バレンタインSS21
せっかくバレンタインなので。
指チュパっていいよね、というルー霖。
霖之助 ルーミア
「霖之助、なにこれー?」
香霖堂の台所で、ルーミアが首を傾げていた。
テーブルの上に並べられた物体を、興味深そうに眺めている。
それにしても、いつの間に入ってきたのだろうか。
「ルーミアか。入ってきたならちゃんと言ってくれないかな」
「言ったよ? 霖之助の返事はなかったけど」
「そうかい? なら僕が気付かなかっただけかな。ちょっと集中していたものでね」
霖之助は苦笑を漏らすと、ルーミアから手元に視線を戻した。
温度管理が重要なので、あまり目を離していられないのだ。
「すごく甘い匂いがする」
「食べたことないのかい?
これはチョコレートと言ってね、お菓子の一種さ。
昔は薬として飲まれていたこともあったらしいがね」
「チョコレート?」
「そうだよ。まあ、食べてみればすぐわかるんだが……」
というか、それ以上にわかりやすい説明もないだろう。
霖之助はチョコレートの説明を諦め、代わりに別の話題を振ることにした。
「ルーミアは、バレンタインを知ってるかな?」
「ううん、知らない」
「まあ、チョコを知らなかったなら無理もないか……」
そこまで言って、あまり関係ない事に気が付いた。
そもそもバレンタインにチョコレートを渡すのはこの国くらいらしい。
「元の由来はともかく、外の世界では好意を持ったりお世話になっている相手にチョコレートを渡す日らしいよ」
「そーなのかー」
あまり聞いてないのか、適当な返事が返ってきた。
霖之助はボウルの中の溶けたチョコレートを確認しながら、言葉を続ける。
「主に女性かららしいがね。別に決まりが必ずしもあるわけでもないようだけど……」
「霖之助も誰かにあげるの?」
「まあ、咲夜にね」
「えっ……?」
なんだかルーミアが驚いたような声を上げた気がした。
「咲夜が作って持ってくるらしいから、交換することになってるんだ。
彼女の主人の分もいっしょにね」
「ふーん……」
「どうかしたかい?」
「別にー」
なんとなく不機嫌そうな声の響きに、少し霖之助は首を傾げる。
「これ、ハートの形してるね」
「ハートは心臓のシンボルだからね。
吸血鬼にプレゼントするにはふさわしい形と言えるだろう」
ハートにはいろいろな意味があるが……。
少女向きの造形でもあるだろう、多分。
「ちゃんとラッピングされてるね」
「見た目は重要だからね。
中身で勝負とは言え、外も含めての価値だと思うわけだよ」
ものにはふさわしい装いというものがある。
そこを見極めるのも道具屋としての務めなのだ。
「甘くて美味しいね」
「そうだろう、なんと言っても……なんだって?」
慌てて振り返る霖之助。
作業が一段落したのが幸いだった。
……いや、遅かったと言うべきか。
「そっちも食べていい?」
「ルーミア、誰が食べていいと言った」
彼女のいたところには完成品のチョコレートが置いてあったのだが……見事に全滅していた。
「食べちゃダメだったの?」
「当たり前だよ」
「だって心臓なんでしょう? じゃあ食べたくなるじゃない」
「シンボルと言っただろうに」
下手なことを言わずに外で待っててもらうべきだったかもしれない。
とはいえ後悔しても後の祭りである。
「……で、心臓っぽい感じはしたかな?」
「ううん、全然。甘かったよ」
「そうか……」
「……えっと」
霖之助の表情に、さすがにルーミアも何かを感じたのだろう。
所在なさげに視線を彷徨わせる。
「……納期までには間に合うかな」
「え? 売り物だったの?」
「もちろんだよ。咲夜には交換して貰って、余りは売るつもりだったからね」
「へー……」
幸いまだ材料は残っている。
売る分が少々減るくらいだろう。
外に出していたのが先行試作品ばかりで助かった。
本当は咲夜にサンプルとして食べてもらおうと思っていたのだが。
「仕方ない、予定を変更して先に作り直すか……
ルーミア、もう食べないでくれよ」
「……ごめんなさい」
珍しく殊勝に彼女は頭を下げた。
反省しているようなので、追い出すのは止めておくことにする。
「それにしても、それほどお腹が空いていたのかい?
