バレンタインSS04
霖之助のチョコレートの見え方について話ごとに少し違うかも知れません。
そして萃香はえろい。それが俺の中の正義。
霖之助 萃香
「やほー」
「夜の挨拶にはほど遠いね、萃香」
いつものように顔を出した萃香に、霖之助は苦笑を浮かべた。
ちょうど店を閉め、振り向くと彼女が立っていたのだ。
疎と密を操る彼女にとって香霖堂の鍵など何の意味もなさない。
「もう店は閉めたんだが」
「固いこといいっこなしだって。
それに用があるのは店にじゃなくて霖之助にだもん。
なにも問題はないよ」
「なるほど、友人としてのお誘いか」
彼女たちに対抗することは、端から諦めている。
どうせそれほどの力を持った妖怪が本気になれば、小細工など無意味なのだから。
ならばその労力を、もっと有意義なことに使ったほうがいい。
「そ~いうこと。
ニャハハハハ、霖之助ぇ~、飲んでる~?」
萃香は酒臭い息で、霖之助にすり寄ってきた。
既に出来上がっているようだ。
もっとも酔ってない萃香など、見たことがないのだが。
「君はいつもと変わらないね。安心するよ」
「おややん。
なんか変わった事があったみたいな言い方じゃないか」
「まあね。
と言っても変わったのは僕じゃなくて、お客のほうだが……」
「ん~……っと。
ああ、バレンタインデーってやつ?」
萃香は思い出したように、ポンと手を打った。
「なんだかみんな態度がいつもと違ってね。
妙に疲れたよ」
来訪者は多かったが客は少なかった。
そのことが余計に疲労を増加させている。
「その割には幸せそうな顔しちゃって。
どうせたくさんチョコもらえたんだろ~?
よっ、この色男」
「よしてくれよ。
チョコは貰ったがね、みんなイベントに流されただけだよ」
言って霖之助は、カウンターの脇へと視線を向けた。
そこにはいくつかのチョコが積まれている。
萃香もそれを見て……ふと、首を傾げた。
「やっぱり本命とか義理とかわかるの?
その、霖之助の能力でさ」
「とりあえず、箱を見ると名称はバレンタインチョコに見えるね。
用途は渡すもの、だよ」
霖之助の能力で名を知るのは、道具の記憶によるものである。
送り手である少女がバレンタインのチョコだと認識しているから、そう言う結果になるのだろう。
「まぁ、開けてみたら……名前が変わることもあるけどね」
「ふ~ん」
ラッピングされた袋や箱は、あくまで贈り物用だ。
その中に入っているチョコレートこそ、本当の想い……道具の記憶が刻まれている。
「なるほどねー。
名前、変わったんだ」
「……ノーコメント、にしておこうか」
そう言った霖之助の表情は、苦いものだった。
いくつかチョコレートを食べたのだろう。
ひょっとしたら、少女に渡されその場で開けたりもしたのかも知れない。
……つまり、その場で本命チョコだと判明したのかも。
「まあそれはともかく。
今からお返しを考えるのに頭が痛いよ」
バレンタインデーの風習は、ホワイトデーとセットでやって来た。
……人によっては、さもホワイトデーが本番だと言わんばかりに。
「甘ったるい一日だったんだねぇ。
あはははは」
萃香はそんな光景を想像し、笑みを浮かべた。
少女が来るたびに冷や汗を垂らす彼の姿が目に浮かぶ。
「あまり笑い事じゃないんだがね」
「で、返事はするの?」
「ノーコメント、だ」
これ以上からかったらさすがに機嫌が悪くなるかも知れない。
萃香はそう考えると、腰に下げていた瓢箪をカウンターに置いた。
「甘いのはもう飽きただろう。
とびきりの辛いモンを持ってきてあげたから一緒に呑まない?」
萃香は自分の瓢箪を見せびらかすように振る。
酒虫のエキスが染みこんでいるというこの瓢箪は、トッピング次第で味を変えられると彼女は言った。
いろいろと他にも秘密があったりするのだろう。
「いいね、目が醒めそうだ」
「宴会と言うには人数が少ないけど」
「ふたりきりの酒宴も、オツなものさ」
「うんうん、わかってるね」
「じゃあ、先に行っててくれ」
萃香と酒を呑む時は大抵縁側だった。
さすがに夜風が厳しい季節だが、冬の月はそれを上回る格別さがある。
それに萃香と酒を呑めば、嫌が応にも身体の中から温まってくるのだし。
「つまみはどうする?」
「もちろん持ってきたよ。
あとは呑むだけ。準備万端ってやつだね」
彼女の酒にかける情熱はさすがの一言だ。
縁側には既にたくさんの料理が並べられていた。
辛い酒にはやはり辛いつまみ、とは彼女の弁である。
