豆の瓶に蓋をし、じっくりと紅茶の缶と見比べる。


「店主さん?」
「ああ、咲夜……」


 振り返ると、メイドが立っていた。
 時間を操る、完璧な彼女。

 香霖堂に来るたびに髪の長さが微妙に変わるのは彼女の能力に所以するのだろうか、とたまに思う。


「ずいぶん遅いですね。先ほど文さんがすぐ来るという話を聞いたそうなんですが」
「すまない。遅れてしまったね」
「なにか気になることでもありましたか?」
「……ちょっと入れ方の研究をまとめてて、ね」
「そうですか」


 若干の後ろめたさを感じながら、あくまで平常通りに応対する。


「店主さんの紅茶は荒削りですが、深い味わいがありますから。
 なかなか美味しいと思いますよ」
「そうかな? そう言ってくれるとありがたいね」
「ええ。私が教えた事以上の成果を見せていただけるので、いつも楽しみです」
「知識だけはそれなりにあるつもりだからね。経験が足りてないのは、まあ認めるよ」


 ここ幻想郷にも西洋に所以を持つ妖怪が増えてきた。
 商売上西洋流のもてなし方も嗜んでおくべきと思い、霖之助が教えを請うたのが彼女……咲夜だ。

 試しに紅茶の入れ方を習ってみたものの、予想以上に奥が深く、いまだに免許皆伝には至っていない。


「すまないが、もう少しだけ文の相手をしてくれるかな。それほど時間は掛からない……と思うからね」
「ええ、かしこまりました」


 恭しく一礼をして、彼女は台所を出て行った。
 一難去ってまた一難である。

 霖之助は一息つくと……いつの間にか紅茶の缶が手の届く位置にあることに気がついた。

 紅茶を入れようとしていたのだろうか、と考え……何度目かもわからぬ思案に耽る。


「……三者三様、か」


 いっそのこと別々の飲み物を用意してみたらどうだろうか。

 最大の問題は、もし別々の飲み物を出したからと言って自分の分をどうするかである。
 コーヒーにするか紅茶にするか。もしくは別の……。
 
 と、そこまで考えて首を振った。


 香霖堂の店主は霖之助である。
 コーヒー然り紅茶然り、例え客に合わせて飲み物を出したとしても、あくまで自分も飲みたいからと言う店が大きい。

 サービスの一環ではあるが、客に媚びてはいけないのだ。


 ではどうするか。
 再び振り出しに戻ってきた。


「……仕方ない、か」


 先刻からの堂々巡りに終止符を打つべく、霖之助は別の戸棚へと視線を向けた。









「やあ、待たせたね」


 霖之助はお盆に3つの湯飲みを乗せ、店舗へと顔を出した。
 そこにあるのは3人分の緑茶である。

 いわゆる妥協案というやつだった。


「……はぁ」
「……あやや」


 それを見るなり、何故かふたりともため息をついたような気がしたが。


「どうかしたかい? ふたりとも」
「いいえ、なんでもありませんわ」
「そうですね、なんでもありません」


 首を振り、それぞれに湯飲みを受け取るふたり。
 気にはなったものの……あえて何も尋ねないでおく。


「美味しそうな緑茶ですね、霖之助さん」
「美味しそうな緑茶ですわ、店主さん」
「気に入ってくれると嬉しいが」


 霖之助はカウンターのいつもの席に腰掛け、肩を竦めた。


「特別に取って置きの茶葉を使ったからね。
 しかも悩み抜いた緑茶の入れ方を試したから、味の方は保証するよ」
「あれ、緑茶の入れ方を悩んでたんですか?」
「そうですか、私はまたてっきり……。あわよくば決着がつくかも、と期待してたんですけど」
「まったく同感ですね」
「……何か言ったかい?」
「いいえ、なんでも」


 文と咲夜は首を振り、申し合わせたように同時に緑茶を一口。

 微妙な沈黙が落ちる。
 ……なんというか、すべて見透かされているような。


「で、咲夜は屋敷の用事で来たんだったかな」
「ええ。妹様用のカップが割れてしまったので、替わりを買いに来たんですよ」
「なるほど。文は取材だったかな?」
「そうです。まあ私は咲夜さんの用事の後で構いませんよ。
 帰った後でじっくりと」
「あら、それ私のセリフなのだけど。最速らしく先にどうぞ?」
「いえいえ、どうぞお先に」
「……どっちからでも、僕は構わないんだがね」


 普通自分の用事を先にするのではないだろうか。
 そう思ったが、ふたりのジト目に見据えられ尋ねることが出来ない。


「そうですね、どっちか決めてくれませんでしたものね」
「まさかこれはふたり一緒がいいと言うことなのでしょうか」
「……待て、なんの話だい」


 なにやら話があらぬ方向に行っている気がする。
 慌てて止めようとするも、咲夜も文も聞く耳持たず。

 先ほど待たせてる間、何かしらの取り決めでも行われたというのだろうか。


「美味しい緑茶でしたよ、霖之助さん。
 でも、今度はいつものコーヒーを咲夜さんにごちそうしてあげて欲しいですね」
「あら私も、ごちそうさまですわ。
 次はいつもの紅茶を文さんに味わっていただきたいのですけど」


 何故だろう。
 ふたりの言葉にそこはかとないトゲがある気がする。


「では霖之助さん、せめてどちらの話から聞くかくらいは」
「決めていただけますね?」


 文と咲夜に挟まれたまま。
 霖之助は渾身の緑茶をゆっくり啜っていた。


 どう答えれば角が立たないのかを、必死に模索しながら。

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両手に持った花から迫られて、どうしたものかと困る霖之助さんマジ可愛い。
そこでコーヒーも紅茶も淹れて出す男らしさは……霖之助さんに求めてはいけませんね。
それが出来るならこんなことにはならないでせうしw


実は霖之助絡みの話を好むようになったのは、道草さんのSSを読んでからだったりします。
近々、自分でも書いてみたいものです。

No title

文にコーヒー、咲夜に紅茶、自分用に緑茶でもよかった気がするけど、緑茶=霊夢と解釈された可能性が・・・無いか。
それはそうとあややと咲夜さんとの3Pはいつごろ書かれるのですk(グングニル)

No title

>サービスの一環ではあるが、客に媚びてはいけないのだ。
霖之助さん、日和ってるww
ただまあ10分近くも悩ませたんだから、これ以上はやめたげてよぉ!という気も。
ひょっとしたら二人は慌ててる霖之助さんの姿を少し面白がっているのかも、とか思ってみたり。

>ふたりの言葉にそこはかとないトゲがある気がする。
全然そこはかとなくないよww有刺鉄線以上に刺々しいよ霖之助さん!


しかし毎度々々思うのですが、道草さんは筆が早くて驚くばかりです。
その文才が少しでもあればなあ、と1kb/dayくらいでちまちまメモ帳を埋める日々。みょふん。

No title

文と咲夜だったから緑茶で難を逃れましたが、もう1人緑茶派のキャラが今回の話
にいたら・・・・ 2828

片や幻想郷最速、片や時間を操る程度の能力持ちですから霖之助に気づかれないように
自分がいつも飲んでいる物の缶(or瓶)を動かすなんてお茶の子さいさいですよねwww
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道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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