勝手に食べるのは珍しいな」
「だって、霖之助が咲夜にあげるって言うから……」
「ん?」
彼女の呟きは、霖之助まで届かなかった。
かわりにルーミアは両手を広げ、笑顔を浮かべる。
「ねぇ霖之助、私もチョコレート作っていい?」
「君がかい?」
「うん、食べた分は手伝うから」
「なるほど、いい心がけだね」
確かに、手伝ってもらえるならそちらのほうがはかどるだろう。
遅れも取り戻さなければならないわけだし。
「まあ、構わないよ。チョコレート代くらいは頑張ってもらおうかな」
「任せてー」
自信たっぷりに頷くルーミアに、霖之助は少しだけ不安を覚えた。
……少し、早まったかもしれない。
「じゃあこのチョコを細かく刻んでくれるかな。僕は湯煎の準備をしてるから」
「この包丁使えばいいの?」
「ああ。ケガは……しないと思うが、他のものを切らないように気をつけてくれよ」
「だいじょーぶ」
さすが妖怪といったところだろうか。
目にも止まらぬ早業で、あっという間にチョコレートが粉々になる。
……包丁を使っていなかった気もするが、気のせいだろう。
「これでどう?」
「うん、じゃあこれをこっちのボウルに移してくれ。
お湯が飛ばないようにゆっくりとね」
「こうすればいいの?」
「ああ、そのままチョコレートが全部溶けるよう、しばらく混ぜていてくれるかい」
先ほどとはうって変わり、ゆっくりとルーミアはへらを動かした。
なかなか筋がいい。
――今度料理を教えてみるのもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、霖之助は冷やしていたチョコレートの包装作業に入る。
「味見していい?」
「……少しならね」
「やった」
まだ食べるのか、と呆れながら。
ルーミアの笑顔につられて笑いながら、霖之助は肩を竦めた。
「ねね、霖之助」
「今度はなんだい……ん?」
ルーミアに呼ばれ、振り向くと同時、
口の中に甘い味が広がった。
それがルーミアの指に付けられたチョコレートだと気付くまで、彼女と見つめ合う。
「私からのチョコレート。ばれんたいん?」
「……元は言えば僕のだろうに」
霖之助はそう言って、笑みを浮かべた。
まあ、悪い気はしない。
「一応ありがとう、と言っておこうか。
さ、遊んでないで続きを頼むよ」
「はーい」
元気のいい返事を背に、霖之助は再び作業に戻る。
「アソビじゃないんだけどなー」
ルーミアは指に残ったチョコレートを舐め取り、霖之助の背中を見つめていた。
いつか、この想いが届きますようにと。
指チュパっていいよね、というルー霖。
霖之助 ルーミア
「霖之助、なにこれー?」
香霖堂の台所で、ルーミアが首を傾げていた。
テーブルの上に並べられた物体を、興味深そうに眺めている。
それにしても、いつの間に入ってきたのだろうか。
「ルーミアか。入ってきたならちゃんと言ってくれないかな」
「言ったよ? 霖之助の返事はなかったけど」
「そうかい? なら僕が気付かなかっただけかな。ちょっと集中していたものでね」
霖之助は苦笑を漏らすと、ルーミアから手元に視線を戻した。
温度管理が重要なので、あまり目を離していられないのだ。
「すごく甘い匂いがする」
「食べたことないのかい?
これはチョコレートと言ってね、お菓子の一種さ。
昔は薬として飲まれていたこともあったらしいがね」
「チョコレート?」
「そうだよ。まあ、食べてみればすぐわかるんだが……」
というか、それ以上にわかりやすい説明もないだろう。
霖之助はチョコレートの説明を諦め、代わりに別の話題を振ることにした。
「ルーミアは、バレンタインを知ってるかな?」
「ううん、知らない」
「まあ、チョコを知らなかったなら無理もないか……」
そこまで言って、あまり関係ない事に気が付いた。
そもそもバレンタインにチョコレートを渡すのはこの国くらいらしい。
「元の由来はともかく、外の世界では好意を持ったりお世話になっている相手にチョコレートを渡す日らしいよ」
「そーなのかー」
あまり聞いてないのか、適当な返事が返ってきた。
霖之助はボウルの中の溶けたチョコレートを確認しながら、言葉を続ける。
「主に女性かららしいがね。別に決まりが必ずしもあるわけでもないようだけど……」
「霖之助も誰かにあげるの?」
「まあ、咲夜にね」
「えっ……?」
なんだかルーミアが驚いたような声を上げた気がした。
「咲夜が作って持ってくるらしいから、交換することになってるんだ。
彼女の主人の分もいっしょにね」
「ふーん……」
「どうかしたかい?」
「別にー」
なんとなく不機嫌そうな声の響きに、少し霖之助は首を傾げる。
「これ、ハートの形してるね」
「ハートは心臓のシンボルだからね。
吸血鬼にプレゼントするにはふさわしい形と言えるだろう」
ハートにはいろいろな意味があるが……。
少女向きの造形でもあるだろう、多分。
「ちゃんとラッピングされてるね」
「見た目は重要だからね。
中身で勝負とは言え、外も含めての価値だと思うわけだよ」
ものにはふさわしい装いというものがある。
そこを見極めるのも道具屋としての務めなのだ。
「甘くて美味しいね」
「そうだろう、なんと言っても……なんだって?」
慌てて振り返る霖之助。
作業が一段落したのが幸いだった。
……いや、遅かったと言うべきか。
「そっちも食べていい?」
「ルーミア、誰が食べていいと言った」
彼女のいたところには完成品のチョコレートが置いてあったのだが……見事に全滅していた。
「食べちゃダメだったの?」
「当たり前だよ」
「だって心臓なんでしょう? じゃあ食べたくなるじゃない」
「シンボルと言っただろうに」
下手なことを言わずに外で待っててもらうべきだったかもしれない。
とはいえ後悔しても後の祭りである。
「……で、心臓っぽい感じはしたかな?」
「ううん、全然。甘かったよ」
「そうか……」
「……えっと」
霖之助の表情に、さすがにルーミアも何かを感じたのだろう。
所在なさげに視線を彷徨わせる。
「……納期までには間に合うかな」
「え? 売り物だったの?」
「もちろんだよ。咲夜には交換して貰って、余りは売るつもりだったからね」
「へー……」
幸いまだ材料は残っている。
売る分が少々減るくらいだろう。
外に出していたのが先行試作品ばかりで助かった。
本当は咲夜にサンプルとして食べてもらおうと思っていたのだが。
「仕方ない、予定を変更して先に作り直すか……
ルーミア、もう食べないでくれよ」
「……ごめんなさい」
珍しく殊勝に彼女は頭を下げた。
反省しているようなので、追い出すのは止めておくことにする。
「それにしても、それほどお腹が空いていたのかい?