「……これは、なかなか……」
「紫に貰ったんだよ、ラー油が最近人気らしくてね」
霖之助は萃香と座って座り、酒と料理に舌鼓を打つ。
「しかし、見事に辛いものばかりだね」
鶏皮とネギをラー油で和えたものやジャガイモにラー油をかけたもの。
更には冷奴とラー油の組み合わせまであった。
「ラー油じゃないのもあるよ~」
スパイスをふんだんに使った腸詰めや、イカの塩辛、たこわさび、肉味噌……。
「……まあ辛い料理であることに違いはないが」
「酒に合えばそれでいいのだ」
しかし一体どこから持ってきたのだろう。
……気にするだけ無駄だとは思うが。
「あ、月に兎がいる」
「竹林のほうを見てないだろうね」
酔っぱらいの体感時間など怪しいものだ。
しばらくだとも思うし、ずいぶん経った気もする。
「ん……?」
つまみを取ろうとした手が、空を切った。
見ると、あれだけあったつまみがもう無くなっていた。
主に食べたのは萃香だと思う。
霖之助はそれほど食べた覚えがないのだから。
……おそらく、たぶん。
「もう随分呑んだみたいだな。
ふむ……」
「物足りない?」
「少し、ね。
たがこうも辛いものが続くと、たまには違ったものが食べたくなるよ」
欲というのは尽きないものだ。
先ほどまであんなに辛いものが食べたかったというのに。
「甘いものならあるよ」
「うん?」
萃香の言葉に振り向いた瞬間、霖之助の唇に熱いものが押し当てられた。
「んむっ……?」
「ちゅ……あふ」
柔らかいものが口内に侵入し、熱い液体……それから、小さく丸い、甘いものを押しつけてくる。
やがてゆっくりとそれが離れると、彼女は月を見上げて言った。
「……日付はもう、変わっちゃったけど」
萃香の顔が赤い。
酒のせい……だけではないかも知れない。
霖之助の口の中にあるのは、甘い甘い、チョコレートの味。
「こうすれば、本命か義理かなんてわからないよね」
自らの口の周りについたチョコレートを、萃香はぺろりと舐め取る。
「ああ……確かに。
どちらかはわからなかったね」
見ることも出来なかった。
だがこの際、どちらのチョコかなどそれこそ些細な問題ではないだろうか。
「だけどとびきり甘いチョコレートだったってことは、よくわかったよ」
「そっか。それはよかった。
辛い酒には甘いものもいいよね」
そう言って、萃香はふたりの杯に酒を注ぐ。
「ねぇ、霖之助」
酒は、まだあるのだし。
夜は、まだまだ長いのだし。
ひょっとしたら、また甘いものが食べたくなるかも知れない。
「もうひとつチョコレート……どう?」
そして萃香はえろい。それが俺の中の正義。
霖之助 萃香
「やほー」
「夜の挨拶にはほど遠いね、萃香」
いつものように顔を出した萃香に、霖之助は苦笑を浮かべた。
ちょうど店を閉め、振り向くと彼女が立っていたのだ。
疎と密を操る彼女にとって香霖堂の鍵など何の意味もなさない。
「もう店は閉めたんだが」
「固いこといいっこなしだって。
それに用があるのは店にじゃなくて霖之助にだもん。
なにも問題はないよ」
「なるほど、友人としてのお誘いか」
彼女たちに対抗することは、端から諦めている。
どうせそれほどの力を持った妖怪が本気になれば、小細工など無意味なのだから。
ならばその労力を、もっと有意義なことに使ったほうがいい。
「そ~いうこと。
ニャハハハハ、霖之助ぇ~、飲んでる~?」
萃香は酒臭い息で、霖之助にすり寄ってきた。
既に出来上がっているようだ。
もっとも酔ってない萃香など、見たことがないのだが。
「君はいつもと変わらないね。安心するよ」
「おややん。
なんか変わった事があったみたいな言い方じゃないか」
「まあね。
と言っても変わったのは僕じゃなくて、お客のほうだが……」
「ん~……っと。
ああ、バレンタインデーってやつ?」
萃香は思い出したように、ポンと手を打った。
「なんだかみんな態度がいつもと違ってね。
妙に疲れたよ」
来訪者は多かったが客は少なかった。
そのことが余計に疲労を増加させている。
「その割には幸せそうな顔しちゃって。
どうせたくさんチョコもらえたんだろ~?
よっ、この色男」
「よしてくれよ。
チョコは貰ったがね、みんなイベントに流されただけだよ」
言って霖之助は、カウンターの脇へと視線を向けた。
そこにはいくつかのチョコが積まれている。
萃香もそれを見て……ふと、首を傾げた。
「やっぱり本命とか義理とかわかるの?