勝手に食べるのは珍しいな」
「だって、霖之助が咲夜にあげるって言うから……」
「ん?」
彼女の呟きは、霖之助まで届かなかった。
かわりにルーミアは両手を広げ、笑顔を浮かべる。
「ねぇ霖之助、私もチョコレート作っていい?」
「君がかい?」
「うん、食べた分は手伝うから」
「なるほど、いい心がけだね」
確かに、手伝ってもらえるならそちらのほうがはかどるだろう。
遅れも取り戻さなければならないわけだし。
「まあ、構わないよ。チョコレート代くらいは頑張ってもらおうかな」
「任せてー」
自信たっぷりに頷くルーミアに、霖之助は少しだけ不安を覚えた。
……少し、早まったかもしれない。
「じゃあこのチョコを細かく刻んでくれるかな。僕は湯煎の準備をしてるから」
「この包丁使えばいいの?」
「ああ。ケガは……しないと思うが、他のものを切らないように気をつけてくれよ」
「だいじょーぶ」
さすが妖怪といったところだろうか。
目にも止まらぬ早業で、あっという間にチョコレートが粉々になる。
……包丁を使っていなかった気もするが、気のせいだろう。
「これでどう?」
「うん、じゃあこれをこっちのボウルに移してくれ。
お湯が飛ばないようにゆっくりとね」
「こうすればいいの?」
「ああ、そのままチョコレートが全部溶けるよう、しばらく混ぜていてくれるかい」
先ほどとはうって変わり、ゆっくりとルーミアはへらを動かした。
なかなか筋がいい。
――今度料理を教えてみるのもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、霖之助は冷やしていたチョコレートの包装作業に入る。
「味見していい?」
「……少しならね」
「やった」
まだ食べるのか、と呆れながら。
ルーミアの笑顔につられて笑いながら、霖之助は肩を竦めた。
「ねね、霖之助」
「今度はなんだい……ん?」
ルーミアに呼ばれ、振り向くと同時、
口の中に甘い味が広がった。
それがルーミアの指に付けられたチョコレートだと気付くまで、彼女と見つめ合う。
「私からのチョコレート。ばれんたいん?」
「……元は言えば僕のだろうに」
霖之助はそう言って、笑みを浮かべた。
まあ、悪い気はしない。
「一応ありがとう、と言っておこうか。
さ、遊んでないで続きを頼むよ」
「はーい」
元気のいい返事を背に、霖之助は再び作業に戻る。
「アソビじゃないんだけどなー」
ルーミアは指に残ったチョコレートを舐め取り、霖之助の背中を見つめていた。
いつか、この想いが届きますようにと。
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口から砂糖が出てきた
流石バレンタイン
流石バレンタイン
No title
幼いながらヤキモチしてるルーミアにキュン……
ハッピーバレンタインだw
ハッピーバレンタインだw
No title
霖之助お兄さんのお料理教室~
背伸びした感じのルーミアがかわゆいです。
背伸びした感じのルーミアがかわゆいです。
No title
ルー霖の糖度が上がっていくぞ、ウォォこの数値はビッグバンを引き起こすだけの…道草さんは世のルー霖好きを萌え殺すおつもりか!!
さぁ、次は天然乙女な咲夜さんが手作りチョコをあーんもしくは口移しd(殺人ドール)
さぁ、次は天然乙女な咲夜さんが手作りチョコをあーんもしくは口移しd(殺人ドール)
やきもちルーミアの可愛さで地球がヤバい
そしてもう21とは完全制覇も夢じゃない勢いですな
次は同じロリ枠で大ちゃんか裏をかいて勇儀さんを…
そしてもう21とは完全制覇も夢じゃない勢いですな
次は同じロリ枠で大ちゃんか裏をかいて勇儀さんを…
次は早苗を書くんだ!
No title
ウボァー ^q^ ナニコレアマイ
妖怪幼女の幼い嫉妬心と恋心かわいいです^p^
顔面崩壊しましたw
妖怪幼女の幼い嫉妬心と恋心かわいいです^p^
顔面崩壊しましたw
No title
道草さんのVDシリーズキタ!これで今年も安泰ですね!(ぇ