その、霖之助の能力でさ」
「とりあえず、箱を見ると名称はバレンタインチョコに見えるね。
用途は渡すもの、だよ」
霖之助の能力で名を知るのは、道具の記憶によるものである。
送り手である少女がバレンタインのチョコだと認識しているから、そう言う結果になるのだろう。
「まぁ、開けてみたら……名前が変わることもあるけどね」
「ふ~ん」
ラッピングされた袋や箱は、あくまで贈り物用だ。
その中に入っているチョコレートこそ、本当の想い……道具の記憶が刻まれている。
「なるほどねー。
名前、変わったんだ」
「……ノーコメント、にしておこうか」
そう言った霖之助の表情は、苦いものだった。
いくつかチョコレートを食べたのだろう。
ひょっとしたら、少女に渡されその場で開けたりもしたのかも知れない。
……つまり、その場で本命チョコだと判明したのかも。
「まあそれはともかく。
今からお返しを考えるのに頭が痛いよ」
バレンタインデーの風習は、ホワイトデーとセットでやって来た。
……人によっては、さもホワイトデーが本番だと言わんばかりに。
「甘ったるい一日だったんだねぇ。
あはははは」
萃香はそんな光景を想像し、笑みを浮かべた。
少女が来るたびに冷や汗を垂らす彼の姿が目に浮かぶ。
「あまり笑い事じゃないんだがね」
「で、返事はするの?」
「ノーコメント、だ」
これ以上からかったらさすがに機嫌が悪くなるかも知れない。
萃香はそう考えると、腰に下げていた瓢箪をカウンターに置いた。
「甘いのはもう飽きただろう。
とびきりの辛いモンを持ってきてあげたから一緒に呑まない?」
萃香は自分の瓢箪を見せびらかすように振る。
酒虫のエキスが染みこんでいるというこの瓢箪は、トッピング次第で味を変えられると彼女は言った。
いろいろと他にも秘密があったりするのだろう。
「いいね、目が醒めそうだ」
「宴会と言うには人数が少ないけど」
「ふたりきりの酒宴も、オツなものさ」
「うんうん、わかってるね」
「じゃあ、先に行っててくれ」
萃香と酒を呑む時は大抵縁側だった。
さすがに夜風が厳しい季節だが、冬の月はそれを上回る格別さがある。
それに萃香と酒を呑めば、嫌が応にも身体の中から温まってくるのだし。
「つまみはどうする?」
「もちろん持ってきたよ。
あとは呑むだけ。準備万端ってやつだね」
彼女の酒にかける情熱はさすがの一言だ。
縁側には既にたくさんの料理が並べられていた。
辛い酒にはやはり辛いつまみ、とは彼女の弁である。
「……これは、なかなか……」
「紫に貰ったんだよ、ラー油が最近人気らしくてね」
霖之助は萃香と座って座り、酒と料理に舌鼓を打つ。
「しかし、見事に辛いものばかりだね」
鶏皮とネギをラー油で和えたものやジャガイモにラー油をかけたもの。
更には冷奴とラー油の組み合わせまであった。
「ラー油じゃないのもあるよ~」
スパイスをふんだんに使った腸詰めや、イカの塩辛、たこわさび、肉味噌……。
「……まあ辛い料理であることに違いはないが」
「酒に合えばそれでいいのだ」
しかし一体どこから持ってきたのだろう。
……気にするだけ無駄だとは思うが。
「あ、月に兎がいる」
「竹林のほうを見てないだろうね」
酔っぱらいの体感時間など怪しいものだ。
しばらくだとも思うし、ずいぶん経った気もする。
「ん……?」
つまみを取ろうとした手が、空を切った。
見ると、あれだけあったつまみがもう無くなっていた。
主に食べたのは萃香だと思う。
霖之助はそれほど食べた覚えがないのだから。
……おそらく、たぶん。
「もう随分呑んだみたいだな。
ふむ……」
「物足りない?」
「少し、ね。
たがこうも辛いものが続くと、たまには違ったものが食べたくなるよ」
欲というのは尽きないものだ。
先ほどまであんなに辛いものが食べたかったというのに。
「甘いものならあるよ」
「うん?」
萃香の言葉に振り向いた瞬間、霖之助の唇に熱いものが押し当てられた。
「んむっ……?」
「ちゅ……あふ」
柔らかいものが口内に侵入し、熱い液体……それから、小さく丸い、甘いものを押しつけてくる。
やがてゆっくりとそれが離れると、彼女は月を見上げて言った。
「……日付はもう、変わっちゃったけど」
萃香の顔が赤い。
酒のせい……だけではないかも知れない。
霖之助の口の中にあるのは、甘い甘い、チョコレートの味。
「こうすれば、本命か義理かなんてわからないよね」
自らの口の周りについたチョコレートを、萃香はぺろりと舐め取る。
「ああ……確かに。
どちらかはわからなかったね」
見ることも出来なかった。
だがこの際、どちらのチョコかなどそれこそ些細な問題ではないだろうか。
「だけどとびきり甘いチョコレートだったってことは、よくわかったよ」
「そっか。それはよかった。
辛い酒には甘いものもいいよね」
そう言って、萃香はふたりの杯に酒を注ぐ。
「ねぇ、霖之助」
酒は、まだあるのだし。
夜は、まだまだ長いのだし。
ひょっとしたら、また甘いものが食べたくなるかも知れない。
「もうひとつチョコレート……どう?」
コメントの投稿
よし、りんのすけと俺のポジションを脳内でチェンジ………ぬは~~んっ!!!!by読む程度の能力
No title
あまぁーい!
今更ながらバレンタイン特集をマラソン中。
こんなに可憐なスイカは見たことないぜ・・。
今更ながらバレンタイン特集をマラソン中。
こんなに可憐なスイカは見たことないぜ・・。